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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-30 再会

親子【一般情報】 父親、母親とその子供の呼称。 親と子の関係を示すものではあるが、血縁上のものだけではなく、養子と養父などの場合にも用いられる。 一般的には子の出生後、各国の役場へ生年月日と名前を提出することで子として認められる。 養子の場合はこの限りではなく、各国行政機関による書類審査及び養子候補と複数回の面会を経て認められる。 孤児救済の一環として養子制度の簡略化が市民団体から提案されているが、各国とも不審人物への里親認定の可能性から消極的となっている。


花の国で行われるトラ教団と大同盟の会談。

そこで再会を果たしたパルとトラ教団司教長プルト。

2人は会談の緊張感からか人通りの少ない繁華街を歩いていく。

会話はない。

だが、パルは緊張感も違和感も感じていなかった。

プルトのもつ雰囲気がそうさせるのか。

パルが心のどこかで父との再会に感動しているのか。

それはわからなかった。

プルトは無言のまま繁華街にある喫茶店に入る。

迷いなく店に入っていく彼の姿に一瞬、罠の可能性を警戒したが、少なくとも店内や周辺に不審な影はない。

数歩遅れて店内に足を踏み入れたパル。

プルトはすでに店の奥、壁際の席に案内されていた。

ウェイターと言葉を交わす姿は国際的なテロ組織の長とはとても思えない。

パルは、席に向かうと、プルトを牽制するように言い放つ。

「オレに配慮したつもりか?そんなことでオレが警戒しなくなるとでも?」

彼女の言葉にプルトは小さく笑う。

「配慮?私はただ、人目につかぬ席を希望しただけだ。通りに面していると奇襲されるかもしれないなど考えていたのか?軍隊に染まりすぎているぞアイーシャ。」

軽くいなされたパルはプルトを睨みつけながら対面に座る。

落ち着いた雰囲気の店内には彼女たち以外はおらず、小さく流れるオルゴール調のBGMとコーヒーの香りが漂う。

「コーヒーでよかったか?」

ああ。パルが短く返すと、プルトはベルを鳴らし、コーヒーを2つ注文する。

「んで。どういう風の吹き回しだ?お互い、対立する陣営のはずだ。」

「その通りだ。だが、お前と会って、ゆっくり言葉を交わすことなく分かれることはしたくなかった。」

会話に割って入るようにコーヒーが運ばれてくる。

パルのものには砂糖とミルクが添えられていたが、プルトのものにはない。

「前に来たことが?」

パルはブラックコーヒーを啜るプルトに問う。

彼女は状況から、彼がここの常連だと理解した。

「いや?始めてきたが?」

プルトはとぼけて見せる。

「んなわけあるか。コーヒーしか頼んでねえのにお前の分だけ砂糖とミルクがねえのはおかしいだろ。」

プルトは一瞬、目を見開き声を上げて笑った。

「これは一本取られたな。なかなか鋭いなアイーシャ!全く…その通りだ。お前にマズいコーヒーを飲ませるわけにいかんからな。」

下見したのか。パルは少し呆れた。

まるで初めてのデートのようだ。

「味の好みは同じらしい。」

パルはコーヒーを啜ると感想を漏らす。

酸味よりも苦みに重きが置かれた味は茶菓子との組み合わせがよく、鼻から抜ける風味も彼女好みだ。

「口に合ってよかったよ。お前もいいものを沢山食べておるだろうからな。」

「嫌味か?誰のせいでこうなったと思ってる?」

プルトは目をそらす。

娘に人体改造を施し、人間兵器とした黒幕として思うところがあるのだろう。

「お前が生きていると知ったのがもう少し早ければ他の選択肢もあったのだ。お前はあの時、エメラルダ…お前の母と共に死んだと思っていた…」

エメラルダ。

パルは初めて母の名を知った。

「オレはあんまりその辺の記憶が曖昧なんだが、オレは天の国の産まれでいいのか?」

「その通りだ。天の国の周辺にあるジユウという農村。そこでお前は産まれた。そして22年前、お前が4歳のころ、非正規の武装組織に村が襲われ、私を除く村人は全員、殺害された。」

パルは自身のおぼろげな記憶がかすかに輪郭を持ち始めるのを感じた。

母が床下に自分を押し込んだこと。

そのあと、床下から這い出て焼け落ちた村を見たこと。

何度も、おかあさん!おとうさん!と叫んでいたこと。

誰も通らず、誰も返さず、泣き出したこと。

夜になって空腹に耐え切れず、捨てられていた野菜を食べたこと。

そして、見上げても頂上などみえない巨大な都市部へ誘蛾灯に道かれるように歩き出したこと。

過去を振り返るパル。

それを見つめるプルト。

孤児として、時に自分の体を売って日銭を稼ぎ、生きることに必死だったパル。

全てを奪われたものとして復讐と社会改革のために組織を裏切り、トラ教団を立ち上げたプルト。

孤独の中で生きてきた2人の親子はここで再会できた。

トラ教団と大同盟という対立する立場で。

「お前には苦労を掛けたな。」

「今もだ。」

「私は理不尽に命を奪われることがなくなるように、社会を変える必要があると、より強く感じた。だから、政治ゲームの舞台装置となっていたレギオンを友人と共に潰し、教団を立ち上げた。」

