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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-31 それぞれの生き様

ヒロヨシ【一般情報】

天の国の中心を構成する巨大都市『天覧』の土台とも言える山。

標高2000mと言われ、天の国は標高1200mに王城を含む上層、歓楽街を持つ中層、工場区画を持つ下層となっている。

300年以上前、天空の龍と呼ばれる存在がおり、人々はこのヒロヨシを龍の住みかとしてあがめていたと言われている。

後に龍戦争が勃発し、天空の龍はこの山でソラウ・サトシによって討伐された。


パルとの再会を果たしたプルト。

街頭がまばらに設置された裏路地を進んでいく彼の足取りは心なしか軽い。

彼の赤い瞳はパルを迎え2人と更にもう1人を捕らえている。

パルの探知では雑多なノイズと判断されたが、見下ろすように視界を拡張する彼は的確にその人物を捕らえていた。

「久しいな友よ。今はなんと呼べばいいかな?ジェイン?」

プルトの声に暗がりの死角から1人の男が現れる。

金髪のくせ毛に碧の目をしたスーツ姿の男だ。

「今の僕はレイモンド・サイカーだ。レイモンドとでも呼んでくれ。」

レイモンドは警戒よりも殺意に近い声で答える。

「そう言うな。袂をわかったとはいえ、かつてはレギオンの先兵だったはずだ。それとも、心を入れ替え、余を討ち滅ぼそうとでも?」

「僕が?笑わせないで欲しいな。僕はあくまでも妻と娘の仇討ちをしたいだけだ。君がやったのなら君を殺す。君の部下がやったのならそいつを殺す。それだけのことだよ。」

「教団の長として部下を売るわけにはいかん。だが、君が復讐の相手を探すというのならそれを止めることはせん。」

レイモンドは飄々と語るプルトを睨みつける。

「君の指示じゃなさそうだね。君はトラなんて神を信じちゃいない。そんな男が『トラの尾を踏んだ』なんて寒いメッセージは残さない。」

「相変わらず鋭い男よな。宗教団体を作り、『遺産』の手が及ばぬ民間人を取り込む。元々お前のアイデアだったな。」

昔を懐かしむように目を細めるプルト。

対するレイモンドは態度を崩さない。

「『遺産』と『龍の眼』が君を変えた。もう戻ることはできないぞ。僕も君も死んで詫びる程度ではすまされない。」

「余は変わることができて心底、良かったと思う。それに余のシナリオはもう幕が上がっている。最後まで余が演じ切り、第二幕の主役を引きずりだす。」

プルトの眼が赤く、怪しく光る。

天の国に生きる天空の龍。

存在の秘匿を条件に授かったその力は人を超えた魔力と視力をもたらした。

人の枠を自ら踏み超えた悲劇の復讐者。

それを第一幕とするなら、第二幕の主演は誰になるのか。

レイモンドはその答えに薄々勘づきながら、敢えて問う。

「第二幕?君はなにを考えている?」

プルトの眼が更に怪しさを増す。

わずかな光に作り出された影がより大きくなって見える。

「お前もわかっていよう。パルに『遺産』を継承させる。大同盟が『遺産』のために余を捕らえようとしていることは理解している。ならば、余は敢えて討ち取られることで『遺産』を最強の兵士である我が娘に継承させる。」

「馬鹿な事を考えるな。何の意味がある。」

「馬鹿な事だと?笑わせる。あの『遺産』は存在し続けることに意味がある。ならばその鍵は最も信用できる金庫に預けるべきだ。」

明かされるプルトのシナリオ。

レイモンドは自身の思考が一気に動くのを感じた。

そしてそれが止まった時、彼の表情が一層、険しくなる。

「パルに『遺産』を渡し、『遺産』の所在は闇に葬る。『遺産』の拘束力だけを残すようなことにしかならない…なぜだ?」

プルトは静かに口角を上げる。

「『遺産』の力は弱まりつつある。要するに余の力だけでは政治家の汚職やスキャンダルを集め、管理できなくなっている。だが、それを遺産におびえる連中が知ればどうなる?政治は汚職にまみれ、企業は癒着の温床となる。ならば、『遺産』という強大な拘束力を持つ存在をそのまま存在し続けることにすればいい。そのためには世界の敵である余が持つのではなく、民衆の支持を集める大同盟の兵士。つまりパルが持てばいい。」

