2-24 パーシヴァル・プルトという男
タック・エマル【個人情報】
花の国第18代女王。
平和主義を唱える歴代の王と同様に武力による侵攻、報復を良しとせず、あくまで話し合いによる解決を求める。
これまでの王と同じスタンスであることや、先王の時代から積極的に国事に参加していたこともあり、国内からの人気は高い。
一方で、トラ教団やテロ組織といった国際的に活動するパブリック・エネミーに対しても同様の姿勢を貫き、国際的にも平和主義者として他国民の支持を集めやすいため、外交的には厄介な存在と認識されている。
風の国のトラ教団の本拠地に身を寄せていたカヨの元に、教団の職員が訪れる。
「プルト司教長がお話しされたいと申しております。」
膝まづき、丁寧な態度を見せる彼女から、カヨがイーグルと交流している事実は教団側に流れてはいないように感じられる。
「すぐに向かう。」
カヨはそう答えると、顔を洗い、部屋を出る。
職員に案内されるまま元は玉座の間であった広間へ向かう。
トラ教団のトップであるパーシヴァル・プルト。
玉座に座し、薄く歓迎の笑みをたたえる姿は宗教的な彫刻のようにも見える。
「…その腕は?」
カヨは思わず、痛々しい縫い目のある左腕を指摘する。
「フフフ。案ずるでない。少しばかり、運動不足が祟ったのだ。こうしておれば明日には元に戻っておるわ。」
カヨは明らかに切断されたその傷跡が『明日には戻る』と断言するプルトの自信に寒気を感じる。
この男は一見、温和で友好的な雰囲気を纏っている。
また、手駒として自分を雇っているにも関わらず、彼女に対する態度に傲慢さや尊大さは感じられない。
しかし、その目はカヨを見ていない。
視線は確かに彼女を捕らえている。
だが、形容しがたい何か。
カヨは否定したい表現ではあるが、相手の心を見るような目をしている。
そして、傷を簡単に治癒できる得体の知れなさ。
トラ教団という世間を揺るがす巨大組織の長という立場。
その存在感に圧倒されそうになるが、彼の纏う雰囲気がそれを隠す。
不気味。
それがカヨの持つプルトの印象だった。
「それで話があると伺ったが?」
カヨは本題に入る。
矛盾を体現する様なプルトと長い時間対峙することを本能的に避けた。
「いやなに。龍の国、天の国への奇襲。剣王会から犠牲者が出たのでしばらく休んでいただこうかと思ってな。」
「…配慮いただき恐縮だが、私は大丈夫だ。必要があれば花の国での会談にも同行しよう。」
プルトの提案を断ったのは強がりとも雇われた側としての筋を通したかったが故とも言えた。
「であれば貴公以外から数名貸していただこう。それらを加えて花の国へは天使たちと軍属の人間を連れていく。元より貴公は今回の会談への同行は想定していない。愛を深めるのもまたよかろう。」
「な…なななにを…?!」
「そう照れずともよかろう。貴公は気付いていないのかもしれんが、纏う雰囲気が柔らかくなった。戦うだけが人生ではない。家族がいる。愛する者が帰りを待つ。それが心を強く、良くしてくれるものだ。」
慌てふためくカヨをよそに懐かしそうに語るプルト。
「そ…そう言った経験があるのか?」
カヨは話題を変える。
プルトの過去話など聞く機会はそうそうない。
そんな好奇心と自分の心を見透かされた羞恥心が話題を変えさせた。
「うむ。余にも妻と娘がおった。今も扉を開ければ迎えてくれるのではないかと思ってしまう。そして…」
過去形。
この男にも人間らしい一面があったのかと、カヨは驚くのと同時にその喪失感と悲しみを感じた。
プルトは一呼吸おく。
それは語りたくない。という否定的なものではなく、贈り物が届く前の高揚感を感じさせる。
「余の娘。アイーシャ…今はルビリア・パルか。あの子が余と向かい合う時は近いのだ。花の国での会談…余にとっては幸運であった。生き別れ、死んだものと思っていた娘と再び会えるのだ。」
カヨはルビリア・パルを見たことはない。
しかし、聞くところによると真珠のような銀髪に宝石を思わせるような真紅の瞳だという。
プルトの緑がかった黒髪と、緑の目とは噛み合わない。
だが、『宝石を思わせる』という表現は共通するのではないかと感じる。
カヨは知らないが、パルは過去に行われた『龍計画』の影響で銀髪と赤い目になっており、それ以前はプルトと同じ、緑がかった黒髪と緑色の瞳をしていた。
プルトと以前のパル、2人の容姿を知る人間が皆無であったためにこの2人の血縁関係を予測することもできなかった。
パル本人でさえも。
楽し気に語り終えたプルトは満足げにほほえみ、話題を戻す。
