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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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1-13 獣の国と麦の国

ドギーみなと【一般情報】

獣の国北端に存在する港。

サンヨウ、キョウラク大陸からのアクセスに用いられる。

大きな港ということでもなく、スイノス事件以降は定期便も無くなったため、船の出入りが非常に少なくなっている。


獣の国は3つの島からなる国家であり、それぞれペフ島、アス島、ロータ島が縦列に並んでいる。

行政関係の施設は中央のアス島にあり、ハウンド達ペフ島に一度入り、一泊してからアス島へ向かい、獣の国の代表団と交渉を行うことになっている。

ハウンド、剣聖カイン、ツスルの3名と数人の世話役を乗せた船はペフ島にあるドギー港を目指して航行していた。

世話役と船の中で打ち合わせを続けるツスル。

目を閉じ、精神統一をしているカイン。

静と動の2人。

とても世間話などできそうもない。

ハウンドは孤独感を煙と共に吐き出したかったが、そううまく行くものでもなかった。


8時間ほど船に揺られた後、一行は獣の国の玄関であるドギー港へ入港した。

『ようこそ!』と書かれた横断幕を掲げた獣人の集団が目に入る。

これまでのことを考えれば石を投げられることも考えていたハウンドにとってそれは拍子抜けするほどあっさりしたものだった。

下船した一行は港近くのホテルへ案内された。

予定ではここで一泊することになっている。

部屋に荷物を置いた後、ハウンドはなんとなく、外に出る。

危険ではあるかもしれない。

一方で、彼自身、どこかで獣人である自分が悪いようには扱われないだろうと、そう考えていた。

だが、現実問題、獣人であれどサンヨウ大陸の軍人である彼らは獣の国の住民からすれば侵略者と変わらない。

ふと、子供とぶつかる。

すまない。ハウンドは小声で謝罪する。

足早に去っていく子供を見て不信感を抱いた彼はポケットを探る。

(マジか…)

財布をられていた。

ハウンドは柄を取り出すと、すぐさまツムジに後を追わせる。

彼の持ち物を探すことは容易ですぐに場所が割れた。

少年の行き先は古びた酒場だった。

「悪いが…返してもらえるかな?」

ハウンドが酒場に入ると少年は老人に盗みの成果を見せつけていた。

少年は驚き、ハウンドの財布を隠す。

老人の手刀が、少年に落ちる。

「ニック!人様の財布を盗むとは何事か!」

雷を落とされた少年、ニックは目に涙を浮かべ、

「ごめんよ…ケニーじいちゃん…」

と、老人ケニーに頭を下げる。

だが、それは悪手だったようだ。

「ワシに謝ってどうする!この方に謝るのだ!」

「あー…違うんです。財布それは自分が落としたもので…」

ハウンドはケニーの言葉が正しいと思いつつも、庇わずにはいられなかった。

「下手な嘘は不要ですぞ!ほれ!この方に謝罪を!」

ハウンドは自分の口下手が嫌になった。

(子育って難しい…のか?)

