2-5 鉄の誘(いざな)い
ゴーレムTYPE-A8【平均評価★★☆☆☆】(廃盤)
ヤタ重工営業部です!
今回の新商品はゴーレムTYPE-Aシリーズの新作です!
人気の高い陸戦用ですが、今回は新たに設計された魔力炉を搭載!
旧式では難しかった魔力防壁の生成や、自己修復機能、自立制御機構を搭載することに成功しました!
操作は簡単!今ならマニュアルが付属してお値段1体3,000クレジットになります!
ヤタプレミアム会員様には左肩へのマーキングをサービスいたします!
天の国についたパルは中層の商店街を歩いていた。
あまり思い出したくない話ではあるが、彼女がかつて生きるために働いていた娼館はまだ健在のようだった。
「しっかし、意外やな。パルちゃんがこの辺に住んでたなんて。」
「住んでた…と言えるか微妙だけどな。結構変わってるし始めてきた街みてぇだよ。」
後ろからついてきていた案内役のツスルの言葉に振り向きもせず返す。
天の国に来たついでに観光したらいいとツスルに言われたパルはかつて自分のいた中層の観光を申し出たのだった。
孤児として生きていた経験が今に活きている。と思うことはなかったが、ここで必死に生きていたことは今の自分に間違いなくつながっていると感じていた。
終点までたどり着くと大きなエレベーターが待ち構えている。
ここから上層へと上がることができる。
「ほな、ドクさんとこいくか?」
ツスルの言葉に頷き、エレベーターへ乗り込む。
(昔はなかったよな。)
パルは時間の経過を感じた。
思えばアリアンナの死からもうすぐ12年になろうとしていた。
アリアンナの死について受け入れているつもりだったが、彼女のことを考えるだけで胸が締め付けられるのは今も変わらない。
それはアリアンナに限った話ではない。
彼女がドラゴンと呼ばれていた時期に戦場を共にした戦友たち。
生き残っているものもいるが、無論、死んだ者も多い。
また、兵士ではなくともこれまで関りのあったフレイルをはじめとする軍人以外の人間もまた、理不尽に命を奪われた。
そんな風に昔のことを考えていた彼女の脳裏にある名前が浮かぶ。
アイーシャ。
どこかで聞いたのだろうか。
さほど重要ではないのはすぐに誰だったのか思い当たらなかったことから明白だが、喉につかえるような違和感はあった。
上層に到着し、用意された車で移動している間もそのことを考えていた。
そしてそれはツスルの呼びかけに気づかないほどにそれは頭を支配した。
「ついたで!」
パルは思わずビクついてしまう。
「なんや考え事かいな?あまんまり根を詰めすぎるもんやないで?」
「ん?あぁ。なんとなく…な。」
上の空で曖昧に答えて車を降りる。
出迎えの職員に導かれるまま、大学病院地下のAiユニットへ到着する。
「久しぶりだな、パルよ!」
扉を開けるとドクが年齢に見合わぬハツラツとした様子で出迎える。
「なんだ?若返ったみてぇだぜ?」
「ふふふ。やはりワシは学者らしい。この環境でお互いに語らうのは非常に充実しているよ!」
ドクはそう言って入室を促す。
室内にあつらえられた会議セットではシマヅをはじめとする数人の意思が疲れ切った様子で椅子に収まっていた。
「…君ら積もる話もあるやろうしどこかでメシ食ってきたらええんちゃう?」
心なしか、おおよその状況を察したツスルの言葉にシマヅ達の表情が明るくなったように見えた。
ヤタ重工龍の国復興支援支店では、シンゴが神妙な面持ちで書類を睨んでいた。
彼の権限で取り寄せた龍の国との取引記録には、過去15年分の納入品目とその受け取り手が記載されている。
ヤタ重工としては相互に武器を供給し、対立の長期化でさらに利益を上げようとしているのを隠そうともしてないが、彼としては対立構造の早期決着を望んでいた。
ヤタ重工自体、武器以外の商品の売上で十分なものがある手前、わざわざ他の市民を巻き込んでまで利益を上げる必要性はない。そう考えていた。
一方で、膠着している現状は『誰も傷つくことなく』利益を上げられる。それはある意味で企業として間違っていないのかもしれないが。
「鉄の行方…ですか…」
リストの1箇所だけハイライトされた部分をなぞる。
『ゴーレムTYPE-A8×4、納入先:龍の国陸軍第二機甲兵隊長ルビリア・アリアンナ』
アリアンナに納入された物品はゴーレム含めそれなりの数がある。
それに前線で働く彼女が受け取り手となることに違和感はない。
しかしこのTYPE-A8は安全性に問題があるとして早期に廃盤、リコール騒ぎにもなったモデルだ。
そして、その問題が露呈した時期はアリアンナの戦死した時期と重なる。
シンゴは書類をまとめ、個人認証された封筒に納める。
