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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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1-16 イーグルとカヨ

守護の森【一般情報(龍暦299年更新)】

龍の国の北東に位置する森。

海沿いにタツミゾを中心とした木々が生い茂っているが、材木としての価値が薄いため龍の国の復興に際しても手つかずのままになっている。

また、龍の国の女王、ドラゴ・レイアは守護の森を『特別指定森林区域』に設定し、指定ルート以外への立ち入りやキャンプなどの行為は自然保護のために禁止されている。

なお、哨戒及び状況監視のため、陸軍機動部隊隊長ルビリア・パルは森への自由な出入りが認められている。


龍の国北東にある守護の森を哨戒していたイーグルは滝つぼで人影を見つける。

あれがくだんの光の正体だろう。と思い、イーグルは気配を殺して近づく。

月光が照らすその姿は長い黒髪に傷一つない透き通るような肌。

1人の女性が水浴びをしていた。

イーグルは咄嗟に身を隠す。

相手が女性であればその裸体を晒したくはないだろう。

だが、その際、偶然、岸辺に置かれた衣服と刀が彼の目に入った。

女性と刀。

目撃された風の国剣王会の筆頭と一致する。

彼が、首領ドンカラスから話を聞いていた相手でもある。

わずかな気の緩みともいえる動揺は彼の体をわずかに動かし、肩が木の幹に触れる。

彼自身、わずかな動きだったが、それを増幅するように葉を揺らし、音となって響いた。

「何者だ!」

筆頭は声を上げる。

イーグルは姿を現す。

「すまない…君の裸を覗きに来たわけじゃないんだ…」

「誰だ…!お前は!」

筆頭は刀を突きつける。

「あー…俺はイザード、イザード・ウルバム。龍の国の王城職員だ。」

ここで正直に『イーグル』と名乗るのは得策でないと判断した。

筆頭が『龍の国のイーグル』を探している事を知っている以上、下手に戦闘おおごとにしたくなかったのだ。

「何の用だ。」

筆頭は警戒したまま問う。

「ここ何日かこの森で不審な明かりがあるって報告があってな。俺はその調査に来たってわけだ。申し訳ないがここは『特別指定森林区域』、要するに保護地域なんだ。無断でキャンプすることはNGってわけ。」

