2-4 私と変な人
獣の国【一般情報】
サンヨウ大陸の南に位置するヘイワ大陸とその周辺の諸島を含む国。
国土としては最大ではあるが、人口は少ない。
特徴とし亜人が多く住んでおり、大半が亜人ないし、その混血とされる。
自国内で産業が完結しており、交易はヤタ重工などのいくつかの組織としか行っていない。
閉鎖的と評されることもあるが、どちらかと言うと他国の持つ亜人への差別意識が故に外との関わりを持ちたくない。というのが正しい。
「初めましてね♡私は港の国の軍人、コオウ・ママー♡ママって呼んでちょうだい♡」
病院で目覚めたセッカにママは挨拶する。
「え…っと…はい。セリンスロ・セッカです…?」
セッカの中にある軍人のイメージとは180度違う存在を前に混乱していた。
「軍人さんってもっと怖い人だと思ってました。」
セッカの言葉にママは驚く。
誰しも彼の風体を見ればそちらが気になるはずだが、それを気にされないのは新鮮な反応だった。
「軍人もピンキリよ♡私は訳ありだし♡」
ママはそう言って病室に備えてある椅子を持ってきて座る。
「私の話をしてもいいかな。」
真剣な声にセッカは思わず身構え、頷く。
その反応を見たママは微笑む。
「私は一度軍から逃げたの。脱走兵ってやつね。理由はいくつかあったんだけど、1つは嫁が死んだこと。もう1つは戦場である女の子にあったから。」
今から20年ほど前、龍の国と風の国は両国の間にある未開拓地域を求めて争っていた。
これまで資産的価値がないとされていた場所だったが、地質調査の結果、質の良い鉱物資源が手に入ることがわかったのだ。
風の国は占拠に近い形で土地を手に入れたが、すぐさま龍の国も反応。
ついに軍事国家同士の武力衝突へと発展した。
両国の戦力はほぼ互角と見られていたが、海軍の手が出せない内陸部であったこともあり、風の国の全軍対龍の国の陸軍という構図になり、龍の国が押される展開となった。
そこには剣王会の首領・カラスのような傭兵だけでなく、風の国が生み出したキメラ兵士の存在があった。
「私は当時最新にして最強の兵士。たくさんの人を殺したわ。もちろん、私の同僚達も殺されたけどね。」
セッカは思わず目を伏せる。
人殺しを生業とする悪者。
それが彼女にとっての軍人のイメージだった。
「私は筋トレだけして強くなったわけじゃない。当時、ギリギリ成功率を無視して実用段階に入るであろう技術の被験体になったのも大きかったわ。」
ママはそう言ってシャツを捲り上げる。
鍛え上げられた肉体に這うようにして手術の跡が残っていた。
「私は…いや、多分軍人はみんな自分たちが勝者になれば戦争なんてなくなる。そう思ってやってるの。だからがむしゃらに戦ったわ。」
セッカはその言葉の真意は自分自身を納得させるための方便に聞こえ、人を殺すための理由だ。と感じていた。
「そんなある日、女の子に会ったの。真珠みたいな銀髪の10歳そこらの女の子。その子ったらめちゃくちゃに強くてね。本当に強くて私の仲間は一気に死んだわ。誰がいつ死んだかわからないぐらいに…」
そう言って窓の外へ視線を投げるママ。
散っていた戦友達のことを忘れることはない。
彼らの死は平和への礎として生き続ける。
戦場の宗教とも言えるそれが、軍人を支えているのは間違いない。
「私はこれ以上仲間を失いたくなかった。だからその子に挑んだの。」
ソルノヒドの決戦。
風の国が誇るキメラ兵士、コルネオ・ギガトと龍の国が新たに開発したキメラ兵士の亜種、ドラゴンとの決戦。
これが未開拓戦の勝者を決めた。
「それが完敗なのよ…恐ろしいことに。自慢じゃないけど百戦錬磨の豪傑と呼ばれた私が手も足も出なかったわ。」
龍の国のドラゴンに関する情報はほとんど残っておらず、ソルノヒドの決戦についても、戦った。という事実は記録されていても、ドラゴンの能力などは全く記録されていない。
加えて、フレイルがその少ない情報さえ消している。
「あっとうまに地べたに転がされた私をあの子は殺そうとした。寂しい目だったわ。殺すことをなんとも思わないように訓練されているのがわかったし、何より、その奥に見える押し殺された優しさがね…」
セッカはよくわかっていなかった。
殺すことを何とも思わないような訓練。
そんなものなどなくても軍人は人を殺すのではないか。という意識があったからだ。
「でも、それをあの子の近くにいた男が止めたの。『勝負はついた。圧勝した以上、これ以上の進軍はない。』ってね。」
「それで生き残った…」
セッカは思わず口を挟んだ。
フィクションのように感じる話だが、そんな優しい軍人もいるのか。と思い始めてもいた。
ママは静かに頷く。
「殺して欲しかったわ。私は皆を犠牲にしてまで欲しかった平和を手に入れることができると思っていた。それだけの力があると。でも、それは簡単に砕かれた。なら、もういっそのこと死んで詫びるしかないじゃないの。」
ママは少し間をおいた。
自分の言葉に嘘はない。
それでも、その後に20年の時間を超えて訪れた奇妙な因縁に、今は生き残ったことを感謝している自分がいたのだ。
「生き残った私はそのまま逃げたわ。私達が目指した平和って、子供が銃なんて持たなくていい世界だったはず。それなのに、あんな小さな子が私に殴り勝った。それは今後、同じように子供が筆頭戦力として戦場に出てくるということ。目指すべきものがわからなくなったのよ。」
「今はわかっているんですか…?その、目指すべき…ものって。」
ママは顔を上げる。
その顔を見れば答えなど聞く必要もないほどの清々しい顔だ。
「もちろんよ。みんなが笑える世界。親子が共に過ごし、皆、思うままに生きられる世界。それが目指すべきもの。曖昧でアバウトな綺麗事だけどそう思うわよ。」
セッカもその考えには同意していた。
「でもなんで軍人を続けているんですか?」
セッカは平和の対極にあるものが軍人だという考えから問いかけた。
「平和を作る仕事だからよ。確かに殺し屋だとか犯罪の正当化だとか言われるけど、人が龍を殺す時に武器を持った時から誰かが手を汚さないと平和は作れなくなったのよ。」
「誰かが手を…」
セッカは自分の価値観が変わっていくのを感じた。
「そうよ。私たちは確かに破壊者だし、人殺し。悪者よ。でもね、そうしなければ今日の貴女のような被害者を見捨ててしまうこともあるのよ。」
ママは立ち上がる。
「気が変わったらいつでも言ってね。龍の国まで案内するわよ。」
「それって…」
「これ以上は言えないわ。一応、約束があるからね。でも貴女が彼を受け入れるのなら、その時は全てを明らかにするべき時だと私は思うわね♡」
そう言ってママは病室を出る。
父は生きているかもしれない。
どことなく余所余所しくて優しくて、そんな彼が、もしそうなら、謝らなくてはいけない。
セッカは決意を固めつつあった。
ママの話には続きがある。
脱走兵となった後、同じような境遇を持つもの達が集まってできた組織を作ることになるが、そこで、彼を圧倒した少女とそれを止めた男と再会した。
少女は見違えるほどに成長していたが、目の奥に秘めた優しさは消えていまま。
それがあの時協力した最大の理由でもあった。
次回は土曜日




