2-39 龍、駆ける
ヤタ製ソードオフ・ショットガン:N-NPAA‐SgSo54‐TypeA
ヤタ重工が大同盟軍のルビリア・パルのために作成した魔力式散弾銃。
取り回しを優先するため銃身を切り詰めてあるが、そのせいで最大射程が8メートルほどまで落ちている。
一方でその威力と完全魔力式による回転率は驚異的であり、特に単独で多数の標的と戦うことを想定している。
パル本人の希望により、機構はシンプルにまとめ、強度を確保できるギリギリまで軽量化が施してある。
商品化も検討されたが、アギトSWを超える魔力負荷と反動から一般販売に適さないとして、見送られた。
なお、受注生産は行う用意があるが、受注は現時点でないとのこと。
「どうなっている…?」
刃の国で街中を走り回りながら無人戦車や重武装のゴーレムを始末していたカインとルフトは足を止めていた。
ルフトの指示したルート上に戦車がいないのだ。
先ほどまで砲弾の飛び交う市街戦の爆心地だったはずの通りがゴーストタウンめいた静けさを放つ。
遠くから響いてくる音は続いている。
つまり、カインは無視されているのだ。
「トータス殿、何かがおかしい。敵がいない。ルフトの探知範囲にいない…」
『状況確認中だ。どうもパルちゃんの方に戦力が集中している。』
その報告はある意味でわかりきっていた。
目の前から戦力が消えた。
ならば考えられるのは逃走か別の標的への集中。
問題はその意味。
「ルビリアの援護へ向かうべきか?」
パルへ戦力が集中しているのなら援護へ向かうべき。それは初めての作戦行動でもあるカインでもわかる。
『罠かもしれんし、パルちゃんが処理できないってこともない。待機しててくれ。』
トータスの返答も理解できる。
しかし、このまま待機することが罠ではないか。とも思える。
ただ、その答えは結果を見なければわからない。
カインはルフトとともに廃棄された商店に身をひそめる。
遠くから爆発音が響いてくる。
これが続いている以上、パルは無事だろう。
無事と言っていいのかは微妙ではあるが。
「どぉおおおおおおおなってやがる!クソぉおおおお!」
パルは怒りを振りまきながら引き金を引いていく。
正確に狙いを付ける必要のない散弾ではあるが、それ以前に多数の戦車とゴーレムが集まってきている。
つまり、撃てば当たる。
魔力の散弾が戦車の装甲を貫き、脚部を破壊する。
「数が多すぎんだろうがああああああ!」
多脚戦車はこうした脚部の破損が弱点になる。
履帯と異なり、1つでも足を失えばその機動性と柔軟性は失われ、場合によっては動くこともできなくなる。
加えて、砲塔の向きが悪ければ自重でそれを潰してしまう。
「剣聖えええええええええええええ!サボったか!逃げたか!逃げたな!あの野郎おおおおおおお!」
パルもそれをわかって撃っている。
いや、撃っていた。
今の彼女は動きを止めず、対戦車における有効射程、5メートル圏内にある標的をがむしゃらに撃っていた。
ルフトのようにパルの道案内を担当するツムジも今は囮として走り回っている。
パルとツムジのコンビは実に的確な連携を取っていた。
ツムジが標的になれば、パルが死角から狙う。
「ジェスのジジィいいいいいいいいい!ふざけんなあああああ!」
逆にパルが標的になれば、彼女の死角となる位置をツムジがカバーしていた。
パルとツムジ。
そして刃の国の防衛戦力。
このうち、どれかが根を上げれば一気に決着が付くだろう。
そして一番最初に根を上げたのは、今回のために用意されたパルのショットガンだった。
精度と威力が目に見えて落ちてきていた。
パルは悪態を付くのをやめ、舌打ちをする。
砲身の冷却のためできるだけ、左右のショットガンを交互に使っていた。
それでも、この数を一度に相手しているために冷却が追いつかなくなってきている。
ツムジもその状況をなんとなく察していた。
パルは目を走らせる。
右奥に見える戦車。
その戦車の奥にある路地。
一瞬でも息がつけるだろう。
「ツムジぃ!」
パルの掛け声を聞き、すぐさま意図を理解したツムジはすぐさま、遠吠えをする。
遠吠えに反応して、砲塔が一斉にツムジの方を向く。
風の肉体であるツムジに物理的な砲弾は通用しない。
今回、ツムジとルフトが選ばれた理由がそれだ。
そのためパルはツムジの状況を確認することなく、すぐさま、標的となる戦車に飛び乗る。
狙いは砲塔の真下にある魔力路だ。
迷いなく引き金を引くと魔力の弾が一気に放出される。
ほぼ0に近い距離であれば、限界が近いショットガンでも十分な威力を発揮する。
発射の衝撃を受け止めたパルはそのまま、砲塔を蹴り、路地に入る。
身をひそめるようにして壁にもたれかかると、魔力路が破損した戦車の爆風が通り過ぎていった。
「こりゃダメだな。」
ショットガンの銃口を確認しながらパルは呟く。
連射のダメージで割けるように破損していた。
これだけの損傷を負いながら暴発しなかったヤタ重工の技術力に感心しながら投げ捨てる。
手持ちの武装としては炸裂ナイフと魔力式拳銃であるアギト。
ナイフは戦車などの相手を想定しておらず、装甲に弾かれてしまう。
アギトも人体相手であれば十分な火力を有するが最新式の戦車が相手となると的確に弱点を狙う必要性が出てくる。
つまり、こうした乱戦では有効打になりにくい。
パルは思考を巡らせ、通信機のスイッチを入れる。
休んでいたカインはルフトの咆哮で臨戦態勢に入る。
警戒しながら商店の外に出た彼の目に、1人の男が写る。
「天使か。」
疑問というより確認のような呟きにグディは歯を見せる。
「正解!ジェスのおじさんに怒られてね。ルビリア・パルは洒落にならんでしょ?で~も?隻腕の剣聖なら何とかなるんじゃない?みたいな?」
刃の国侵攻作戦は第六天使グディの介入で1つの転換点を迎えていた。
ジェスはこのタイミングで、カインと交戦していた無人兵器を全てパルへ向ける。
緩やかだが、だんだんとその意図が見え始める。
それは制圧部隊の早期投入。
強硬策を取らせるというものだ。
仮にパルとカインが自由に戦車らの相手をしていたのなら、時間が解決しただろう。
しかし、パルに戦力が集中し、その処理が滞っている。
となれば短期決戦を臨む大同盟としては脅威の排除が完全でない状態で制圧部隊を投入せざるを得ない。
それがジェスの狙いだ。
制圧部隊はパルやカインと比較していくらか見劣りする。
個人単位でみるなら明らかに損傷させやすい相手だ。
ジェスは自信の幸運にすがるようなことはしない。
全ての策を弄した上で問いかける。
強硬か長期戦か。
この策の根幹。
それには最後のピースが足りていない。
ルビリア・パルという特大のイレギュラー。
その戦闘力の底をジェスが把握しきれていないこと。
そのピースがこの策の最後のスペースに収まれば良い。
だが、異常ともいえる彼女の存在が最後のスペースを超えていたのなら。
そうなればこの盤面は崩壊する。
ジェスは祈らなかった。
祈ることは思考を止めること。
ジェスに幸運とは祈りの果てにあるものではない。
幸運とは積み上げた策に最後の一押しを加える第3の力だ。
故に、ジェスは祈らない。
次回は水曜日。
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