2-32 我々の答えです
大戦争【一般情報】
龍暦270年ごろから290年代後半まで続いた各国間の領土争いの総称。
主な目的は経済圏の拡大や、他国産業の吸収であり、忍の国や鎧の国を初めてするいくつかの国が消滅した。
240年代に起きた大陸戦争がサンヨウ大陸の連合軍とキョウラク大陸の連合軍との戦闘であった一方でこちらはあくまでも各国主導かつ長期的に続いた。
理由としてはゴーレムの兵器運用及び技術的発展に伴い、1兵士の持つ戦闘能力が大幅に向上。
これにより、各国は金を積むことで上質な戦力を確保することが可能となった。
戦闘能力の高いデザインベイビーの登場によりこの傾向は強まり、龍の国、風の国を筆頭とする軍事国家は異常なまでの力を持つようになった。
この2国の未開拓地域争奪戦で龍の国が勝利したことで潮目が変わり、緩やかに終結へと向かった。
なお、この時、世界的に軍需が異常に伸びており、ヤタ重工が大きく躍進した契機となった。
また、軍を相手にした商売は軒並み売り上げを伸ばしており、これらの経済的好機を『ブラッド・バブル』と呼ぶ。
花の国の王城に揃った大同盟幹部とも言える3国の王とトラ教団司教長のパーシヴァル・プルト。
当然、護衛に選出された精鋭も同室してる。
「では、時間になりましたのでトラ教団と大同盟との会談を開始します。立会人は花の国の王であるタック・エルマ。お互いが納得の行く、平和的な結論が得られることを期待します。では、トラ教団司教長パーシヴァル・プルトさん、発言をお願いします。」
独特の緊張感を割くようにエマルが開会を宣言する。
「まず、此度の会談のセッティングをされた花の国の皆さまに感謝を。そして参加された大同盟の皆さまにも。」
「心にもないことを言うんですね。パーシヴァル・プルトという男は。もっと野蛮かと思っていました。」
プルトの言葉に噛み付いたのは天の国国王のソラだ。
穏やかな笑顔に隠された睨みつけるような視線にプルトは薄笑いを浮かべ答える。
「では、はっきりとしますかな?大同盟は我々教団を潰したい。我々は大同盟の中でも強力な力を未だに持つ、大国…つまり今ここにおられる皆さまがそれぞれ治める天の国、港の国、龍の国の解体を要求したい。」
「それを聞き入れるとでも?テロリストでしかない君らの要求を国に聞けと?」
ママーは心の中で静かにガッツポーズした。
普段とは打って変わり、堂々とした様子でヤーポートは続ける。
「我々は国だ。それを君らのような他国の人間の言い分を聞き入れる必要性がどこにある?大国という柱を崩し、テロと汚職で世界を支配したいだけではないのかね?」
古狸め。教団の護衛として参加していた第一天使エルカは苦々しく呟く。
教団としては奥手になりがちなヤーポートから切り崩すという皮算用だったのだろう。
ヤーポートはそれが聞こえたのか口角を上げる。
「これは外交ではない。国と組織の話し合いだ。教団の解体と『遺産』の譲渡。それができないのなら相応の手段を用いる。それが我々の答えだ。」
プルトの表情から笑みは消え、静かにヤーポートの答えを聞いていた。
その後、目を閉じ、何度か軽く頷く。
再び、彼が目を開いたとき、その瞳が赤く光る。
教団と大同盟、そろいも揃った護衛役が一斉に戦闘態勢に入る。
プルトはイタズラっぽく笑って見せる。
「歴戦の兵士といえども龍は怖いか?お前たちが恐れるものの本質はなんだ?『遺産』か?余の力か?それともテロリズムか?」
「脅しを掛けるのは恐怖心があるから…でしたね?」
一触即発の緊張感の中、レイアはレイモンドに問いかける。
完全に雰囲気に飲まれていた彼は小刻みに頷く。
プルトの目がレイアを捕らえる。
「そのまま返しましょう。貴方が恐れるものの本質は何ですか?『遺産』ですか?『龍』の力ですか?それとも正面衝突ですか?」
レイアの言葉でパルが半歩前に出るとその存在感は他を消し去らんとするほどに強くなる。
「『遺産』は絵空事ですか?もしかして貴方はパルに勝てない?あぁ、正面衝突となれば勝算がない?」
レイアは物怖じするどころか、敢えて煽るように言う。
「そこまでです!いくら女王陛下と言えどもこの場は平和的な解決を!」
「下がれ!愚鈍な兵がこの場で発言できると思うな!」
口を挟んだのは花の国女王エマルの護衛として入った花の騎士団の団長だが、レイアはそれに対して声を張り切って落とす。
「平和主義を妄信し、この状況を理解しようとしない貴君らになにを語ることができようか!」
レイアの言葉に会場の空気が変わる。
教団の大同盟もこの話し合いで平和的な結論が出ないことは承知している。
だからこそ、この場でまだ、『平和的』などという誇大妄想をしている連中はノイズでしかなかった。
プルトは感嘆した様子で唸ると、手を叩く。
「いやはや失礼した。余は少し勘違いをしていたようだ。ヤーポート王、レイア女王、あなた方は素晴らしい。それでこそ、こちらも潰しがいがあるというもの。」
先ほどにも増して緊張が重くのしかかる。
宣戦布告と取ってくれと言わんばかりの自信だ。
「まぁまぁ落ち着きませんか?こうなっては話し合いなんてできません。」
ソラの言葉で一同の緊張がゆるむ。
「失礼。少し感情的でした。」