「大同盟が簡単に手出しできない立場と実力を持つ彼女に渡せば、彼女が世界中から狙われることになる…わかっているのか?」

「それもまた仕方のないこと。余はパルが生きていたその時点で余の計画は変わったのだ。あれが生きる道を作る。それが親として余のできること。」

親として。

その言葉に親であったこの男は黙ってられなかった。

「ふざけるな…親殺しをさせることが親のやることか?それで彼女が笑顔になると?彼女に罪を背負わせることが?」

プルトには響かなかったのか笑みを崩すことはない。

自分に対する絶対の自信。

それがこの男を、このシナリオを支えている。

「お前のような男が、あれのそばにいるということを心強く思うぞ。ジェイン。」

「僕が愛するのはただ一人だ。それに彼女にふさわしい男は他にいる。」

それに。レイモンドは一呼吸置く。

自分自身、かつての親友を止めるつもりは無かった。

いや、止めるために動くことになっただろうが、この場で彼を説得する気はなかった。

ただ、真意を聞きたかった。

唯一それを望むだけの再会。

だが、覚悟する必要ができた。

彼女に親殺しをさせたくない。

詐欺師として生きてきた彼にも譲れない言葉はある。

だからこそ。

「それに君がそのシナリオを完遂するというのなら僕にも考えがある。全てを使って君のシナリオをぶち壊す。」

「そうか。」

それだけ残してプルトは闇に飲まれるように消えた。

ふと見えた柔らかい笑顔はかつて結婚の報告をしに来た時のそれに似ている気がした。

だが、どんな手を使ってでも、友の理想を止め、彼女の幸せを叶える。

狂った親友への手向けとして。

あの時、復讐という道に進む彼を見送った責任を果たすために。

レイモンドは来た道を歩きだした。

自分の進む先が闇の中でも残った者たちに光が射すと信じ、その思考は走り出していた。


花の国での会談に参加する港の国、龍の国、天の国の長は明日の会談に向け、最後の打ち合わせがほぼ完了していた。。

相手のトラ教団に対しては解散要求などは行わず、また、先方の要求は全て拒否する。

花の国が求めた会談にしぶしぶ参加しているという状況であり、向こうからの要求、特に軍縮や大同盟としての軍派遣をしないといったことはそのまま教団のテロ行為を助長することになるため、絶対に回避したいものだ。

