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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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1-42 このやろう

煽り【一般情報】

挑発とも。

相手の間に障る発言をし、怒らせること。

発言のみではなく行動の場合もあるがその目的は相手を怒らせることにある。

他にも戦闘前に兵士を鼓舞する目的でも行われる。

非常に下品な言葉やハンドサインが用いられるため日常生活ではまず使用することはない。


ハウンドからの承諾を受けたレイモンドはすぐさまオルカに連絡をする。

オルカは声を上げて笑った後、

『やりゃあいいさね!本当にとんでもない作戦だよ!えぇ?!ついでに機雷も撒かせようじゃないか!』

「いいアイデアだ。それで進めてくれる?」

オルカの、あいよ。という言葉を最後に通信は止まる。

隣で歩いていたドクは少し彼女が気の毒になったがレイモンドは止まらない。

「よし。カレン、次は彼らに繋いで。大丈夫、パルのメモの通りに進めればいいから。」

通信のつながる頃には船に入るところだったが、相手の声を聞いてドクは思わず戦慄した。


天の国王城の地下、接見の間近くの控え室が揺れた。

地震ではない。

微かに聞こえる怒号や罵声はデモ隊が城に雪崩れ込んできたことを意味する。

実際には少し前から部屋に備え付けられた電話機でツスルが連絡を受けていたのを聞いてパル達は状況を把握していた。

「最悪の事態や。剣聖!すぐ出てくれるか!雪崩れ込んだデモ隊が銃を乱射しよるらしい!」

カインは静かに頷くと部屋を出る。

「あんたらはここに残るやろ?部屋はシェルターみたいなもんやから扉だけ守ってくれればええけど?」

ツスルの言葉はパル達への気遣いであったが、トータスは申し出を断る。

「大同盟が出来ようって時にそれは水臭いだろ。俺たちも打って出るとしよう。」

「パル、お前は残れ。」

トータスの言葉に付け加えるようにハウンドがパルに指示を出す。

パルは一瞬不服そうにしたが、答える代わりにハウンドへペンダントを投げ渡す。

「アリアンナの形見だ。後で返せよ。」

ハウンドはキャッチしたペンダントを懐にしまう。

生還を望む彼女なりの激励を受け、ハウンドはトータスとイーグルを追いかける。

「悪いけどワシも上に戻るわ。ここ、任せてええな?」

パルは、あいよ。と答えツスルを見送る。

1人残る形となったパルは、タバコに火をつけ、接見の間の扉の前に座り込む。


『龍殺しの宝剣じゃな…現存は…まあしとるわな。その血の天命と思うてええ。」


パルは龍の国でライターを買った帰りに立ち寄った洞窟で久しぶりにあったそれの言葉を思い出していた。

非常時のため、電灯の消えた暗い廊下の先で彼女のタバコの火は最後の灯火きぼうにも微かに残る命の火にも見えた。


港小島に近づく船が一隻あった。

龍の国のデザインベイビー、ドルフィンの船だ。

船は射程ギリギリで停戦すると、砲を停泊している民間の輸送船に向ける。

本来御法度どころの話ではないが、偽装であることが明白である以上、自信を持っていけ。とオルカに指示されていた。

ドルフィンにとってこの船は自身の手足と変わらない。

全ての砲が目標を捉えたのを感知すると警告なしに発砲する。

港小島の灯台にいたサーペントは驚く。

龍の国に戦力はない。

そう考えていたのにも関わらず軍艦が攻め込んできたのだ。

砲撃の着弾で塔も少し揺れる。

沈められた船には待機状態のディプタドが搭載されているが沈んでしまっては起動ができない。

仮に起動しても泳ぐことをプログラムしていないため意味がない。

サーペントは焦る。

奇襲。

揺動。

特攻。

様々な可能性に思考を巡らせるが、

『か…かかかかってこいぃ‼︎このやろぉ‼︎』

敵の船から発せられた声で冷静さを取り戻す。

挑発。

(恐らく罠を仕掛けたのだろう。これに乗るアホはいない。)

