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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-29 花の国

ドラゴン【軍事情報】

龍の国が生産した改造兵士に与えられたコードネーム。

龍の国では伝統的に強力な兵士に動物のコードネームが与えられるが、生産直後、つまり入隊時点から与えられ、ドラゴンという伝説上の存在の名前があてがわれたのは異例である。

実戦投入当時、10歳前後の少女であり、潜入や破壊等の工作のために戦災孤児を使ったのではないかと噂される。

現在はルビリア・パルを名乗り、龍の国陸軍総括を務める。


龍の国一行は中継地点である港の国へ到着した。

その後、陸路移動に関するブリーフィングを受け、宿泊。

翌日、28台にも及ぶ長大な車列が花の国へ向け出発した。

同日、天の国も車列が出発。

3国とも到着は午後の見込みということで情報共有がなされた。

「いよいよか。」

パルはぼんやりと車窓からの景色を眺めながら呟く。

彼女の乗る護衛車は、ママー元帥を乗せ先頭を走る。

すでに最終中継地点を通過し、花の国まで目と鼻の先まで来ていた。

「楽しみなのか?」

ママには彼女の言葉はそう聞こえた。

「ん?どうだろうな?オレもよくわからん。」

「よくわからん?私はお前が退屈で居眠りしないか心配だよ。」

パルの心情を汲んだのかママは冗談で返す。

「そん時は訓練所の外周10周でやるさ。」

そんな冗談を交わしていると、車列は目的地の花の国へ到着した。


花の国側の受け入れ態勢の関係上、港と龍の国が最初の到着になった。

長大な車列は案内されるまま、新造されたという地下駐車場へ流れていく。

地上出口付近で降車し、レイアと合流したパルはそのまま、後続の護衛を待たずに龍の国一行のために用意されたホテルへ向かう。

道中は花の国の治安維持組織『花の騎士団』と警備会社が動線の確保と人払いを済ませており、一部の許可された報道関係者のみとなっている。

レイアは足を止めることなく、写真をとらせるように頭を下げた。

一斉放火の様にフラッシュが炊かれ、パルはサングラスでも持ってくれば良かったと目を細めた。

ホテルにチェックインはなく、ホテルマンの誘導でそのまま部屋に案内され、鍵を受け取る。

「お疲れさまでした。この後は少し待機になります。繰り返しますが、今日の夜にソラ王、ヤーポート王を含めた大同盟側の方針すり合わせ、明日、教団との会談になります。」

これがパルの台本だった。

そして、それを聞くレイアは、もううんざりだ。と何度も説教をくらった子供のように呆れたような顔をする。

「パル…その説明は今日だけで5回は聞きました…もう十分わかりましたから…」

レイアの感情の薄い反応にパルは小さく、失礼しました。と詫びた。

「コーヒーか紅茶…入れましょうか?」

パルは謝罪の意味も込めレイアに伺うと、新たに入室してきた集団が答える。

「僕は紅茶。砂糖とミルクは要らない。お湯の温度は90度。茶葉を30秒くらい浸してから入れた2杯目を頂戴。」

「俺ぁコーヒー貰おうか。」

「自分もコーヒーを。」

「み…水…」

「わわわたしは…こコーヒーを…」

「我々は不要です。」

続々と入室してくる護衛の面々は口々にオーダーを伝える。

「あのな。オレは姫に聞いたんだ…自分でやれ!特に紅茶選んだヤツっ!」

怒り心頭のパルは吠えるようにオーダーを棄却する。

「ま、冗談はさておき。パルちゃんは俺と会場の下見。第一艦隊はオルカの世話と姫の護衛。バイソン、ドルフィン、レイモンドの3名は街の様子を確認してきてくれ。教団の破壊工作の可能性があれば、花の国を通さず、直接報告してくれ。俺から花には話をする。」

