1-33 10年前
ヒコノ【大書堂観光課評価 ★★★☆☆】
砂の国に行ってみたい!と夏以外に思ったらヒコノです。
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ノーチラスは龍の国近海深くにとどまっていた。
パルの負傷、イーグルと少女の合流、カレンの起動。
立て続けに起きた出来事に全員がついて行けていなかった。
エルカを振り切って約一時間。
やや手狭となったブリッジには、少女とパルを除く全員が集合し、重苦しい沈黙の中にあった。
「とりあえず…再会を喜べばいいのか?」
沈黙に耐え切れなくなったイーグルが口を開く。
「ん?そうなのか?」
完全に油断しきっていたハウンドは反射的にドクに聞く。
「いや、ワシは初対面なんだが?」
ドクは呆れ、レイモンドもまた、僕もだ。と答える
「自己紹介した方がよさそうだな。俺はイーグル。元大魔導の長で元龍の国陸軍第一魔法中隊中隊長。ハウンドとは同期になる。」
ドクたちはイーグルに名乗り、握手を交わす。
「ドラゴンの容体はどうなの?」
最後にドクと握手を交わしたイーグルは問う。
「命に別状はないよ。ただ、しばらく安静にしとく必要はあるな。」
「まず、お前の状況を教えてくれ。イーグル。」
ハウンドは回答を待ったうえで問いかける。
「ちょっと長くなるぜ。まず、フレイル妃が極秘裏に出産するって話しがでた。理由は国王夫妻が権力闘争の道具に子供を使わせないためだ。だから妊娠が判明して早い段階で砂の国に休暇として戻ったわけだ。」
イーグルの発端は20年ほど前まで遡る。
当時の世界情勢は表面上、安定していたと言える。
国家間の闘争は少ない兵力の減少と共に沈静化し、不可侵条約の締結が活発化。
要因としてとりわけ大きかったのがキメラ兵士に端を発する兵士の減少である。
兵士の数はゴーレムが補うという常識が存在していた戦場に、ゴーレムを簡単に破壊してしまう存在が登場していった。
作られた英雄と揶揄されたそれは瞬く間に戦場の主役となり、いち早く導入した風の国は他国との戦闘で大きく優位に立った。
一方でそれらは大きなパワーインフレを起こしたといえる。
ゴーレムをキメラ兵士が簡単に倒すことが常態化すればそれを排除するためにデザインベイビーによるゴーレム隊が発足。
一糸乱れぬ統率力と圧倒的な数を持ってキメラ兵士を轢殺する。
そうなれば魔法の扱いに長けた人物で構成された部隊が術者をピンポイントで遠距離から攻撃する。
貴重なデザインベイビーを失いたくない故、軍艦からの指揮が基礎戦術となれば今度はデザインベイビーとそれに合わせて設計された軍艦が登場。
ゴーレム用指揮官ごと戦艦を沈める。
その極致にいたのが龍の国が製造したドラゴン(パル)である。
デザインベイビーの戦艦を単独で潰し、キメラ兵を圧倒、ゴーレムによる数の暴力に対して龍閃という馬鹿げた範囲魔法で対抗する。
異常ともいえる戦闘能力により瞬く間に戦況は龍の国とその同盟傘下優勢へと傾いた。
しかし、当時の龍の国国王ドラゴ・ドライム8世は他国の滅亡を良しとせず、侵略戦争を行わなかった。
諸説あるが、単に拡大した領土の統治や難民の救済を嫌ったと見られている。
いずれにせよ、ホエール率いる海軍、ドラゴンを含む指折りの精鋭の揃う陸軍は軍事国家である龍の国でも過去に例を見ないほどの強大な戦力を基に外交的強者となった。
これにより、敵対関係にあった風の国、刃の国などは不可侵という約束のために非常に不利な条約を飲まざるを得なくなった。
イーグルの所属していた大魔導はこのパワーインフレへの対抗策を期待されたのだが、複雑化する魔法と、ヤタ重工のN-PAAシリーズのような魔力式火器の普及で需要が大きく下がり、結果として複数回の縮小をへて、解散となった。
特に魔力式の火器は、複雑な術式や専門知識を必要とし、各個人の魔力量に応じた調整を要求する旧式の魔法に対し、簡易で使い手を選ばないものとして一挙に戦場のメインアイテムとなった。
時は大魔堂解散が発表された10年前へと進む。
龍の国の王妃であったフレイルに妊娠が発覚する。
だが、ドライム8世は自信がまだ29歳であったこともあり、後継者を静かに、ゆっくりと育てる方針を取った。
まず、一般的な暮らしを経験させるため妻の実家のある砂の国での生活を決めた。
無論、龍の国の弱点ともなりえる存在になりかねなかったため、当時、大魔導長であったイーグルを行方不明として護衛に付かせ、王城の使用人の中でも信用できる数名を共に送り込んだ。
だが、この目論見は簡単に崩れた。
国王ドライム8世が当時流行したウイルス性の病にかかった。
長年の無理を押して戦争を続けていた体に病が、最後の一撃を加える形で感染から約半年で死去する。
砂の国にいたフレイルは死去の直前に龍の国へ帰国。
彼女の意思を察知した国王は遺言でフレイルを女王とする。
結果として、強大な戦力を持つ軍隊が権力闘争の末、分断、諸外国を巻き込んでの戦争となることを回避することになる。
近隣の麦の国をはじめ、龍の国との軍事的衝突を避けたい各国もまた、フレイルの就任を後押しした。
イーグルは護衛役として砂の国に単身残り、生まれたばかりの子供を守り続けていた。
いつ終わるかもわからぬ任務であったが、その仕事はある意味でハウンドたちとの合流で終わったと言える。
イーグルがひとしきり説明を終えると再び沈黙がブリッジを支配した。
パルの言う切り札が王族の直系というのがあまりにも突飛であったこと。
それを祭り上げ、龍の国を改めて始動させること。
それが自分たちの都合でしかないこと。
先ほどまで饒舌だったイーグルは、この沈黙がハウンドたちのやろうとしていることを理解するに十分な材料となった。
「とりあえずパルの奴に話を聞く必要があるな。それとイーグルの守っていたあの子…いや姫様と呼ぶべきか…今は眠っているがあの子にも話を聞く必要があるだろ…」
ハウンドは疲れ切った表情でそう告げると力なく、解散。とこの場を閉めた。
次回は土曜日