パルと改めて話をする必要がある。
そう考えた彼は電話機ではなく単一回線用の無線機を手に取る。
ツスルとカインが持っているような魔法石を応用したものだ。
静かな応答の声。
少し息を吸う。
話すべきことは整理している。
「トータスさん。一度、会ってお話しさせていただけますか?」
後戻りすることはできない過去の闇に、彼は自ら踏み込むことにした。
パルとドクを見送った後、ツスルはシマヅ達に声をかける。
「盛り上がっとったようやのう?」
「へ…へへ…あの人、ヤバいです。三徹で喋りっぱなしですよ…」
そのジョークにシマヅは引き攣ったような笑い声で答える。
「寝ときゃええやん?」
ツスルはあっさり答えるが、シマヅを含む全員が飛ぶように立ち上がる。
「とんでもない!あのドクトル・シュナイダーの独演会ですよ!世界中!あの人の話を聞くなら何百万と金を払いたくなるようなレジェンドですよ!寝るなんて…本当にとんでもない!とんでもないですよ!」
あまりの熱気に気圧されるツスル。
「ドクの独演会ってか…?」
その言葉で皆の表情が変わる。
力尽くでツスルを椅子に座らせると辞書のような紙束を目の前に叩きつける。
「あのー…ワシ暇やな…」
「お教えしましょう!偉大なるアルデント・シュナイダーさんについて!」
ツスルの言葉を遮るように興奮したシマヅの声が響く。
助けて。ツスルの言葉はシマヅの畳み掛けるような序章の口上にかき消された。
「アイーシャ?」
ドクは向かいに座るパルの質問に疑問で返す。
「さっき街歩いてる時にふと思い出してよ。誰の名前か気になっちまったんだよ。」
パルは自分の皿に乗ったハンバーグにナイフを通す。
食欲をそそる焦げ色の肉塊をナイフが通過するたびに透明な肉汁が溢れ、玉ねぎの香りが食欲をそそるデミグラスソースと混ざり合う。
「ふむ。ワシも思い当たるものはないな。演劇女優とかの名前ならカレンに聞いてみるのが良いかもしれんな。」
ドクはそう言ってバターの香りが良いニンジンのグラッセを口に運ぶ。
「ほーなのか?」
口にハンバーグを頬張りながらパルが返すとドクは笑う。
「もう少しお上品にならんのかね?ほらソース。」
ドクはハンカチでパルの口元を拭ってやる。
「カレンのやつ雑誌だ新聞だのを積極的に読んどるらしいからな。ワシらよりそういう話は詳しかろう。」
ドクはそう続けてハンバーグを頬張る。
「ちょっと意外だな。というかあいつそんな暇あるのか?」
パルはふと窓の外に視線を向けながら呟く。
6番ドッグ補修の指揮を取る一方で龍の国での物資配分の相談なども受けている彼女は人間以上に忙しいはずだ。
一方で不眠不休で動ける機械としての利点を活かし、24時間生活を続けているという点では少なからず暇を持て余していた。
「んで?オレ達まだ食ってんだが?デザート終わるまで待ってくんねぇかな?」
パルは窓に映り込む異国風の男に声をかける。
「そうは問屋がおろすまいて。デザートはあの世で楽しんでもらおうか?」
「急ぐならその喧嘩、小生が買おう。シュナイダー氏には食後のコーヒーまでゆっくり楽しんでもらう。」
男の横からボロボロの外套を纏った大男が横槍を入れる。
「テメェに任せていいのか?」
パルは外套の男を睨みつける。
「貴様のためではない。シュナイダー氏の護衛が小生の賜った任務だ。」
大男はゆっくりと外套を脱ぎ地面に置く。
右腕は償いとして失ったままだ。
「パル、お言葉に甘えようじゃないか。」
ドクは大男が出てくることを知っていたようでハンバーグを切り分けながら言う。
「やるなら外でやれよ?ドクにホコリ入りのコーヒー飲ませるわけにゃいかねぇだろ?」
パルは害虫を追い払うように手で、出ていけ。とジェスチャーする。
「貴様に言われるまでもない。寧ろ、貴様のためにこの男の血をグラスで用意させよう。さすればその黒い血も少しは赤くなろう?」
「生憎とパルちゃんの食後はメロンフロートにイチゴのババロアだ。」
大男の挑発にパルは挑発で返す。
「…?イチゴのば…なんと言った?」
「ババロアだ。んなもんもしらねぇのか?え?どうなんだよ?剣聖カイン殿?」
パルは大男を名指しで煽ると、その名に反応して、男は待ちきれないとばかりに剣を抜く。
「貴様と遊んでいる暇もないようだ。忘れるな、貴様は小生に負けているのだぞ。」
パルは、本気じゃなかったもん。と小さく呟く。
カインと男は視線を合わせると風を残すように店内から消える。
「あれの護衛でよく生きてたな?」
パルはドクに投げかける。
「ん?戦士としては優秀だよ。少し過剰なくらい…な?」
ドクは笑顔で答え、スープを口に運んだ。
次回は水曜日




