1-36 ヤマギ一刀流
ヤマギ一刀流【一般情報】
別世界から来たヤマギ・タイジと名乗る人間によって伝えられたとされる剣術。
一刀流の名の通り、刀一本を獲物に様々な型を用いる。
ただし、『未来を見てカウンターする』や『斬撃を気合いで飛ばす』果ては『ステップが肉眼で捉えられるうちは使えない』なと完全に超人というより人外向けの剣術でありほとんどの技は失伝したとも言われている。
天の国の王城から車で10分ほどの場所にある王都大学附属病院は外科や内科だけでなく呼吸器科、耳鼻科、皮膚科の専門医が揃い、機材や教育体系含め天の国を支える大病院だ。
ここには中層、下層にある診療所などでは対処できない患者も運ばれてくる。
車を降りた一行は地下にあるAiユニットへ向かう。
MRIは扉の奥のようで重厚な扉に注意書きが貼ってある。
その前に白衣を着た1人の男が待っていた。
「診断を担当するシマヅくんや。年間10000を超える症例を担当しとるプロ中のプロや。」
「言い過ぎですよ。多くて5件がせいぜいです。」
「ビビらしたら勝ちや。年間10000件もやっとる言うたらうちの家族もしてもらわなアカン思うやろ?」
シマヅとツスルの理にかなった様なそうでもない様な話を聞き流す一行。
その後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、一斉に振り返る。
見覚えのあるスーツを着た長身の男がそこにいた。
「シマヅ先生。ご遺体の準備ができました。」
「店長?!」
最初に気づいたのはパルだった。
龍の国でヤタ重工製の製品販売を行っていたシンゴだ。
「お久しぶり…でもないですかね。ライターの調子はいかがですか?パルさん。」
パルは答える代わりにライターを見せる。
シマヅはMRIの検査台に載せられたフレイルの遺体を確認し、位置を少し直す。
「ご遺体については僕の方で引き継ぎます。30分ほどかかりますので待合室へどうぞ。」
シマヅはそう言うと一行から見て左にある部屋へ案内する。
「「ここって禁煙か?」」
パルとハウンドはまばらに着席しようとする面々に声を揃えて聞く。
「よう病院でタバコ吸えると思うたな。外もダメやで、一応君ら指名手配なんやし。」
声が聞こえてきたのかシマヅが戻ってくる。
「タバコなら地下駐車場の一角に喫煙エリアありますよ。」
2人はそれを聞くと迷わず歩き出す。
「仮にも医者がタバコ吸わすんか?」
少し呆れた様子のツスルの言葉に、
「実は僕のために作ってもらいまして…」
と、シマヅは申し訳なさそうに言う。
「病気に気ぃつけてな…」
シマヅはその言葉を背中で聞くと足早に部屋を出ていった。
天の国下層にはいくつかの廃工場や廃倉庫が存在する。
それは企業の撤退や建て替えによって不要になったものだが、廃棄コストの関係でそのままになっているものも少なくない。
その一つに剣聖カインはいた。
「話とは?」
王城からの連絡役に言われてここに来た彼は取り囲まれていることに気づく。
「王の飼い犬となった剣聖に我らが鉄槌を下す!」
倉庫に響く声。
すると一斉に取り囲んでいたもの達が姿を現す。
その数およそ15名。
手にはN-PAAのマシンガンが握られている。
「やめておけ。そんな大型の火器は素人に扱えるものではない。」
剣聖の言葉を無視して一斉にマシンガンが火を吹く。
「やったか?!」
一斉に豪雨の様にして浴びせられた弾丸に流石の剣聖も蜂の巣になる。
引き金を引いた全員がその確信を持っていた。
しかし、その確信は悲鳴によって粉砕される。
剣聖は発射と同時に素人の肉眼では捉えられない速度で跳躍、銃撃が止むまでの間、天井の梁で待機していた。
そして、取り囲んでいる人間を上から確認すると手近な人に向かって落下しながら剣を突き立てたのだ。
「打てっ!打てぇぇ!」
男達の誰かが声を上げた。
一斉に銃口が向けられるが、先ほどと同じ様に剣聖は文字通り目にも止まらぬ速さで次の標的へ跳ぶ。
「ヤマギ一刀流弐式…瞬十字」
ヤマギ一刀流瞬十字。
それはシュクチと呼ばれる高速の歩法によって間合いの外から急接近し、正中線をなぞるように両断、そのまま踏み込んだ足を軸にして横薙ぎする業だ。
極まった達人がこれを使うと遠距離から一瞬で相手を十字に斬ることから名付けられた。
無論、剣聖を名乗るカインのそれは見事なまでの十字であった。
悲鳴を上げる間もなく、1人が死んだ。
男達は銃口を合わせることがここまで鈍重に感じるとは思わなかった。
「伍式…飛燕!」
剣聖の剣が一瞬光を張ったかと思えば無数の光の矢が彼らを襲った。
ヤマギ一刀流飛燕。
避けること叶わず。
見惚れざること叶わず。
ヤマギ一刀流で最も美しいとされる業だ。
トウキと呼ばれる魔力の様なものを燕に似せた光の矢として飛ばすのだ。
カインのそれは燕の群れというのは生優しく、視界を覆い尽くさんとする数が一斉に襲いかかる。
その姿は見惚れるどころか恐怖を与え、大蛇に見入られたカエルの様に動きを封じる。
一見派手に見えるがその実、攻撃する燕は全体の3割程度で、他は揺動という極端な配分にカインの遊び心が見える。
燕の通り過ぎた後は見るも無惨な残骸が転がり、悲鳴が上がる。
「隙ありぃ!」
剣聖の背後から1人の男がナイフで斬りつけんと飛びかかる。
背後を取られた剣聖の動きは流水の如き緩やかさで反転。
驚くことに剣聖は納刀している。
この状況での抜刀術は悠長とも言える。
「参式貫刃…」
ヤマギ一刀流貫刃。
ヤマギ一刀流の中でも特に難易度の高い業とされる。
相手の動きを先読みし、大振りの隙を付き一閃を放つ。
斬られた相手は立ち尽くす己の下半身を見るまで自らの死に気付かないとまで言われる。
つまり剣聖は納刀して振り向いたのではない。
『反転しながら斬りつけ』納刀したのだ。
残り2人。
剣聖の動きに無駄はない。
納刀もまた、次の攻撃への一手なのだ。
倉庫の出口へ逃げようとする2人との距離は約12メートル。
シュクチで20メートルを詰めることができる剣聖には、目の前にいるのも同然だ。
「壱式半神一刀。」
ヤマギ一刀流半神一刀。
半神と呼ばれる身体強化を用いた抜刀術。
半神はシュクチの距離を倍にするほどの強化であり、その一刀は分厚い魔力壁すら大根を斬るように両断する。
その威力、まさに神の一刀。
出口に固まった2人の男を両断し、倉庫の壁さえも一本の線に捉える。
「これぞヤマギの剣。代々人ならざるものを斬るため研鑽されてきた剣だ。」
剣聖の言葉は先程、貫刃で斬られた男へ向けられていた。
不可思議極まることに両断されたはずの男は奇術のように元に戻っている。
「いやはや。流石と言うべき…ですかね?」
倉庫には剣聖と斬られた男、そしてもう2人。
いつ増えたのか。
そんな不可思議が今、目の前で起きようとも剣聖は動じない。
次回は水曜日




