2-22 この恋、風となりて
レギオン【一般情報】
龍歴史250年頃から活動していた国際政治団体。
『不正を許さず、見逃さず』をモットーに各国の政治関係者の汚職の告発、デモ行進と言った活動を行なっていた。
一方で、270年代後半に入る頃には各国が軍部による政治へと移行していったことに伴い活動が縮小。
風の国で行われた軍拡反対デモに対する軍の虐殺事件『アーミー・パニック』により、多くの参加者と当時の代表であったリーン・リー氏が死去したことで消滅したとされる。
一説には政治活動の補助としての役割を担っていたとの見解もあり、その報酬で築かれた資産は数兆クレジットとも言われる。
龍の国郊外での戦闘に発展したイーグルとカヨ。
カヨの猛攻をなんとか凌ぎつつ、イーグルはようやく、空き地への誘導に成功した。
軍人である手前、自国の民家が少なからずある中で全力を出すわけにもいかなかったからだ。
「話を聞いてくれ!俺は!」
「問答無用…!」
誘導されたことを確認するために立ち止まった彼女に語りかけるがそれは届かない。
カヨの鋭い突きを杖でいなし、イーグルは杖の先端にある宝玉を彼女の背中に打つ。
「氷牢!」
宝玉のヒットした場所から魔法陣が出現し、カヨの体は氷に囚われる。
「頼む…話を聞いてくれ…」
「黙れ!お前は私の師を殺した!それだけで十分!」
「俺はお前を傷つけたくないんだよ!」
怒りを崩さなかったカヨの眼光が初めて揺らいだ。
「俺は、お前に惚れた!裸を見たとか、首領に言われたからとかそんなんじゃねぇ!お前の寝顔を愛おしく思っちまった!コーヒーを淹れながらいつまでもそうしたいと思っちまった!俺のやったことが許されるわきゃねぇ!恨んでくれていい!」
イーグルは危険を承知でカヨとの距離を詰める。
カヨは彼の声が震えていることに気づく。
「けど!けどよ…俺はこの気持ちをそのまま蓋できるほど出来ちゃいねえんだ…だから…名乗った。ただ出会っただけの男じゃなく、お前の復讐の相手として…イーグルという俺の側面も含めて、伝えなきゃ収まんねぇんだよ…」
『戦場で死するは戦の華よ。恨むでない。』
カヨはかつて師に教えられたことを思い出した。
華として散ったものの仇討ちはその死を愚弄することになるのだ。そう付け加えられた。
忘れていたわけではない。
しかし、その真意を理解していたとはいえなかった。
「師は…師の最後はどうだった…」
彼の思いに対する答えではなかったが、先程までとは異なる優しい声。
イーグルの心は荒海のように様々な感情の波で溢れていた。
「立派だったさ!俺がいうのもなんだがな!戦場で死ぬ人間とは思えねぇほど清々しかったよ!」
涙を流しながら答えるイーグルの言葉に嘘はないように感じた。
いや、彼の言葉には最初から嘘はなかった。
「私たちは…どうして出会ったのだろうな…」
カヨの声に怒りも復讐心もなかった。
「待て!戻るな!戻れば教団の手駒として使われるだけだそ!」
カヨの次の行動を察したイーグルは彼女の肩を掴む。
「そうだな。だが、今更…今更なんだ…」
カヨはすり抜けるように風に乗って姿を消した。
出会いが違えば。
時代が違えば。
2人は共に老い果てることもできた。
だが、そんな『もしも』は存在しない。
答えのない問いを抱えた2人の間には沈黙という現状維持しかなかった。
自身の父親が世界を混乱に陥れている張本人であるパーシヴァル・プルトであると知ったパルは、複雑な感情のまま、義姉であるアリアンナの墓前に来ていた。
「どう考えりゃいいんだろうな。」
「そのまま考えりゃいいのさ。」
墓標を見下ろし、呟く彼女は横から声をかけられる。
声の主は彼女とアリアンナの姉、オルカだ。
