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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-18 レギオンの遺産

龍計画【軍事機密(特別指定秘匿情報)】

龍の国が行ったキメラ兵士製造計画。

大地の龍から採取した血液を投与することで人間の性能を大幅に強化することを目的としている。

被検体となった少女の合意の上で行われ、成功している。


深夜に差し掛かろうとしていた麦の国は騒然としていた。

昼間の銃撃事件に続き、街の外れで起きた戦闘は眠れぬ夜を作り出していく。

その騒動の爆心地である教会では2人の天使が向かい合う。

トラ教団第二天使リエルと第四天使ウエル。

本来、教団の使徒として働くべき2人の対立は側から見れば異常だ。

「N-PAAを提供したのはお前だな?ウエル。」

「えぇ。レイモンド誘拐は良い案ですが少し優しすぎたでしょ?彼らに銃火器を提供して戦力を強化…つまり、作戦の成功率を上げるためですよ。」

リエルの問いにウエルは飄々とした様子で答える。

「嫌味か?あの女に通常火器が通用するとでも?」

リエルの言葉が意外だったようでウエルは笑う。

「貴方もしかして犠牲者が出たことを悔やんでます?ならば貴方こそあの女を理解していない…」

「オレがどうかしたのか?オイ!」

2人の間に割って入るパル。

涙を拭った彼女の目元は腫れている。

姉を殺した原因が自分にあったという事実は彼女の心に影を落とす一方で、怒りに火をつけていた。

「あーあ。貴女については無傷で確保したいんですけどねぇ…」

ウエルはそう言って翼を展開する。

魔力で作られるそれは見慣れた天使の戦闘形態だ。

「プルトは何を考えている?」

「感動の再会でしょ?全ての事情は理解しているはずだぁ…!」

パルは一瞬、リエルからの視線を感じた気がした。

リエルも天使の翼を展開する。

「下がってろルビリア。こいつから話を聞く必要ができた。」

「テメエは何様だ?指示を聞くいわれはねえ。」

パルはリエルを睨みつける。

「待て!こいつらがどこまで何を把握しているのかを知る必要があるんだよ!」

リエルの必死の説得は届かなかったようでパルはウエルに飛び蹴りを放つ。

ウエルはその蹴りを正面から受け止めつつ笑う。

「どうしましたァ?貴女が知る以上に貴女に繋がれた鎖は多いィ!そもそも貴女はァ!」

ウエルの言葉をリエルのボディブローが遮る。

「喋りすぎだ…」

「何止めてんだ?」

ウエルの介入にパルは苦言を呈する。

「お前が思っている以上にお前の事情は複雑なんだよ。」

睨みあうパルとリエル。

2人は視界の端でウエルが光に包まれ離脱したのを把握する。

だが、ウエルを取り逃した事など、今は問題ではなかった。

リトとラキエそしてレイモンドが合流する。

レイモンドはリト達への警戒を解いていない。

「勿体ぶらずに話したらどうなの?」

レイモンドの言葉にラキエは一瞬、目を伏せたが頷き、

「なら、答えましょう。龍計画の真意を。」

全ては今から32年前に遡る。

パーシヴァル・プルトが教団を立ち上げ、少しずつ、社会の裏で勢力を伸ばしつつあったこの時、プルトは大地の龍の生存を知る。

「パーシヴァル・プルトは大地の龍の力を掌中に収めるべくシュリーとサーペントを通じてその血を手に入れました。そしてそれをドクトル・シュナイダーへ渡し、解析を依頼した。」

「ドクは血を解析できなかった。だから手当たり次第に実験したんだろ。」

ラキエの話にパルが口を挟むが、ラキエは首を振って否定する。

「手当たり次第に…ではないんです。全てはパーシヴァル・プルトとその後継者、そして『レギオンの遺産』のために仕組まれたことです。ルビリア・パル、貴女を教団の後継者として迎えるために行われたのです。」

沈黙。

事実を知らなかったリト、パル、レイモンドは話を理解できなかった。

なぜ、彼女が教団の後継者となるのか。

「『レギオンの遺産』…まだあんなものが残っているのか?」

リトが口を開いた。

「まだ…というか、パーシヴァル・プルトはレギオンの残党です。むしろ正当な相続人です。そして、そのプルトが『遺産』をパルさんに相続させようとしていた。恐らく、今も。」