レイアは言葉ばかりではあるが団長へ謝罪する。
空気を変えたソラが次の主導権を握る。
「せっかくですし、1つ教えて貰えますか?パーシヴァル・プルト。」
聞こう。そう言ってプルトも空気に合わせ、赤い目を戻す。
「では、『遺産』について。あれは噂に聞くとおり、政治関係者の汚職と政治団体『レギオン』が残した土地や金品のリストという理解でいいでしょうか?」
「その理解で問題はない。狂乱の異常軍需をもたらした大戦争が生み出したこの世の汚点よ。」
ソラは満足げに頷き、
「なるほど。ならばその『遺産』はどこに?いくつあるんですか?」
更に問いかける。
プルトとしては聞かれたくなかったのか一瞬、眉をひそめた。
「『遺産』の場所はお教えできない。場所を知るのは余、ただ一人だ。いくつ、という部分だが『遺産』は1つ。バックアップやコピーは存在しない。」
「なぜそう言い切れる。」
ヤーポートが口を挟む。
ソラも同じことを考えていたのか賛同するように頷く。
「『レギオン』の真実と最後を知る者がほとんどいないということだ。『レギオン』が政治ゲームの舞台装置となっていた事実を知るもの。そして、誰が『レギオン』を終わらせたのか。この2つを知る者にしか『遺産』の実在を認識できない。」
レイモンドは一瞬、自分の心臓を掴まれたような苦しさを感じた。
この2つを知る者、それは彼の知る範囲では自分と彼しかいないからだ。
そしておそらく、その認識で正しい。
だが、レイモンドは『レギオン』崩壊と同時に離れたため、『遺産』の存在を認識していたが、その場所までは把握できていない。
そういう意味では真に『遺産』の全容を知るのはプルトだけになる。
「他に何かあれば。」
ソラはそう言って一同の様子を確認する。
会談は『極めて平和的に』終わりそうだ。
「ならば最後にはっきりしておきましょう。」
そう言ってプルトは立ち上がると再び目を赤く光らせる。
「『教団』の戦力では正面衝突に耐えられない。そうお考えのようだが我々は全ての手札を見せているわけではない。それだけはお間違え無きよう。」
皆がその言葉の意味を咀嚼しようとする中、小さく笑ったのはソラだ。
「ブラフだろうが何だろうがあまり関係ないのではっきり言っておきますね。近いうちに大同盟は刃の国への侵攻作戦を行います。『遺産』の争奪戦よりも先に風と刃を落とす。それが『大同盟の』答えです。」
咄嗟に出たその言葉は想定外ではあった。
だが、レイアはその言葉に即座に覚悟を決め、プルトを睨みつける。
ヤーポートはできるだけ表情を変えないようにした。
プルトはソラに笑みを返すとエルカの転移魔法で消えた。
緊張から解放されたものはいない。
宣戦布告とそれを受けての攻撃宣言。
戦争の足音が大きくなる情勢ではあったが、今、この『極めて平和的に』終了した会談でその戦争に肩を叩かれたことになった。
「エマル女王。閉会の言葉をお願いできますか?」
呆気に取られていたエマルは用意していた原稿の事など忘れ、うわの空で、これにて閉会とします。と告げた。
会談終了直後、陸路での帰国が最初に設定されている天の国一行の車列が出るのを眺めながらレイアは呟く。
「戦争…ですか。」
その言葉の重みは大戦争を経験した多くの護衛担当者にのしかかった。
殺さなければ殺される。
人殺しという重罪が容認され、あまつさえ武功と呼ばれるそれを望む者などいるはずもない。
「ですが、避けられん話でもあります。トラ教団に国家単位で協力しているとされる風の国とその同盟国である刃の国。隣接するこの2国は教団の殲滅において必須となる攻撃目標になります。ソラ王はそれを承知で宣言しました。刃と風の国民が退避できるように。それに奇襲も認められんでしょうからね。」
トータスが諭すように言う。
「奇襲、ダメなの?」
いつもの調子を取り戻したレイモンドが口を挟む。
「世論は正義の大同盟と悪の秘密結社トラ教団という構図だ。そんな状態で俺たちが奇襲なんてしてみろ。せっかく足並み揃いつつある大同盟の汚点になるだろ。」
レイモンドは微妙に納得が行かないのか、ふーん。と相槌を打つ。
「どのみち龍の国が前線拠点になるだろうな。店長には話、通しておく。」
パルの言葉にトータスは頷き返す。
大同盟の各国から精鋭が揃うことになるだろうが、その規模は過去に類を見ないレベルになる。
そんな状況で頼りになるのは兵站、特に消耗品や軍備を扱うヤタ重工のような存在だ。
かつての異常軍需の再現とまでは行かずとも彼らにとっては重要な案件となる。
問題は、ヤタ重工の意思としては戦闘継続による軍需拡大にあるところだ。
それでも頼らざるを得ないほど、ヤタ重工の存在は大きい。
そんな重い空気のなか、出発の準備ができたという報告を受け、一行は花の国を後にする。平和の国で起こった平和な話し合いは終わった。
だが、この話し合いが硝煙と血と泥にまみれた戦乱の発端となったことは言うまでもない。
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
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