2-8 忌々しき鉄
三賢人【一般情報】
龍歴200年ごろから活動している3人の知識人の総称で、カヤ、ココ、リトの3名を指す。
それぞれ深い知見を持って人々に教えを解き、導いてきたと言われている。
彼らの教えをまとめた本は多くの国、地域で読まれており、一部では文字を教える際の教科書としても使われている。
カヤ、ココはすでに死亡しており、リトについても隠居しているが死亡説がたびたび流れている。
パルがノーチラスと共に龍の国へ戻ったのは、リトの襲来から2日後だった。
天の国でのドクとの食事の後、急に呼び出された彼女は、ドクを連れて戻るよう指示されたのだった。
彼女達が龍の国に入る頃には夜になっていた。
パルはイタズラっぽい笑みを浮かべると、猿のように素早く城壁を駆け上り、女王の私室へ向かう。
バルコニーに降り立ち、扉をノックすると、机に向かい、本を読んでいたレイアは飛び上がるように驚く。
「来ちゃいました♡」
「お…脅かさないで!貴女は明日帰ってくるはずでしょ?!」
バルコニーに出てきたレイアはパルの来訪を注意する。
先代が暗殺されたというのにこのようなやり方は、確かに心臓に悪いだろうな。とパルはレイアの言葉を聞き流しながら思った。
「いーじゃないですか!オレも寂しかったんですよ!姫は仕事ばっかだし…」
子供じみた反論をするパル。
「あのですね。せめて前もって言ってください!それと私はもう姫…んッ!」
レイアの口はパルに塞がれた。
「うるさい口は塞ぐに限るってね。元気そうでよかった!」
じゃ。と手を挙げ、バルコニーから飛び降りるパル。
いきなり唇を奪われたレイアはしばらく動けなかった。
龍の国の王城で毎朝行われる定例会には、女王であるレイアと幹部が揃って行われる。
この日は、昨日に続き、天の国へ向かったホエールの代わりにオルカが軍部の報告を行っている。
「天の国に向かったホエールとハウンドから到着の連絡が朝一で入りました。国内にはイーグルとその旗下3名とパル、海軍にアタシとドルフィンがいます。他の労働者達と協力して引き続き西側の復旧作業にあたります。」
「え?!パル?パルが何か!?」
上の空で話を聞いていたレイアはパルの名前に反応する。
赤面し、慌てている。
「あいつは昨日の夜戻ったそうですが…陛下〜?あいつと何かありましたね〜?」
オルカは事情を察したのか悪い笑顔を浮かべ追い詰める。
「いや!違うんです!ないです!そのまま別れたんです!その後のことは…?!」
「うんうん。パルが部屋に来て?」
相談役として出席していたレイモンドもまた、先ほどまでの気だるげな態度とは打って変わって興味を示す。
「だ…だから、パルがバルコニーに来て…それ…で…あの…その…」
「キスしたら子供できちゃうね。」
レイモンドの言葉にレイア以外は呆れたが、レイアは完全に混乱した。
「え?!いや!それはその!困るというか!あ!いや困らないんですけど!その…!」
「おいおい。あんまり陛下を…」
完全に暴走するレイアを止めようとトータスが口を挟むが、
「どうしましょう!パルに赤ちゃんが!」
レイアは止まらない。
「このアホ…」
トータスは悪ふざけの過ぎたレイモンドの頭を叩く。
一同の笑い声で解散となったが、レイアはその後も放心していた。
「このアホ…」
オルカは去り際にレイモンドの頭を叩く。
「加減ってもんをしらねぇのかい…」
呆れた言葉を続けたが、
「君も妹さんの恋が気になるだろ?」
レイモンドはあっけからんと返す。
「…あいつも加減がわからんからな。中身がガキのままなんだよ。ちょろい癖に兵士の悪いとこを真似してやがんだよ。」
オルカは頭をかきながら歩き出した。
「レレレレレレイモンド!どうしましょう!私!あの!パルと!」
「あー…心配ないよ。うん。」
レイモンドの言葉をレイアは飲み込めずあたふたしていた。
自分にもこういう時が来るのだったのだろうか。
ふと、娘を持つハウンドに聞いてみたくなった。
「このロリコンが!陛下に手ェ出すとは何事だ!」
定例会の後、オルカとトータスはパルを問い詰めていた。
「ちが!違わねぇけどー!」
パルもレイアのようにあたふたしている。
「陛下なんてお前に子供ができたら〜なんつってたぞ…」
「んなら安心だろ。オレはそんな機能無くなってるし。」
あさっさりと返すパル。
事実、彼女の体は龍計画での改造の際に大きく作り替えられており、女性として子を成す機能は臓器ごと取り払われている。
「そういう意味じゃねぇっての。」
オルカの手刀がパルの脳天に直撃する。
「いったぁぁぁ!」
「反省しろ。少なくとも陛下の私室に忍び込むなんざ2度とやるじゃねぇぞ。」
オルカはそれだけ告げると足早に歩き出す。
トータスもそれに続く。
