1-46 闇
闇魔法【廃棄済情報】
幻術でもあり、現実でもあるとされる。
首領は動かなくなったイーグルに突き刺さった刀を引き抜く。
先ほどまで聞こえていた獣の咆哮は聞こえなくなっている。
「三羽烏よ…お前たちの敵、この首領が取ったぞ…」
「本当かよ!やったじゃん!」
首領の耳に入ってきたのはイーグルの声だ。
その声に驚き死体へ目を向けるが死体はそのままだ。
「さぁて、いつからでしょうか?最初から?三羽烏から?それとも首領の必殺剣から?」
背後から再びイーグルの声。
振り向けばそこにイーグルの死体がある。
「足止めのつもりか?」
首領は死体へ近づきながら問いかける。
「どこに話しかけてんだ?」
今度は右側から声が聞こえる。
何かがおかしい。
右手側にも死体がある。
目の前にもある。
ぬん!という声とともに首領は自らの左手を刀で突き刺す。
「気つけか?さすがだな。」
死体は消え、イーグルが姿を現す。
「さて、本気でやらせてもらうぜ?」
姿を現したイーグルは1人ではない。
5人だ。
その全員がイーグルだ。
顔も傷も杖も全く同じイーグルが5人目の前にいる。
「幻術か?!どこまでも卑怯な!」
首領は先頭の最中、毒を盛られたと思っていた。
幻覚作用のある毒はいくつか存在する。
だが、いつ盛られたのかがわからない。
「毒とでも?俺を誰だと思ってんだ?」
目の前のイーグルは1人になっていた。
イーグルが大魔導の長であることは首領も知っていた。
それは雷魔法をつかっていたことからも間違いない。
首領は3本の刀を飛ばし、イーグルを取り囲むようにして切りつける。
手ごたえはあった。
イーグルは笑う。
「これはなんでしょう?夢か?現実か?」
イーグルは杖を振る。
するとイーグルは一瞬で姿を消す。
首領は振り向くが姿はない。
イーグルの声が響く。
「正解は闇。闇魔法。真実は幻に。幻は現実に。混沌こそ答え。」
首領の感覚は完全に支配されていた。
だが、1つの仮説を立てる。
イーグルは動いていないのではないか?
体を隠しているだけではないか?
首領はイーグルが叩きつけられ、くぼみになっている壁へ突進する。
あの傷で動くこと自体がおかしい。
その確信は2000を超える人切の経験から来ていた。
「そこだぁ!」
壁に剣を突き立てる首領。
「肝心なこと、忘れてんぜ?そこは本当に壁か?」
首領の突き刺したのは壁ではない。
どういう訳か地面を突き刺していた。
体を起こし、構えなおす首領。
しかし、彼の体を背後から土の棘が貫く。
「さすがだぜ。ほんとに。」
イーグルは身体強化魔法を使ってようやく、壁から這い出る。
彼は壁に叩きつけられたまま、闇魔法で首領を幻覚にハメたのだ。
結果として、首領の狙いは間違っていなかった。
「敬意を表するぜ。こんなに追い込まれたのはマジで久々だ。」
イーグルは杖を地面に当てると、魔法陣が出現する。
「奥義で葬ろう。」
イーグルが目を閉じると魔法陣が大きな光を放つ。
「待たれよ…」
首領は最後の力をふり絞り、イーグルの肩を掴む。
「三羽烏を葬った術で殺してはもらえんだろうか…」
イーグルは答える代わりに魔法陣を消すと、首領の心臓の上に印をつける。
「1個聞いていいか?なんで三羽烏と同じ術で死にたいんだ?」
イーグルは三羽烏を圧倒した自分の奥義で葬られたことを誇りにすると思っていた。
だが、首領は笑う。
「あの世で三羽烏に言ってやるのよ…『あの術をやられたら負けるのも仕方ない』となぁ!」
イーグルは首領の言葉を聞き、指導者としての姿を見た。
「いい先生だな、あんた。こんな状況なきゃ、仲良くなれたかもな?」
「貴殿もまた良い術者だった。冥途の土産の闇魔法、来世で破って見せよう。誉れ高き鷹よ。」
2人は静かに笑いあう。
「最後になにか言うことは?」
「最後は潔く。それが剣王会の教え。しかし、語ることを貴殿が許すならば、我が最高の弟子にして筆頭、カヨと良い友人になってほしいものよ。」
イーグルはその言葉に頷くと、敬意を込めた言葉を送る。
「雷よ、震えろ雷震。」
銃声の様な炸裂音と共に首領は最後を迎える。
その顔はとても晴れやかなものであった。
王城地下にいたパル。
そして相対する男。
「なぜ、小生が問題なのだ?」
男はパルの、どうしても自分がこの作戦における問題だった。という言葉に対して問いを投げかける。
「ん?そりゃそうだろ。あんたが天の国側についてるなら軍事力じゃあ勝負になんないだろ?天使よかはるかに強いんだからよ?」
非常用の電灯が男を照らす。
「そうじゃねえのか?剣聖カイン!」
照らされた男の眉間に照準を合わせる。
カインは静かに刀を構える。
「参る。」
突っ込んでくるカインに対してパルは引き金を引く。
しかし、弾丸はカインの体を貫くことはなかった。
宝剣の腹で軌道を変えたのだ。
それは弾丸が見えているということに他ならない。
パルは舌打ちしながらアギトを懐に戻す。
カインの横薙ぎをバックステップで回避すると、拳を構える。
「龍閃の6番、龍腕!」
パルの動きに追従する巨大な拳がカインを襲う。
カインの目の前に迫った魔力の拳はパルから見て迎撃不可能な距離だった。
カインは横薙ぎの際に踏み込んだ右足を下げる。
足を下げたことによって生じる捻り。
そこから最大限の破壊力を生み出す技術。
ヤマギ一刀流ではない。
剣術ですらない。
(寸…勁…!)
