俺、生まれ変わったら【カミソリ】になってるよ…
……俺は、カミソリ。
柔肌ガードのついていない刃が丸出しになっているタイプの、金属製のL字型カミソリだ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、メンズ美容にドハマりしている男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、とびきりよく剃れるカミソリになりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺は信じられないくらい毛量が多く、しょっちゅうカミソリ負けをしては皮膚のトラブルに悩まされていたから…今度は俺が皮膚に勝ってやろうと思ったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…よく髭が剃れる刃物を探しては口コミに翻弄されて、いろいろ買い込んで試していた日々を忘れられなかった。
とびきりよく剃れるかみそりを見つけて大喜びした事と、剛毛に負けて三日で刃こぼれしてしまって絶望感をひしひしと味わった事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――カミソリと言えば…これですね
俺を購入したのは、JKデビューを目前に控えた、JCだった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
JCはおぼつかない手で俺を手に持ち、ふわふわの綿毛のような産毛を剃るので…気が気じゃなかったのだ。
剃り落とす必要などないのに懸命に産毛を除去し、潤いのある健康的な肌に化粧品を塗りたくるのを間近で見るのは…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――ヤバ、足切りそうになったー!!
JKは手馴れてきた気のゆるみから、俺を乱雑に扱うようになった。
刃を出したままの状態でテーブルの上に置いては、肘を引っ掛けて下に落としたりするレベルだ。
俺は願った。
「使い始めの頃のように慎重に扱ってくれ、使用後は昔のようにちゃんと紙で拭いて清潔に保ってくれ、とにかく危ない状態のまま出しっぱなしにしないでくれ」
そう願ったのには、理由があった。
彼氏とのデートに忙しいJKは念入りに化粧をするため、手早く俺で顔を剃って…使用後に産毛がこびりついたままの状態で放置することが日常化していたのだ。
リビングのテーブルで化粧をするJKは、いつも母親に片付けてから家を出なさいと怒られていた。
結局放置したまま急いで家を出るJK と、ため息をつきながらカバーキャップ未装着の俺を化粧品と一緒にケースにぶち込む母親の鬼の表情を目の当たりにし、心がえぐられ続けている。
……怪我をする前に、初心を取り戻せ!
―――いたっ…ヤバ、切っちゃった!!いった…痛ぁい!!
JKは気のゆるみから、俺を横方向に動かしてしまい…肌に傷を負った。
思いのほか傷は深く、なかなか血は止まらず、跡が残った。
俺の願いも…むなしく。
JKはこんな危ないカミソリはもう二度と使わないと母親に宣言した。
捨てるくらいなら最後に俺のすね毛でも剃っておくかとのたまった、毛深い父親の身体を三分の一ほどツルツルにしたあたりで…俺は自慢の切れ味を、完全に失った。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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