1-35 天の国事務局長ソラウ・ツスル
Ai【一般情報】
死亡時画像診断とも言われる。
文字通り死体をスキャニングし、データを元に死因を特定する。
スキャニングには通常、外科や内科で用いられるMRI(Mana Resonance Imaging)などが使われる。
解剖と異なり短時間かつ遺体を傷つけずに死因の究明が行える。
一方で画像から死因を特定するための知識を持つ人間が少ないこと、認知度の低さなどから全ての遺体がAiにかけられるわけではない。
ノーチラスは天の国の裏手へ来ていた。
この場所は過去に砦の国と呼ばれる小国が存在していたが、こともあろうに領地拡大のために天の国へ進行した。
結果は言うまでもなく惨敗。
加えて危険分子として国は解体され天の国が持っていなかった港を献上する形となった。
一部では、この進行は天の国から脅迫される形で行われたのではないかと言われているが真相は不明である。
天の国近くに潜航していたこともあり、天の国への移動は2時間ほどだったが、到着する頃には日が沈みかけていた。
ノーチラスは誘導されるまま天の国の軍港へ入るとトータスが出迎えに来ていた。
その顔はパル達の予想通り大きく腫れており、鼻には詰め物がされていた。
「なんだそのツラ…」
パルの言葉にトータスはバツの悪そうに笑って誤魔化す。
「その辺含めて後でまとめて話すさ。」
一行は軍港から連絡通路を通り天の国上層へ向かう。
行政機関が集中する区域であり、特に山の頂上付近にある王城は国王の執務室などを含め、天の国という巨人の心臓とも言える。
その3階についた一行は廊下の1番奥の執務室へ足を踏み入れる。
名札には『事務局長ソラウ・ツスル』と書かれている。
正確には扉の様に入り口を不格好に塞ぐ板なのだが。
トータスが扉を開けようとするが、板は器用に挟まったらしく動かない。
「開かねぇぞ!オイ!」
「ぶっ壊しゃええやろ。ボケたんかぁ?!」
トータスが吠えると中から通信で聞いた声が返ってくる。
トータスは帰ってきた声を聞き、満面の笑みで拳を握ると、パルが止めようと声を出すよりも早く右ストレートを発射する。
大砲の様な轟音がし、扉は勢いよく室内へ向かって飛ぶ。
粉砕されなかったのは流石の建築技術なのかトータスの技術かはわからない。
板は拳を受けた場所を中心に円錐形に変形し、入って正面にある机を破壊しながら窓を突き破って外へ飛んでいく。
「あっぶねぇやろがい!脳みそついとんのかおのれぇぇぇぇぇ!」
中にいたと思われる男は最初に入ってくるだろうトータスに雄叫びを上げながらドロップキックを放つ。
だが、運が悪かった。
最初に入ったのはあまりの突飛な行動に対して、室内にいる人間を心配したレイアだった。
「アカァァァァァァァァァァン!」
レイアは防御の姿勢を取ることもできず、震える瞳には涙を浮かべている。
だが、レイアの周りにいるもの達はそれを黙って見る様な間抜けでもなかった。
イーグルが咄嗟に壁を展開。
ハウンドはクロガネによってレイアを部屋の奥に突き飛ばし先回りしたツムジが風で受け止める。
パルはドロップキックで空中で伸びた体を踵落としで撃ち落とそうとする。
トータスはその動きに合わせ、アッパーで背中側から挟む様に打ち上げる。
レイモンドとドクは思わず目を瞑った。
(アカン…)
男は空中で死期を悟った。
ドロップキックが壁にヒットし、衝撃で体がとまる。
この時点ですでにレイアは部屋の奥にいる。
パルの踵を両腕でガードしようとするが、反応を察したパルの足はさらに加速する。
「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
