狩り場
陸の孤島と言われる極寒の地の村に狩猟を目的として訪れた。
村に至る道は存在しない。
村人が一番近い町との往来に使うのは夏は舟、冬は犬橇や馬橇など道なき道を走破出来る物だけ。
私も手に入れた雪上車をキャンピングカーに改造して村を訪れたのだ。
雪上車で町と村を往復出来るだけのガソリンと村に滞在している間に使う暖を取る為の灯油を積んだタンク、それに食糧などを積んだ数台の荷橇を引っ張っての来訪。
荷橇には狩った獲物を積む事も想定している。
雪上車を村外れに止め村の村長に挨拶に行く。
村長には村に滞在する際の注意事項と共に不思議な事を言われた。
「村に隣接する森林でなら、何処でもどのような獲物を狩っても良い。
だが森林の北に広がる雪原は他のものの狩り場だから、絶対に立ち入っては駄目だ。
猟犬を使って追い立てた獲物が雪原に入ったら、その獲物はそこで見逃し他の獲物を捕えるようにしろ。
繰り返しになるが絶対に森林の北の雪原には入るなよ」と。
誰の狩り場か分からないが言われた事を守り森林だけで狩りを行う。
狼、ヘラジカ、トナカイ、狐、兎など多数の獲物を捕らえて行く。
村に来て10日程経ったある日、猟犬が北の雪原に大きな鹿を追い立ててしまった。
雪原に鹿が足を踏み入れたのを目視した私は猟犬に戻るように合図を出す。
だが猟犬は獲物に気を取られ私の出した合図に気が付かず、獲物を追って雪原に走り込んだ。
雪原に走り込み森林の縁から100メートル程離れた辺まで行った時、猟犬が何かに襲われたのか助けを求める鳴き声を発した。
私は村長の忠告を忘れ長年の相棒である猟犬の下に走る。
そして私は雪原が誰の狩り場であるか知った。
雪原は得体の知れない化け物の狩り場だったのだ。
猟犬と猟犬が追っていた鹿が雪原に出来た大きな穴のような口に咀嚼されている。
咀嚼していた猟犬と鹿を飲み込んだ化け物は次の獲物、私に狙いを定めたようで、私は助けを求める声を発する事も出来ずに巨大な口に飲み込まれた。