それらを天の国国王ソラの主導で確認した後、レイアは口を開く。

「龍の国としては『遺産』の所在とその数を確認したいです。」

レイアの発言に視線が集まる。

彼女の発言が珍しかったわけではない。

その話題。

『遺産』。

この会で一度として出なかったものを出したからだ。

もちろん、『遺産』のことを忘れていたわけではない。

この場に集った国王。

ソラ、ヤーポート、レイア。

大国と呼ばれる国を収める彼らにとって『遺産』の存在は悩みの種であり、うまく使えれば今後の主導権を握れるチャンスでもある。

ただ、当面の間は大同盟として教団の始末に当たる。

『遺産』についてはそのあと。

それが紳士協定となっているはずだ。

「ま、待ってほしい!」

即座に待ったを掛けたのはヤーポートだ。

「『遺産』の存在は確かに懸念事項だ。だが、今ここでそれを調べる必要があるのか!?」

「あります。『遺産』の所在はパーシヴァル・プルトしか知りえない。ならばあれが死ぬ前にできるだけの情報を手に入れる必要があると思いませんか?」

レイアに圧倒されるヤーポート。

それでも彼は食い下がる。

「『遺産』そのものは確かに重要だが、今はトラ教団との戦いに集中すべきではないのか?」

「その重要性は理解しますが、『遺産』争奪戦で大同盟の結束が揺らぐよりは先んじて我々の手で廃棄するべきではありませんか?」

一理ありますね。沈黙を貫いていたソラが口を挟む。

仮にレイアが先んじて『遺産』を手に入れようとするような狡猾な存在であればそれを許さなかっただろう。

だが、彼女はそうではない。

純粋。

真摯。

そういう言葉が似合う女だ。

だからこそ、止めることもしない。

「では、問題なし。ということでいいですか?」

口ごもるヤーポートの様子を見てレイアは確認を取る。

さすがの彼もこれ以上の議論は無駄になると感じたらしく、小さくうなずいた。

「打ち合わせはこんなところでしょうね。ヤーポート王も問題ありませんね?」

ヤーポートはソラの言葉にも頷くと、レイアはすぐさま立ち上がり、一礼と共に部屋を出る。

2人残されたヤーポートとソラ。

「ファンになりそうだよ。」

この戦いの先を見据えた彼女の言葉にヤーポートは感服する。

自分ではそこまで見えていてもこの場で発言する勇気を持てなかっただろう。

「あの方は推しがいがありますよ。」

ソラはそう言って立ち上がると笑って見せた。


花の国に訪れた夜明けはトラ教団と大同盟の会談当日を迎え、緊張のあまり一睡もできなかった一部の関係者を後悔させるように眩しく照らしていく。

そのうちの1人、港の国国王ピア・ヤーポートは長話に付き合わせたママー元帥に頭を下げる。

「すまない…私がおびえていたばっかりに…あ、朝になってしまった。か、会談が始まるのか…!?」

半分眠りに落ちながら聞いていたママーは立ち上がり大きく伸びをする。

「会談はあと4時間後ってとこですかね。閣下のお話に聞き入っておりました。」

「皮肉か…皮肉だろうな…」

ママーは笑ってごまかす。

このヤーポートという王と1年ほど仕事をして感じるのは情けなさではなく、この異常なまでの自信のなさだ。

当初、彼はそんな主を見限らざるを得ないと感じていたが、龍の国への支援の迅速さ、自分のような脱走兵の登用、時代遅れとなっていた軍備の更新。

大きな部分だけでもこれだけの案件を懸念事項を丁寧に潰しつつこなしている。

王政という権力の一極化のメリットである一方、独裁的というわけでも無ければ、政治的に後手に回って案件が詰まることも無かった。

(十二分な素質も経験も実力もある。周りがそれ以上ってだけなんだけどな。)

それがママーの率直な評価だ。

彼の比較対象となるのは、天の国という巨大組織を1人で回していただけにとどまらず、戦闘能力も一級品の天の国事務局長ソラウ・ツスル。

姿を隠していたにも関わらず、ひとたび外に出ればそのカリスマ性で天の国の混乱を収めて見せた天の国国王ソラウ・ソラ。

政治に関りが無かったもののクーデターの噂されるなか、最終的に暗殺という強硬手段が講じられるまで龍の国を収め、自身暗殺後のカウンターまで完璧に極めて見せたドラゴ・フレイル。

フレイルからのバトンを継ぎ、壊滅状態の国を1年でほぼ復興させただけでなく多くの優秀な人材から忠誠を集める時代のアイドル、ドラゴ・レイア。

どれも上に立つ存在として圧倒的なものがあった。

そんな中、交通の要所として他国に無理強いすることもなく良心的ともいえる政治を行ってきたヤーポートが無能呼ばわりされるのはある意味で間違いともいえない。

それでも大戦争以前から王としての職務を全うしてきた彼は決して時代遅れでも無能でもない。

「私は少し休ませてもらいます。話し相手が欲しいなら誰か呼びますよ?」

「い…いや!?私も休むぞ!さすがに寝てませんでは話にならんからな…」

ママーは静かに頷くと、2人分のカップを回収しようと手を伸ばす。

一晩で何杯のコーヒーを飲んだかわからないがお互いにカフェインが効くような生活はしていない。

「すまない。上に立つものがこんなことでは…君も不安になるだろう?」

ヤーポートの言葉にカップに伸びた手が止まる。

また始まった。

いつものマイナス思考だ。

ママーはため息を呑み込む。

今日だけはさすがに前向きになってもらわねばならない。

「いいですか。貴方は大戦争も天龍事変も乗り越えてきた。軍のトップが教団のスパイだったという一件もだ。それだけのことをやってきたにも関わらず、よくもまあ天狗にならないものです。貴方でなければ鼻が空まで伸びましょうよ?これは弱点であり、美点だ。これは本音です。敵がはっきりしていてこれだけの戦力と人員がバックにいる。たまには調子に乗ってもバチは当たらないと思いますよ。というか乗ってください。」

いつもなら途中で、そうは言うが。と口をはさむ彼だが、今日は黙ってママーの言葉を聞いていた。

椅子に沈み、息を吐くと目に光が宿る。

「そこまで言ってくれるのか?」

その瞳がママーを捕らえる。

そこには朝日が混ざり、より強い輝きを放った。

「カフェインよりガツンと来たよ。たまには調子にのってみるのも悪くはないかもしれん。」

そう来なくては。

ママーもヤーポートも徹夜の狂気からくる笑みを浮かべる。

「ま、とりあえず今は寝てください。ただ、これだけは忘れないでください。貴方がどうしようもないアホなら我々はとっくに見捨ててます。何年その立場にいると思ってるんですか?」

声を挙げて、腹がよじれるほど笑ったのはいつ以来だろうか。

寝坊しないようにしなくてはな。ひとしきり笑ってから現役最年長の王は呟いた、


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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