サーペントは灯台のマイクのスイッチを入れる。

『おかえりください。』

あまりにもあっさりとした返答に後ろにいたグディは声を上げて笑う。

ドルフィンの動きもまたあっさりとしたもので反転するとそのまま引き返していく。

「なんだったんだ?アホの考えることは本当に分からん。」

あっけに取られたサーペントだったが、ドルフィンが水魔法で島を取り囲むように海流を操作していたとは夢にも思わなかった。

グディが声を上げて笑うように中継を見ていたレイモンドとオルカ、ホエールも声を上げて笑っていた。

あるものは不恰好な彼女の煽り文句を、またあるものはノーリスクで攻撃を成功させたことを、最後の1人は龍の国への奇襲が完全に潰れたことを笑うのだった。


ひと足先に王城の地上階に出たカインは衛兵とデモ隊が押し合うところに出くわす。

「任せてもらおう。」

剣聖カインの参戦に衛兵は安堵し、デモ隊は恐怖した。

一閃と共に飛び散る鮮血。

天の国でも開戦の狼煙が上がった。


トータスとイーグルは地上に出たもののどこへ向かえばいいか分からず立ち往生していた。

轟音と共に城の壁が破壊される。

1人の男が蹴破るようにして侵入してきたのだ。

「おいおい。魔力の多そうな奴を目指したらとんだ大物が釣れたじゃねぇかよ。えぇ?知ってんぜぇ!鉄拳ガメェ!」

交戦的な男に対し、

「おいおい。挨拶は自分の名前名乗るところからってママに教わらなかったか?乳離れもできてないなら別だが?ん?」

トータスは上着を放り投げ、イーグルに視線を送る。

(相手は天使だ。牽制しろ。)

(先に行け、か。なるほど流石トータスさんだ。)

イーグルは長年軍を離れていたためか意図を測り損なうと、反転して別のルートへ駆け出す。

「人望ねぇなぁ?オッサン?」

あっけに取られた目を丸くしていたトータスは茶化される。

「は…はぁ?先に行かせただけなんだが?!別にお前の相手なんて1人で十分なんだが?」

トータスの反論は哀愁や情けなさを感じるほどだった。

「哀れなカメに名乗ってやるよ。俺は第二天使リエル!趣味はぁ…喧嘩だ。」

(あのクソバードが…)

トータスは一対一になったこの状況を少し悔いた。


迎撃組から少し遅れて地上階に出たハウンドはすぐさま猟犬達を呼び出した。

彼の鼻はすでに天使のそれを感知していた。

「坊や。麗しの姫君がどこにいるかご存知?」

正面から現れたのは自分と同世代か少し年下くらいの美女だ。

彼の鼻が敵であることを認識していなければ鼻の下を伸ばしたかもしれない。

「やめときなレディ。あんたと姫じゃ肌の潤いが違いすぎるぜ?」

「あらあら。大人の魅力がわからないのは子供の証拠よ。小児性愛者ペドリフィアのチワワちゃん?」

ハウンドは美女の返しを鼻で笑うと液体が満杯の瓶を投げつける。

ツララがそれを美女の頭上で割ると液体が彼女を濡らす。

「延焼陣形!」

ハウンドの掛け声と共にホムラとツムジが一瞬にして美女を焼く。

「度数75の酒だ。ゆっくり味わえ。」

滝の国での戦闘から天使の再生力であってもその限界まで焼き続けることの有効性を理解していたハウンドは、昨晩出された度数の高い酒を瓶ごと隠し持っていた。

半分は何もなかった場合、こっそり楽しむためだったが、もう半分の天使との戦闘のためとなれば惜しむことはしない。

しかし、炎の勢いは増すどころか美女の顔と思われる箇所に収束していく。

「マジかよ…」

炎はあっという間に消えた。

吸い込まれた。と表現すべきか。

「ふぅ。美味しい魔力とお酒、ありがとうね坊や。でもお姉さんを濡らしたからにはお仕置きが必要ね。」

「クソ天使が…」

ハウンドの、天使。という言葉に美女は一瞬驚くが、

「あら。お姉さんの秘密を暴露するのは減点ね。でも知っているのなら話が早いわね。私は第3天使ファエル。戦うのは嫌いだけど可愛い坊やと遊べるならそれはそれ。楽しみましょ?」

