2-15 礼拝堂は血に染まり
アギトSW【軍事機密】
天龍事変において破損したルビリア・パルのアギト138に変わる新型2丁拳銃。
138が既製品の改造であったのに対し、今回は完全にルビリア・パル専用に用意されている。
ベースは旧式の魔力弾頭型拳銃N-PAA-HGm2の問題点であった魔力弾頭化の効率化、銃口の拡張、プール用魔力タンクの増設などがなされている。
元のm2が30年ほど前の製品であったとこもあり、最新技術でのバージョンアップも成されている。
なお、SWは『Striker of White』の略称。
麦の国最大の街、ハヌルロス。
その南端に酒蔵を改装して作られたトラ教団の拠点『教会』がある。
翌日に控えた演説会の準備は大方ととのっており、準備を担当していた4人の修道女はシュリーと共にある男の受け渡しを待っていた。
「レイモンド・サイカーを捕らえてどうするおつもりですか?」
麦の国、レクロスのリーダー、ロゥはシュリーに問う。
「教団への敵対姿勢を取り、信者相手の詐欺行為は教団の財政に大打撃を与えた。それに加えて龍の国の相談役にまでなった奴をこれ以上、野放しにはできん。」
「貴方のミスが原因では?」
生意気な3番手ポゥが口を挟む。
「龍の国転覆の失敗はドラゴ・レイアの存在を見抜けなかった私の落ち度だ。一方でレイモンド・サイカーに対して妻子だけを狙い、彼本人を始末しなかったのは主導したウエルのミスだ。」
「妻子殺しを実行したサーペントは…?」
2番手のチュが珍しく会話に加わる。
「サーペントは刃の国にいるはずだ。天の国の一件でバックアップを任されたのに失敗した奴もまた挽回の機会をうかがっている。」
「レイモンド・サイカー氏は貴方の名誉挽回になるのかしら?」
4番手、最年長のツゥが笑う。
「正直に言えば目当ては白の襲撃者だ。獣の国へプルト様が向かう以上、あれをここに留めておけばそれだけで十分な働きだろう?」
シュリーが明かした目的にポゥは笑う。
「白の襲撃者とレイモンド・サイカーが同時に麦に来たのは偶然じゃねえだろ?なに隠してやがる。」
「リトの思惑だ。詳細は知らんが、君たちとリトであれば白の襲撃者と言えどタダでは済むまいよ。」
「まぁ、よろしくな。お嬢さん方?」
後方で控えていたリトが輪に加わる。
受け渡しまで後1時間というところまで来ていた。
龍の国の北西にある守護の森。
そこで不審な明かりをイーグルが見つけたのが4日前、龍の国に風の国剣王会の筆頭と『怪腕の』ジルをはじめとする教団の侵入があった日の夜だ。
それからというもの、不審な明かりについては何度か城壁を警備する衛兵から報告されており、この日、イーグルが哨戒を行うことになった。
単独での哨戒任務は龍の国自体、これを大きく見ていないという部分とイーグル旗下の魔法小隊は国内の復興、警備を主に担当している部分があった。
イーグルもまた、日々、復興に汗を流しているのだが、難航していた西側の復旧がほとんど完了し、手が空いたためこの仕事を買って出た。
遭難するほど規模の大きい森ではないが、龍の国への亡命を求める難民であれば保護も考えられる。
木々を避けるようにして進んでいく。
暗い森の中に彼の杖の発光魔法がまぶしく灯る。
(川…?)
