1-43 猟犬
剣王会【一般情報】
風の国を中心に活動する剣術集団。
剣王流と呼ばれる剣術を用いる。
実態としては傭兵団や自警団といった趣が強く、剣だけでなく銃火器の扱いも教えている。
天の国の剣心会とは反目しあっており、剣心会は剣王会に対し「蛮族」と評価し、逆に剣王会は「時代遅れ」と評している。
トータスと別れたイーグルは得意の魔法で道を塞ぎながら城の外を目指す。
複雑極まる城内で彼らの目指す地下へのルートを警護する以上、動線を自分のいる道だけにするとこは基本とも言える。
しかし、意外なことに場内は静けさを感じさせる。
いや、戦闘の騒音は響いているが、デモ隊が雪崩れ込んだにしては静かなのだ。
ふと外に目をやると、デモ隊のほとんどが王城の中の様子を恐る恐る見ている。
(デモ隊の全てが入り込んではない…ということは…!)
「おっと」
彼の思考は結論に達していたが進路を3人の男に塞がれ急停止する。
編笠を被っており3人の表情は窺えないが、腰に刺した刀の形状と異国感のある服装から風の国の剣王会だと察した。
「あいや待たれよ!」
「待ってるけど?」
彼から見て左の男が仰々しく声を張る。
「我ら風の国!剣王会三羽烏!」
「俺はイーグル。よろしくな。」
ついで真ん中。
イーグルはツスルの呼んだ増援だと思っていたが、
「ここを進みたくば拙者たちを討ってから進むがよい!」
「じゃあ道変えるわ。」
イーグルは3人が敵だと知ると元来た道を引き返す。
「そうは!」
「問屋が!」
「下ろさぬわ!」
しかし、すぐに三羽烏に囲まれる。
「カラスが鷹に喧嘩売るわけ?」
余裕を見せるイーグルに対し、3人がほぼ同時に刀を抜き斬りかかろうとする。
「ちょっと相手が悪いんじゃない?」
彼らの刀は抜けなくなっていた。
イーグルが反転して走り出す際に氷の礫を刀につけていた。
それが今、彼の意思で一気に展開され、鞘と鍔を繋いでしまったのだった。
動きの止まった三羽烏の足元に魔法陣が現れる。
「一気に決めさせてもらう…氷よ、覆え!」
イーグルの言葉に答えるように魔法陣から氷が伸びると三羽烏の体を覆うようにして動きを止めさせる。
「卑怯也!」
「卑怯也!!」
「卑怯也ィ!!!」
イーグルは舞を思わせるような動きでその場で1回転すると杖の先についた宝石で三羽烏の左胸の辺りに触れる。
「雷よ…震えたまえ…3連雷震」
イーグルの2度目の言葉と共に三羽烏の体に振動が走る。
杖で触れられた左胸を中心にしたそれは彼らの生涯を終わらせる一撃として十分なものだった。
「ぬぅぉぉぉぉぉぉぉ!カラス!キラス!クラス!お前たちの仇!師である首領鴉が取るぅ!」
イーグルの背後から同じような格好の大男が現れる。
「首領鴉は不味いだろ…」
イーグルは何かの心配をしつつ、クラスと思われる死体を退け、ドンの前に立つ。
「もう一度、いっとくぜ?誇り高き鷹に鴉が喧嘩売るのか?」
イーグルが余裕を見せたのとほぼ同時に遠くから獣の雄たけびが聞こえてきた。
時は少し遡る。
地下への階段付近で天使ファエルと戦っていたハウンドは追い込まれていた。
魔力を文字通り喰らう天使に対して対抗手段を持ち得なかったからだ。
「逃げても無駄よ。猟犬さん?」
「美女とのダンスに相応しい舞台を探してたのさ。」
そう言うとハウンドは剣を構える。
ファエルは自分が王城の大広間に誘導されていたことに気づく。
ハウンドがこの場所にたどり着いたのは偶然だが、この場所が彼に新たな手札を切る状況を与えた。
「三頭猟犬!」
その声に合わせるようにホムラ、ツムジ、ツララが重なり合うとその名の通り巨大な三つ首の猟犬が誕生する。
「可愛くない名前ね。」
ファエルは興味なさげにトレスフィエラを見上げる。
トレスフィエラの首は正面から見て左からツララ、ツムジ、ホムラになっている。
ツララが吠えると、無数の氷の礫が彼女を襲う。
ハウンドの指示ではない。
彼はトレスフィエラを呼び出した後、座り込み目を閉じている。
「無駄よ。貴方の切り札がこの子なら私を殺すことはできないわよ!」
続いてツムジが巨大な風の塊を浴びせる。
しかしファエルはこれを片手で受け止める。
「無駄だと何度言えば…」
彼女の言葉を遮るようにホムラが巨大な下級をぶつける。
風の玉にぶつかったそれは勢いよく炸裂し、炎がファエルを包む。
しかし、ファエルは再びそれを平らげる。
トレスフィエラの強みは3体の猟犬の魔力を統合したことによる圧倒的な火力だが、いかんせん相性が悪い。
「遊びはここまでよ。子犬ちゃん?」
ファイエルの背中から天使の羽が出現する。
ツララは巨大な曲面レンズを作り上げ、ホムラが先程と同じくらいの大きさの火球を作る。
火球の光をレンズが集光させると熱線がファエルを襲う。
熱戦はファエルを縦に焼き切るが、すぐに再生してしまう。
トレスフィエラは相性の悪さと、その神々しい姿に圧倒される。
「あぁ。遊びは終わりだ。」
ファエルもまた圧倒されていた。
ハウンドの姿が獣を思わせるそれになっていたからだ。
「亜人…?!」
ハウンドの咆哮が轟く。
その存在感はトレスフィエラやファエルよりも強く、荒々しい。
獣人のケン。
それは彼方の昔から呪いのように受け継がれてきた力。
猟犬の真髄でもあった。
次回は土曜日