イーグルが端的に説明すると、筆頭は刀をおろす。

「も、申し訳ない…そのような場所とは知らず、失礼した。私はアラマサ・カヨ。風の国のものだ。罰則があるのであれば甘んじて受けよう。」

カヨの言葉にイーグルは呆気に取られる。

抵抗する。

或いは逃走する。

そういった反応も十分にあり得る。

むしろそうすることが自然だろうとさえ考えていた。

だが、カヨの反応はあまりにも正直で素直すぎた。

「とりあえず今回は厳重注意ってことで。出ていくってなら俺たちも問題ないし。」

「お心遣い、感謝する。礼をすべき場面であることは重々承知しているが生憎と持ち合わせが無くてな。本当に申し訳ない。」

そう言って深々と頭を下げるカヨに、眩しさを感じるイーグル。

首領が何故、彼女の事を思って今際いまわの際に彼に託したのかなんとなくわかった気がした。

「とりあえず…服、着たらどう?目のやり場に困るというか、そのぐらいの余裕はあるから…」

申し訳なさそうに告げるイーグルの言葉でカヨは自分が裸であったことを思い抱いたのか赤面し、硬直する。

「あ…ぅわ…だ…から…その…みみみみ!見るなぁぁ!」

「見てない。見てないよー。」

イーグルは背を向けて答える。

本来、敵対する2人のこの出会いは薄氷ともいえた。

カヨは出会ったイザードという男が自分の探す『イーグル』だと知らない。

イーグルはカヨの事情を理解したうえで、死力を尽くしあった首領の忘れ形見である彼女とどう交流すべきか迷っていた。


カヨの支度が終わった後、イーグルは焚火を起こし、2人は囲むように座る。

「先ほどは…そ、その見苦しい姿を見せた。」

「あー気にしないでくれ。ここにきているのは俺一人だし、暗くてよく見えなかったから。」

優しいんだな。カヨの優しい声にイーグルの心はわずかに震えた。

色恋沙汰のない訳ではなかったが、たった一言でここまで心に響いたのは初めてだった。

「ん、と。一応、仕事としてあんたの事情を把握しておく必要があるんだ。悪いんだけど、いつから。なんで。この森にいたのか終えてもらえるかな。」

「龍の国にいる『イーグル』という軍人を訪ねてきたが、色々あってな。国にも戻れず、この森にいた。」

イーグルは先ほどとは違う意味で胸が締め付けられた。

彼はできるだけ声色を変えずに踏み込む。

「その『イーグル』を見つけてどうするつもりなんだ。」

「斬り捨てる。」

真っ直ぐにイーグルの目を見て答える彼女の視線が痛く、イーグルは思わず目を伏せる。

「イザードさんは龍の国の方なのだろう?『イーグル』について知っていることがあれば教えてもらえないだろうか?」

カヨの真っ直ぐな姿勢に言葉が詰まる。

目の泳ぐイーグルを見て、カヨは自分が熱くなっていることに気付く。

「あ…すまない。元はといえば不法侵入の身。その上で仲間を売るような事を強要するのは恥知らずというもの。忘れていただきたい。」

頭を下げる彼女にイーグルは生返事で答えるしかできなかった。

「気を使ってもらって助かるよ。それで、国に戻れない、というのは?」

イーグルは話題を変える。

だが、今度はカヨが答えに迷い、沈黙する。

イーグルが沈黙を嫌って声を掛けようとすると、

「私は剣王会という組織の長だ。その長があっさりと門下の人間を立て続けに失い、目的のための復讐さえ達成できてない。どの面を下げて帰ればいいのやら…笑ってくれ。」

カヨは震える声で答えた。

その悲痛な告白と悲しい笑顔がイーグルの胸を再び打った。

「そんな言い方ないでしょうよ。」

抱きしめていた。

反射的に。

胸の中でカヨの肩が震えるのが分かった。

「背負わなきゃ行かんのはわかる。けどよ、背負いすぎて潰れちゃ…だめだろ。」

首領が何故、自分にカヨの話をしたのか。

イーグルはようやく理解した。

あまりにも純粋すぎるのだ。

生真面目さは傭兵としての側面も持つ剣術集団の長としてあまりにも危うい。

自分の腕の中で震える彼女が何故、筆頭となったのかは彼が知るところではないが、やむにやまれぬ事情があったのだろう。

或いは、筆頭という地位を与え、戦場から遠ざける意味があったのかもしれない。

「良ければ…しばらく龍の国に居ないか?俺も落ち着くまで一緒にいるから。」

自分でもなにを言っているのかわからくなった。

復讐者をその相手が匿うなど笑えないジョークだと理解している。

だが。

それでも。

彼女をこのまま離すことはできなかった。

静かな森が呑み込むすすり泣く声はいつしか寝息となるころには、朝日がわずかに覗く頃になっていた。


龍の国の王城は慌ただしくなっていた。

花の国の女王タック・エマルがトラ教団のトップと大同盟の中心にある大国のトップとの会談を持ちたいと提案してきたのだ。

つまり、教団のパーシヴァル・プルト対天の国国王ソラウ・ソラ、港の国国王ピア・ヤーポート、龍の国女王ドラゴ・レイアの4者にエマル自身を調停役とした会合だ。

エマルは、

「同じ人間同士が争うのは愚かしい。話し合えばきっと争わずに決着をつけられるはず。」

との文面でそれを通知してきたのだ。

当然、同様の内容が天、港の国、そして教団にも送られている。

そして、龍の国では夜にも関わらず、緊急の会議が行われていた。

「私が私怨での復讐に駆られているのだからこの文面がおかしく見えるのでしょうね。私には、花の国を戦場にしませんか。という提案にしか見えませんが。」

明らかに怒りのこもったレイアの発言をトータスはなだめるように、

「まぁまぁ。エマル王も何か考えがあってとのことでは?いずれにせよ獣の国で進行中の交渉とパルとレイモンドが進めているシュリーの調査結果が2、3日中に出るでしょうからそれを待ってからで良いでしょう。レイモンドに聞けば別の答えが出るかもしれませんし。」

出席していたオルカらは同調するように頷く。

「では保留…ですか?天も港も慎重姿勢を取ると?」

「少なくとも獣の国で交渉をやっている天はそのように動くと部下から連絡がありました。港は現在、私の方から政治に確認中ですが、即答は避ける見込みです。」

レイアの疑問に、緊急事態、というより異常事態につき、会議に参加していたママが答える。

偶然とはいえ、地理的に離れた港の国の重役がいるのが幸いした部分もあった。

「交渉ではなく和平協定…というか、我々はパルを教会にけしかけている。まさにどの面下げって感じだけどな。」

オルカは冗談交じりに発言する。

「実際のところ、現状、立場としては苦しい。というか俺が苦しくしちまったって感じか…申し訳ねえ。」

トータスは頭を下げる。

ただ、すでに大国へのテロ行為、特に女王暗殺に加え、国内の破壊を受けた龍の国に話し合いを求めることなど想定するレベルですらなかった。

花と歌の国は確かに両者が矛を収める事を求めていたが、誰一人として、このような行動を取るとは思っていなかったという部分も大きい。

「どのみち参加でしょうね…これ。」

レイアは呆れた声でぼやく。

拒否すれば後ろ指を刺されかねない。

大同盟という大枠で多くの国のあり方を変えようとする大国にとって好ましくないのだ。

そして花の国のエマルはその拒否できない事を承知で話を持ちかけて来たのだ。

参加を渋れば、会合の結果次第で協力することをちらつかせるつもりだ。

「花までは…海路がいいでしょうな。オルカ。」

「わってるよ。といってもアタシとドルフィンぐらいしかいねえからな。あいつとバイソンを呼び戻すしかないか?」

オルカに護衛戦力の編成を依頼したトータスは彼女の答えに首をかしげる。

「バイソンまで呼ぶか?ホエールおいて行くだろ?」

「あ?ちげーよ。ここんとこ2人ともお仲良くなられててな。海上戦力としてドルフィンと連携させんだよ。」

トータスは口角を上げる。

真面目なバイソンとおとなしいドルフィンの色恋沙汰だ。

正反対な雰囲気の2人だが、案外そういう2人の方がうまく行くこともあるだろう。

「では、出払っている方たちの報告を待ってから港、天と回答を合わせましょう。皆さん、参加を前提に護衛の策定等をお願いいたします。ホエールはパルたちに状況の説明をしてあげてください。」

レイアの指示が出たところで緊急会議が締められた。

彼女のカリスマ性ともいうべき素質は女王就任以降、より強く現れている。

また、共に国の復興を進めてきたものが揃っているためその結束は固く、龍の国をより強くしていた。


次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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