鳩尾と腰に挟まれるように攻撃され、普通であれば胴体が引きちぎれてもおかしくないはずだが、男は痛みに悶絶し、部屋の隅でバタバタと叫び暴れる。
「なんだ…こいつ…」
パルは遭遇したことのないタフネスと部屋に入ってくる人間を確認もせず攻撃する見境のなさに呆れる。
「こ…こいつとは…え…えらいなご挨拶やな…ルビ白のパルゴン…」
「トータス、こいつ撃っていいよな?」
名前を間違えられたパルはアギトを引き抜き笑顔でトータスに確認をとる。
恐ろしいことに銃口は男の眉間を捉える。
「な…なんなんや!冗談の通じひんやつやのぉ?!」
男は体を起こし、床に座り込む。
「的が動くんじゃねぇよ。」
パルは笑いながら引き金を3回引く。
弾は男の両耳と頭頂部で三角形を作る様に壁に着弾する。
「なんで避けなかった?」
パルは真顔に戻って聞く。
「殺気がなかったからや。それに本調子やないようやしの。」
男は立ち上がるとレイアの前に行き膝をつく。
「お初にお目にかかります。私はこの天の国で事務局長をしております。ソラウ・ツスルと言います。」
そして立ち上がるとパル達の方を向き直る。
「なんか色々とすんまへんなぁ…そこのクソボケアホカメが全部悪いんです…」
と、申し訳なさそうに頭を掻く。
外ではレイモンドとドクが目を瞑ったままだった。
一行はツスルと共に一つ下の階にある会議室に通された。
ただでさえ破壊の限りを尽くされたであろうツスルの執務室はさらに破壊され扉はおろか部屋の奥三分の一ほどは床すら無くなった。
「えーっと。何から話したらええかのぉ…」
ツスルはあごを撫でる。
「じゃあとりあえず俺から話をするぜ。」
トータスが割って入る。
「俺は龍の国のテロ事件の後、仕事のために何度か龍の国に戻った。一つは龍の国の被害状況の確認。もう一つが陛下の遺体回収。そして花壇の手入れ。」
そう言うとトータスは机に麻袋を置く。
土汚れが目立つが、パルだけは合点が入った様だった。
「わざわざ取りに戻ったのかよ。」
「ほっとく訳に行くか。元々俺がアリアンナから言われたんだぜ。」
パルの言葉にトータスは笑って答える。
「レイア姫に御足労願ったのはフレイル陛下の死因究明のためです。」
ツスルは一枚の書類をレイアの前に置く。
「Aiと言うそうだ。ドクならわかるか。」
トータスはツスルのセリフを取る様にしたドクに投げかける。
「確か、死体をMRIにかけて画像診断すると言うやつか?導入しているのは天の国と医の国ぐらいで龍の国では前例がないはずだ。」
ドクの解説を聞いたツスルは、ほう。と感心した。
認知度の低い方法であり、前例が龍の国になければ知る手段は少なく情報の質も希薄なものになるからだ。
「せや。ご遺体を画像解析する。もしかしたら犯人の確定に使えるかもしれんからな。そして、うちのルールとしてご遺族。つまりレイア姫の同意が必要なんや。ご遺体は傷つけんし解剖と違って短時間、かつ埋葬後も撮影したデータさえあれば振り返って確認可能や。」
「ちょっと待て、陛下は心臓を打たれてた。今更確認の必要は…」
反論したのはパルだった。
確かにフレイル暗殺は銃によるものだ。
俺が答えよう。トータスはそう言って続ける。
「陛下の手首に針金のようなもので拘束した跡があった。椅子の肘掛けにもだ。それでいて抵抗の跡はなかった。つまり、椅子に縛られて打たれたことになる。恐らく死亡した後にな。」
てな訳で。とツスルがサインを促そうとするがレイアはすでに書き終え、紙をツスルは渡そうとしていた。
「はっやぁっ!?ごっつ早いやないですか…」
「私にしか書けないのなら書きます。それと…検査の後で構わないので母に会わせてもらえますか?」
