2-9 鉄の悲劇
ハヌルロス島【評価★☆☆☆☆】
こんにちは!
大書堂観光課特番員です!
今回、ご紹介するのは龍の国北東にあるハヌルロス島です!
手付かずの豊かな自然と自分の手で取った海の幸、木の実、仕留めた獣は格別の美味しさです!
ここにくれば野生味溢れるワイルドな生活を満喫することができるでしょう!
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「アリアンナはオレにとって姉であり…」
「あ、そこじゃない。」
パルの語りをレイモンドが遮る。
「んだよ。人がせっかく話してやろうって時に…」
パルは不服そうに膨れる。
「今聞きてぇのはなんでアリアンナがそこにいたのか。だ。」
補足したトータスは続ける。
「当時のハヌルロスは龍の国の領土となったばかりのはずだ。軍事行動として俺は許可してねぇんだよ。」
アリアンナが戦死した際、トータスは陸軍の総括であったが、彼が許可していない任務もまた少なからずあった。
「任務の内容はオレもわからねぇ。アリアンナからはハヌルロスの哨戒と野暮用とだけ言ってたが…」
「恐らくその野暮用に使われたのが忌々しきTYPE-A8…」
パルの言葉に続くようにシンゴは資料を指で叩く。
パルは頷く。
「TYPE-A8はオレが到着した時点で全滅していた。アリアンナの部隊はそれのテスト運用を命じられ、何かが起こった。」
今から15年前、ハヌルロス島は龍の国北東にある島である一方、刃の国南東という位置関係から対立していた両国にとって悩みの種であった。
ハヌルロスに前線基地を置くことができれば海路からの攻撃が可能となるからだ。
とりわけ、当時の龍の国はデザインベイビーによって少数の人間で艦隊を組織することをホエールが進めており、彼の一番弟子とも言えるオルカが海軍最強の兵として存在していた。
刃の国、そして協力関係にある風の国はハヌルロスを取られることは喉元に刃を突きつけられることと同義だった。
龍歴284年、この島を巡る最大規模の攻防戦『ハヌルロスの海戦』が起こる。
これは龍の国の艦隊戦力の大半と刃の国の海軍、風の国の陸軍などを巻き込んだ一大決戦となったが、龍の国のオルカとデザインベイビー『鯨類シリーズ』の活躍によって龍の国が多くの損害を被りつつも勝利した。
一方で風の国の動きも早く、ハヌルロス島を龍の国の領土とすることを認める一方、軍事基地を含む大型建設工事を環境保全のために禁止することを含んだ条約締結を提案してきた。
ホエールはこれを突っぱね、ドラゴンを含む陸、海軍の駐屯地とすることを提案したが、『海軍再建が急務である。』としてドラゴ8世は彼の提案を却下、条約を締結した。
なお、この時の海戦の生き残りがドルフィンであり、彼女はこの時のショックでしばらくの間、療養することになる。
そしてそれから2年後、皮肉にも海戦で名を上げたオルカの妹であるルビリア・アリアンナがこの地で新型ゴーレムの運用テストを兼ねた哨戒任務をこなすことになった。
パルの言う『何か』とはこの時起こったゴーレムの暴走と風の国の部隊との交戦になる。
「オレは刃の国と交戦状態に入ったアリアンナ達第2機甲小隊の救出を命じられた。さっきも言った通り、オレが島に着いた時点で部隊は壊滅状態…ついでに刃の国の軍隊なんていやしなかった…」
それと。パルはそこまで言って言葉に詰まる。
「あんまり話す気はなかったんだが…」
パルは震えそうになる声を抑えながら続ける。
「誰にも言うなよ。本人すらしらねぇんだからよ…」
その声に含まれるものに一同は背筋を伸ばした。
「あの日、撤退支援として派遣されたのはオレだけじゃなかった。オレが隊員の安全確認を実施する一方で海上では軍艦が一つ待機していた…オレがアリアンナと合流した後、急に砲撃が始まってよ…狙いはオレと唯一生き残っていたアリアンナ。あれがなけりゃって思ったよ。」