ハウンドはケニーに圧倒されながら、そんなことを考えていた。


教団の過去の動きを探るべく、シュリーを追うパルとレイモンドは麦の国に来ていた。

「ここのコーヒーが好きでね。久しぶりに来たかったんだ。」

カフェでレイモンドがコーヒーを啜る。

「どーでもいーけどよー。仕事忘れてねえーだろーなー?」

向かいに座るパルは不服そうに答えた。

「忘れてはないさ。でも、ほら。リラックスは大事でしょ?」

「緩み過ぎたら意味ねーだろ。」

麦の国に来てからというもの、パルはレイモンドに振り回されっぱなしだった。

土産物屋を3件梯子し、屋台の料理を楽しみ、カフェでゆったりする。

おおよそ任務中の人間とは思えない。

「収穫はあったよ。」

レイモンドは空になったカップを置くと笑う。

「あのクソ高いティーセットか?」

2軒目に立ち寄った陶器の店でレイモンドが購入したものを思い出す。

「うん。確かにいい買い物だったよ。それに張り紙も沢山あった。」

「張り紙?」

パルはそのまま聞き返す。

「そう。街でも配ってたしどこのお店にもシュリー大先生の登壇は宣伝されていた。」

パルは感心する一方、その仕事がついでに行われたことを理解した。

「んで?それだけでシュリーがいるって確証になんのか?」

まさか。パルの言葉をレイモンドは笑顔で返す。

パルもまた彼の行動の真意を浴びせられる殺気から把握する。

「こっからはオレのお仕事ってわけね。」

コーヒーを飲み干し、立ち上がるパル。

練度の低いゴロツキ8名。

レイモンドは素早く机の下に避難した。

ゴロツキの1人が懐からナイフを取り出す。

パルの持つ軍事用コンバットナイフではない。

いかにもチンピラらしい折りたたみ式のナイフだ。

ナイフの男との距離がじわりじわりと詰まる。

男の選んだ手段は突き。

ごくシンプルなそれは彼女の内蔵を貫かん放たれる。

パルはそれを反転しつつ踏み込んでくる男の体を背で受け止める。

男は手から伝わるであろう手応えがないことに驚く。

だが、周りの者達は彼の体が浮き上がっていることに驚いていた。

パルは背中で受けつつ、腰を男の丹田たんでんに添え持ち上げたのだ。

川が底にある石を気にせず流れるような柔らかいカウンターだ。

パルはそのまま突き出された腕を脇に抱え、回転。

空中で上になったまま、体重を乗せて叩きつける。

練習用のマットなどないフローリングの床に叩きつけられた男は呼吸できなくなる。

吸うことができないのだ。

呼気を吐き出すことしかできない苦しさ。

受け身を知らぬ素人相手に十分な一撃だっただろう。

パルは投げた勢いのまま前転し立ち上がる。

目の前には、立ち尽くす次の標的。

鮮やかというべきか。

演舞のような滑らかな動きから放たれるハイキック。

それは先ほどの投げから続く一連の回転動作に含まれていた。

相手の位置と行動。

リハーサルを繰り返して作られたようなアドリブの殺陣に巻き込まれ、2人目の意識は闇に落ちる。

残り6人。

パルはその全員を視界に捉える。

アギトを使えばいい。

レイモンドはそう思った。

仕事として来ている以上、命を狙われている以上、相手を殺しにかかることは自然の流れだ。

だが、パルはあえて殺さない。

ハウンドが殺したから。ではない。

拷問するため。というわけでもない。

教団の関係者ではない。

それだけの単純な道理。

自分達の命を狙うよう指示を出したのは教団だろう。

だが、あくまで彼らは街のチンピラなのだ。

彼らまで殺すことはしない。

だからこそ、殺さずそしてわかりやすく倒した。

加減してでも戦えると。

それを見せつければ引き下がるだろう。

彼女はそう考えたのだった。

しかし、事はそう簡単に進まなかった。

6人の闘志は萎えない。

メンツのため。

聞けばそう答えそうな様子だ。

彼女の右手にいた男が椅子を振り上げる。

鍛え上げたであろう腕の筋肉がシャツから覗く。

椅子の足という4本の槍がパルの頭上に揃う。

一方でそれは彼女の正面に胴体ボディを晒すようなものだった。

パルは素早く拳を握り、鳩尾へ放つ。

その動きは肩口から弾丸が放たれたようだ。

的確に男の鳩尾へ刺さる拳は、中指の関節を突出させた一本拳だ。

急所を貫くそれは致命的とも言えるほど鋭く呼吸を阻害する。

内臓の働きが全て止まったような錯覚は男の手から椅子を手はなさせた。

「まだやろうってかい?」

彼女の言葉が彼らに火をつけた。

1人が、脇を締め、ガードを固めた拳闘スタイルでの突進。

パルはそれに応えるように身を屈めて突っ込む。

右、左、右と交互に繰り出される足。

右足の着地を刈り取るように抱え、馬乗りになるようにして倒す。

その際、腹部に当てられた肘はこれもまた的確に鳩尾に据えられ、転倒の衝撃と挟まれる。

非常に堅牢に見える防御だったが、素人が形を真似ただけのそれは本来持つ柔軟性と機動性を大きく損なっていた。

腕の力で跳ね起きるパル。

残り4人。

最も大柄の男が先ほど彼女が見せたような低空のタックルを狙う。

パルは動かない。

男の腕が彼女の腰のあたりを捉えようと伸びる。

パルは半歩右に避けつつ、両手で腕を払い軌道を変える。

体重差は3桁になるであろう差だが、腕対パルに限ればパルの方に分がある。

そしてすれ違いざまのキチンシンク

アッパーのように腹部を捉えたそれは男を半回転させ、背中から落ちる。

パルはジャンプして、そのまま肘を落とす。

肘の直撃では即死すると判断したのか、彼女の肘は地面に落ち、上腕が喉へ食い込む。

それでもその勢いは凄まじく、男は血を吐きながらのたうち回る。

その様子に怖気付いたのか、2人、逃走する。

「う、動くんじゃねぇ!」

「あ?何やってんだオメェ。」

残りの1人がレイモンドを拘束し、こめかみに銃を突きつけている。

パルが視線を外していたのは事実だ。

しかし、自分の背後にいたはずのレイモンドがなぜ自分の目の前にいるのか理解できなかった。

ほとんどの時間、彼女は全員を視界に収めていた。

それを掻い潜ったとは考えにくい。

(野郎…手間を増やしやがる。)

作戦。

レイモンドは敢えて捕まった。

パルはそう直感した。

彼がここまで読んでいたのかはわからないが、ちょうど一台のバンがカフェに到着する。

男はレイモンドを盾にしたまま、車へ乗り込む。

(追いかけてこいってか?まぁ無駄にはならんか。)

パルはそれを黙って見送る。

生け取り。

自分達が麦の国に入ってから監視の目があった事から彼女達が明確に狙われている事は明白だ。

そのうち、戦闘能力のないレイモンドは教団から生け取りにするように言われている可能性は確かにある。

単純な殺害ではなく、教団の手で苦痛を与えて殺す。

その執拗さは、彼の妻子だけが狙われたことからも推察できる。

つまり、レイモンドはわざとゴロツキへ捕まり、教団へ引き渡されようというのだ。

そして、教団の受け手となるのは幹部であることに変わりないシュリーである可能性もある。

加えて、パルが身内レイモンドの誘拐という大義名分を得ることにも繋がる。

パルはそれも悪くないと感じたのだ。

だが、彼らはそのまま引き下がらなかった。

車の窓から突き出される銃口。

それが、彼女を目掛けて一斉に火を吹いた。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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