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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-35 龍の声

天空の龍【一般情報(『機密情報』)】

龍戦争以前の時代に存在したとされる龍の1体。

天候をつかさどり、現在も雨乞いの儀式等の源流がこの龍との交信であったとするものが多い。

龍戦争の際に現在の天の国に位置するテンザンで討伐された。

ほぼ同時期に討伐された大地の龍がメトラヌス手稿をはじめとする一部の資料では生存しているものと扱われる一方でこちらはどの資料でも討伐されたと記載されている。

『余談だが、天空の龍を討伐したとされる初代天の国国王とその血筋は龍の呪いから一定の年齢に達すると成長及び老化が止まり、若いままの姿で死亡する。』


天の国の王城、その最上階に位置する国王の執務室に、事務局長のツスル、剣聖カインが国王のソラに呼び出される形で集合していた。

開口一番、ツスルはソラに確認する。

「このタイミングで呼び出すっちゅうことはあれやろ?」

「そのあれです。カインさんには説明が必要ですね、かけてください。」

ソラとツスルの間で進んでいた内容を知らないカインにソラは説明を始める。

「我々の敵、トラ教団の長であるパーシヴァル・プルトが龍の力を持っている可能性についてはっきりさせる方法が1つだけあります。」

「…直接聞くということですか?龍に。」

カインの言葉にツスルは驚く。

「なんや知ってたんかい。せや、龍は生きてる。ソラウの王族と一部の人間だけが知っとる事実や。」

「剣心会最強の剣士。歴代の剣聖も知る内容ではありますが、先代のカドゥさんは懐疑的だっただけに貴方は知らないものと思っていました。」

ツスルとソラの言葉に、カインは静かに頷くと自分の持つ情報を共有する。

「小生が知ったのは地下でルビリア・パルと交戦したときのことです。師のカドゥからは聞かされていない。だが、この宝剣が存在する意味。そして歴代の剣聖が背負う事実については理解してます。剣聖は最後の龍である大地の龍を討伐するための存在。それを成すか否かはまだわかりかねますが。」

「確かにその通りや。龍は生きとる。そして剣聖はその龍の討伐を負う存在や。けど今の話やとそれは半分…いや、正に三分の一ってとこやな。」

カインは首をかしげる。

ソラが更に付け加える。

「全てをおさらいしましょう。龍はこの世界に3体、天空、大海、そして大地です。それらは龍戦争の際に宝剣で全て倒されたとされています。そして、宝剣は龍の討伐と共に失われた。1つだけ、大地の龍を討つために作られたものを除いて。」

ソラの話はカインもパルから聞いた内容と変わりない。

大地の龍は歴史にまぎれるようにして姿を隠してはいるものの今なお生存しており、その血がパルに力を与えた。

だが、この話には当時のパルさえ知らぬ裏があった。

「この龍という存在は言うなれば自然そのもの。今も雨が降り、草木がさざめき、海が波打つように龍は死んではいない。」

カインは目を見開く。

龍は死んではいない。

つまりそれは彼の負う使命は大地の龍を討伐することではない。

それに天空の龍と大海の龍を加えた3体の龍を討伐することになる。

ツスルの言う三分の一というのは言い得て妙な話である。

「待っていただきたい!それが事実であれば、龍は未だにこの世界にいるということですか!?」

カインは机を叩き、立ち上がる。

「パルちゃんもしれっと言っとが、プルトの力はやつがかつて住んでた天の国、つまり天空の龍である可能性が高い。今からそれを聞きに行こうゆうことや。」

確かにパルは天の龍の力である可能性に言及していた。

しかし、それと今も生存しているという話は矛盾するようで矛盾しない。

彼は何かしらの儀式や道具を用いて天空の龍の力を再現しているものと考えたからだ。

むしろ、すでに死亡しているとするのが妥当な存在の力である以上、そう考えるのが自然だ。

混乱するカインにソラは声をかける。

「貴方をここに呼んだのは、貴方も知る必要があるからです。龍の真実を。そしてなにを斬るべきかを。」

「なんと申し上げればいいかわかりません。小生が受け継いだこの剣は人のためと信じておりました。それが龍を討つことだとも。しかし、この剣は何なのでしょうか…?龍を討つためと言いながら龍を討つことはできない。ならば小生はなんのために…?」

「それを知るために呼んだんや。それにな、人のために斬るっちゅうことはなんも間違ってへん思うよ。」

ツスルの言葉はカインの混乱を少し和らげた。

「では、向かいましょうか。すぐそこですから。」

ソラはそう言って机の引き出しから古びた魔法石を取り出すと、魔力を込める。

魔法石から放たれた光が3人を包む。


光が収まるころ、3人は王城の裏手にある立ち入り禁止区域に足を踏み入れていた。

「ワシも知ってはおったが、こんな仕組みになっとんのやな。」

「天の国の国王だけが持つこの魔法石は天空の龍と交信するためのものです。組み込まれた転移魔法はここと執務室を繋ぐだけでなく、龍を呼び出すための呼び鈴でもあります。」

