2-28 いざ!花の国へ!
ギガノ隊【軍事機密】
風の国が組織した特殊部隊。
構成員は後天的に遺伝子操作を行い、動物の身体能力を付与されたキメラ兵士で固められている。
部隊長のコルネオ・ギガノを筆頭に高い戦闘能力と継戦能力、十分な経験値を持っており、当時未開拓地域争奪戦を繰り広げていた龍の国の陸軍を圧倒した。
一方で、龍の国もキメラ兵士の亜種を生産する『龍計画』を実施し、成功個体であるコードネーム『ドラゴン』が実戦投入されると形成が逆転。
部隊長であるギガノが一騎打ちで敗退し、逃走したために解散。
残った部隊員は風の国の兵士として活躍しているとされる。
花の国の呼びかけで開催が決定した国際的地下組織『トラ教団』と国家同盟組織『大同盟』のリーダー格天の国、港の国、龍の国のトップによる4者会談。
提案当初こそ大同盟は参加を渋ったが、花の国女王タック・エマルの熱意に折れた。
新聞ではそう報じられている。
しかし、全国家を大同盟という枠の中に入れたい大同盟が非加盟国の話を無視できないという外交的な側面によるものだということは世界情勢を知る人間にとっては周知の事実であった。
特に、世論はトラ教団という巨悪とそれを討たんとする大同盟という構図であると認識している。
それは教団のテロによって母親を奪われた悲劇のヒロインにして現龍の国女王ドラゴ・レイアをはじめとする被害者の大同盟という状況にあった。
一方で会談。つまり、話し合いによる解決を望む花の国へは少なからずヘイトが向いた。
大方の意見としては、『先に手を出したのは教団側であり、龍の国を含む実害が出ているのに今更話し合いなど無意味である。』とするものや、『教団との話し合いで彼らが解散しても名前やトップを変えて活動を再開するだけだ。』という意見だ。
そして、それらはおおよそ正鵠を射ている。
一方で花の国としては歴代の王が平和的な解決を望み、こうした会談を開いてきた実績と伝統を強気に主張。
盲目的なそれに民衆の怒りは日に日に大きくなっていた。
大同盟を代表して花の国との会談に臨む国の1つ、龍の国は、女王レイアとその補佐役のトータス、相談役のレイモンドが会談参加メンバー。
護衛チームは海軍総括のオルカ、新たに陸軍総括に就任したパルを筆頭にバイソン、ドルフィンという天龍事変で活躍した歴戦の猛者が集う。
戦艦『オルカ』、『ドルフィン』そして多目的潜水艦『ノーチラス』の3隻は中継地点である港の国を目指し出航した。
3隻のうち、女王らの乗る本命の船、ノーチラスのブリッジではパルとカレン、そしてレイアが資料を広げていた。
「港の国が戦車ねえ…導入してるもんだとばかり思ってたぜ。」
パルはそう言って資料を机に投げる。
内容は戦車の販売元であるヤタ重工のチラシだ。
『小人数運用にも対応!制御補助AI搭載!本格エントリーモデル!』
ヤタ重工広報部特有のわかりやすいメリットだけ書かれたチラシだ。
「導入されたのはヤタ重工製無限軌道戦車Mod-55式と同社製の6脚戦車Spider6ですね。港の国は防衛能力としていくつか制圧用の戦車を導入していたようですけど、今回は専門部署を立ち上げ、装甲車や兵員輸送車あたりにも手を出すみたいです。」
カレンは収集した情報を報告する。
「元帥殿の尽力かね?ま、意図的にセーブさせられていた。ともいえるが。」
「そうなんですか?」
聞き返したレイアにパルはこれまでの経緯を説明する。
「ここんとこの港の国の軍部ってのは防衛力としての側面が強かったんです。だから、これみたいに新たな部署を立ち上げるほどの大型の軍拡は珍しいんです。」
パルの言葉を更にカレンが補足する。
「それを実現したのはひとえにママさん。新しく軍総括になったママー元帥の尽力でしょうね。練度の高い脱走兵を多く引き込むことができたので人数的にも充実して、今回のような動きができたようです。」
カレンとパルの解説をレイアは頷きながら聞いていた。
基本的に自国のことが中心となってしまうため、他国の軍事に関してこうした過去の経緯を含めた解説を聞く機会はあまりなく、熱心に聞き入っていた。
話が飲み込めたのかレイアはパルに質問する。
「パルは先ほど、『セーブさせられた』。といってましたね。あれはどういう意味ですか?」
