1-28 逆鱗
龍の国テロ事件【一般情報】
龍の国で起きたテロ事件。
女王フレイルの暗殺と都市破壊が並行して行われた。
女王含む市民の犠牲者は人口の30%を超える531人。
都市の破壊も大規模で行われ、王城を含む大半の家屋が破壊された。
なお、被害については事件後に押し入った山賊や自警団による被害も含まれる。
「龍の国…龍の国!龍の国ぃ!あんな廃墟にまだ縋るかぁ?」
再生しながらフィエルは怨嗟の声を上げるが、オルカは鼻で笑う。
「お前らがいくら壊そうがまた芽吹くさ。それが国ってもんだ。」
「笑わせるな…花すら燃え尽きた土地に何が芽吹くんだぁ?」
フィエルの怒号。
「消してやる…ここでぇ!貴様らをぉ!」
ホエールもオルカも目を離してはいなかったが、次回からフィエルが消える。
「素人が…」
オルカは気だるげに呟くと立っていた位置から体一つ分ほど引いて引いて右の拳を振り上げる。
オルカの拳はまるで虚空に放ったようだったが、示し合わせたように最速のポイントでフィエルの顎を捉える。
グローブのように彼女の拳を覆う光魔法の壁が、身体強化魔法の上乗せと共にフィエルのかち上げると、空中で回転させる。
追撃を放とうとするオルカはホエールの気配を感じてさらに後ろへ下がる。
「お?サンキュー!」
準備をしていたホエールはおどけて見せると、光魔法で生成した巨大な腕で殴りつける。
打ち下ろすように振り抜かれたそれはフィエルを地面に叩きつけ、バウンドさせる。
「誰が寝ていいっ言ったぁっ!」
今度はオルカが怒声を上げ、左足で蹴り上げる。
喉を捉えた蹴りはフィエルを空中で直立させる。
「いくぜオイ!」
ホエールと異なり、10個の光魔法の塊がオルカの背後から出現する。
「十連!鋼玉光ぉ!」
全力の右ストレートに合わせるように10個の球がフィエルの全身を捉える。
勢いよく吹き飛ばされ、壁に激突するフィエル。
オルカの追撃は止まらない。
一歩踏み込み、前中する。
右足が上に向くとともに雄叫びのような言葉を発する。
「光刀脚閃だオラァァァァァァ!!」
伸ばした右足が光の刀剣に変わる。
その長さは10メートルほどある。
オルカは踵落としの要領でフィエルに刀剣を叩きつける。
無論、街への被害も発生しているがそんなことを気にできるような心情ではない。
オルカは立ち込める土煙の中へ突っ込む。
「潰れちまえよ!」
雄叫びとともに生成した槌はホエールの作ったものより遥かに大きい。
左足でブレーキをかけ、両手で振り下ろさんとする。
「なぁめぇるぅなぁっ!!」
しかしフィエルの右半身は再生しながら、オルカの背後に回る。
オルカは舌打ちしながら、光魔法の壁で大槌の柄を挟むように生成する。
フィエルの右拳が、オルカの頬を掠める。
フィエルの左目が再生中だったために彼は気付くのが遅れたが、オルカは光の壁をレールのようにして振り下ろす勢いをそのままその場で回転を始めていた。
「くたばれぇぇぇぇッッ!!!」
旋回による遠心力を上乗せした強烈な一撃は、再生中のフィエルの左半身を再び圧壊させながら、回転に巻き込むようにフィエルを振り回す。
落下地点は地面ではなく、オルカの生成した光の壁だ。
フィエルの一撃でさえ傷一つ付かなかった壁が曲がるほどの衝撃は、フィエルの肉体を元の形状がわからないほどの肉の塊にする。
飛散する血さえもオルカは壁で防ぐ。
「選手交代の必要はなさそうだな?」
ホエールは、肩で息をするオルカに近づく。
フィエルだった塊は砂か灰か区別しがたいものになり、崩れていく。
「なぜ…なぜ…私が…」
絞り出すようなフィエルの声にオルカは、
「気配を消さない奇襲が戦場で通じるかよ。拳闘の心得があるらしいが、町の喧嘩チャンピオンが兵士に勝てるわけねえだろ。」
再生する気配はない。
「何の痕跡も残さず消えるか…」
オルカは最後の一撃で切れて出血した頬の血を拭う。
「事後処理、手伝えよな?」
「はいよ。お嬢さん。」
オルカの要望に答えるホエールは拳を突き出す。