「それで?」

「私の考えは世界の支配ではない。教団というパブリック・エネミーを存在させ続けることで山賊のような非正規の組織を吸収させ、各国の正規軍にぶつけることだ。これによって市民へ矛が向くことを無くしたかった。」

「軍人の犠牲は?」

「それは仕方のないことだ。だが、状況が続けば軍人はそのうち完全にゴーレムやデザインベイビーに置き換わる。それまでの辛抱だ。」

自らの考えを語るプルト。

それに短く横やりを入れるパルのやり取りは一区切りつくと沈黙が場を支配した。

初めて聞くトラ教団の本懐。

これまで教団の最終目標として聞いていたパワーバランスの是正という曖昧なそれに対する1つの答えとしては、決して間違ってはいないのかもしれない。

大国の力を落とし、大同盟として団結させ、集約された軍事力と教団という組織の対立構図によって国家対国家という構図をなくす。

教団の戦力に非正規の武力組織を用いれば略奪や焼き討ちといったことも防ぐことができる。

ただ、プルトの考えは完全とは言えない。

教団がパブリック・エネミーとして成立させる過程としてテロ行為がすでに実行されていること。

また、教団対大同盟という構図の外。

つまり教団の思想と相容れない第二の教団というべき存在が出ないとも限らない。

もとより絶対の回答などない問題ではあるが。

「そんなたいそうな考えがあるのはわかった。けど、それを単純に認めるわけにはいかねえ。軍人としてな。」

「それはわかっている。だが、成さねばならん。」

「自分が大罪人として名を残すことになってもか?」

そうだ。プルトは力強く頷き、コーヒーを飲んだ。

「そこまでの覚悟があるんならオレもはっきり言っておく。オレはルビリア・パルだ。ダグラム・アイーシャじゃない。」

事実上の絶縁宣言。

それは大罪人の娘になることも教団の走狗となることも拒否したともいえる。

パルの宣言はプルトも予想していたようで、カップを大きく傾ける。

「そろそろか。」

プルトの眼が赤く光る。

パルも呼応するように周辺を探知する。

彼女も知る2人がこの喫茶店近くの路地に向かっていることがわかった。

プルトもパルもここで初めて確信を得た。

お互いに龍の力を持っている。

プルトの力は俯瞰視点。

つまり、天井や壁を越え、空から見下ろすようにして周辺の状況を把握する。

パルの力は探知。

地面から周囲の状況を把握する力。

彼女の力はこれまで勘の良さ程度でしかなかったが、大地の龍から直接輸血されたことで完全に力と呼べるほどになった。

「面倒なもんに目をつけられてんだな。」

天の国に住んでいたプルトが得た力。

それを与えた龍は天の国のある土地で討ち取られた天空の龍と呼ばれる存在だろう。

「面倒などと。これがあったからこそ私はここまでこれた。」

プルトは真っ直ぐにパルの目を見て答えた。

自然をつかさどる龍の力。

人のそれをはるかに超えた力をプルトは肯定的に捕らえているようだ。

パルはコーヒーを飲み干し、立ち上がろうとすると、プルトに止められる。

「最後に、私の願いを聞いてくれるか?」

「オレが思っている通りなら断る。」

「せめて写真を撮らせてくれんか?」

パルは仕方ないと息を吐くと、ウェイターを呼ぶ。

プルトとパル。

2人は店の看板の隣に並び立つようにして写真を撮ってもらう。

すぐさま現像された2枚を受け取った。

プルトは愛おしそうに写真を眺める。

「じゃあな。こういうのはもうねえだろ。」

「そう…なるだろうな。ありがとうアイーシャ。」

プルトは本心から自分との対話を望んでいた。

それを理解したうえで、パルは告げる。

「お前は新聞でも読みながら政治に文句を言うだけの親父で良かったんだよ。」

それはパルが生きていることをもっと早くプルトが知っていればそうなっただろうということを理解したうえでの言葉だった。

プルトはその意図を汲んでか、小さく笑って見せる。

「そうはならなかったのだ。それだけのこと。」

暗くなった夜の闇に消えるプルトを見送ったパルは反対側へ歩き出す。

このわずかな時間だけでも親と子として過ごせた。

それで満足するしかない。

自分たちはそういう親子だ。と、そう自分に言い聞かせるしかなかった。


パルはそのままホテルへは戻らず、裏通りへ入る。

彼女が喫茶店で探知した2人がここにいるからだ。

「問題ねえよ。心配かけたな。」

気配を消す様に待機していたカインとトータスが姿を表す。