彼が守護の森に入るのは初めてではないが、以前に来た際には川はなかったような気がした。
ミイラ取りがミイラにならぬよう川を遡るようにして進んでいくと、滝の音がする。
そのまま進んでいくと大きな滝が見える。
そしてその滝つぼで水浴びをする人影も。
麦の国の教会、その扉が開けられ、麻袋をかぶせられた男を連れて入ってくる。
小柄だが、帽子を目深に被っており、人相はわからない。
「レイモンド・サイカーだ。金…払ってもらおうか?」
帽子の人物はそう言って麻袋の男を差し出す。
「確認が先ですわ。」
ルゥはそう言って前に出る。
「だったら…よく確認しな?」
そう言って投げつけるように押し出される男。
ルゥが抱きかかえるように受け取ると、男の首が麻袋に包まれたまま転がり落ちる。
「よーく確認しろよ。それが誰なのか…よ?」
帽子を脱ぎ、あらわになるその顔はある意味で彼女たちになじみ深い顔だ。
「白の襲撃者…?!」
「君はこっちに!」
リトは素早く、シュリーを奥へ案内する。
「逃がすかよ。」
アギトで銃撃するパルだったが、その弾丸はツゥの盾に防がれる。
「よもや単独とは…」
「舐めてる…」
「だなぁ…潰しちまうかぁ!」
「えぇえぇ。とても可哀想ですが、神罰を下すとしましょう。」
レクロスの4人は武器を構える。
大型の槍、斧、槌、盾。
「どこに隠してたんだ?それ?」
身の丈ほどある大型の武器をどこからか取り出したことに呆れるパル。
龍の国との前線基地ともいえる麦の国で行われるレクロスとパルの戦闘。
その開幕は銃声からだ。
一番手前にいたルゥに狙いを付けて放たれたそれは彼女の槍で弾かれる。
円錐形のそれの射程に入らぬようにパルは銃撃しながら距離を取っていく。
だが、その結果、パルは4人に囲まれる。
「素人って訳じゃないのね…」
パルは気怠そうにぼやく。
「我々は来たる大同盟との戦争に備えて訓練、改造されたレクロス。」
「天使とは違う…」
「数的不利のまま来たのは間違いだったなぁ!ルビリア・パル!」
「ごめんなさいね。本気でやらせてもらうわ。」
ルゥ、チュ、ポゥ、ツゥが口々に答える。
そしてその背中から天使のそれを思わせる羽が現れる。
天使の持つそれより大きさは劣るものの、神々しさは十分なものがある。
パルはぐるりと回転し、レクロスの位置と装備を確認すると、斧を持つポゥを正面に捕らえる。
「さーて、弱そうなのから行くか。」
その一言がポゥの逆鱗に触れたのか斧を振り上げ、パルに向かって突撃する。
「怒った?」
あざ笑うように笑顔を見せるパルは振り下ろされる斧を回転しながら回避すると、背後にいたツゥに銃撃する。
「ッぐ…!」
盾に浴びせられる銃撃をツゥはこらえる。
「相手は…!ウチだろうがぁ!」
無視される形となったポゥは地面に地面に突き刺さった斧で切り上げる。
「おっと。」
パルは振り上げられる斧の柄を簡単につかむと、左のローキックを放つ。
炸裂音のような一撃はポゥに膝をつかせる。
「貰った…!」
背後からチュの槌が迫る。
「はいはい。」
パルはツゥへ更に3発見舞うとアギトを上空へ投げ、指を曲げ掌で、槌を受け止めるように前に出す。
「龍閃の3番。」
彼女の掌と槌が接触する瞬間、槌は砕け散る。
龍閃の3番龍勁。
掌から放たれた魔力を流し込むようにして内部破壊を引き起こすパルの十八番だ。
先端の砕けた槌は空振りし、チュはバランスを崩す。
「はい。1人。」
落下してくるアギトをキャッチし、チュの後頭部へ狙いを付けると迷いなく引き金を引く。
放たれた弾丸はチュの頭を吹き飛ばし、続けざまに放たれた2発目は心臓を背後から的確に打ちぬいた。
「なんてことを…」
「チュ!てめぇ!」
「あぁ…ひどい…神はお怒りです…」
パルは膝を付いたまま吠えるポゥの顎をけり上げる。
ルゥとツゥの視線がポゥに集まる中、パルは反転し、彼女の背後に回ろうとしていたツゥの盾と膝を左右のアギトで狙うとそのまま引き金を引く。
当然、一方は盾に防がれるが、もう一方はカバーしきれていない膝に着弾する。
