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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-11 そして猟犬は旅に出る

スイノス事件【一般情報】

龍歴250年前後に起こった亜人種連続暴行殺害事件。

被害者は7名にのぼり、港の国に住む鳥人、人狼、魚人が殺害された。

犯人は亜人廃絶過激派組織の5名であり、金銭トラブルやイカサマ、亜人側からの傷害を理由に殺害した。

亜人種との対立を深める一件となり、以降、亜人種は獣の国から出ることはほぼなくなり、港の国などに残っていた亜人種も260年までに大半が獣の国へ移動した。

残ったのは混血により、身体的な特徴が出ないものたちが多く、自分が亜人種の血を持つことさえ知らないままのものも少なくない。

なお、本件は強大な魔力量と筋力を持つ亜人種の存在を危惧した各国幹部が秘密裏に行ったとの見方もあるが真相は不明。


天の国での会議を終えたハウンドは用意されたホテルで考えをまとめていた。

彼が獣の国に行くということは大同盟としての使命だけでなく、自分とセッカに起こった変化について調べることができる。

亜人デミヒューマンの混血である自分と娘。

ハウンドはタバコを灰皿に押し付けると横になる。

彼は眠りに落ちる前に決断を下した。


時を同じくして教団でも動きがあった。

緊急の連絡会として幹部が集められたのだ。

司教長であるパーシヴァル・プルトが口を開いた。

「皆の活躍、余も嬉しく思う。三賢人の1人であるリトの加入に加え、第二世代天使の実地テストも良好であったと聞く。だが次の一手は大同盟とかち合うことになろう。」

一同に緊張が走った。

宣戦布告。

その言葉が誰しもの頭によぎる。

プルトはそれを汲んでか、

「なに、そう身構えるでない。宣戦布告前の最終ステップとでも考えれば良い。」

親が子を諭すような穏やかな声。

大同盟と戦争をしようとする男とは思えぬそれは場の雰囲気を一瞬で変えた。

「余は獣の国へ向かう。同行はエルカ、グディ、刃の国のクロレス4名とする。出発は3日後、エルカの転移で直接乗り込む。シュリーよ。クロレスに任務を伝えるがいい。」

シュリーは静かに頷くと部屋を出る。

それに合わせるようにして皆、解散していく。ラキエとリエルも今回は真面目に出席していた。

今回の獣の国への訪問は大きな2つの意味を持っている。

まず、教団がこれまで無関係としていた獣の国への直接的な接触を行うということ。

これまで教団は拠点を各国へ置きつつも、政治的な行動は取ってこなかった。

今回の行動は初の交渉事であり、大同盟も手を出せていない獣の国へ協力を要請するものになる。

武力をちらつかせることで引き込むことができれば成功となるが、エルカの転移が獣の国まで及ぶとなれば牽制としての意味は十分であり、大同盟に協力しない。

つまり、現状の徹底維持であっても十分な成果となり得る。

プルトはそれを見越しての行動だったのだろう。

転移能力を持つエルカと単身から使い魔であるリアレスの大量展開を行うグディ。

この2体の天使が行う挑発ほど効果的なものはない。

そしてもう一つの意味は、プルトが動くということだ。

彼は天龍事変においても現場に出ることはせず、また、それ以降も同様の態度を貫いてきた。

その重い腰が上がるということは、第三勢力として教団に反旗を翻さんとする彼らにとっても好都合だった。


翌朝、天の国のホテルで目覚めたハウンドは王城の職員を通してツスルへの連絡を行おうと話をしていると、後ろからツスルに声をかけられる。

「おはようさん。ええ顔しとるで。腹は決まったようやな。」

ハウンドは力強く頷くとツスルに促され、彼の後ろについていく。

2人は王城の最上階にある大きな扉の前に来ていた。

「ここって…」

「まぁ緊張せんでええよ。知らん仲やないし。」

ハウンドの記憶が正しければここは天の国の国王、そして大同盟のリーダーともいうべきソラウ・ソラの執務室になる。

ツスルが扉を開くと中にいた若き王、ソラが顔を上げた。

義兄にいさん。おはようございます。ハウンドさんもいらしてくださったんですね。」

「し、失礼、します!」

知らない仲とツスルは言ったが、ハウンドからすれば雲の上にいるような存在だ。

事前に説明すれば断るだろうことをツスルは理解した上で直前まで黙っていたのは想像に難くない。

「ハウンドさんには義兄さんから伝えてもらった通り、獣の国に行って欲しいのです。レイア女王の許可も頂けました。」

話が出て半日と経っていないうちに許可を得た。ということは、フライング気味にこの話は進行していたと言える。

「ソラ王、本件、大同盟の兵士として承りました。」

ハウンドの宣言にソラは大きく頷き、笑顔を見せる。

「そう言ってもらえて私も嬉しく思います。義兄さんと剣聖を同行させます。」

「ワシも行ってええんか?」

ツスルは同行する話を聞いていなかったらしく、聞き返した。

「あまりハウンドさんに負担をかけるわけにはいきません。交渉そのものは義兄さん、天の国事務局長ソラウ・ツスルが担当。ハウンドさんは同行していただくだけで構いません。」

