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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン2 Visitor from the Past

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2-2 私と懺悔

ヴィラス【一般情報】

10年ほど前に一気に流行した病。

水質汚染が原因とされ、天、龍、港、滝の国で流行した。

症状としては、発熱、免疫低下といった風邪の症状と酷似しており、それが発見を遅らせたとも言われている。

ドクトル・シュナイダーが医の国との共同で原因の究明と治療薬を作成した。

一方で治療薬の承認まで時間がかかったこともあり、当時の龍の国国王を始め多くの死者を出した。

特に、持病を持っていたり、生まれつき体の弱い人間の死亡率は高かった。


ハウンドは帽子を被り直す。

式典への参加などで一時的に離れることはあったが、かれこれ1年ほど滝の国にいる。

『親子が揃っているのに会わないなんてひどいです。』

レイアの言葉は心に刺さったままだ。

その言葉が心を痛めている間、家族の時間を過ごせるのだろうと彼は感じていた。

だが、いまだに自分が父親だと娘に打ち明けられずにいた。

加えて天の国で獣人としての力を使って以降、犬耳は戻ることがない。

耳が四つある状態は混血の獣人によく見られるものだが、後天的に出るのは前例がないとドクに匙を投げられてしまった。

それ以来、彼自身気味が悪く帽子が手放せなくなっている。

懸念はそれだけではなかった。

娘であるセッカにも同様に獣人の血が流れている。

ハウンドは集中力を要するためルーティンで力を呼び起こすが、同様のことが娘にも言えるのではないか。と言うものだ。

仮にその通りであればそれを伝えるべきかどうか。という別の問題も出てくる。

彼はいつも通り、滝の国の軍宿舎から妻の実家への道を進んでいく。

前から来た運転の荒い車が向かってきた。

道を開けるために端に寄ったつもりだったが、車は彼を目掛けて突っ込んでくる。

(おいおい…)

避けようと体重移動を始める。

「おかーさん!見て!」

彼の背後から少女が出てくる。

砂糖の匂い。

彼の背後にあるアイスクリームの店から出てきたようだ。

「危ない!」

誰かが叫んだ。

(んなことたぁ、わかってる!)

