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凡才少女の下剋上  作者: ことう
第一章 ギフテッド・プロジェクト
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新しい友達 参



 翌日の木曜日、朝のホームルームで倉木先生がとんでもないことを言った。


「明後日のことなんだけど、何個かのテレビ局が取材に来るんだって。なので休日だけど授業やりまーす」


 テレビ局、と私は心の中で先生の言葉を反芻した。教室内は興奮と不満でざわついている。


 まあ、プロジェクトが始まるまでにいろんなメディアで報道されていたのだ。当然といえばそうだろう。


「あ、顔出し駄目な子は土曜日までに言ってね。分かんない人は今日か明日中に親に聞いてみてくださーい」


 じゃあホームルーム終わりねー、と倉木先生が笑う。相変わらずマイペースな人だ。


「テレビか……」


 私は机の中から教科書やノートを取り出しながら、そう呟いた。


 私が生まれ育った地域には、一度もテレビ局が来たことはない。少し田舎寄りなのも相まって、テレビは出るものではなく見るものだ、という印象が強かった。


 今回は別に、ひとりでインタビューを受けたり、カメラにばっちり映るわけではない。授業風景の撮影なんて、発言した人くらいしか抜かれないはずだ。


 それでもなぜか、テレビという言葉だけでそわそわしてしまう自分がいた。


 ……お母さんに映ってもいいかどうか、聞いてみることが先だけど。



 ◇



『え、テレビ出るの? いいじゃない! 放送日分かったら教えてね』

「待って待って早くない?」


 夜もだいぶ更けたころ、ちょっとだけ緊張しながら電話をすれば、お母さんはあっさりと承認してくれた。


 そのスピードに追いつけなくて、私は許可をもらったはずなのに、思わずそう突っ込んでしまう。


『何よ、お父さんも良いって言ってくれるわよ?』

「いやそういうわけじゃなくて、もっと渋ると思ってたんだよ」


 今や顔だけで個人情報を割り出せるようになっているのだ。私がもし不適切な言動をすれば、私自身も家族も無事ではいられない。


 だから、てっきり許可してくれないと思ってたんだけど……。


『たしかに心配はしてるわよ。でも、どうせちょこっと映るだけでしょ?』


 今朝私が思っていたことをそのまま口にして、お母さんは笑った。ごもっともです、と私も苦笑する。


『それに、茉桜がどんな学校生活を送ってるのか、見てみたいから』


 声音や文章だけでは、相手の本当の思いや様子を知ることは出来ない。


 目は口ほどに物を言う。表情を見るというのはとても大事なことなのだと、お母さんは私に言った。


『学校はどう? 楽しい?』


 そう尋ねられて、私は一瞬言葉に詰まった。


 正直、楽しいかどうかはまだ分からなかった。本格的な授業は始まっていないし、席事情も未解決だ。


 だけど、辛いかと言われれば、それはそれで違うような気もした。


「……友達出来たし、これからに期待かな」


 少しだけ考えてからそう答えると、そっか、と笑いを交えた声が聞こえた。


『何か悩みとかあったら遠慮なく言ってね。恋バナでもいいから』

「絶対本命恋バナの方じゃん」


 はあ、とわざとらしくため息をついた私は、じゃあもう切るよ、と声をかけた。


『はーい。またね、茉桜』

「うん。またね」


 そうして電話を切った後、私はスマホを持ったままベッドへ寝転がった。


 シミ一つない真っ白な天井を眺めながら、そういえば前にもこんなことあったな、と入学前のことを思い出す。


 あの時とは違って、今は人生を左右するような決断は迫られていない。


 けれど、今後のプロジェクトの内容、特に雛奈ちゃんが言っていた『専攻授業』のことや、クラスメイトのことなど、不安や心配なことは山ほどある。


「あー……頭痛くなってきた」


 ごろん、と身体を横向きにして、私は小さく唸った。このままではいつか知恵熱になってしまいそうだ。


 だからとりあえずよく寝て、脳と心を休めよう。


 そう決めた私は、電気を消すべくゆっくりと立ち上がった。



 ◇



 そうしてやって来た土曜日。


 今日取材に来るのは二つのテレビ局だそうで、午前と午後に分けて撮影するらしい。


 内容は以前先生が言っていた通り、普段の授業の様子と、それからいくつかの施設紹介だった。


「その紹介のところで、生徒が実際に施設を使ってる場面が撮りたいんだって。今からそれぞれの配当場所言ってくから、ちゃんと覚えといてね~」


 朝のホームルームで、倉木先生はそう私たちに告げた。


 いわく、リアリティーを演出したいなどという理由で、テレビ側から許可を求められたらしい。


 だから顔出しが大丈夫かどうか聞いてきたのか、と私は二日越しに納得した。


「――で、五十嵐さんには図書室に行ってもらうね」


 ふと名前を呼ばれ、反射的に顔を上げる。


 返事をしなかったからか、先生の目がこちらに向いて、「もう一回言おうか?」と尋ねられた。


「あ、大丈夫です。覚えました」


 私は苦笑いを浮かべながらそう答えると、続けてすみませんと謝った。


「そっか。体調悪くなったら遠慮なく言ってね」


 先生との約束だよー、と元気に笑って、倉木先生は再び場所を伝え始める。


 勘違いでいらぬ心配をかけてしまうのは申し訳なかったので、私は今度こそ背筋を伸ばして先生の声に耳を傾けた。



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