「あぁ。それはママの前任が教団の幹部だったのはご存じかと思います。あいつは意図的に軍事への予算投入を避けさせていたようなんです。目的は軍事力の弱体化によって教団のテロを円滑に進めるためです。蓋を開けてみれば、港の軍備は世代遅れ。脱走兵の方がまともな銃を使ってたレベルだったようです。」
パルの言葉にレイアは目を見開く。
「そんなこと可能…ですね。現場…それも軍のトップが不要と言い張ればそれ以上のことは門外漢である為政者側は意見できない…」
「ええ。そういう意味ではママのやったことは今の他国の軍事水準に引き上げただけなんですよ。ただ、その速度はさすがというほかないですけどね。」
パル達の解説を一通り聞き終えたレイアは満足げに自室へ戻った。
中継地点の港の国まで後、3時間ほどというところまで来ていた。
その港の国は国王のヤーポート。
軍総括のママー元帥とその部下たちが参加。
龍の国と合流したのち、車列を形成し、陸路で花の国へ向かう。
車列護衛には同国初めての実戦投入となる特殊装甲車両運用課、通称『特装課』が担当する。
軍のトップである元帥、コオウ・ママーは庁舎で陸路移動に伴う警備班の配置完了を待っていた。
「失礼します。」
第一艦隊副長のシュンソウが入室し、報告を読み上げる。
「観測装備ゴーレムの配置完了、第一、第二中継地点は設置完了し、ゴーレムからの情報集約機能も問題なく動作しています。最終中継地点も1時間後に設営完了、2時間後には情報集約機能の確保の見込みです。」
予定通りの報告にママは軽く2度頷く。
「ゴーレム用観測装備の数が足りたようでなによりだ。初期不良でもあれば破綻するところだったよ。」
「便利になったものです。かつては専用のゴーレムを取り寄せねばでしたが、今はアタッチメントの装備で換装。遠隔操作も基地局から可能とは。」
シュンソウの話に、ママは遠くを見つめる。
「そうさな。昔は『観測ゴーレムを潰せ』とよく言ったものだ。」
「私も同じです。敵兵力分析されるから、情報を持ち帰らせないために優先的に破壊する。」
彼らの話は今から15年以上前のセオリーだ。
情報収集用ゴーレムの登場により敵の陣形、指揮者、兵力の分析精度は格段に向上した。
特に戦場のインフレーションが激しかったこの時代は、敵の新型ゴーレムや兵装、デザインベイビーをはじめとする新たな要素を素早く確認し、対策を練るために現場の情報収集は重宝された。
通常、兵士1名が3機前後のゴーレムを運用するのが一般的な時代に観測用ゴーレム1機のみを担当する兵士が各小隊に配置されたことからもその重要性が見て取れる。
「デザインベイビーの報告を聞いたときはたまげたものだ。1人で20機以上のゴーレムを扱うというのだからな。さすがに報告を疑ったよ。」
ママはそう言ってコーヒーを啜る。
「あなた方もそうだ。ゴーレムの大部隊があっという間に全滅。それも小隊規模の人員で。私も報告を疑いましたよ!」
「懐かしいねえ。輝かしきキメラ部隊か…」
生産英雄。
デザインベイビーに端を発する人工的な身体強化兵士。
動物の遺伝子を組み込み、人体を努力では到達できない身体能力へと持ち上げるそれはゴーレムによる消耗戦が主流となりつつあった戦場を大きく変えた。
現在にも通ずる、一兵士の極限化。
異常な能力でもって、ゴーレムを簡単に砕き、進撃する。
なにより、人であるため現場での判断が可能で、装備品も他の兵士と同じですむ。
この極限化の極致にいるのが龍の国の『ドラゴン』であり、大地の龍という神に近い存在の血をもつ彼女の登場はキメラ兵士を含む全てを過去のものにした。
「キメラだろうが何だろうが、結局はドラゴンにかなわなかった。懐かしくも苦い思い出だよ。」
ドラゴンと一騎打ちの末、完敗したママは自らの拳を見つめる。
掠ることもなかった拳だ。
「私もドラゴンの話を聞きました。観測用ゴーレムより優先すべし、そう言われた翌週には発見した回れ右して報告しろですからね。」
「まさかあのガキと今、轡を並べるとはな…人生わからんもんだ。」
港の国と天の国を含む一部の国は龍の国と交戦したことはない。
だが、脱走兵出身の彼らはかつて敵対した、ドラゴンことルビリア・パルと共闘する事実の奇妙さをかみしめる権利を持っていた。