「無事終わったなら何よりだ。次のデートの約束はしてねえだろうな?」

「んな冗談より話しておかなきゃなんねえことがある。特に剣聖。直接交戦したお前の意見が聞きてえ。」

パルのシリアスな態度に、2人は頷くと、ホテルに戻った。

その後、カインの提案でツスルを加えた4人は打ち合わせ用の会議スペースに集合していた。

「まず、オレには大地の龍の血が入っている。それはいいな?」

3人は頷く。

伝説上の存在である天地海の3龍。

各地の伝承に細かい差異はあれど、3体とも300年ほど前に人間によって討たれている。

彼女はそのうちの1体『大地の龍』の血を入れられており、それにより常人を超えた魔力量と地面を通しての周辺探知能力を有している。

ここまではツスル、カイン、トータスも知っている。

「…どう言っていいかわからんが、パーシヴァル・プルトは龍の力を持っている。オレと同じくらいだろうな。」

「どういうことだ…?」

事実を認められないトータスが即座に問う。

「あいつはお前と剣聖が接近してくるのを把握していた。おそらくは天の龍の力。」

「答えになってねえぞ?」

トータスの反応に、パルはタバコに火をつける。

順序を整理し、言葉にする。

「まず、オレの龍の血ってのは単純な魔力とかだけじゃない。周辺の地形や物体の把握ができた。以前は勘に近いもんだったが、天の国で死にかけた後、はっきりと龍の力と認識できるレベルで発現している。」

パルの説明は綱渡りに近い。

彼女が天の国で重傷を負った後、輸血を含む治療をしたのは大地の龍だ。

そして、龍の生存は龍自身の希望で秘密にするように言われている。

それを隠しながら説明するほかない。

「そして、プルトも同じように状況を把握して見せたが、その時、あいつの眼はオレと同じように赤くなっていた。魔法でないなら龍の力と見るべきだと思う…」

一通りの説明を聞いたトータスは不服そうな様子ではあった。

だが、龍の力を持つ彼女が同種の人間ともいえる存在を検知したというのはあり得ないとも言えなかった。

そう言ってしまえるほどに龍の存在は神秘であり、異常でもあった。

「眼が赤くなるというのは小生も獣の国で確認している。死角からの奇襲を防御したそれが、貴様の言う龍の力と言うことか?」

「おそらくな。具体的な能力はわからんが、オレと同じように周囲の状況を把握できるなにかってことだろうな。ただ、目を凝らして見るようなかんじで常に使えるってわけでもないんだろう。」

パルの仮説はツスルとカインの打ち合わせにもあった疑問への回答とはならない。

「せやかて獣の国であいつの血ィが赤いんは確認しとる。龍の血は黒いはずやないんか?」

「そこはわかんねえ。言うなら龍の加護…ってとこか?報告にあった左腕の切断も完治しているようだった。」

龍の加護。カインが呟いた。

生存している大地の龍の討伐という使命を継承してきた剣心会の彼としては歯がゆいものがあるのだろう。

「ちょっと待てや!剣聖ん剣で切られた傷は治らんと違うんかい!?」

ツスルがカインのつぶやきをかき消すように声を荒げる。

カインの持つ剣聖が代々継承してきた宝剣。

龍を討つために作られたそれは多少の傷を簡単に治癒する龍への対策として傷の治療を阻害する呪詛を持つ。

それで切り落とされたプルトの腕が治癒していたという現状は矛盾する。

「龍の…力ってことかもな。現にオレも生きてるわけだし?」

パルはそう言ってカインに眼をやる。

実際には大地の龍の施術で完治しているのだが、プルトもまた、龍による治療かそれに類する何かを持っていると言える。

「本題はここで悩んで議論することじゃねえ。龍の加護…つまり、パルと同じ力を持つ存在が敵側にいるかもしれんってことを頭にいれて対策を練るってことだ。」

トータスが口を挟んだ。

だが、彼を含むこの場の全員に龍の加護を持つプルトへの対策などあるはずもない。

沈黙がそれを共有させると、ツスルが立ち上がった。

「亀ん言う通りやな。パルちゃんも忙しいとこ話してくれて助かったで。とりあえず今日はお開きや。明日は忙しくなるしのぉ。」

パルは座ったまま大きく伸びると自然とあくびが出た。

ツスルの言う通りそろそろ日付が変わろうかという時刻だった。


次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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