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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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1-38 天を覆う

ソラウ・ツスル【個人情報】

天の国事務局長。

同国のNo 2であり、国王ソラウ・ソラの義兄でもある。

先王の時代に次期後継者がいなかったために養子として迎え入れられたがほぼ同時期に王妃の孕っていた子供が出産されたこともあり、継承者から外れる。

だが、腐らず国のために尽力したことが認められ、彼にポストを用意するよう求める陳情がなされた。

彼の使う言葉は医の国の一部に伝わるものだが、国民の前に出る機会の多い彼が使っていることもあり、天の国では地味に浸透している。


パルとレイアを残しAiユニットを出た面々は先ほどの控え室にいた。

「意外だよ。レイモンド・サイカーがこの件にしっかり突っ込むとはな?」

トータスがレイモンドに絡む。

この2人は初対面になる。

「意外?僕は単に僕の目的のためにやってるだけだよ。」

「はぐらかすんじゃねぇよ。さっきのお前さんは感情的だった。娘と姫を重ねたか?」

レイモンドは笑う。

「そうかもね。」

その寂しそうな視線はAiユニットに向けられていた。

シマヅはドクとの医療談義に花を咲かせている。

専門用語の飛び交うそれを聞いていると、学生時代を思い出し、眠気が出てくるハウンドは少し距離を取る。

「悪いんやけど今日はここまでや。姫が即断即決とは思うてなかったもんやからこっちの準備ができとらん。会談の方は早いうちにセットできると思うが、調査の方は本当にノープランや。」

申し訳なさそうにツスルはハウンドに言う。

通信での荒れっぷりを見れば、トータスの強引さが見て取れる。

「問題…ないと思いますよ…?ただ、サーペント達が龍の国の復興を始める場合は、すぐに龍の国に戻ることになると思いますが。」

ハウンドの言葉は間違ってはいない。

仮に教団が龍の国復興を進めることとなればハウンド達の動きは拘束される。

当然、天の国の調査などできるはずもない。

「助かるわ。ワシは会談の調整始めるさかい、車で適当に戻ってきてくれ。ドライバーには伝えてあるさかい。」

ツスルはそう言って早足で部屋を出る。

天の国国王ソラウ・ソラ。

表舞台に出ることは少なく、外交も消極的な歴代の国王の中でも特に露出が少なく、ツスルを除く一行は顔を知らない。


AiユニットのMRI室から出てきたレイアをパルは出迎える。

レイアの目は赤い。

「いいんですか?」

パルは優しく声をかける。

「……なんで、なんでしょうね…本当に…」

震えるレイアをパルは優しく抱きしめる。

「覚えてないんです…!それでも!顔を見たら…!涙が…止まらなくて…」

龍の国の王女とその娘。

その事実が。

娘が選べなかった出自が。

今こうして残酷な再会を生んだ。

本来であれば2人は親子としての時間を飽きるほど過ごすことができたのだろう。

それを許さなかったのは不運とごく一部の身勝手だ。

「泣いていいんです。オレ達は…生きている奴らはそうやって、死んだ人を忘れない。死んだ人が残した何かを見失わずに進むんです。それを見失わないなら立ち止まっても泣いても…いいんです。」

パルの言葉は、他でもないアリアンナから貰った言葉だ。

この言葉もまた、故人アリアンナからパルが受け継いだものだ。

遺体の保存状態を維持するためにMRIのある部屋は温度が低く設定してある。

そこで冷たくなったレイアをパルはゆっくりと温めた。

嗚咽混じりの泣く声は姫のものではなく、ただ家族を失った1人の少女のものとして静まり返った部屋に響いた。


パルとレイアがハウンド達と合流した後、シマヅと別れ、用意されていた車で天の国の王城に戻り、再び会議室に通された。

パル達が各々自由に過ごしているとツスルが慌てた様子で入ってくる。

「何から話せばええんや!」

「俺に聞くな。」

開口一番混乱したツスルの言葉にトータスが冷静に返す。

「とりあえずここは禁煙や!自分ら肺いわすで!」

「そこじゃねぇだろ。絶対。」

パルはトータスの携帯灰皿にタバコを捨てる。

「落ちついてください。何があったんですか?」

「ちゃうねん!えっと…アレや!あの…アレ!」

どちらが年下かわからないレイアとツスルのやり取り。

ツスルは思い出したのか手を叩き、

「会談や!明日の昼!会談!君らも一緒に!」

一同、驚きの声を上げる。

一国のトップと他国の姫との会談は明日と言われてできるものではない。

事前の準備を踏まえてやるものだ。

だが、数日前にトータスが強引に押しかけ決まった会談が明日の昼に決まった。

会談まで20時間もない。

加えて、トップとの会談にパル達まで含まれるのは異例中の異例だ。

そもそもパル、ハウンド、レイモンドは世間的には指名手配中である。

「ええか!ワシは伝えたで!極秘会談!前半が君ら込み、後半は姫とソラのサシや!」

ツスルはそう言って慌てて部屋を出る。

関係各所との調整が夜通し続くのだろう。

残された一同はただ茫然とするだけだった。


会談の電撃決定から2時間後。

天の国下層にある廃倉庫のひとつでは、1組の男女が乞食の男から報告を聞いていた。

「王城ないの動きが慌ただしいです!どうやら龍の国の要人と国王が面会するとか。」

乞食は男から小銭をもらうと、それを大事そうに抱えて倉庫を出る。

だとよ。男が倉庫の奥の闇に向かって語りかける。

「ファエル、リエル…戦の準備を。明日の会談に合わせて仕掛けましょう。私は準備があるので。」

男の気配はするりと闇から消える。

男の方が、

「サーペント…またくだらねぇ策をこねてんな?」

と呟く。

「グディは残念だったわね。お祭りの前に博士の護衛だなんて。」

女の方はそう言ってタバコに火をつける。


それから3時間後。

大規模なデモの動きがある。との報告を聞いたツスルは徹夜で仕事をしても間に合わないことを悟り、ボロボロの執務室に閉じ籠り3時間の仮眠をとった。

目が覚めた後、部屋の前に貼られた大量の付箋を見て仮眠をとったことを後悔していると、

「なんだこりゃ?便所の落書きの方がまだアートだぜ?」

パルに背後から声をかけられる。

「自分な?女の子なんやから便所の落書きなんて下品なジョーク言うたらアカンで?」

ツスルはため息をつく。

「忙しそうだな。寝床があるか聞きたかったが、あの部屋で寝ていいか?」

ツスルは自分のタスクを思い出す。

「ホンマにすまん!飯と布団持って行かせるわ!」

ドゲザスタイル。

彼の故郷において命乞いのために行われる、正座して額を地面につける謝罪の姿勢だ。

「あぁ…気にすんな。明日だけどよ、サシの会談の時、近くの部屋に待機させてくんねぇかな。とりあえずオレとハウンドとイーグルとトータスの4人だけ。残りは船で待機するからよ。」

ツスルは頭を上げる。

「わかった。そう言うことやったら問題ないわ。こっちも剣聖を護衛役にできたからそいつと同じ待機部屋に入ってくれ!」

あまりの勢いにパルは圧倒され、お…おぅ?と生返事をするとツスルは飛ぶように立ち上がり走り出す。

会談まで後12時間。


次回は水曜日

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