パルの予想通り、カインは体の捻りを加えた一撃を放つ。
拳のぶつかり合い。
パルの龍腕が弾けるように消えたことで引き分けたかのように見えた。
しかし、技術面ではパルの完敗だった。
カインが剣術以外にも精通しているのであればその手札は彼の師であるカドゥの数倍にも及ぶ。
パルは足を開き構える。
「龍閃の5番…」
そこまで呟いて、パルは思い直したように構えを解く。
「こんなところで使うもんじゃないが、お前はここで殺す。」
カインは警戒するように構え直す。
パルの突き出した右手に異常なほどの魔力を感じたからだ。
「龍閃の1番、大龍哮砲!」
彼女の右手から放たれる金色の龍。
彼女の最高火力にして現在の魔力量からして一度きりの大技だ。
カインは動じることなく、頭上で剣を構える。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄叫びと共に剣を振り下ろすカイン。
驚くべきことに彼の剣は魔力の塊である金色の龍を正面から両断していく。
技術ではなかった。
彼の持つ宝剣の力。
性質と言ってもいいそれによるものだ。
両断された龍はコントロールを失い廊下壁に直撃する。
立ち込める砂煙の中、悠然と佇むカインにパルは狼狽える。
「マジかよ…」
その呟きには諦めに似たものが含まれていた。
「ヤマギ一刀流…半神一刀…!」
カインのシュクチだ。
一瞬でパルと距離を詰め、半神で強化された肉体から放たれる一撃。
その威力はカドゥよりも上だ。
パルの目から閃光が迸る。
彼女に残った手札は少ない。
身体強化魔法とアギトでどこまでやれるのか。という域の話でもある。
パルはカドゥの時と同じように剣を振る瞬間を潰そうとする。
パルの左腕がカインの右手首を押さえた。
だがジリジリと。
確実に。
パルの腕は押し返される。
抑えられないと判断したパルは右手でナイフを取り、投げ捨てるようにして爆発させる。
カインの剣は空振りする。
港の国で見せた自爆覚悟の近接防御だ。
今回は、コートで身を隠すようにしたこともあってか前回のように右手が吹き飛ぶようなことはなかった。
だが、カインに通じている様子はない。
かすり傷一つ負っていない。
一方でパルの頬は僅かに切れ、そこから黒い血が一筋流れる。
空振りしたように見えたカインの剣は僅かに彼女を捉えていた。
カインは目を見張る。
黒い血。
それが意味する歴史の真実をカドゥから伝え聞いていたからだ。
パルもそれに気づく。
手札の少ない彼女にとって、精神的な揺さぶりという手段を引き込んだことになる。
「この血の意味がわかるのか?」
パルは自分の頬を指し、挑発的に問いかける。
「なんだと…!その血は…その黒い血こそ我らヤマギ一刀流の宿命と聞いていたが…実在していたのか…!?」
動揺を隠せないカイン。
パルはさらに挑発する。
「疑問に思わなかったのか?3本ある宝剣のうち、相打ちで2本は紛失したのに自分の持っている1本が残っていることに。」
パルの傷が塞がる気配がない。
魔力の少ない状態ではあるが、それでも治すことはわけない傷だ。
「なんでお前らのような人ならざるを切ることを目的とした組織が代々存在し続けたのか。」
パルは言葉を続ける。
パルの傷が治らないのはカインの持つ宝剣によるものだ。
強大な魔力を持つそれを切るために、魔力を断ち、再生を許さない特殊な術式を持つ剣だからだ。
「なぜ俺がドラゴンと呼ばれたのか。なぜ大国のうち、あそこだけが龍の国と呼ばれたのか。」
「なにが…言いたい…!?」
パルはカインを追い詰めるように笑みを浮かべる。
「答えはわかってんだろ?大地の龍は死んでねぇ。今も生きてる。そしてオレは大地の龍の血を入れられた…いわば龍のキメラ兵士だ…!」
次回は水曜日