レイアの声は少し震えていた。
ツスルは紙を受け取ると、
「無論です。検査後になりますが時間を設けさせてもらいます。」
ツスルは紙を外にいる職員に渡すと再び部屋に戻る。
麻袋に入った球根を確かめながらパルはツスルに聞く。
「タダな訳ねぇな?条件を言えよ。」
鋭いのう。ツスルは苦虫を噛み潰したような表情になる。
「パルちゃん言うとおりや。Aiやんなら条件が2つある。一つ目はこの国にいるトラ教団の調査、もう一つはレイア姫とうちん国王、ソラウ・ソラとの会談や。」
場が凍りついた。
二つ目の会談ではなく一つ目である。
トラ教団の調査依頼。
明確に教団と敵対しているパル達に対して依頼すると言う筋が通っている一方、天の国内部に教団の関係者がいる可能性があると言うことになる。
それは龍の国や港の国同様であり、この2つの国に続いて何かしらのトラブルが秒読みであるとも言える。
「天の国いうとこは中層のごった煮状態が長いこと続いとる。ホーレスやら孤児やらやな。当然、反発も少なからずある。しゃあけど最近その動きがきな臭うなってきた。」
ツスルは椅子に座ると少し貯める。
言葉を選んでいる様にも見えた。
「抗議運動。要するにデモや。そのデモ隊が武装をはじめとる。そして、その裏にうちの軍が関与しとる可能性がある。いや、下層の工業エリアの連中もか…」
ツスルは天を仰ぐ。
「構図としては上層の軍隊、そして下層の工場の連中が中層の連中を使って武力的なクーデターもしくはテロを計画している可能性が高い。」
ホエールの補足に対し口を開いたのはレイアだった。
「なぜ、上層の軍隊だけでなく下層の工業エリアが関与していると?」
「天の国の軍隊で扱う火器は徹底的に管理されとります。NonN-PAAつまり、個人認証式しか導入しとりません。これは他国からの持ち込みも禁止しとります。会談の際なども護衛には認証式を持って来させてます。しかしデモ隊の火器はN-PAA、つまり誰でも扱える火器を持っとるんです。それを輸入できるんは下層エリア。工場で使う資材と同時に持ち込まれとる様なんです。」
トータスが口を開く。
「そうじゃねぇとあの数はちと説明がつかん。300人規模の大規模デモでそのほとんどが禁止されてるN-PAAを持ってやがる。おそらく数は500はあるだろうな。」
「逮捕はダメなの?要は密輸でしょ?」
レイモンドの言葉にツスルは首を横に振る。
「無理や。所持しとったからとしょっぴいても収監する場所も個人を特定することもできん。密入国やらもあるかもしれんがそれを300人規模で一斉にやるんは現実的やないし、下手に抑えれば弾圧としてテロやらクーデターの口実を与えかねん。」
「むしろ殺したり逮捕したり、そういうアクションをさせるためにやってるとも言えるな。」
パルも口を挟む。
大義を得た人間ほど恐ろしいものはない。
正義である。という認識はそれほどまでに人を安心させる立場はないのだ。
「せやから君らに頼むんや。細かいところは受けてくれたらやろうや。まずはAiや。準備できとるはずやで。」
そう言ってツスルが立ちあがろうとする。
「いえ、断るつもりはありませんよ。実を言うと我々は教団を潰すために集まった様なもんなんで。」
ここでハウンドが初めて口を開いた。
「ええんか?楽な仕事やないし下手したら君らの罪が増えるんやで?」
ツスルは驚く。
「どの道、教団を明るみに出さなきゃオレとハウンドは犯罪者だ。」
それに。とパルは言うと、立ち上がって左手首に嵌められたままの手錠を振って見せる。
「一個も二個も変わんねえって。」
「ホンマ頼もしいわ。君ら。」
ツスルは味方が増えたことを嬉しく思うのだった。
次回は土曜日