オルカは持ってきた花をアリアンナの墓前に供えると、パル頭を荒く撫でる。
「お前は複雑なこと考えられるタイプかよ。迷ってんなら素直になれ。それがお前の良さでもある。」
オルカの言葉は彼女の『本当の家族』を知っているようにも、そうでないようにも聞こえた。
「わかってんのか?オレがどうして考えなきゃなんねーのか。」
「知らん!」
パルの不安げな声をかき消すようにオルカは笑って答えた。
「知らんよ。お前が相談したくねぇことにいちいち踏み込む気もねぇ。けどよ、相談したいってんならすぐにでも時間作るさ。」
オルカはそう言ってきた道を歩き出すが、立ち止まって振り返る。
「明日の幹部会、お前も出ろ。いいな。」
パルは頷いて答えると、オルカは満足そうに笑みを浮かべ再び歩き出す。
見慣れた背中が大きく見えた。
いや、自分が小さくなっていたのだろう。
彼女の言葉はパルに新たな決意をさせた。
自分は『ダグラム・アイーシャ』ではなく、『ルビリア・パル』なのだと。
オルカの背中が見えなくなった頃、彼女の通信機にカレンから連絡が入る。
ママが探しているのだと言う。
通信を終えたパルはアリアンナの墓に、また来るよ。と告げ、セッカとママの泊まるホテルへの道を歩き出した。
ホテルのラウンジで、ママと合流したパルはサービスのコーヒーを飲んでいた。
「悪いんだけど、花の国の会談がらみで港の国に戻ることになったの♡セッカちゃんは滝の国に戻るって言ってるからそのまま…」
「オレが面倒見ててもいいぜ?」
パルは言葉を遮った。
ママはセッカの意思を尊重するつもりであり、パルを呼び出したのはそれを連絡するためだった。
しかし、パルは意外にもこれを拒否した。
港の国と滝の国は隣国であり、ママが戻る際に送ることも可能だ。
それを理解したうえで、パルも面倒を見ると申し出た。
「心配すんな。ハウンドに帰投命令が出た。オレとは入れ替わりになるかもしれねえけど、ハウンドは龍の国で留守番するようになってるから大丈夫だろ。」
そう言ってコーヒーを飲み干した。
「せっかく滝の国から遠出して親父に会いに来たんだ。このまま帰るのも可哀想ってもんだ。」
パルは立ち上がる。
「ママは荷造りとかあんだろ?セッカにはオレから伝えるよ。まあ、あの子がどうしても帰るってんならオレも止めないしよ。」
「なら、後のことはお任せするわ♡悪いけど、私は今日の夜には出発するから、それまでに最終決定を教えて頂戴♡」
ママの言葉にパルは親指を立てて答えると、セッカの部屋に向かった。
セッカの宿泊している部屋のドアをノックし、彼女に招かれるまま、部屋に入ったパル。
セッカは今夜の出発に合わせて荷造りを進めていた。
「目にはなれたかい?」
「はい!起きている間は基本的に見えるようになりました!」
セッカはそう言って、龍の国に来てあつらえた眼鏡を指さす。
これまで調子の悪い電球のように、視界が回復したり、見えなくなったりしていたが、最近は弱い視力ながら常に見えるようになっていた。
ドクの見立てでは以前にママが推測した通り、彼女の獣人としての血が覚醒と共に体の不調を回復させ、その結果、現在の弱い視力を常に発揮するようになったのだと仮説を立てた。
彼の仮説では現状、まだ、回復の過渡期であり、最終的には眼鏡で矯正する必要もないレベルで回復するだろうと考察していた。
これまで見えなかったものが見えるという特異な状況をパルは察することはできないが、混乱の中にあることは間違いではない。
パルはそんな彼女のためにしてやることのない歯がゆさを感じつつも話題を変える。
「滝の国に帰るって話だが、君さえ良けりゃここにいてもいいんだぜ?滞在中はオレがサポートするからよ。」
パルの提案にセッカは考え込む。