差し出された拳に気付いた彼女は、少し笑って見せてから拳を合わせる。
港の国はそれまでの騒がしさからは考えられないほど、優しく暖かい夕日に照らされていた。
ほぼ同時刻、パルたちは合流したサーベルタイガーの船にいた。
「悪かったわね♡急にいなくなっちゃって♡」
ママからの謝罪にパルは笑って、
「気にしなくていいさ。事情はドクから聞いたよ。」
先ほどまでゴーレムと戦闘していたはずのオカマ達は作戦成功を祝う宴の準備を始めている。
何人か包帯を巻いてるが重篤なものはいないようだ。
「パーティの前に、改めてお礼を言わせてほしい。本当に助かった。」
パルの隣にいたハウンドはそう言って右手を差し出す。
ママはそれを力強く握ると、
「約束通り、私たちの話をしましょう。」
真剣なトーンの言葉に、一同手を止める。
「酒が不味くなる話は勘弁だ。お互いにな。」
パルはそう言って断ろうとするが、
「だからお酒の前に話しておくのよ♡」
とママに押し切られる。
「私達は知っての通り脱走兵。みんなそれぞれ事情があって軍を抜けたわ。けれど軍人として生きてきた私達に改めて社会復帰をさせてくれるような地盤はない。山賊紛いの行為もやったわ。」
皆、静かに話を聞く。
山賊紛いの行為。という言葉に思い当たる節があるのか何人かは後ろめたそうに俯いている。
「私は今から15年くらい前にここにきたわ。流れ着いた、と言った方が正しいかしら。そこで同じように流れ着いていたヤマちゃん、シンちゃんと合流した。これがサーベルタイガーの始まりね。最初はシンちゃんの船で船釣りをしたり国内の運送なんかをやってたけど、どうしてもダメだった。」
ダメ?パルは思わず聞き返した。
脱走兵への差別めいた行為は少ないとは言えないがそれは、脱走兵であることを伏せていれば問題になることはない。
兵の空いた穴はゴーレムで埋める。という前提がある以上、軍がわざわざ脱走兵を追うことも少ない。
「シンちゃんは鉄の国が開発した艦長型個体、私は人為的に動物の力を混ぜられたキメラ、ヤマちゃんはパワハラ上司の殺害。みんな追われる理由があったのよ。だから世間からも隠れる必要があった。それがゲイバーとして生きるということ。名前を変え、壊れたオカマとして生きる。追手も少なくなかったけれどそれ以上にいろんな脱走兵が集まって組織になった。確かに港の国の鼻摘み者よ、だからこそ簡単に手が出せない存在になった。」
「自衛といえば聞こえはいいけど要は強くなっちゃって勝負になんないのよ♡」
ヤマちゃんが口を挟むと、どっと沸く。
「そんな感じよ♡いつでも楽しく♡」
「そうすりゃいつでも悲しくねぇ♡」
ママの言葉を一同が返す。
経緯はどうであれ、脱走兵という共通項が繋がりを強くしているようだ。
パルは、じゃあ。と言って立ち上がる。
「今度はオレ達の番だな?」
そう言って話を始めようとするが、ママが静止する。
「不要よ♡パルちゃんたちの事情はなんとなく察するわ♡ねぇ?ドラゴンちゃん♡」
気づいてたのか。パルは驚く。
「やーねぇ♡貴女有名人よ♡良くも悪くも戦場を変えたドラゴン♡貴女に殺されかけた子もいるのよ♡」
ママの言葉に合わせて1人が、前に出てくる。
上着の首元を引っ張るとそこからは痛々しい弾痕が見える。
「ラクちゃんって呼んでね♡」
と自己紹介する。
ハウンドは彼が風の国との戦争で殺しあった相手だと気づいたが、胸に秘めておくことにした。
「こぉんなに♡大きくなったちゃったなんてなんか感動よ♡」
ラクちゃんはそう言ってパルを抱きしめる。
側から見れば親戚同士のようだ。
「ともかく♡貴女達は女王を殺すような不埒な輩ではないってのは知っている人間からすればわかるものよ♡そもそも殺すメリットないし♡」
ラクちゃんはパルの頭を撫でながら続けた。
「そんなもんかね?」
ハウンドは意外な評価のされ方に驚く。
「戦場にいる輩の腹の中はそれぞれよ♡でも純粋なのよ♡そもそも、パルちゃんなら暗殺なんで面倒な事せずとも女王を殺害できるはずでしょ♡」