「あぁッ…!」
小さく悲鳴を上げ、膝を付くツゥ。
追撃の弾丸が轟音と共に放たれるが、ルゥの槍が弾き飛ばす。
更に、パルの背後からポゥが彼女を羽交い絞めにする。
「ルゥ!!」
自分ごと貫かせようとするルゥの意図を察したパルは後頭部で頭突きを見舞う。
一瞬、拘束が緩んだ隙にパルは脱出すると炸裂ナイフ3本を指の間に通すようにして拳を作ると、ポゥの腹部にそれを突き立てる。
パルはそのまま軽やかにルゥから距離を取る。
「2人目。」
そのつぶやきと共にポゥに突き刺さったナイフが発熱する。
「ぁ…まって…ルゥ!!」
最後の言葉は爆音に上書きされる。
熱湯となった血液がルゥの顔に付く。
「ポゥ…」
「あぁ…神よ…神よ…」
ポゥの爆発に乗して、ツゥの背後に回ったパルは祈りをささげる彼女を撃ち殺す。
「ルビリアァァァァ!!」
パルは半歩下がり、ルゥの薙ぎ払いを回避すると、ツゥの心臓に2撃目を放つ。
「これで3人。」
「黙れ…」
「どうする?連携もねえんじゃ話にならんだろ?」
「黙れ!黙れ!黙れぇ!!」
パルの言葉の間を縫うように声を荒げるルゥ。
連携を前提としたレクロスがあっさりと孤立した以上、勝ち目は薄い。
特に、お互いの行動をカバーしあう事を前提とした大型の獲物は単独での戦闘には不向きとなる。
大型の獲物を際限なく振るう剣聖クラスの実力は悲しいことに彼女たちにはないのだ。
「死ねぇぇぇぇッ!」
ルゥの怒りに任せた直線的な突きに対し、パルはジャンプで背後に回るようにして回避する。
「そこだぁッ!」
ルゥは素早く反転し、着地の衝撃を殺すために足を止めている彼女の足元へ突きを放つ。
パルは冷静にその着弾点から足を外すと、床に突き刺さった槍を足で踏み、固定するとアギトの照準を柄に合わせ引き金を引く。
柄に直撃した弾丸は円錐形の部分と柄に分離され、ルゥの手元には破損した柄だけが握られる。
「まだだぁぁぁぁぁーーーーー!」
ルゥは破損した柄をナイフのようにしてパルへ突き立てようとする。
雄たけびを上げる彼女に対し、パルは柄を構える彼女の右手首を掴むと、引き込むようにして背後へ体重をかける。
そのまま、パルは右腕でルゥの首を抱えつつ、後転。
そのさなか、右の膝がルゥの鳩尾に添えられる。
そして、回転によってルゥが背中から落ちると、その勢いはパルの体重と合わせて膝から鳩尾に注がれる。
ルゥは大の字に倒れ、パルはマウントポジションを取るように片膝立ちする。
パルは掴んだままのルゥの右腕を床に叩きつけると、その衝撃で開いた掌にコンバットナイフを突き立てる。
再び雄叫びを上げながら残った左手で顔面を殴りつけようとするルゥ。
だが、その拳はパルの右手で捕らえると、そのまま、腕を捻り、関節を極めた。
「ぐぁぁぁ!殺せ!殺せぇ!」
「黙ってろ。質問すんのはオレだ。」
パルはそう言ってアギトを引き抜くと、ナイフを突き立てたルゥの左手に狙いを付ける。
「地下にはなにがある?シュリーは地下にいるのか?」
「殺せと言っているッ!お前に話すことなど」
銃声が響く。
それに答えるようにルゥの悲鳴が響く。
パルがルゥの指先を銃撃で吹き飛ばしたのだ。
「残りは4本だ。地下にシュリーはいるのか?」
息も絶え絶えになるルゥ。
激痛と恐怖の混ざりあった感情が目から溢れだしそうだ。
沈黙を2回目の銃声が振り払う。
再びの悲鳴。
教会に銃声と悲鳴の連祷が響く。
「後、2本。」
パルは質問を繰り返さない。
再び連祷。
「さて、最後だ。」
ルゥは錯乱し、嬌声をあげる。
「いい加減にしろ!」
馬乗りのパルをリトは横から蹴とばす。
「お前が代わりに答えてくれんのか?クソジジィ。」
パルは銃口をリトに合わせる。
「戦場で歪んだ性根に仕置きが必要らしいな…」
「わかったような口きくんじゃねえよ。三賢人だのなんだのと言われてる癖に、その知恵で平和を作れなかった結果が孤児だろうがよ。」
次回は水曜日。
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