2-33 戦争(おわり)へと続く準備(はじまり)
大同盟対教団の開戦間近か!戦犯は花の国?!【大書堂広報号外より抜粋】
緊張高まる大同盟とテロ組織トラ教団との開戦の機運が高まりつつある。
両者は花の国のタック・エルマ女王の呼びかけで会談を行ったが、その場で教団側からの宣戦布告とそれに応じる形で大同盟の刃の国への侵攻をほのめかす発言があった。
会談に同席した花の国公認の自警団組織『花の騎士団』幹部は会談直後に「有意義かつ、平和的な話し合いであった。」と発言していたが、これは開戦の引き金を自ら用意したことに対する言い訳と見られている。
エマル女王はコメントを出していないもののそれが、戦犯となった事実を認めているようなものであり、刃の国の国民には退去命令が出されたとのこと。
(担当記者_大書堂軍事関連部:ルーク・ルクス)
「エルシィ君。この記事、どう思うかな?」
会談の翌日、大書堂から発行された記事を読んでいた小太りの男は副官の男、エルシィに問いかける。
「さっさと風の国に逃げた高官連中の判断は正しかったと言うべきですかね。聞くところによれば天の国のソラ王が名指しでうちへの侵攻を宣言したとか。」
エルシィはそう言って笑う。
諦めの混じったそれはかつての大戦争で龍の国とやりあった経験からくるものだった。
「貧乏くじだねえ。教団のよこしたゴーレムや無人多脚戦車じゃ防ぎようがない。住民の避難状況はどんなだね?」
「昨日時点で87%完了。残りもこの報道を見れば我先にと逃げ出すことでしょう。」
小太りの男は何度か頷く。
「そうだねえ。できるだけ早い方がいいなあ。大同盟が待ってくれるとも限らないし。」
「風の国側は受け入れ可能との回答が来ていますが、最終手段として高官連中の作ったシェルターを使うことも想定しています。」
小太りの男は同じように軽く頷く。
「エルシィ君も逃げたければ逃げていいんだよお?こんな負け戦で死ぬこともない。」
エルシィも負け戦には同意していたが、自分が死ぬとは思えなかった。
「幸運のジェスから離れるなどとんでもない。自分は貴方の幸運に賭けますよ。」
エルシィはそう言って笑う。
先ほどとは違う自信の笑みだ。
ジェスと呼ばれた小太りの男は申し訳なさそうに頭を掻く。
「うーん。そう言ってもらえるのは嬉しいがねえ。私の幸運が本物ならハヌルロスで足を失うことも無かったはずだよお。」
呑気に答えるジェスだが、彼の神懸かり的な幸運は疑うべくもない。
大戦争を生き抜けたのは彼の指揮があったからだとエルシィは確信しているのだ。
「そういえばヤタはもう動いていますよ。」
エルシィはそう言ってカタログをジェスに差し出す。
ヤタ重工の最新版軍事カタログだ。
「相変わらず商機に鋭いねえ。どうせ予算は我々の裁量だし豪快に行ってしまうかねえ。」
ジェスはパラパラとカタログを弄り、落ちて行くページを眺める。
「残った人員で運用可能な戦力となるとかなり限られますね。デザインベイビーは最短納品で1年ほどかかるようです。」
直面している現実の重さにエルシィのトーンも下がる。
刃の国に求められているのは大同盟の軍事力を削ぐことだが、十分な効果が期待できる戦力はない。
ジェスはカタログを脇によけ、
「海沿いの防壁強化はどんな感じだい?エルシィ君。」
と、ある意味で最大の懸念事項を聞く。
「65%ってところでしょうか。」
「間に合うかな?」
刃の国は海岸に位置する関係上、どうしても海軍戦力と陸軍戦力の両方を相手取る必要がある。
しかし、軍人が続々と国外へ退避したため海軍戦力、特に戦艦を動かすだけの人員が確保できていないのだ。
そのため、刃の国では海岸線に最新式の魔力防壁と物理外壁を多重に展開することで海からの攻撃をシャットアウト、陸戦での戦力の消耗を狙うことになった。
これは本丸ともいえる同盟国の風の国が内陸国であるため海軍の戦力低下は意味を成さないことからも来ている。
そんな重大な案件ではあるもののエルシィは冗談めいて答える。
「それは大同盟に聞いていただかないと。」
「それもそうだねえ。ヤタの相手は私がするから君は防壁の方を頼むよお。」
刃の国の中央に位置する議場地下に設置された中央指揮所に残された刃の国最後にして歴史に残らぬ為政者である2人は来たる戦闘の足音に耳を傾けるのだった。
事前の調整などないまま、花の国での会談にて大同盟から行われた事実上の侵攻宣言がもたらした余波は所属各国にも及んだ。
それは代表として会談に直接参加した国の1つである龍の国も例外ではない。
定例の幹部会では侵攻作戦で用いられる資金や物資の準備の割り当てが急ピッチで進み、国民もまた混乱のなか、慌ただしくなっていった。
龍の国の陸軍庁舎でも総括であるパルがコンの用意した備品のリストに目を通している。
新たに準備の必要があるものや、買い替えを行うべきものをあらかじめ把握し、現場からの提案を円滑に承認するためだ。
パルは会談後に時間をかけてこの作業を行おうと思い、コンに指示をしていたため帰国の翌日となるこのタイミングで行うことができた。
「テントとポータブルの魔力防壁、後は食料と医療品がもうちょっと欲しいな。浄水器もこれホントに動くのか?オレが使ったやつだ。」