パルは言葉に詰まる。
「砲撃…?刃の国が?」
シンゴが口を挟む。
刃の国の増援だと彼は思ったらしい。
だが、刃の国から船を派遣しようとしても2時間ほどかかる。
パルは首を振り、シンゴの言葉を否定する。
「あん時砲撃してきたのは海上にいた龍の国の船だ…その名はオルカ。龍の国海軍No.2にして戦闘能力では最強と言われていたオルカだったんだよ…」
一同が凍りついた。
実の姉が妹にトドメを刺したようなものだ。
それも同じ国の軍隊に所属したまま。
「本当にオルカだったのか…?!」
トータスは動揺を隠しきれず立ち上がる。
「あぁ。後から調べたらオルカが船で出撃していたし、作戦時の無線記録も調べたが間違いねぇ。あいつは島にいる風の国の軍隊を海上から殲滅するように命じられていた。砲撃地点もオレがブリーフィングで説明を受けた脱出ルートと完全に一致していた。」
「ちょっと待ってよ。なんでアリアンナさんが狙われたの?」
レイモンドが今度は口を挟む。
アリアンナは陸軍の一将校にすぎない。
殺すのなら他に優先度の高いターゲットがいたはずである。
「アリアンナはシュリーの不正を見抜いた。あいつの裁量権の範囲でよくわからねぇ金の動きがあったことをな。」
パルはそう言って懐から龍のネックレスを取り出す。
大書堂で回収したものだ。
ハウンドに預けていたが、天の国での戦闘後に返却されていた。
パルはネックレスの裏を指で抑えるようにして魔力を込めるとノイズが流れ出す。
はめ込まれた魔法石に録音された音を再生しているようだ。
『ドラゴン。お前にだけこれを残す。姉貴さえ知らんことだ。オレの私室にある本棚の裏に書類の束が入ってる。そこにはこの国の…というかシュリーの野郎の怪しい金の動きの証明書が入ってる。オレに…もしものことがあればお前はこの書類を誰かに託して国から離れろ。いいな。この国はお前が思っている以上に何かを隠している。じゃあな。』
「書類はオレがアリアンナの部屋に行った時点で消えていた。正確には遺品整理もされず全部焼却炉行きだ。」
パルは聞かれるであろうことを先に答えた。
再びの沈黙。
トータスは涙を堪えているようにも見えた。
「今となってはただのお守りだけどな。オレにとっては大事なもんだよ。」
パルはペンダントを見つめてそう言うと、また、首にかける。
「シュリー…コンヌス…」
レイモンドはそう呟いた後、続ける。
「恐らくアリアンナさんは証拠を掴まされたね。」
「なに?」
教団との繋がりを嗅ぎつけたアリアンナを彼が謀殺したというのがパルの考えだった。
だが、レイモンドはそれとは違う答えに辿りついていた。
「他の誰かを狙って餌を撒き、食いついた誰かをハヌルロスで殺す。その時に派遣する君とオルカさんの潰し合いそれが連中の狙いだったんだろうね。」
それはアリアンナは単なる舞台装置に過ぎないと言うことでもあった。
彼女なりに危ない橋を渡っていたとしてもそれはシュリー達の掌の上だったということになる。
「納得できるか!アリアンナが死んだのは予定調和だってのか?!無駄な死だったってんのか!?」
「落ち着け。託された人間がそいつの死の価値を決めるんだ。」
声を荒げるパルをトータスが宥める。
だが、レイモンドの仮説もまた有力とも言える。
一将校であるアリアンナが不正の証拠を掴むことは不自然と言えば不自然と言える。
「ではアリアンナに証拠を掴ませたのは…」
「サーペントを含む教団…それとシュリーも噛んでるのは間違いねぇだろうな。」
シンゴとトータスの出した結論にレイモンドは立ち上がる。
「シュリーを追う方が簡単そうだね。パル、付き合うよ。」
「どうやって奴を追うんだ?」