ソラがそう言うと、待っていたかのように雲が太陽を隠す。

嵐を予感させる黒い雲がうずまき、そこから巨大な赤い光が覗く。

巨大な宝石を思わせるそれが眼であることに気付くと、そこから巨大な顔の輪郭が見える。

天空の龍である。

『人よ。用件はある程度わかっておる。そして、その剣もな。』

威厳を感じる声は響いているが少し違う。

直接、送り込まれる信号のようで違和感が強い。

「お久しぶりです。単刀直入に伺います。なぜ、パーシヴァル・プルトは龍の加護を得ているのですか?」

『龍の加護?あれに与えたのは少しばかりの眼だ。ワシが空からものを見るのと同じようなものをくれてやっただけだ。』

慣れた様子で話を進めるソラ。

そしてあっさりと自分の関与を認める龍。

呆気に取られるカインとツスルをよそに話は進んでいく。

『あれは厄介なやつでな。古文書だか手記だかでワシの存在を知ったという。それでいきなり押しかけてきおった。そして存在を公表されたくなくば力をよこせと行ってきた。それゆえ少しばかり力をくれてやった。』

「その文書とは?」

『わからん。』

ソラが知る限り、龍の生存に関する資料は厳重保管を命じ、人目に付かないようにしていた。

ただ、プルトがレギオン、そして『遺産』を持つのなら、それを使った脅迫で非公開としている資料を盗み見ることは不可能ではない。

『なんにせよあの男はこのワシを呼び出し、取引した。身勝手と思われて仕方のないことだが、ワシら龍の存在は歴史の中にあるべきなのだ』

天空の龍の言い分は『身勝手』と言うより『人間贔屓』とも言えるものだ。

大地の龍も危惧していたことではあるが、龍の存在が公になれば混乱は避けられない。

それだけ強大かつ、恐怖の対象なのだ。

「事情は理解しました。龍の真実を知る人間としてあなたの判断を責めることはしません。しかし、聡明な貴方なら何かしらの手は打ったのでは?だから貴方は我々にベラベラと話した。違いますか?」

毒のある言葉でソラは問いかける。

これまでの言い分からしてプルトの授かった力は天空の竜からすれば大したものではないことはツスルとカインもわかっていた。

『人間は相変わらず敬意というものを知らんようだな。だが、その通りだ。あやつに与えた眼は常に使えるようなものではない。普通の人間の脳では2つの視点を処理しきれん。副次的な作用として魔力量が増えたようだがそれも貴様らの作ったアレには及ばん。あくまで人の域にある力だ。人を越えたアレの相手ではないはずだ。』

「アレいうんはパルちゃんのことかいな?」

天空の龍はツスルの問いかけに頷く。

だがそれで説明できないことが残っている。

「人の域にある言うんなら宝剣で切り落とされた腕が回復したのはなんでや?あんたん話ではそんな力はもらってへんのやろ?」

宝剣に組み込まれた再生阻害の呪詛。

それを龍の加護しか与えられていないプルトが克服した。

これまでの話から矛盾する。

『宝剣、宝剣とやたらそれを持ち上げるが300年も前の骨董品。呪詛も弱まっておるのだろう。であれば人の域とは言えワシの力を授けた男がなんとかできて不思議はない。それを人を生み出せるだけの科学、医学が補助したとあればなんらおかしくもないはずだ』

骨董品。カインは呟く。

そう言われればその通りだ。

だが、これを継承した立場からすればその誇りと使命を『骨董品』と言われたようだった。

龍はそれに気づいたのか謝罪する。

『癇に障ったのなら謝罪ついでに一つ教えておこう。その剣と山斬ヤマギ一刀流は密接に繋がっておる。異世界からやってきたヤマギ・タイジ。あの女のアドバイス込みで作られたのだ。』

ヤマギ・タイジ。

異世界から来た存在。

後にも先にもこんな経歴の持ち主はいない。

ただ、龍歴以前の人物の例に漏れず、実在や伝説には常に疑問符がつく人間だ。

「教えて頂きたい。小生の剣とわざ。それが龍だけに向けられるものではないのなら、小生は師とは違うせいぎに進み、意地を通して見せよう。」

その言葉と共に、一歩前に出ていた。

十分過ぎるほど大きな一歩だった。

『ならばしばし時間をもらうとしよう。当代の剣聖よ。』

龍はそう言って雲を纏ったまま高度を下げる。

手が届くほどに接近するとカインと目を合わせる。

『山斬一刀流は異世界から来たヤマギ・タイジという女が作った流派ではない。あの女が元の世界で人ならざるを斬り、人を守るための剣術だ。あの女はそれの使い手であり、死にかけていたところでこの世界に来た。』

龍歴以前。

人が暦を意識せず陽や潮の満ち引きで1日を図っていた頃、タイジはこの世界に現れた。

瀕死ではあったが酒と食事を要求し、その礼として付近を牛耳る山賊を討ち取った。

あまり研究されていない彼女ではあるが、当時を知るものたちで彼女を知らぬものは少ない。

そんな彼女を知るものの一つである龍は続ける。

『あの女はこの辺りに住みつき、略奪の類があればそやつらを懲らしめるために東奔西走しておった。だが、人1人でできることなどたかが知れておる。だからこそ自衛力を高めるために山斬一刀流の道場を作り、人々に剣を教えた。』