ハウンドは柄を取り出す。

「ツララ!ツムジ!烈風陣形!」

彼の言葉いのりとともに、体から使い魔が飛び出す。

ツララは破裂するように風を起こし、ツララが作り出した氷の壁でそれをコントロールする。

車のフロント部は風圧でへこむが停止する。

彼のコントロールは実に正確で背後の少女どころか車以外を傷つけずにこの場を納めた。

「大丈夫か?」

へたり込んだ少女に声をかけるが、少女の視線は彼の目でも背後の車でもない。

彼の頭、犬耳を見ていた。

「大丈夫そうね♡」

ハウンドは背後からそう声をかける男に帽子を被らされる。

ハウンドが振り返ると、港の国の海軍長となったママがいた。

「美味しそうなアイスね♡早くしないと溶けちゃうわよ♡」

ママの言葉で少女は我に帰り、頭を下げてから駆け出していった。

帽子これありがとうございます。」

ハウンドは少女を見送ってからママに礼を述べる。

「気にすることはないわ♡暴走車両の通報を受けて近くにいただけだから♡」

ママは港の国から滝の国へ海軍の指導役として数日前から派遣されていた。

集まってきた滝の国の軍人たちが手際よく事後処理を進めている。

「後は任せてよさそうですね。何か奢らせてください。」

「それなら♡貴方の娘さんに合わせてもらおうかしらぁ♡」

偶然を装っているが実際にはハウンドの娘に会ってみたくて待ち伏せしていた。

ハウンドはキョトンとしていたが、いいですよ。と答えた。

意外と素直な回答だったことにママは少し驚いた。


「俺は娘に父親だと名乗ってません。ついでに言うと彼女の前ではアルデント・シュナイダーさんです。」

「8回目よ…」

道すがらハウンドは何度も念押しした。

娘に父親だと名乗るタイミングは失い続けていた。

挙句、ここ最近、会う頻度が上がっていたことも名乗るハードルを大きく上げていた。

ハウンドとママがセッカの家に着くと、ハウンドはドアノブに手を掛け、

「もう一回言っときますけど…」

「くどい!」

念押ししようとしたが、港の国海軍長コオウ・ママー元帥となったママに一喝される。

ハウンドは観念したようにドアを開ける。

「来たかい、ケンちゃうぉっ?!」

扉の前での話し声を聞いて扉の前で待機していたアメは絵面の濃ゆい屈強なオカマに圧倒される。

「あ…どうも…」

横から顔を出したハウンドを見てアメはようやく安心することができた。

2人は家に入り、出されたコーヒーを楽しむ。

「いやはや失礼しました。私は港の国海軍元帥、コオウ・ママーといいます。ついでに言うとこの格好は趣味です!」

「イーシュミダネー。」

アメはなんとか港の国海軍トップのこの男の情報を咀嚼しようとしているが理解は追いつくはずもない。

ハウンドでさえ、初見では失神したのだ。

「んでぇ♡かわゆい子犬ちゃんはどこよぉ♡」

ママはハウンドへ話を振る。

ハウンドは頭が痛くなってきた。

「今日は盲学校です。2時間もすれば帰ってきますよ。」

「あら♡じゃあ厚かましいけどゆっくりさせてもらおうかしら♡」

早く帰ってこないかな。アメ、ハウンドそしてママの思考はある意味で一致していた。


2時間後、落ち着いたアメとママは意外なことに噛み合ったらしく話はどんどん盛り上がっている。

ハウンドは外で出迎えてやろうと思い、外に出てタバコに火をつけた。

日が傾き始める時刻ではあるが滝の国はまだ明るい。

ふと、パルのことを思い出す。

(元気にやってんだろうか…)

会いに行こうと思えば簡単に会える。

案外、そういう間柄だと会わなくなっていく。

「でも会いたいんでしょ♡」

背後から思考を読まれたハウンドは飛び上がって距離を取る。

「し…心臓に悪いんですけど…」

「まぁそう言うな。俺も同じよ。」

ママはいつか見せた軍人モードだ。

「急に会わなくって、そのうち会えるなんて思ってたらいつの間にか会えなくなる。俺たちは軍人そういうしごとだ。と自分を納得させることもあれば」

「それでは納得できないこともある。」

ハウンドは思わず口を挟んだ。

運命は時として劇的で、それ以上に残酷だ。

ハウンドは無意識に左薬指の付け根を触っていた。

指輪の跡がまだうっすらと残っている。

「そうさ。失って後悔し続ける。満足な別れなんてない。だから、お前と話してみたかったんだよ。」

ママの言葉を聞いて顔を上げる。

その目は懐かしさと寂しさの混ざった悲しいものだった。

「俺も既婚者だった。けど子供がなかなかできなくてな。相性の問題だって思っていたが、今思えば、家を空けている期間の方が長かったってのもある。」

ハウンドは再び俯く。

話の流れはよくある悲恋だ。

そう予測できたとしても経験者には辛いものだ。

「俺は兵士として戦った。ただひたすらにな。気づいたら嫁は流行り病でもう長くねぇってよ…」

ママは両手で顔を覆う。

「それで軍を…」

ハウンドは自身の境遇と重ねるように口を挟んだ。

彼自身、トータスの計らいで休職にされていたとはいえ、先立たれた時は軍人をやめ、娘を育てるべきか悩んだ。

ママは顔を上げ悲痛な笑みを浮かべる。

無理に笑っているのは明白だ。

「いや、嫁だけじゃねぇんだよ。色々重なってな。そんで逃げて。なのに今じゃまた軍人やってる。」

「前に進んだんですね。」

ハウンドの言葉は世辞でもなんでもない本音だった。

「そう見えるか?」

「自分は娘との向き合い方がわかりません。過去から逃げてるんですよ。今、このタイミングを好機チャンスだと思っている自分がいる一方で、今のままの関係でもいいんじゃないかなって思っている自分もいるわけで…」

ハウンドは己の手を見つめる。

血に濡れた手だ。

そして、情けない手だ。

恐ろしく無力で情けない手だ。

「いいなぁ…親の悩みってやつか…」

ママの言葉で我に帰る。

「ひでぇ旦那どもだね。」

話を聞いていたのだろうか。

アメが外へ出てくる。

「聞かれてしまいましたな。情けのない話です。」

「そうかい?あたしにゃいい夫婦に見えるけどねぇ。子供ができなくても家にいなくてもそれでもお互いに愛し合っていた。それ以上に何があるってんだい?情けないなんていっちゃあ失礼さ。」

ママの目に涙が浮かぶ。

「ケンちゃん、セッカを迎えに行ってきな。ついでに卵と牛乳と…あとなんか買い物してきな。」

ハウンドは静かに頷き歩き出す。

(漢泣き…か…)

帽子に手をかける。

何か引っかかる。


『流行り病で長くねぇってよ…』


偶然。

そう言ってしまえば簡単だ。

だが、ハウンドとママの妻、龍の国国王。

死亡した人間は少なくないがなんとなくおかしい気がしてきていた。

都合が良すぎる。

この感覚を言葉にするならそれが適当な気がした。

(戻る時期が来たのかもしれん。)

直感は常に正しい。

誰かに言われた気がする。

直感とは無意識の気づきだ。

それを信じることは、理屈をこね続けるよりもシンプルで現実的な答えになる。

ハウンドは早足になる。

軍人を狙ったバイオテロ。

そんなことを考える組織はひとつしかない。

過去の鎖はパルやママだけではなく彼をも歪みへ引き込もうとしていた。


次回は土曜日

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