2人がパルの元を離れ、城下町の通りに入ったところでトータスは口を開く。
「しょうがねぇこともあるさ。」
「うるせぇ…アタシだってわかってるさ。でもよ、あいつだってそのうち、誰かと一緒になって子供作ってってそういう普通の生活があったんじゃねぇのかよ…」
オルカの目に涙が浮かぶ。
「だとしてもだろ。あいつは軍に残ることを選んだ。ならそれを応援してやるのが俺たちの勤めじゃねぇのか?」
トータスの話は半年ほど前に遡る。
レイアからの提案で、パルがこれまで通り軍に残るのか、今一度確認をすることになった。
だが、彼女はあっさりと軍に残ることを選んだ。
オルカは何度か退役を勧めたが、彼女の意思は堅かった。
「ま!未婚どころか婚期逃したお前が言っても説得力ねぇけどよ!」
トータスは泣き出しそうなオルカをあえて茶化す。
「うっせぇんだよ!クソカメ!」
オルカは悪態をつき、彼を小突く。
「あークソ!おいカメ、今晩奢れよ。」
この後、定例会の話を聞きつけたシンゴがパルにベビーベッドを売りに来たりしたが、この日は恐ろしいまでに平和のまま終わろうとしていた。
「パルさーん!ママー元帥から通信でーす!」
ノーチラスの自室でタバコを吸っていたパルはカレンに呼ばれ、ブリッジへ向かう。
「ママがなんて?」
「通信です!というか服着てください…」
実質的に1人ということもあってか、パルはシャワーを浴び、タオルを肩にかけたままだった。
「音声だけ繋げ。」
パルの指示を受け、カレンが目を閉じると、正面のモニターにママの顔が映る。
『あら♡パルちゃんの顔が見えないじゃないの♡カレンちゃーん♡映像も出して♡」
「如何しますか?」
カレンの問いにパルは、しょうがねぇ。と答える。
『あらやだぁ♡全裸じゃない♡可愛いわねぇ♡』
向こう側にもパルの裸体が届いたらしい。
「んなことより要件はなんだ?つーかそこどこだ?」
ママが通信をしてきている場所は軍の施設というより民家のようだ。
『ハウンドちゃんの娘さんを明日連れて行くわ♡彼には内緒ね♡午後に到着の予定よ~♡』
滝の国で見たハウンドの娘、彼女の記憶通りであれば盲目のはずだ。
「訳ありか?だとしてもあいつは今天の国だぜ?」
港の国の海軍トップであるママがそうまでしてハウンドの娘を連れてくる意味をパルは計りかねていた。
『んーまぁいいでしょ♡セッカちゃーん♡お泊まりの準備長めにしておいてー♡』
パルはママが呼びかけている相手こそハウンドの娘であると直感した。
「顔がみてえな。」
興味から伝えてみたがママから、そんな格好で?と言われ、諦めることにした。
『んじゃ明日ね♡』
そういって通信を切るママ。
「そういうことだ。カレン、悪いけど明日付き合えるか?」
パルはなんとなく1人で会うのが億劫に感じカレンに声をかける。
「申し訳ありません。明日は引き続き西側の復旧作業なんですよ。」
「まだやってんのか?」
カレンの話では西側はディプタドとの戦闘も行われた関係で時間がかかっているのだという。
パルは、
「あい、わかった。じゃ、明日は1人で迎えに行くよ。」
と言い、自室に戻り、ベッドに横たわる。
ハウンドの娘。
それが彼を訪ねて来る。
それは観光のような楽しげな理由ではないのだろう。
パルはどうしても眠れず、起き上がりタバコに火をつける。
だが、どうしても落ち着かず、新調した釣竿を持ってノーチラスを出た。
翌朝、釣果のないまま船に戻ったパルをトータスが出迎える。
「お前、ちょっと時間あるか?」
トータスの言葉に隠れる深刻さを感じた彼女は二つ返事で答える。
トータスに連れられ、王城の資料室に向かったパル。
そこには、レイモンドとヤタ重工のシンゴが待っていた。
「なんか珍しいメンツだな?」
深刻な様子の3人をあえて茶化すパル。
レイモンドが口を開く。
「パル、悪いんだけどアリアンナさんについて教えてくれるかな。」
パルは眉を顰める。
ヤタ重工絡みでアリアンナのことと言われれば、一つしかない。
「なるほどな。店長も覚悟したってわけか。」
「今の本社のやり方は少し気に入らないんです。まぁ、叩けば埃の出る組織とはいえ、これに関しては相当悪質な部類だと思いますけど。」
シンゴはそう言って、一枚の紙を見せる。
ヤタ重工が宣伝のためによく使うチラシだが、そこには『陸戦型ゴーレム最新版!』の文字が踊っている。
「忌々しいTYPE-A8か…いいぜ。話してやるよ。ハヌルロスでのことをよ。」
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
Twitter?X?→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21




