2-36 Visitor from The Past(来客は過去より来る)
弱肉強食【一般知識】
『弱いものは強いものに食われる。』ことの意。
自然界における食物連鎖を指す言葉でもあるが、主に弱者からの搾取という意味で使われる。
龍の国の外れにある『守護の森』。
龍の国が指定する自然保護区域であり、立入禁止の場所である。
しかし、自然保護というのは建前に過ぎず、生存している大地の龍の存在を隠すための措置だ。
そんな場所とはつゆ知らず足を踏み入れたサラ。
そして彼女を迎え入れた2つの存在。
暗闇の中でうっすらと輪郭を持つそれらは楽しげな様子だ。
「名乗ってなかったな。オレはルビリア・パル。こっちは大地の龍だ。」
パルと名乗った女はタバコに火をつけると共に、焚き火にも火をつけた。
光に照らされはっきりと視認できたその姿は生き写しのようにサラそっくりだ。
パルも同じような感想を抱いたらしくサラの姿を見る。
「面白いぐらい昔のオレだな。」
パルはそう言って笑う。
サラはとても笑えるような状態ではない。
完全に混乱していた。
「なんで…おまえは…わたしに…にている…?」
「似てはいよう。お前はこのパルのクローン。娘や妹というよりこいつそのものなのだからな。」
サラの問いに答えた龍は焚き火の明かりが届くところまで首を下ろす。
でかいバケモノ。
それがサラの感想だった。
「もっとおしえて。」
だが、それ以上に自身の秘密が気になった。
「悪いが細かい部分はわからねえよ?ただオレの血をベースに作られた人造人間、それがお前だ。名前があるなら教えてくれよ。」
「なまえは、サラ。」
フレンドリーな雰囲気のパルはその名前を聞いた瞬間、目を見開く。
「ほーん。サラか…サラね。趣味が悪いな。」
自分の名前を趣味が悪いと言われ、サラは咄嗟にパルを睨みつける。
「ん?怒ったか?感情はあるらしいな。ま、今んとこオレたちはお前をどうこうするつもりはないけどな。」
パルは煽るように返す。
サラも流石にこの2つを相手取るような真似は自殺行為であることは理解している。
「そんなやすいっぽいちょうはつにはのらない。わたしは、おまえをさがしていた。わたしよりつよい『るびりあ・ぱる』を。」
「嬉しいこと言ってくれるねえ。だが、さっきも言った通りだ。オレたちはお前がどうしようと気にしない。オレと戦いたければ教団の方に付け。それが嫌なら勝手に生きていればいい。」
干渉しない。
それは、サラが弱い存在であると確信しているが故だ。
教団に付け。というのも戦争の手駒となろうとも問題ないと言っているようなものだ。
「ことわる!」
サラは飛びかかりパルに蹴りを放つ。
だが、その足はパルに届くことなく見えない壁に阻まれる。
「ガキの面倒なんていちいち見るかよ。」
気だるげに煙を吐くパル。
そして、カウンターの掌打がサラの顔面を捉える。
空中で踏ん張りの効かないサラはそのまま大きく飛ばされるが、回転して勢いを殺しつつ着地。
再び、突進する。
「面倒だ…」
パルが懐に手を入れた瞬間、2人を土の壁が隔てる。
「ここでの争い事はやめてもらおう。」
仲裁に入った大地の龍は殺気を2人に向ける。
「スキンシップだろ。そう目くじら立てて怒ることでもねえって。」
パルは呆れた様子で懐から手を出すと、何も持ってないことをアピールするように手を振る。
サラは納得いっていない様子で壁を回り込むようにして姿を現すと鼻血が垂れていることに気づく。
「ちょうどいい。それがお前の真実だ。」
サラが鼻血に手を触れる。
生暖かい液体は刃の国で見た赤いものではない。
黒く艶のあるそれは明らかに異物だ。
パルはナイフを取り出し、自分の指先を傷つける。
当然、血が溢れ出す。
だが、それもまた黒い。
パルはそれを自慢げに突き出す。
そしてそのナイフで龍の顔を切り付ける。
「いったぁぁあぁぁぁぁあい!」
空気が震えるほどの音量で情けない声を上げる龍。
そしてそこから流れ出る血も、ナイフについた血も黒い。
「龍の血だ。オレはこの龍から血を移植された。そしてオレの血をベースにして作られたお前も同じように龍の血を持つ人間ってわけだ。」
「りゅう…?ち…?」
状況が飲み込めないサラはパルと龍を交互に見つめる。
「混乱するのはわかる。だが、事実としてお前さんはパル同様、龍の血を持つ存在だ。人のエゴで生み出された存在だ。」