ソラは明言しなかったが、獣人ハウンドを同行させる理由は単に『大同盟は亜人を差別しない』という意思を明確にするためだ。

龍の国の軍人もそのほとんどが天の国での戦闘後に知ることになったとは言え、結果として獣人でありながら女王の私設部隊の隊長を務め上げ、天龍事変でも活躍した。という実績は差別意識を持っていない。ということをうまく演出してくれる。

「護衛に剣聖までつくならワシも安心かな。ドクさんは龍の国なんやろ?」

「えぇ。パルさんと共に帰られました。」

ドクは天の国での剣王会と剣聖の戦闘後も残留を希望してはいたが、パルが強引に連れ帰っている。

「レイモンド・サイカーの同行を許可いただきたいのですが…」

ハウンドは恐る恐る口を開く。

こう言った交渉であればレイモンドの頭脳は非常に有用だ。

「それについてはワシも思ったんやが、本人が拒否してな。ハウンドくんならうまくやれるんやと。」

「えっ?!いや…それは流石に過大評価というかなんと言いますか…」

「まぁ気にせんとき、あいつはあいつでパルちゃんと動くみたいやしな。」

しばし唸ったのち、尽力します。と小さく答えた。

出発は明日。

到着は2日後。

奇しくも教団の到来より1日早く獣の国へ到着することになるが、会談の当日は教団の襲来と一致してしまった。

獣の国という天龍事変では出番のなかった平和な国を巻き込むということ。

この会談の結果が今後を左右することは誰の目にも明らかだった。


龍の国ではパル、トータス、シンゴが集まり、レイモンドからの報告を受けていた。

「待たせて悪かったね。シュリーの居場所は麦の国の教会。ただ罠と見ていい。」

「罠?天才レイモンド先生の動きが読まれたのか?」

レイモンドの言葉にパルは首を傾げる。

「そんなんじゃないよ。少なくとも龍の国に教会はない。となれば教団にとって龍の国を抑える前線基地は麦の国になる。」

そこまで聞いて一同は合点がいった。

復興中の龍の国に教会を置けるほどの隙間はない。

一度壊滅したが故に隙間を潰すこととなったのは怪我の功名と言えた。

さらに、重要拠点となるはずの場所である麦の国に、龍の国のクーデターにおいてフレイルの切り札であるレイアの存在を近くにいながら察知できなかった『戦犯』であるシュリーを置くことは不自然となる。