「迷惑だとかそういうのは気にしなくていい。花の国での会談の関係で国内はゴタつくだろうが、オレと入れ替わる形で君の親父さんが戻ってくるからよ。」
セッカはなおも悩んでいる。
父であるハウンドとの再会が一度流れた後に再び復活した。
セッカ自身、次回までにしたいことを考えるほどだった。
そういう意味ではこの話は突然とも言える。
だが、親子の間にそんな遠慮が必要なのだろうか。
単に会って、拒絶してしまったことを謝りたい。
それが第一目標であるなら答えは決まっている。
「ごめんなさい。お世話になります!」
決意に満ちた目に宿る力強い意思は、確かに父親譲りの頑固さを感じさせた。
パルとセッカは港の国へ戻るママと龍の国で最後の食事に付き合い、彼を見送った。
セッカの残留については、
「セッカちゃんが決めたのならオールオッケーよ♡」
と認め、ご機嫌なまま帰路に着いた。
翌朝、パルはオルカの指示通り、龍の国の幹部会に顔を出していた。
「なんか久々な気がするのは俺だけか?」
イーグルがパルを見ておどける。
「お前だけさ、薄情もの。」
オルカのジョークで場が沸く。
言い過ぎだろそりゃあ。とイーグルも笑う。
場が落ち着いた頃、トータスが手を叩く。
切り替えろ。という無言の指示だ。
静まり返った会議場を見渡すと、トータスは口を開く。
「よーしゃ。幹部会を始める。本題に入る前に、復興状況の報告を。」
オルカが立ち上がると、それに合わせてドルフィンが資料を配布する。
資料が行き渡ったのを確認する。
「作業を続けていた西側の瓦礫撤去はほぼ完了しました。これで再開発も進められることになります。これに伴い、カレンはノーチラス号での待機に入り、それ以外の人員及びゴーレムも待機に入りました。」
昨晩戻ったばかりの軍部長ホエールに代わってオルカはひとしきり説明すると着席した。
「ご苦労。再開発に関してはヤタ重工側との協議をホエールに担当してもらう。地区そのものは以前の通り防壁と検問所を設置、建築に必要なら待機中のゴーレムを使ってもいい。補佐にはイーグル、お前が入れ。」
トータスが指示を飛ばすとホエールとイーグルは頷く。
さて。と一呼吸置いて、トータスは本題に入る。
「花の国での会談に伴う選抜メンバーの発表に入る。出発は急で悪いが1週間後。海軍艦『オルカ』と『ドルフィン』に白の部隊の潜水艦『ノーチラス』。この3隻で向かう。陛下はノーチラスにパル、ドク、カレンとレイモンドが同乗。俺は『オルカ』だ。『ドルフィン』にバイソンが乗り込み、陸路で使う車両は分散して乗せ込む。護衛組は以上、補佐組はレイモンドを中心に『ドルフィン』と『オルカ』に乗船、残りは留守番だ。」
花の国は天の国からさらに西側に位置する。
陸路では時間がかかる上、大規模な車列を組むことになるが、海路であれば比較的、少数での遠征が可能となる。
艦隊はノーチラスを挟むようにして龍の国を出発。南を回るようにして港の国へ入り、以降は車列を形成して花の国へ入る。
「港側への手回しはママー元帥に依頼済みだ。連絡待ちだが明日には了承が得られるだろう。」
トータスはそう締めると、レイアに意見を求めるように視線を送る。
「かなり切迫した中での遠征となり、皆さんには苦労をかけます。ほぼ確実に教団との交渉は決裂し、戦闘となるでしょう。皆さんの力…頼りにしています。」
その言葉を受け、一同の目つきが変わった。
教団に一度国を滅ぼされたが故のある種の復讐心のようなものが皆の中にあったからだ。
そして、教団という存在への否定。
倒すべき悪であると、認識しているからでもあった。
次回は水曜日。
活動報告更新してます。
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