「しばらくここにいろ。こいつから話を聞けばいい。その上で自分がどうするのか決めろ。あとは知らん。」
パルはそう言って出て行こうとする。
サラは呆気に取られたままそれを見送ることしかできない。
「待て待て待て!こいつを置いていくのか?!」
呼び止めたのは大地の龍だ。
パルは足を止めて振り返って中指を立てる。
「賭けはオレの勝ちだ。お前が呼んだからこいつは来た。そしたらお前が全部説明する。それでいいっつたのはお前だろうが。」
パルはそれだけ告げると歩き出そうとするが龍はまだ食い下がる。
「そう言ったがお前もおるべきだろ!それが筋じゃ!」
「アホぬかせ!もう大同盟軍の兵士が集まってきてんだ。受け皿としての仕事がアホみたいにあるんだよオレは!」
パルは吠えると手を振り歩き出す。
呆れる龍と呆然と立ちつくすサラだけが残されたのだった。
パルの言葉通り、龍の国は活気付いている。
混乱していると言ってもいいのかもしれない。
多くの兵士が兵器と共に入国。
商店も飲食店もホテルも多くの人間が出入りする。
かつてのブラッド・バブルを思わせるその波に、皆、乗りこなそうと躍起になっていた。
そんな龍の国とは対照的に攻撃目標である刃の国は静かなままだ。
すでに大半の市民が風の国へ避難しており、想定される龍の国からの侵攻ルート上にはゴーレムを配置した拠点を構築している。
政治関係者が我先にと逃亡しており、全権を委任された軍総括ジェスと残された兵士は来る決戦に向け、墓穴を掘るような準備を進めていた。
「これ以上の拠点構築はどうしようもないねえ。」
ジェスは残された戦力のリストを眺めながら呟く。
負け戦と言えども大同盟の戦力を可能な限り削ぐことを主眼に置いた戦闘のため、できるだけ戦力を分散させ細かい損害を積み上げるような方法を取るべきだと考えていた。
だが、現実問題として指揮する人間が少なく、十分な打撃を与えることができない。
そのため少数の拠点を設け、そこで一部の分散戦力の足止めを行いつつ主力を首都で迎え打つ方向で動いている。
「残った兵士は義勇兵合わせて25名と我々2人。負けるだけの仕事によくこれだけ集まったものです。」
ジェスの副官であるエルシィは敬意を示すように力ずよく頷く。
刃の国は政治家の国外逃亡と共に国民の流出が後を立たず、まともに機能していなかった。
残った兵士達がなんとか無政府状態を回避するべく奔走していたが、大同盟の侵攻が確定的となった後はその兵士も残っていた国民も退去していった。
ゴーストタウン同然の国に残ったのがエルシィの言う27人である。
「残ったのは誇りでも勇敢でもないねえ。それでもよく残ってくれたもんだあ。」
ジェスはそう呟いて外を見る。
路地を塞ぐように構築されたバリケードと無人戦車。
そして僅かに走り回る兵士達。
士気は高い。
だが、それは敵の巨大さを知らぬが故の炎だ。
大同盟という大河が押し寄せるとして、この炎は余りにも心許ない。
それでもいい。
2人はそう考えていた。
敵前逃亡であっさり壊滅。
むしろその方が命があるだけマシだ。
徹底抗戦で死ぬ。
それが愚かな選択だと考えている。
与えられる勲章などないのだ。
ジェスはマイクのスイッチを入れる。
「あー、あー。残っている人達い。少し時間をもらうよお。手を止めて聞いてねえ。」
その放送に全員が司令部のある議場を見つめる。
ジェスから直接、発言するのは今回が初めてだ。
「残った君達の手元には逃げるというカードがあるんだあ。もし、それを使いたくなったら遠慮はいらないからねえ。こんなところで死ぬことはないよお。」
ジェスの言葉への回答として全員が作業を再開した。
「あのねえ…」
小言を続けるジェスの脇からエルシィがマイクを切った。
「無駄ですよ。みんな酔ってる。」
「覚めた時が怖いんだよお…こういうのはあ。」
ジェスは呆れ椅子に沈み込む。
彼の言葉は炎に薪をくべるようなものだった。
これだけの炎なら或いは。
そう考えそうになった自分を律する。
そうはならない。
彼らは知っている。
竜の国という力を。
過去の恐怖を。
そしてそれが今、自分たちの元を訪ねようとしていることを。
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
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