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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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1-40 覚悟の時

身体強化魔法【一般情報】

魔力によって身体機能を向上させる魔法の一種。

軍人などの肉体労働者はまずこれを習得することになる。

魔法陣は非常に小さく簡素である。

コートの裏地や魔法陣の空きスペースに書き込めるほどであり、隙間があったら書けと教えられるほどである。

極まった身体強化魔法の使い手は目から閃光が迸るのは視神経の強化の際に溢れ出た魔力ではないかと言われているが詳細については判明していない。


カドゥは魔法を使うことは少ない。

軍人ではない故、使う機会が限られる。

それでも、彼の乏しい知識でも、この状況は把握できる。

身体強化魔法をパルが使う。

身体強化魔法の特筆すべき点は実用的である点と非常にコストパフォーマンスが良い点が挙げられる。

パルの魔力量が少ない今であっても2、3日は使い続けられるだろう。

その強化率は200%〜350%とも言われる。

本調子ではない故に殺す。パルの判断は恐ろしく冷静で真っ当なものだ。

「奥義…半神天羅…」

ここで諦めるという選択肢はなかった。

教え子であるカイン。

彼の思う剣が一殺多生であるならば、それを教えたのは師であるカドゥだ。

カドゥの殺す1人こそパルである。

己の剣に迷う弟子カインに己の剣のあり方をとして見せる。

それが自身の死によってできなかったとしても、かくごを貫くということの意味を示す。

カドゥのシュクチによる加速。

しかし、パルの目はその動きを完璧に捉えていた。

パルは進路を塞ぐようにステップを踏み、裏拳を放つ。

カドゥの動きが止まる。

決着の時だった。

パルがカドゥを止めたような手札しゅだんはカドゥにはない。

衝撃で仰け反り天を見上げる。

その視界はパルの左膝に塞がれる。

再びの直撃。

反射的な受け身と半神による肉体強化はこの地獄のような時間を伸ばすだけだった。

地面に頭を打つ。

バウンドした側頭部へ滑り込むようなドロップキック。

自分が何をされているのか。

この状況で最も知りたくないであろう情報だけが肉体から視界から聴覚から入ってくる。

ドロップキックの威力で回転する体。

その浮いた足を捉えられる。

握力で踵の腱を押し千切られる。

まるでボロ切れのように持ち上げられる。

手を離される。

逆さになった状態で地面と頭の距離は10センチとない。

その落下よりも速くカドゥでさえ認識できない数の打撃が延々と叩き込まれる。

足へ。

腹へ。

胸へ。

頭へ。

肩へ。

背中へ。

攻撃の分類もどこへ直撃したかも脳が解析するより速く次の一撃、いや連打が叩き込まれ続ける。

自分に意識を保つのはシンプルな思考故だ。

捨てたはずの、捨てるように教えてきたもの。

死への恐怖。

それがこの連打を続けさせる要素となっていた。

「終わりにしよう。」

身体強化を解き、ボロボロの形ばかりの存在となったカドゥの腕を取ったパルはそう告げる。

安堵してる自分がいることをカドゥは途切れそうな意識の中で感じる。

「龍閃の3番、12連龍頸」

カドゥの腫れた目が最後に捉えたのは龍の片翼だった。


12連の龍頸は4回目の炸裂のあたりでカドゥの臓物と思われるものと小指の関節ほどもない大きさの砕けた骨を背中から吐き出させた。

12発終わる頃にはカドゥの肉体は欠片となっていた。

決着さいごを見届けたパルは、もう一人の気配に気付く。

巧妙に隠れていたが、その気配が揺らいだのに気付いた。

「あんた…前にあったっけな?剣聖さんよ?」

林の影から、外套に包まれた大男、カインが姿を現す。

「白の…襲撃者ストライカー…」

「ここでやりあうか?悪いが…今日は忙しくてな。ここはお開きにしねえか?」

パルの魔力はほとんど残っていなかった。

カドゥへの全力の攻撃は死の覚悟を持って相対したもの同士のいわば礼儀であった。

それがこの後に響くことになろうとも。

それが戦場を生きる兵士の戦う人間としてのあり方だと。

誰かに教わった訳ではなかったが、幼いころから見てきた常識であった。

夜明けの光があたりを照らしはじめる。

剣聖の頬を伝う涙が、パルの言葉への回答でもあった。

「また、会おう。」

カドゥの亡骸を抱えたカインはシュクチでその場を去った。

「また…か。会いたくねぇなぁ…」

パルは来た道を戻ろうと踏み出すが、ふらついてしまう。

(時間…足んねえかもな…)