「口説いてお別れじゃダメ?」

「ダ〜メ。」

ハウンドの情けない提案はあっさりと拒否され、戦闘状態に入る。

しかし、酒による攻撃がまるで通用せず、ましてや魔力を食う存在が相手である。

ハウンドは自身の不利を悟り、反転して走り出した。


港小島でもほぼ同時刻動きがあった。

「こちらも仕掛けますか。」

サーペントの指示を受け、グディは光の玉に包まれ消える。

目的地は龍の国、王城地下。

魔力防壁の発生装置のある場所だ。

サーペントはドルフィンがそれを起動し、船到着までの時間を稼ぐ気なのだと予測した。

ドルフィンの挑発は壁の準備ができたからだと結論付けたのだ。

グディが龍の国の王城地下に現れると眼前から鋭い突きが迫る。

「ちょっ…」

短距離ワープで突きを放つそれの背後に回る。

「と?!いきなりなんだよ!」

「こっちのセリフだよ。馬鹿野郎カブロン!」

それを読んでいたようにグディの背後からオルカが大槌で叩き潰そうとする。

グディは間一髪で回避する。

「サーペントの読みってもしかして当てにならない?」

「あいつの考えてることはお見通しなんだとよ?」

グディの愚痴にオルカは煽り返す。

ちょっと相手が悪いな。グディはそう呟くと光に包まれ消えた。

残されたバイソンとオルカは魔力防壁を起動させる。

半透明な壁が龍の国を囲む。

魔力タンクがテロによって損傷していたため、展開可能な時間はおよそ5時間。

レイモンド曰く、サーペントが攻め込んできた場合、防壁を起動すれば天の国が落ち着くまでは大丈夫だそうだが、オルカは半信半疑だった。

「大丈夫ですよ、オルカ先輩。レイモンドの頭脳はサーペントのそれを遥かに上回っている。」

「だといいがねぇ。」

オルカは不安を紛らわせるためタバコに火をつけた。


グディの報告と展開された魔力防壁を見て、サーペントは思考を巡らせていた。

思考を終えると、彼は笑みを浮かべる。

魔力タンクのような魔力を多く含む施設は全て破壊した。

テロの際の天使たちの報告を思い出したのだ。

ならば魔力防壁の消滅は時間の問題だ。

最も、自分達は天の国側が失敗した場合の保険であり、天の国で姫が死ねばパルたちの手札はほぼ尽きることになる。

その後のことはじっくりと進められる。

「今、動く必要はないですね。ご苦労様でした、グディ。後は天の国側を待ちましょう。」

「悠長だな?」

グディの反論にサーペントは眉をひそめる。

これだからバカは。と心の中で悪態をつく。

「魔力防壁の展開は貴方の奇襲にビビったんですよ。切り札を先に晒した以上、消えるのは時間の問題の防壁の突破に躍起になる必要はありませんよ。それに天の国側がうまく行けばその努力も水泡に帰すわけですよ。」


海上警備を担当していたドルフィンから動きがないと報告を聞いたオルカは驚いた。

レイモンドの描いた通りにことが進むことに寒気さえ感じた。

『言ったでしょ?真の愚者カブロンは己を1番賢いと思っている者だって。』

「それは言ってないだろ。」

レイモンドからの通信にバイソンが反論するとレイモンドは笑う。

オルカはレイモンドが味方についてくれたことに安堵し、彼を敵に回した教団に同情すら感じていた。

次回は水曜日

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