それが『斬るだけ』の剣を『剣術』という域に昇華させ、数多の流派へと派生したことは言うまでもない。

一方で彼女の教えを守り、源流オリジナルとなる山斬一刀流を継承してきたカドゥやカインがいることも事実だ。

『それから暫くして龍を討伐する動きが人間に出てくるとあの女は専門外とはいえ剣の製作を進言した。普通の剣ではワシらを殺せんと踏んでな。ただ、あの女もまた龍を殺してしまうことは良しとしなかったわけだ。』


『お前さんが死ねばこの地の自然は死ぬのだろう?ならば隠居してはどうかな?あたしはここの自然が、海が、風が好きなんだよ。』


龍はそう語るタイジを思い出す。

男のような口調と目立つ装いをした彼女は自然を愛し、人を愛した。

理由わけを問えば決まって『飯と酒と寝床をもらった。この世界に恩があるのさ』とだけ答えた。

だからこそ、自然そのものである龍を殺すことも良しとしなかった。

ただ、余所者である彼女の言葉で、人を止められるほどでもなかった。

龍と人。

それを繋げたのが『この世界に本来、存在していないもの』というのは皮肉である。

その裏で『この世界に生まれた存在』であるドラゴ・ドライムのような人間もいたという事実もあることは彼ら龍にとって忘れ難い事実だ。

『そして作られた剣は傷を癒すことを許さぬ力を持つが竜を殺し切れるものでもなかった。痛かったがな。』

斬られた当事者である龍はそう言って口角を上げる。

『人間はワシらを殺したと確信した。その上で誰がどこをコントロールするのか。そういう争いに入っていった。そこにはあの女が伝え、教えてきた山斬一刀流の亜種が使われることになったのだ。』

龍は言葉を止める。

最後に自分の墓標を訪れたタイジの顔が忘れられなかった。


『こんな時代になっちまった。あたしの世界とおんなじさ。争いが終わるまで『人を守るため』の剣術はその心を伏せ、殺しの道具として使われる…そうならぬよう、心を教えたはずだが…あたしにその才はなかったらしい…』


それだけ告げてタイジは姿を消した。

死んだとも生きているとも言われず、忽然と消えた。

だが、この龍は知っていた。

彼女の最後を看取ったものとして。

そして、彼女の剣だけが生き続け、彼女の業を継承しているごく僅かな人間がその心を昔話として継ぐだけになった。

そして、300年という時を経て、人と龍が相見え、その心を再び継承しようとしている。

『山斬一刀流も宝剣も人ならざるを斬る剣だ。だが、その心は『人を守るため』のものだ!それをお前がどう捉えるかは知らん!だが、あの女の求めた剣は断じて道具ではない!』

段々と強くなる龍の語気をカインは全身で受け止めた。

迷いが晴れたとは思えなかった。

だが、真に山斬一刀流を継承する覚悟はできた。

「ならばこの剣に込められた心。僭越ながら小生が継がせて頂く。『人を守るための剣』。我武者羅ガムシャラにやらせてもらう。」

胸を張って宣言する。

心を継承していた兄弟子は『剣を持たず』『人ですらなかった』が、立派な兄弟子だった。

『ならばその剣の真価、見せてもらおう。あやつの剣は形を変えていた。魔法でも魔力でもない刀気とうきによるものという。このワシの前で啖呵を切ったのだ。やって見せよ』

カインが力強く頷くと龍は笑ったような気がした。


『あたしも楽しみにさせてもらおうか。剣聖殿!』


どこからか響いた声を聞いたのは2人だけだ。

それは、あるものには懐かしく、もう1人の背中を力強く押した。


刃の国を出たサラは声のような何かに導かれるように森をかけていく。

森は声の主へ辿り着かせまいとしているようだが彼女にとっては障害になり得ない。

開けた場所に出ると滝が流れている。

この先にいる。

確信めいたものを感じながらサラは滝の裏に入る。

暗闇の洞窟には古い足跡がいくつか残っている。

「面倒だのう…」

洞窟の奥から聞こえる声は初めて聞くものだが、恐ろしいほど馴染み深い。

不気味な感覚を覚えながら洞窟を進んでいく。

その最奥、真紅の瞳が四つ。

「オレの言った通り…だったろ?」

「冗談じゃないわい。人は本当に敬意っちゅうもんをしらん。」

2人いる。

いや、1つは人のそれを遥かに超えるサイズだ。

そして、もう1つはそこまで大きくない。

人としては小さい部類だ。

だが、2つとも自分より遥かに強い。

暗闇に目が慣れてくると共に稲妻のような衝撃がサラの背中を走る。

人の大きさのそれは自分の姿と酷似している。

いや、自分が成長すればああなるだろう。と思えるだけの何かを感じさせる。

「見えたらしいな。お前のオリジナルといえばいいのかね?かわいい娘よ。」

「妹じゃろ…」

声がはっきりと聞こえる。

目の前にいる。

敵意はないようだ。

だが、警戒せざるを得なかった。

強いだけではない。

言い表せない何かをサラは感じていた。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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