会合まで後3時間。


王城の会議室、ハウンドたちの休憩場所となっている部屋ではトータスがレイアと会合の打ち合わせに臨んでいた。

といっても、すでにメインの目的である、龍の国の姫として容認してもらうという部分は終わり、今は白の部隊としての歩み、そして龍の国の歴史について簡単に説明している。

そんな中、ハウンドはレイモンドに呼び出されていた。

「君はこの状況、どう見てるの?」

レイモンドの声は真剣そのものだ。

龍と天の国それぞれのトップによる会談。

一方、すでにデモの噂は彼らの耳にも入っていた。

「ありえるのか?教団による龍の国の再興…」

龍の国は確かに無人状態ではあるが、パルたちが天の国にいるこの状況は、白の部隊との正面衝突を避けたい教団にとっていい機会だ。

サーペントそしてシュリーは天使達と共に龍の国へ戻り、復興を宣言する。

そうなれば、姫が王位の継承を宣言しても2系統の統治が誕生することとなり、混乱を生む。

また、姫の表舞台への登場が後になれば、シュリーたちは自身の正当性を主張し、姫の存在を認めず、暗殺にシフトする可能性もある。

ハウンドたちの目的はそれを阻止しつつ、より効果的に姫の存在をアピールする事でもある。

それを踏まえ、天の国国王との会談は、先方の要望に答えるだけでなく、姫の存在を認め、龍の国の王位継承者を認める後ろ盾となってもらう意味も含まれることになった。

「手を打っておく…べきか?」

ハウンドのつぶやきに、レイモンドは、決めるのは君だよ。と肩を叩く。

「オレは手、打っておくべきだと思うぜ?」

部屋に戻ってきたパルが、口を挟む。

「お前…」

「説教は後にしてくれ。それより連絡は早え方がいいぜ?」

パルはハウンド言葉を遮る。

ハウンドは不服そうな顔をしたが、部屋の隅に待機していたカレンを呼び出す。

「カレン、すぐにオルカに繋いでくれ。」

その声の重大さに気付いたのか一同はカレンを囲むように集合する。

つながりました。というカレンの言葉の後、オルカの気の抜けた声がする。

カレンの口から発せられるオルカの声。という奇妙な状態だが、気にしている場合ではない。

「んだよ猟犬。どいつもこいつも朝から連絡してきやがって。」

どいつもこいつも。という言葉にひっかかりつつ、ハウンドは連絡を始める。

「今から天の国で会合が始まります。相手はソラウ・ソラとレイア姫。その動きに乗じて龍の国に教団が入り込む可能性があります。申し訳ないですが…」

「わぁてる。ドルフィンから聞いた。港小島に民間の船団が集結しつつあるってな。ドルフィンとバイソンが後1時間もすれば龍の国に戻る。こっちの防衛戦力はアタシと戦艦オルカ、ドルフィン、バイソン、あともう1匹だ。」

ハウンドの言葉を遮るオルカ。あともう1匹。というのはホエールの事だろう。

対応可能ですか?ハウンド返答にオルカは少し唸る。

「敵の規模が分からねえんじゃあな。足止めがせいぜいかもしれん…」

「俺たちは会合が終わり次第、合流します。教団の動き次第では誰かをそちらに送るかもしれません。」

ハウンドの言葉を聞いて、トータスが前に出る。

「移動手段が少し足んねえ。増援が要るようなら俺が今からでも向かうが?」

「まあ、心配は要らんだろうぜ。」

その言葉を聞いて、パルは少し不安そうな顔をした。

音声しかつながっていなかったが、オルカはパルの心情を察したらしい。

「パァル。また辛気臭い顔してんじゃないだろうね?心配ねえよ。お前を泣かすような事にはなんねえよ。」

パルは、お見通しかよ。と笑う。

「ハウンド、悪いんだが姫と話せるか?無理ならそれでいいが。」

その言葉を聞いて、レイアは前に出る。

「私がドラゴ・レイアです。貴女のことは聞いています。海軍のルビリア・サフィアさん。」

レイアの声を聞いたオルカは改まった声で話す。

「レイア姫。申し訳ありません。そのうち会えると考えていたのですが、せっかちな性分なもんで。」

「気にしないでください。これから起こることは全て私の命によるものと、そう考えてもらって構いません。」

レイアの言葉にオルカは少し低い声で返す。

「では、アタシ達はこれから、貴女の命で殺します。貴女の障害を。貴女の母上の仇を。」

その言葉を聞いて、レイアは返す言葉に詰まる。

少女の殺意で行われる戦闘。

命の奪い合い。

理解したつもりでいたが、改めて言われるとどう考えるべきか。迷ってしまう。

しかし、はっきりと、彼女は彼女の覚悟を示す。

「では、龍の国の姫として改めて宣言します。これから私の命令で戦ってください。ただし、死ぬことは許しません。貴女がパルを泣かせるようなことをしないように、私を泣かせるようなことはしないでください!」

レイアの言葉はオルカだけでなく、パル達にも向けられていた。

カレンを除く、レイアを囲む全員がその場にひざまづいた。

彼女のカリスマ性はすでに開花している。

静まり返る一同。

「サフィアさん。ありがとうございました。私の覚悟を試していただいて。」

オルカは、恐縮です。と答えるのみだった。

オルカ自身、試すつもりはなかった。

単に、彼女に覚悟がないのならそれはそれで自分たちの意思で実行に移すだけだと伝えるつもりだったが、彼女の覚悟を聞き、身の引き締まる思いでもあった。

会合まで後1時間。

会談は前半30分、後半30分の計1時間。

港小島から龍の国までおよそ2時間。

天の国と龍の国。

この2か所で行われるであろう戦闘が、龍の国のテロに端を発する一連の事件を締めくくることになるだろう。


次回は水曜日

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