新聞には現行犯と書かれているし、事実サーペントも現行犯としてパルを捉えようとした。
だが、改めて考えるならパルやハウンドのような歴戦の軍人ならば揺動などなくとも暗殺は可能である。
ハウンドは自分の視野が狭まっていたことを痛感した。
「むしろそちらのジェントルメンと積もる話があるんじゃないの♡」
ママはそう言ってドクを指差す。
「開店までもう少々竿でも握ってお待ちを♡」
ママはそう言って準備を始めると他のオカマもそれに追従する。
「竿ってどこにあるんだ?」
パルは釣りをするつもりらしく周りを見渡す。
「あーアレだ。物の例えというか…アレだ…ゲイジョークだ。」
なんで赤くなってんだ?というパルの純粋さが刺さる。
ドクはそんな2人の様子を見て揶揄うように笑う。
パルは竿の話が少し引っかかる様子だったが、
「そういやサフィアが来てるんだよな?」
とドクに聞く。
「来ているようだ、会ってないのか?お前達と合流すると言っていたが。」
「恐らくバイソンにあの場を預けたからむしろあいつと合流したんじゃないか?」
ハウンドが口を挟む。
バイソンとフィエルが戦闘になったことを察知してそちらを優先した可能性は十分にある。
実際に、ホエールとオルカは到着時に戦闘の気配を察知し移動を開始、結果としてドルフィンとバイソンを救う形となった。
「龍の国だが酷い有様だよ。」
ドクは話題を変えるように切り出す。
見てきたのか?というパルの言葉は首を振って否定する。
ドクはオルカから聞いた内容を伝え始める。
「民は全員国外へ退去、結果として山賊、海賊が押し入って荒らし回っているようだ。復興して元に戻るまでは何年もかかるそうだ。」
話を聞いた2人は俯く。
後悔して割り切れるものでもない。
重い空気の中、いいかな?と声をかけられる。
先程まで昼寝をしていたレイモンドだ。
「僕を助けてくれた事には感謝している。だが、なぜ助けたのかを聞かせてほしい。断っておくけど僕は君たちのような兵士でもなければ医者でも科学者でもない。なぜ、見ず知らずの僕を助けたの?」
その言葉をパルは、覚えてないのか?と返す。
「オレとハウンドは麦の国でお前の家が焼けた現場にいた。そこで救助されたお前と会ってる。」
「それは会ったって言わないよ。」
レイモンドのすばやい切り返しに、まぁそうかもな。とパルは答える。
「理由はあんたがトラ教団とやり合っていたからだ。元々はそっから教団について調べるはずだったが、龍の国が崩壊した。」
ハウンドが代わりに答えるとレイモンドは納得したように頷く。
「勿論、当初の目的からは逸脱している。けどな、派手に喧嘩売られてそのまま黙ってるわけにはいかねぇんだよ。」
今度はパルが口を挟む。
じゃあ目的は?とレイモンドが聞くがそれを遮るようにパルは宣言する。
「復讐さ。トラ教団を潰して女王陛下と国を殺した奴らの首を陛下の墓に備えるのさ。」
レイモンドは言葉が耳に入るたび、口角が上がっていくのを抑えられなかった。
それはパルも同じだった。
「怒りで壊れたまま復讐する…いいね…実にいい。つまり僕に協力しろと?」
パルは答えなかったが、彼女の目は肯定している。
「いいよ。僕もそうだ。妻と娘を教団に奪われた。2人の血で書かれた文字は瞼に焼きつき、2人の血で汚れた右手は何度洗っても落ちない。僕らは同種だ。これを解決するには奪った奴を殺すしかない!この手で!」
興奮気味に話すレイモンドにパルの目はより一層の狂気を孕んで答える。
狂気渦巻く空間はママによって閉じられる。
「盛り上がってるわね♡でも乾杯がまだよ♡」
レイモンドとパルは何事もなかったかのように普段の調子に戻ると準備のできた店内へ入っていく。
「大変だったろ?あの子は結構引きずるからな。」
「あぁ。正直あんたと早めに合流できて助かった。」
狂気に圧倒されたドクとハウンドは、疲労感で重くなった体を揺らして店に入っていく。
疲れは作戦によるもの半分、2人の狂気が半分くらいだとハウンドは思った。
次回は水曜日




