1-30 砂の国
大魔堂【一般情報】
龍歴289年まで存在した研究機関。
龍の国が中心となって立ち上げられ、多くの魔法使い達が研究を行っていった。
しかし、ヤタ重工のサンキョウ大陸進出や魔法の簡易化が求められる風潮にそぐわないとして解散となった。
また、280年後半ごろから後継者不足に悩まされており、それも解散の理由として挙げられる。
サーベルタイガーの宴は日の出まで続き、皆、甲板で寝ていた。
正確にはレイモンドとドクはノーチラスに戻っていたが、残りは酔い潰れるまで飲んでいた。
「起きろよ。」
ハウンドは誰かに蹴られて目を覚ます。
頭に棒を突き刺されているような二日酔いの痛みが感じられる。
蹴り起こしたパルも同様らしく、再生したばかりの右手は頭を抱えている。
「あー…まて…いいのか?」
ハウンドは自分でも何に対しての疑問かはっきりしてない。
「ママ達か?これまでずっと生きてきたんだ。これ以上一緒にいたらオレ達の方が迷惑かけちまうよ。」
パルはそう言って奥のカウンターを指差す。
そこには大書堂で回収した札束がそのまま置かれている。
作戦中も懐に入っていたためか少し汚れている。
ハウンドは、わかったよ。と言って立ち上がる。
港の国の街を照らし始めた朝日が眩しい。
パルがマザーに連絡するとサーベルタイガーに横付けされたノーチラスの右舷ハッチが開く。
2人はそこ目掛けて飛び降りるようにして船内に入ると、ノーチラスは深海へ戻って行った。
ブリッジに集まったハウンド、パル、ドク、レイモンドの4人。
昨夜の騒ぎに加え、夜明け前に起こされたこともあって全員の表情は暗い。
「なんで集まったの?」
レイモンドが気怠げに口を開く。
「行き先だけ決めようと思って。」
ハウンドはそういうとパルの方を見る。
パルは火をつけようとしたタバコを箱に戻す。
「行き先は砂の国。陛下の切り札を取りに行く。」
パルはそれだけ伝えるとふらふらと自室に向けて歩き出す。
「んじゃ、そういうことで。マザー、何時間かかる?」
ハウンドの問いにマザーは、10時間ほどです。と答える。
「はい、解散。マザー着いたら起こしてくれ。」
ハウンドはそう言うとふらふらと自室へ向かう。
レイモンドとドクもまた、同じように歩き出す。
深海のノーチラスはエンジンを始動させゆっくりと砂の国を目指す。
パルは姉に会いに行けばよかったと、後悔したが、電源が切れたように自室のベッドに倒れ込むと寝息を立て始めた。
第一天使エルカは砂の国の首都から離れた小さな村を訪れていた。
数日前に忽然とこの場所に現れた無人の村。
怪しまれるのは自然だ。
エルカはここにパル達が逃げ込んだのではないか。という疑念を払拭するために単身、この場に来ていた。
「あんた…誰かな?」
立ち塞がるようにイーグルがフードを目深に被ったエルカの前に立つ。
「旅のものです。できれば宿に泊まりたいのですが?」
エルカはわざとらしく両手を広げ、丸腰であることを示す。
「バカ言え。ガキの家出でももうちょっと荷物持ってるぜ。」
イーグルは杖を構える。
あらあら。エルカはおどけて見せるが、声を掻き消すように周りの家から魔力の砲弾が彼をめがけて一斉に発射される。
この村はイーグルが作り上げた防衛用の要塞だったのだ。
しかし、直撃するはずの砲弾は何処かへ消える。
エルカは小馬鹿にするように首を傾げる。
(冗談じゃねぇぞ…)
イーグルは焦る。
野盗や冷やかしの類ではない。
要塞を構築しているとはいえ、その設備は迷い込んだものを追い出すためのものだ。
ゴーレム程度であれば十分な迎撃能力を有するが、前線クラスの軍人などを相手取るには役者不足であることは間違いない。
「さて。何を隠しているのやら興味が出てきましたよ。」
エルカはそう言ってフードを取る。
「本気…出しますね…」
エルカの言葉に嘘はない。
初対面のイーグルがそう感じるほどの背中に現れた天使の翼は圧倒的な威圧感を放つ。
「貴方、確か大魔堂の人ですよね?なぜこんなところにいるのやら。」
イーグルは翼に気を取られ気づくのが遅れたが、今、あい対する男の顔は龍の国を建国したドラゴ・ドライム一世の肖像画のそれだった。
イーグルは舌打ちをして杖を握った左手を右の掌に打ち付けるように体の前で合わせると、それに合わせて2軒の家がエルカを挟もうとする。
だが、エルカは挟まれるより遥かに速くイーグルの正面へと踏み込む。
「くっ…」
イーグルが苦し紛れに放った右の拳は簡単にいなされ、熊の腕を彷彿とさせるような光魔法でできた爪が腹部へと突き刺さる。
「では、お答えいただこう。ここに何を隠している?元大魔堂長イーグル?」
悲鳴が響く。
抉るように突き立てられた爪は倒れ込もうとするイーグルの体重が加わり、より激しく傷をつける。
「これが…答えだ…」
再び並び立つ民間から魔力の砲弾が飛び出すが、エルカはそれが着弾するよりも素早く離脱した。
死に体のイーグルは砲弾を避けられず、地面を抉り取る威力の前に文字通り骨も残っていなかった。
「全ては虚構…魔法というより奇術かもな。」
エルカの耳に入ってきた言葉、それは今、死んだはずのイーグルのものだった。
エルカは振り返るがそこには何もない。
いや、先程まで自分を囲んでいた村そのものが消えていた。
全てはイーグルの策略であり、彼が逃げる時間をまんまと稼がれたのだった。
「大魔堂長イーグル…面白い…」
月明かりに照らされながらエルカは笑みを浮かべる。
イーグルが凶兆と読んだ星はいつの間にか消え、吉兆の星はより強い光を放っていた。
「そういやどうやって入るんだ?」
翌朝、パルはブリッジに集まったハウンド、ドク、レイモンドに疑問を投げかける。
砂の国の入り口まであと1時間ほどの地点に待機していた。
「「「いや、お前が策を持ってるじゃなかったのか?」」」
芝居のように声が重なった。
パルはキョトンとして、ないけど?と小首を傾げる。
港の国で暴れ回ったニュースはすでに砂の国へも入っているだろう。
となれば、世界中に指名手配されているパル、ハウンドが行けばトラブルは避けられない。
レイモンドも同様であり彼自身、監獄島で残りの人生を使い切るほどの詐欺師だ。
そもそもレイモンドはドクと同じ非戦闘員であり、戦闘の可能性を捨てきれない以上、入国は不適格になる。
「んじゃあ、ハウンド御大にカードを切ってもらうかね?」
パルはハウンドの方を見ながら言う。
「命令書か?あれは今回の単独行動の正当化に使いたかったんだが?」
ハウンドの言葉を聞いたレイモンドは手を叩く。
「いい案があるけど、どうする?あと、ドク。彼女は使えるかな?」
オレはかまわねぇよ。と二つ返事で答えたことをパルは後悔することになる。
次回は水曜日