「さて、貴公の恋について教えろなどと無粋なことは言うまい。しかし、この人間と添い遂げる。そういう感情が芽生えたのなら、それは大事にされるといい。」
長くなってしまったな。プルトはそう付け加えて、話を区切った。
カヨは呟くように、失礼する。と告げ、部屋に戻る。
「イーグル…いや、お前がイザードなら、私はもっと素直に愛せたろうに。」
個室は戻りベッドに横たわって呟いた言葉は天井に吸われるように消え、思い人には届かない。
1週間ほど時間がある。
その間に、自分の感情に決着をつけなくては。
カヨは思考を巡らせたかったが、疲れがあったのか眠りに落ちていった。
花の国で開催されるトラ教団、天の国、港の国、龍の国の会談に向け、各勢力は行動を起こしていった。
港の国では、実質的に軍のトップであるママと補佐役のゴンちゃんが帰国したので一気に準備が進んでいた。
「龍の国の一行の合流が6日後、港と龍の合同で花へ向かうことで了承は取れている。陸路の封鎖は?」
手際よく、国王であるピア・ヤーポート含む港の国の高官と中隊長クラスの軍人へ説明を行う。
「商用輸送用の最短経路は抑えられなかったので迂回するルートを想定しています。到着時間は最短ルートと比較してプラス1時間の想定です。」
海軍第一艦隊長のシュンちゃんが答える。
「中継地点は?」
「1キロおきに観測装備ゴーレムを配置、10キロごとに第二艦隊の部隊員を配置しています。」
ママが追加した疑問に、前海軍総長スキット・フィールの補佐をしていたウンノ・サムが答える。
「同行は第一艦隊の私、シュンソウ、ラクゾウ、コウエンの4名を班長としたスリーマンセル。ヤーポート王の至近護衛は私の班が受け持つ。メンバーはゴンゲン、トムオキ。各班長はメンバーの選別し、私に提出してくれ。」
ママの言葉に、班長に指名された3名が頷く。
ママの班員は全員、元サーベルタイガーの脱走兵である。
あくまでも信頼のおける人間を護衛役にしろという無言の指示でもある。
「ヤーポート王、何かありますか?」
ひとしきりの打ち合わせを終えたママは国王に問いかける。
「う…うむ。しかし、向かわねばならんのか?ほら、ソラ王やレイア女王が行くのだから…私が行かんでも…」
ヤーポート王は自信なさげに抵抗する。
何度も今回の会談の重要性を説いてきたママは小さくため息をつき、答える
「あのですね…今回は大国3つの王が参加するから意味があるんです。貴方だって他の2人と同じ立場なんですから堂々と参加すればいいんですよ。」
しかしだな。と態度を崩さない彼にママは追撃する。
「どのみち、龍の国の一行が来るんです。レイア女王に説得されるだけですよ。それの方が問題なんで素直に行くと言ってください。どうせ相手は国じゃないんですから気楽に構えてください。」
ヤーポート王は観念したように、わかった。とつぶやき続ける。
「わかったよ。構成についても問題はない。戦車隊も間に合うのだろう?」
ヤーポート王の言う戦車隊とは国内の防衛力として新たに導入されるヤタ重工製の戦車部隊のことだ。
すでに納品されており、部隊員の訓練も実戦投入可能なラインに達している。
「中継地点に配置する予定です。初陣にはちょうどいいかもしれない。」
サムが代わりに答える。
自信がなく、他国からは無能とも言われるヤーポート王だが、こういった情報管理には素晴らしいものがあるのは事実だ。
それが無ければママも見限っているし、国民からの支持も集めている。
「よし、全員、龍の国の一行到着までに準備を進めてくれ。サム、どこかのタイミングで戦車隊の訓練視察を手配してくれ。解散ッ!」
ママの一言で各々席を立つ。
「気楽にか。」
ヤーポート王の呟きにママは答える。
「そうです。トラ教団は結局のところテロ集団。毅然とした態度で斬り捨てればいいんです。」
交渉ではなく、拒否。
話し合いという場においてこれほど気楽なものはない。
武力衝突も考えられなくもないが、こちらも十分な戦力を揃えている。
相手も簡単に武力に頼ることはないだろう。
元より、この会談、大国も教団も話し合う気などないのだから。
テロ組織と国家の構図は国家同士の紛争とは大きく異なる。
第一に、組織の規模、戦力が不明瞭であること。
現状、トラ教団の戦力は風の国、刃の国の軍隊。
加えて、教団の製造した人工生命体『天使シリーズ』。
そして、風の国を中心に活動する『剣王会』。
これらが教団の戦力と目されている。
一方で、トラ教団は過去に港の国の軍総括の人間に天使を就任させたり、龍の国の海軍総括に教団の息のかかった人間を就任されるといった前例を考えると、厳密な戦力分析や、各国幹部を簡単に信用することはできない。