トータスは手早く指示を飛ばすと時計を確認する。

時刻は予定通りだが、元々タイトなスケジュールなだけに急ぐ必要があった。

「まて、サフィアはなんで同行しねえ?」

「ルビリア総括…申し訳ありません…艦長は車酔いでして。」

ぐったりした様子のオルカは問題ないと言いたげに手を上げるが、明らかに普通ではない。

「艦長は船には強いんですが、車は酔いやすいらしく…しばらく休息をとれば良いのですが…」

オルカの体調を報告した第一艦隊副長のシモンはそう付け加えた。

「そういやそうだったな…酔い止めダメだったか…」

「はい。耐性が付いたようでして…」

申し訳なさそうに頭を下げるシモンに、気にすんな。と伝える。

「準備いいか?すぐ出発したい。」

急かすトータスの態度が気になり時計を確認すると、会場の下見として指定された時刻まで10分を切っていた。

走る必要はないだろうが、これ以上、ゆっくりはできない。

「オレは問題ねえ。会談会場と護衛組の待機場所、動線のチェックだったな。」

トータスは頷くと、部屋を出る。

パルも後を追うように早足でついていった。

家族愛サルビアの芳香剤の匂いが鼻をくすぐった。


トータスとパルはホテルから徒歩で5分ほどの距離にある花の国の王城に来ていた。

「時間通りの到着。感謝します。」

入り口に待機していた花の騎士団の1人が頭を下げると裏口の扉を開く。

扉の先にはすでに金属探知機が設置されている。

拳銃や刀剣などの武器は持ち込めないようになっている。

「念のためチェックにご協力を。」

案内役の騎士はそう言って検査の案内板を指す。

ポケットの中身をすべて出したうえでゲート式の探知機を通ることになる。

パルはポケットからタバコとライター、財布を預け、ゲートに向かうと警報が鳴る。

さすがだな。とパルは感嘆の声をあげ、警戒体勢をとる花の国の職員へ自身の腹を見せる。

「先に言っとくべきだったかな?腹ん中に人工臓器が入ってる。医学的な証拠が必要なら持ってこようか?」

彼女の腹部に残された複数の手術痕に花の国の職員は胸を撫でおろす。

彼らとしては彼女が隠し持った武器で自分たちを殺害する可能性もあっただけに、恐怖したことだろう。

「失礼しました。貴女の事情は把握しています。念のため手持ち式の探知機でのチェックを受けてもらえますか?」

騎士団の男はそう言って、柄の先にドーナツ型の探知機が付いたものを見せる。

パルは頷いて応じ、トータスと共に無事、問題なしとなった。

「天の国と教団は到着してるのか?」

トータスは検査ゲートを抜け、別途検査された小物をポケットに仕舞いながら問う。

この質問の意図は2つ。

1つは言葉通りの状況確認。

もう一つはこの会談に対する花の国の意思確認。

仮に花の国がパルたち大同盟に加担、或いは、今回の一件に関して理があると考えているなら検査場を設置する前に大同盟の人間を下見させるような便宜を図ることになる。

そしてそれは教団に便宜を図るということも考えられるのだ。

「いえ、天の国一行の到着は30分後、トラ教団の到着は明日の午前中と伺っています。」

トータスの意図を理解しているか不明瞭な回答だ。

たが、少なくとも大同盟に便宜を図るつもりは無いらしい。

男の案内で会談会場となる大広間に案内された。

天井が高いものの窓は無く、出入り口も1つで会談の会場としての適性は高い。

広さも十分なものがあり、代表者だけでなく護衛も含めて余裕をもって参加できるようになっている。

一通り、壁や扉、机や椅子などを確認した後、トータスはパルに説明する。

「お前には言ってなかったが、龍の国からの参加者はレイア女王、俺、お前の3人だ。天の国がソラ王、ツスル、カイン、港の国がヤーポート王、ママー元帥、ゴンゲン。最後に大同盟側の要請枠でレイモンド。この10人が会場入りする。」

パルにとっても慣れ親しんだ護衛メンバーに不服はないようで、ふーん。と興味なさげに答える。

「獣の国は入らねえのか?」

「入らねえ。獣の国については協力が直前過ぎて今回はあくまで天の国の同行者という位置づけだ。それに獣の国は大同盟の加盟国じゃない。あくまでも対教団における共闘ということになってんだ。」

トータスの説明に軽く頷くパル。

会場の下見はこれで終了した。

男の見送りで城外に出た2人がホテルに戻ろうとすると、1人の男が道を塞いだ。

カジュアルな服装をしており、一見すると観光客に見えるが、纏う雰囲気は常人のそれではない。

「お前は…」

「アイーシャ…!」

道を塞ぐ男はパルと視線を合わせ、嬉しそうに笑う。

「喧嘩売りに来るとは殊勝なことだな。え?パーシヴァル・プルト。」

パルはすぐさま臨戦態勢に入る。

彼女の本当の名である『ダグラム・アイーシャ』。

それを知る人間は少ない。

だが、ある意味で彼女の父であるプルトは『アイーシャ』の名をもっともよく知る人間でもある。

だが、彼女にはそう言った理屈ではない何かを感じ、直感的に目の前の男をプルトだと判断した。

「余は見てのとおり丸腰だ。天使もおらん。ただ、お前と話がしたいだけだ。」

「冗談じゃねえぜ。そんなもん許すわけねえだろ。」

プルトの言葉にトータスが即答する。

「なら付いて来てもらっても構わん。ただ、店の前で待っていて貰うことにはなるが。」

プルトの回答は彼女たちの予想とは異なるものだった。

そこまでして話をするという意図が見えない。

「そこまで言うならいいぜ。オレはよ。」

「パル!罠かもしれんのだぞ!」

「いいじゃねえか親子水入らず…って奴だ。それにオレがそう簡単に潰せると思うか?」

乗り気なパルをいさめようとするトータスだったが、パルの意思の硬さを感じたのかそれ以上は言わなかった。

「せめてこれは持っていけ。緊急用のビーコンだ。底のボタンを押せば俺に場所が伝わる。」

トータスはそう言ってポケットからライターほどの大きさの箱を出す。

一般的な防犯機器であるため、花の国の検査でも特に問題視されていなかった。

パルはそれを受け取ると、プルトに見せる。

「こんぐれえはいいだろ?」

「盗聴の類はできんようだな。よかろう。」

盗聴と同席は嫌うが、緊急用の装備は認める。

それはプルトが本当に親子の対話を求めているように見える。

だが、相手は国際的なテロ組織『トラ教団』の長である。

「普通の親子の対話だ。あまり気にするでない。」

そう言ってプルトはパルを引き連れて歩き出す。

「普通の親子は殺しあわねえんだよ。」

2人の背中に掛けた言葉は雑踏に消え、残されたトータスはこの先の展開に少しづつ思考を巡らせていった。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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