矢継ぎ早に飛び出したパルの言葉にコンは丁寧に返す。
「んと。テントは現在、海軍の方の備蓄を確認中です。魔力防壁のほうもいくつかあるようですが、船に積んであるとのことで確認に時間が欲しいと言われています。食料を含む消耗品類はヤタ重工に購入可能数と納品時期を問い合わせます。最後に浄水器ですが、3か月前に状態確認済みです。これを機に買い換えることを考えてもいいかもしれません。」
「話半分で聞いてくれればいいんだよ。結局はどんだけ準備しても足りなかったり、買い忘れたりするもんだからよ。」
パルの言葉にコンは目を丸くする。
「準備をして万全を期すのでは?」
「そうだよ。万全を期す。ただ、それでもどうなるかは蓋を開けてみないとわかんねえってことだ。」
コンはあまり納得できないようで首を傾げたまま頷く。
現場で物資の困窮にあえいだ経験をもつ人間なら全てに万全を期すことができるというのは机上の空論に過ぎない。
当人たちさえ当時は十分な数があると確信しながらもアクシデント等によって不足にあえいだ。
準備とはそれを見越して過剰に調達し、荷物を増やすことではない。
一方で、ふたを開けた結果を予期できないからとおざなりにすることでもない。
準備とは限られた予算と状況で可能な限りの少し余るくらいの物資を用意し、それを円滑に運用するための下準備である。
無論、それができれば苦労はないのは言うまでもない。
そんな2人の会話に割って入るように部屋の扉が叩かれる。
パルが入室を促すと、イーグルとハウンドが新聞を握りしめ入ってくる。
2人とも急遽、発表された戦争の合図に慌てているようだ。
「コンちゃん。とりあえず事務方の連中と協力してヤタがどれくらいの納品と時期を考えているか確認取って貰えるかな。可能なら発注と受領の窓口を固定させてくれ。細かい部分は実際に備品を並べながら考えよう。」
パルの指示にコンは笑顔で頷くと早足で部屋をでる。
就任して間もないが彼女の有能さは十分に感じていた。
「んじゃ。とりあえずお2人さんには何しに来たか伺おうか?イーグルはオレが呼んだんだっけ?」
「どうもこうもあるか!いきなり刃の国に侵攻するなんてソラ王はなにを考えているんだ!!」
軽い雰囲気で問いかけたパルに怒鳴るようにして答えたのはイーグルだ。
ハウンドはその迫真の様に少し驚く。
「オレに言うな…なんていうのはちと大人げないか。ただ、冷静に考えろよ。教団は大同盟と武力衝突を考えている。それならこっちの正攻法の手段は『教団殲滅』の名目での宣戦布告しかねえ。そうなりゃまず落とすべきは本丸の風の国じゃなくその進行ルート上にある刃の国だろうが。」
「だとしても性急すぎるだろうが!あの場にお前も居ながら止められなかったのか!」
イーグルは引き下がらない。
そもそもソラが半ば強引に発表した話であり、他国の軍人に過ぎないパルが止めるなどできないことは彼も承知しているはずだ。
「落ち着け。戦争にちょうどいいタイミングなんてねえ。為政者がそこだと言やそこなんだよ。」
それでも。と食い下がるイーグルに対してパルは立ち上がり、遮る。
「お前の個人的な感情もそこまでだ。」
図星を付かれたイーグルは押し黙る。
「ハウンドも同じ件だろ。とりあえず、この件の現場責任者はお前だ。オレの権限で陸軍機動部隊の隊長に任命する。旗下に魔法小隊の3兄弟を付けるからそいつらと協力して物資の確認を進めてくれ。報告はできればコンを通してくれると助かる。」
「待て待て待て!話が見えねえぞ。なんでイーグルをこの戦争から外すような人事を…」
ハウンドも食い下がる。
彼としては同期でもあるイーグルの様子のおかしさは見て取れるがそれでも、今回の件から除外するようなほどと思えなかった。
「ハウンド。指示が聞こえなかったか?こんなところで人の事情に首突っ込んでるほど暇じゃねえだろ。書類は今日中に届けさせる。」
「それでいいのか。お前は。」
ハウンドはイーグルに聞くが、沈黙だけが返ってくる。
諦めたようにハウンドは部屋を出る。
戦友の力に慣れない自分が。
それほどのことを相談されなかった自分が。
頼りなく、弱く感じた。
そんな彼の背中を見送った後、パルは座り直し、改めてイーグルに問う。
「お前の事情の全てを知ってる訳でも聞きたい訳でもねえ。ただ、今、お前が刃の国と教団とことを構えたくねえってならオレはそんな奴に背中預けたくねえ。オレだけじゃねえ。他の連中にもお前に背中を預けさせたくねえ。それだけだ。大同盟の邪魔にならねえなら好きにしろ。」
イーグルもまた、背中を小さくして部屋を出る。
パルの言葉に嘘はない。
本音で語った。
それ以上でもそれ以下でもない。
その後のことは彼が決めることだからだ。
1人残された執務室でパルはタバコに火をつける。
「ふざけんなよ…」
怒りを感じていた。
それは個人的な感情を振りかざすイーグルにではない。
この状況を生み出した教団に対する極めて純粋な怒りだった。
次回は水曜日。
活動報告更新してます。
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