そういった意味では明確に教団と交戦したハウンド達白の部隊及びサーペントを除く龍の国陸海軍の将校。天の国のソラウ・ツスル、剣聖カイン。港の国のママをはじめとするサーベルタイガーは大同盟にとって信用できる存在となる。
そして、組織対国家という構図の最も厄介な点は国際法や国家間の盟約といった約束事を無視できてしまう点にある。
つまり、会談での決定を組織の名を変えたり、二次団体を作り上げることですり抜けることもできてしまう。
そう言った意味でも今回の花の国での会談で行われる話し合いでトラ教団側にデメリットはない。
むしろ、この会談で国家連盟である大同盟側は話し合いの内容次第では大同盟軍の編成やその配備を制限される可能性がある。
港の国での打ち合わせが行われた翌日、天の国では獣の国での会談を終えたソラウ・ツスル一行が帰国していた。
帰国した一行に混じる人狼と馬人種が皆の注目を引くが、2人ともその好奇の目を楽しんでいるように見える。
「花の国で会談やと?!何なんや!ホンマにあの国ィ!」
花の国での会談の事実を不在中の事象報告会でようやく知ったツスルは驚きと呆れを同時に感じる。
「花の国いうところはなかなか見どころがあるのう。自分の国ん戦場にしてほしかが?」
報告会に参加していたリョーマが口を挟む。
「花の国は元々、平和主義を唱えてましたし、国際紛争の際には仲裁に入ることも少なくなかった。しかし、今回は国際的なテロ組織でもあるトラ教団が相手。獣の国同様、今回の一件を何か勘違いしている…」
同じく報告会に参加していたハウンドが答える。
「いずれにせよ、この会談、教団の話は聞き入れんでしょう?」
ヴァンは大同盟の最善手を進言する。
「そらそうや。面倒をこっちだけが背負いかねんからな。とりあえず、誰が向かって誰が残るかやな。」
ツスルもヴァンの言う一方的な拒否に同意しつつ話を進める。
天の国の軍隊は龍の国のような突出した個人はツスルとカインを除けばほとんどいない。
訓練を積んだ熟達の兵士達の連携を中心としたものだ。
ただ、人口最大の天の国だけあって、その人数は他の追随を許さず、総合的に見れば龍の国や港の国と遜色ない。
一方で今回のように戦力を選抜する場合、大人数かつ、その作業は煩雑になりやすい。
沈黙の会議室。
時折、呻きながらツスルはしばらく考え込んだ後、口を開く。
「参加はソラ王、ワシ、剣聖。獣の国の2人。後は軍から3~4チーム作って出してもらえるか?6人チームで1チームは医療班。戦車と車列で移動になるから道路封鎖、検問の準備を頼むわ。」
その言葉に、軍の代表者は頷くと軍靴を鳴らし、敬礼をして会議室を出る。
出張用の医療チームを作成できるのは人口の多い天の国の強みともいえる。
ツスルはハウンドと目を合わせる。
「ハウンドくん。悪いんやけどすぐ龍の国に戻ってくれんか?多分、海路と陸路で移動するやろうけど情報共有をしてほしいんや。」
了解です。とハウンドが即答するとツスルは満足げに笑顔で頷く。
「メンツが決まったらうちからも情報共有させるわ。」
ツスルはそうつけ食えると、電話を取り、ハウンド帰国のための移動手段するよう指示を出す。
日が傾き始めており、龍の国の帰国は夜明け前になるだろうかという時間帯だ。
「すぐでええか?」
ツスルの言葉に頷くとハウンドは荷物を肩にかけ、外に出る。
「義兄さん戻られていたんですね。」
ハウンドと入れ替わりでソラが入室する。
「おう。花の国ん会談がらみははよ動いた方がよさそうやから報告が後回しになっとったわ。」
「構いません。私もすぐに相談したかったので。そして、ようこそ、大同盟へ。」
ソラは歓迎の言葉をヴァンとリョーマへ送ると、2人は深く頭を下げ答える。
「来て早々、申し訳ありませんし、我々としても本意ではありませんが、今回の花の国での会談は大同盟という現状の巨大国家連盟として最初の仕事になります。獣の国からの協力者としてではありますが、ぜひ、お力添えを。」
「もちろんです。トラ教団に関しては我々も無視できない存在となりました。微力ながら尽力いたします。」
ソラの丁寧な語りにヴァンも答えた。
余談ではあるが、ハウンドは帰りの車内で娘のセッカが龍の国で待ってる。という情報を聞かされ、頭を抱えることになる。
教団との抗争を加速させるどころか花の国での前面衝突さえありうるこの会談。
そこへ集う者たちは歴戦の猛者と一組の親子。
亜人も父も娘も改造兵士も王と女王さえも死の覚悟をもって臨むことになる。
次回は水曜日。
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