「これも縁かね?まあ頼もしいこと、この上ないな。」
噂をすれば影か、彼らの元に龍の国の艦隊が1時間ほどで到着する旨の連絡が入った。
最後の参加国である天の国は、国王ソラとツスルを中心に、獣の国からの特使であるヴァンとリョーマが参加。
護衛は天の国が誇る世界最大規模の軍隊『天虎士』の精鋭チームと国立大学病院から各部門のエキスパートで組織された医療チームが同行。
加えて、最強の剣豪と名高い当代の剣聖、カインも護衛として参加する。
その天の国では事務局長であるツスルによる会談参加メンバーの最終チェックが彼の執務室で進んでいた。
「医療班は…外科2名、内科1名、薬剤師1名に看護師2名か。妥当なとこやな。次、陸軍!」
軍医担当にリストを返却し、陸軍の将校からリストを受け取る。
ツスルは目を通すと、それを返却する。
「概ね、ワシの予想通りやな。んまぁ細かいところは門外漢やし、お任せしましょ。」
ほっとした様子の将校は軍靴を鳴らし、敬礼して、部屋をでる。
そして、彼と入れ替わりで剣聖カインが入室する。
「ん?珍しいやないけ。お前がわざわざくるなんてな。」
「パーシヴァル・プルトのことで話しておきたいことがあります。」
元々、冗談や遊びに来るということはしないカインが来ること自体が、問題の深刻さを物語る。
「ええよ。これからそのプルトに会うんや。話、聞かして貰おうやないけ。」
カインはその言葉に頷く。
「単刀直入に言います。パーシヴァル・プルトは龍の力を持っていると考えます。」
「ありえんやろ。あいつの血ぃは赤かったそれが何よりの証拠や。」
龍の血。
それは伝承で語られることは少ないが、漆のように黒い。
龍の国でその血を大量に輸血され、血を上書きされた存在であるドラゴン、つまりルビリア・パルがそれを証明している。
交戦したカインも現場に駆け付けたツスルもそれを目撃している。
そして、獣の国でプルトと交戦した際に、彼の血が赤いことは、両者とも確認している。
「たしかに?明らかに死角が見えたり、腕を落とされたんに冷静ではあった。せやけど、ワシかて似たような力がある。それだけで龍の力と認めるんは早計やないか?」
ツスルの疑問はカインも持っていた。
しかし、それだけでは説明できないものがあった。
「プルトの目は赤くなっていました。珍しいものでは無いかもれませんが、あの目は…」
「パルちゃんと同じ、真紅の瞳…か。」
プルトの目は獣の国での交戦前は緑だった。
しかし、戦闘の最中、真紅のそれへと変わった。
鍔競り合いを演じたカインだから気付けた事実と唯一、龍との関連が確定しているパルとの類似点は特筆すべき内容であるように感じられる。
「花の国でパルちゃんに聞いてみるんが早いかもな。」
ツスルの結論はカインも一致していた。
この際、経緯を抜きに龍の力を持つのかどうか。
それが最優先事項になる。
『人は未だに龍を恐れています。大人は子供に悪いことをすれば龍に食べられると教え、大人は天災を龍の怒りと信じている。』
ツスルはかつて、義弟のソラが龍の国との会談の際に語った言葉を思い出した。
龍の力を持つという疑いが出ただけで慌て、その事実を何とかして否定したい自分がいることをツスルは認めざるを得なかった。
一方、トラ教団からはトップであるプルトと彼の忠臣である天使エルカ、グディ。
活動拠点である教会の修道女から獣の国への奇襲にも参加した、アゥ、シゥ、ナゥ、ソゥ。
協力関係にある風の国剣王会から、『幻想』のドラ、『鉈』のヤナギ、『居合』のザイチ。
刃の国から元ギガノ隊副隊長イートロンが同行。
教団は余力状戦力を残しつつも大同盟側各国とそん色ない質と量を誇る。
花の国での会談にあたり、同国内での戦闘行為は禁止する旨の通達がきている。
それでもこれだけの戦力が揃うのは異常というほかない。
両者による牽制合戦。
戦力規模を見せつけ勝負を決しようとする魂胆が見え隠れする。
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
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