ラキエが答えると今度はレイモンドから質問が飛んだ。

「『遺産』って何?」

「『レギオン』という活動家集団をご存知ですか?」

ラキエの問いにレイモンドは頷く。

「確か20年くらい前に活動していた組織だよね?各国でデモ行進したり、陳情のための署名活動なんかもしてたはず。」

「概ねその理解でよい。だが、実態として『レギオン』の活動は政治パフォーマンスの一部だった。蹴落としたい国や個人に対して金を貰ってデモ行進などを行う。ああいう連中が大きく声を上げ火をつけてやると事は必要以上に大きくなるからのう。」

レイモンドの説明をリトが補足する。

現在、同様の組織は存在しないが、20年ほど前は各国が独立して行動しており、政治的な内紛や政治闘争の一部として『レギオン』の様な組織が複数存在した。

ただし、表向きには政治の闇を暴くという理念を掲げ、人を募っていた。

そのうち、一部の幹部のみが政治工作としての活動の報酬金を受け取り、他の会員は正義のために働くボランティアとして無報酬で活動していた。

また、噂話程度の内容から政治家に対しての脅迫ゆすりも行っており、非常に影響力を持った組織でもあった。

こうした組織は非常に巧妙な立ち回りをしており、仮に特定の政治家が組織を潰しにかかろうとしても、政治工作を行った過去があればそれを公表すると脅し、組織と関りのない場合は、弱みをその人脈などから掴む。

時にはその弱みさえも捏造することもあった。

一方で、各国が段々と戦争に進んでいくことになり、政治の中枢が文官から軍官へと入れ替わっていくとその影響力は著しく落ちた。

理由は単純で、デモ行進や署名活動に対して軍隊による鎮圧が日常的に行われるようになったからだ。

また、組織の会員も多くは戦争によって活動への参加ができなくなっていった。

それはある意味で平和を象徴する組織ともいえた。

大国と呼ばれる3国を有するサンヨウ大陸で活動していた『レギオン』はその活動組織としては最大規模であった。

リエルは一呼吸置く。

「『レギオン』は言うなれば『トラ教団』の前身と呼べる組織なんです。『レギオン』の会員であったパーシヴァル・プルトは『レギオン』を潰し『トラ教団』を立ち上げました。そして、その『教団』がここまでの力を付けられたのは『レギオンの遺産』があったからなんです。」

彼の解説を聞いたレイモンドが口を開いた。

「『教団』の勢力拡大速度は目を見張るものがあった…その原動力となったのが『遺産』なら、その中身は純粋な資金じゃないね。いや、資金と同じくらいの力を持つものがあった。」

リトは頷く。

「『レギオン』は裏で政治工作を受け持っていた。その際の莫大な報酬金が半分…もう半分は、各国政治官僚らの弱みを含む『人脈』。『遺産』とはその莫大な報酬金と政治家らの情報をまとめたデータベースの事だと言われている。」

「データベース?」

パルはオウム返しに返す。

「そうだ。資金は各国の土地や不動産、金品とされておる。そして人脈はリスト化されておる。この2つを統合管理する装置が『遺産』の正体と言われておる。」

「現状、プルトはその『遺産』に唯一アクセス可能な人間です。そして、その『遺産』の相続人としてあの男は娘であるダグラム・アイーシャを選んだ訳です。」

「お前らはアイーシャを知ってるのか?」

話をまとめたラキエの言葉を受けて、パルは自身の中で燻っていた疑問を返す。

ラキエとリトは驚く。

彼らの思っていた反応ではなかったようだ。

「ダグラム・アイーシャを御存じでない?」

「アイーシャって名前はどっかで聞いた気がしてたんだ。ドクもカレンも知らんって言ってたからずっと気になってたんだよ。」

ラキエは顎に手を当て考え込む。

言葉を選んでいる、というよりは話をする前提が覆ったことに動揺しているようだ。

「ならアイーシャについて調べた方がいい。俺たちから説明しても嘘っぽくなるだろうからよ。」

リエルは言葉が出ないラキエの代わりに答える。

「そうですね。その方がいい。天の国に存在していたジユウの村から辿っていくといいと思います。」

「歯切れの悪い答えだな。ストレートに答え言えよ。」

リエルの言葉を肯定するラキエにパルは反論するが、レイモンドが止めに入った。

「多分、この話を完全に理解するにはそのアイーシャについて把握する必要があるみたいだね。ここは素直に下がるべきだ。麦の国の衛兵が来る頃はずだし。」

レイモンドの言葉にパルは舌打ちしつつもそれを受け入れる。

リエル、ラキエ、リトはそのまま教会の奥へ。

パルとレイモンドは入ってきた入り口から外へ向かう。

月明かりが照らす麦の国は、戦闘があったとは思えぬほど静かで、不気味な雰囲気を孕んでいた。

車で龍の国への帰路についてパルたちは無言のまま車を走らせるのだった。


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