開戦前の情報戦において、これは悪手という他なく、それに気づかないほどサーペントをはじめとする教団の参謀達は愚かでもない。

「麦の国にカチ込むわけか。教会の場所は?」

「場所はアビサルヒの南端にある酒蔵。そこを改造した地上2階、地下2階の建物だよ。」

疑問を投げたトータスにレイモンドは資料を広げながら答える。

麦の国は農作物の生産量が多いが、その多くは加工品として輸出される。

その最たる例が酒類であり、街の至る所に同様の酒蔵が設けられている。

「酒蔵か。地下施設を構えるならうってつけってわけか。」

パルは図面に目を通しながら呟く。

彼女は多くの経験から内装を想像し、シミュレートする。

ある種の癖であり、その精度はレイモンドのような素人はおろか、歴戦の軍人であるトータスのそれさえ上回る。

「内装そのものは変えられてるようだね。特に一階は完全な広間になってる。」

レイモンドはそう言って写真を図面に加える。

正面に演説台のようなものが置かれ、それに向かうようにして左右に長椅子が配置されている。

「ここでセミナー的な勧誘活動をやってるそうだよ。この写真は宣伝に使われてた。」

「他の教会もこんな感じと考えていいかもな。パル、できればほぼ無傷で抑えたい。できるか?」

レイモンドの説明から流れるように出されたトータスの注文にパルは気だるげな視線を返す。

「できるか。だと?できなきゃ説教するんだろ…オレ知ってる。」

パルは穂先の森での作戦を思い出していた。

白の部隊としての初仕事だが、ハグレモノ達の戦力分析として敢えて対応させるように注文を出したのもトータスだ。

「よくわかってんじゃねぇか。ナデナデしてやろうか?賢いパルちゃんよ?」

トータスは軽口で返す。

ある意味で命令であり、ある意味で期待であり、それにパルは仕事で答える。

それは彼女がドラゴンだった頃から変わりない。

「出発は…今日もう向かうか。様子を見て2、3日中に仕掛ける。どうだ?」

パルは一同に問いかけると、

「それがいいだろうね。2日後にシュリーが参加する演説会がある。その前後なら留守ってことはないと思うよ。」

レイモンドの言葉で打ち合わせが一区切りつくとシンゴは箱を机に置く。

「持ってきておいてよかった。テストの有無はお任せします。」

そう言ってシンゴは龍の国の紋章が誂えられた箱を開く。

中には2丁の拳銃。

例によってマガジンはない。

ドラゴンアギト…こいつがなきゃ始まらねぇってか?」

パルは2つのうちの1つを手に取りハンマーを下ろす。

個人認証を行うプロセスだ。

「色々ありましたからね。今回はN-PAAの改造ではなく完全な特注品オーダーメイドです。砲身の冷却プロセスを改善、最大出力は以前のものから約40%向上。剛性を高めるために硬化魔術術式をグリップ内部に搭載し、プール魔力で常時展開。メンテナンス手順は基本的なパーツ構成を既製品と同程度にし、短時間で完了するようにしています。あぁ、音声マニュアルも本体に付属させましたのでご安心を。」

シンゴの話を聞き流しながらパルは何度も握り直し、感触を確かめる。

以前のアギトのうち一つは大書堂から出発する際にコンテナの壁にぶつけ、砲身が歪み動かなくなり、もう一つは天の国でカインに握りつぶされている。

完全なオーダーメイド品としては初である今回のアギトはこれまでのものを完全に上回る性能となる。

逆に言えば出力向上に伴う反動の増加、常時展開型の硬化魔術など、明らかに兵器としての欠陥を抱えており、使い手であるパルの性能に大きく依存している。

それを簡単に扱う彼女が特異ではあるが、商品価値の全くないこれを用意させたシンゴの発言力、パルの性能に合わせた仕様を作り上げた開発力もまた類稀なものと言える。

パルがもうひとつの個人認証を済ませると、シンゴは以前に用意された『衣装』と同じようなホルスターを差し出す。

「ホルスターも専用のものになります。既製のオプションの取り付けはオミットしましたが、ヨロイバイソンの皮で作っているので強度は十分かつ軽量です。」

「至れり尽せり、だな。十分だよ。」

パルはアギトを脇に収めつつ感謝を述べる。

だが、シンゴは不思議そうな目をしている。

「まだありますけど…?」

「うんうん。うん?なんで?」

シンゴもパルも小首を傾げる。

「武器商人の本領発揮だな!」

トータスは笑う。

「ドクトルさんから炸裂ナイフを使用していたと聞きましたのでヤタ製の投擲ダガーを改造した炸裂ダガーを60本ご用意しました。投擲距離、爆発範囲はサンプルとして頂いたものより20%上昇。魔力点火式火薬炸裂方式を採用し、使用時の魔力消費を軽減。ダガーの利点であったワイヤーアッタッチメントを敢えて残すことでブービートラップの作成も可能です。」

パルはダガーを受け取りコートの内側へ取り付ける。

『衣装』のコートは天の国での戦闘で破損し廃棄したため、今は同程度の性能を持つヤタ重工製のものを着用している。

そのためかダガーは収まりよく左右30本ずつ取り付けられた。

驚くべきことに脇にあるアギトとは干渉しない。

ヤタクオリティに感心しつつもパルの目は次の箱を捉えた。

「そして最後にコンバットナイフです。グリップは以前に発注いただいた際のものと同じタイプを使用。鞘に認証式を採用しているので不正利用はできず、砂の国産Aクラスの砥石を鞘に搭載。ナイフ部分は血の落ちやすい撥水加工と錆止め、下手なギミックを仕込まずシンプルに仕上げています。」

トータスはその刃を覗き込み、

「俺も欲しいなこれ。」

と呟く。

「君がナイフ使うのかい?ちょっと想像できないな。」

レイモンドが彼を茶化す。

「いや、こういうのは一つ持っとくと便利なんだよ。藪を払ったり、弾丸たまの摘出に使ったり、枝の先を尖らせたり、荷解きに使ったりよ。」

トータスは珍しく軽口もなく答える。

「その通りだな。こういうのはシンプルでいい。グリップ内に色々仕込むよか強度も確保できるし何より長く使えそうだ。」

パルも同調し、ナイフを手に取って軽く扱う。

手品のように刃が反射する光が踊る。

鞘に収め、パルはベルトに通すようにして腰のあたりにマウントした。

「んで?全部でいくらよ?」

「鉄の行方を調べていただくということでここは一つ。」

シンゴの答えにパルは笑う。

「高い買い物だ。」

鉄の行方を知るシュリーの潜伏先は麦の国。

それはレイモンドにとっても因縁の地でもある。

過去は影のようについて回る。

その影に怯えるのも無視するのも人それぞれだ。

だが影は時として感情という光によって濃くなる。

復讐。

怒り。

悲しみ。

負の感情ほど強い光となって濃い過去かげを作るのは癒えぬ傷の痛みがそうさせるのだろう。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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