パルがレイモンドの提案に聞き返すと、彼は笑う。
「2日欲しいな。一つに絞るから。」
そう言って彼は部屋を出る。
「2日で絞れんのかよ。あいつ、この展開を読んでやがったな。」
「鉄の行方を…お願いします。」
シンゴが頭を下げる。
あいよ。と答えるとパルも部屋を出た。
天の国では、龍の国軍部長であるホエールと天の国事務局長ツスルの会談が行われた。
加えて、龍の国からハウンド、天の国からカインが同席している。
「龍と天の同時襲撃について話さしてもらうで。」
ツスルは全員へ資料を配布する。
「ターゲットは天の国側がパルちゃん、龍の国側がイーグル君やな。両方とも風の国剣王会の人間が現れ、剣聖とトータスが戦闘。天側はカインが勝利したはええが殺したんで情報なし、龍側にはトラ教団の第二世代天使リトと名乗った少女と第七天使ラキエが介入してきて剣王会の1人を殺害。もう1人おったそうやが、こっちはカメがノロマで取り逃がしたと。」
一通り説明し終えたツスルはホエールに問う。
「正直な話やけど教団の第二世代天使にワシらは勝てるんか?」
ホエールは顎髭を撫で考え込む。
「勝てるかどうかはわからんが、対抗できる人間は限られて来るだろう。まず、パルとカイン君、ここにハウンド君、オルカ、港の国のママー元帥が加わるかどうかというラインか…」
トータスとゴンちゃん以外からは有益な情報がない以上、戦力分析も曖昧になる。
とはいえ、トータスを圧倒するほどとなれば、獣人ハウンドでさえ対抗できるラインに届くかは微妙なほどだ。
オルカは天使撃破の前例こそあれど、単純比較が難しい。
ママについては過去にパルに圧倒されたことからこちらも微妙なラインとなっている。
「そういう意味ではカメの判断はまちごうとらんな。天は剣聖、龍はパルちゃんがカバーするか。」
「港がちとあれだな…ハウンド向かえるか?」
ホエールがハウンドに指示を出すが、そこにツスルが割って入る。
「その話、待ったや。ハウンド君にはいってもらいたいとこがあんねん。」
「本気か?」
ホエールは何かを察したように切り返す。
「本気も本気や。ハウンド君、悪いんやけど獣の国に大同盟の特使としていってくれへんか?無論、大同盟としてバックアップもやるし、レイア姫にはワシとソラから伝える。」
「それは…獣の国を、亜人種をこの戦いに巻き込む…ということですか?」
ハウンドは聞き返す。
獣の国は、不干渉を決め込んでいる。
混血とはいえ獣人であるハウンドを特使として送るのは少なくとも対教団において大同盟側に引き入れることを目的としているのは間違いない。
「不快に思うかもわからんけど、ハウンド君を獣の国に送り込むんは遅かれ早かれってとこやったんや。この状況で『自分らは関係ありません』なんてのは虫が良すぎる。」
「そう思ってんのは教団も同じことだ。獣の戦力は『馬脚』のリョーマ、『白狼』のヴァンを始め粒揃いだ。仮に大量の亜人が教団に付けばただでさえ危うい戦力均衡は完全に崩れる。」
ホエールも賛成らしく補足する。
「少し…考えさせてください…」
ハウンドは自分自身の問題と大同盟としての問題の両方を抱えてしまった。
獣の国へ向かうこと自体、確かに悪い話ではない。
しかし、今後の世界情勢を左右しかねない大役であることも同じだ。
ツスルが、
「今ここで答えてくれる必要はないで。ワシも予定があえば同行するつもりや。」
と言ってくれたのが救いだろうか。
「いずれにせよ、ワシらはまあまあヤバイ立場にある。皆、連絡を密にとって乗り越えようやないか。」
ツスルがそういってこの場を閉めた。
(交渉事といやレイモンドかな…)
ハウンドはそんなことを思いながら部屋を出た。
次回は水曜日。
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