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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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32/306

1-25 サーベルタイガー

船上ゲイどころ『サーベルタイガー』【店舗案内(平均評価3.7)】

大国、港の国。

全てを忘れて騒ぎたい。

そんな夜を提供する東海岸に浮かぶ船を改装した店。

そこは男も女もあやふやなゲイの楽園パラダイス

酒豪揃いのゲイ達に挑むもよし。

大人の魅力あふれるママへの人生相談もよし。

採れたての海の幸はゲイ達が狩猟したものを使用し、野菜は近くにあるゲイばたけにて無農薬、無ゴーレム栽培で、店内ではお土産用に販売もされている。

店内のゲイに腕相撲で勝利するとその日の料金がタダになるが、開店以来勝利者はいない。


「ぬぅぅぅぅぅ♡!オオォォ♡!」

何かの軋む音がする。

「グゥォォォォォォ!」

乾いた破裂音がする。

「ほらほら〜!早く本気出さないと日が暮れちゃうぞ?」

聞き慣れた声。

「ダァァァァァァァァァ!」

男の声。

いや、1人だけではない。

応援の野太い声。

ハウンドは体を起こす。

あまりの絵面に気絶していたらしい。

「お目覚めね?色男♡」

ハウンドは背後から聞こえる声に背筋が凍った。

飛び跳ねるようにして立ち上がり、距離を取る。

認めたくはないが、この男に膝枕されていたらしい。

「ヌゥゥゥオゥァァァァァァァ!」

声援を送っていたであろう何人もの男達がハウンドを見る。

「やだ…♡イケメンよ!」

「可愛い顔してるわ♡!」

皆、口々に感想を述べる。

テーブルを囲むようにして立つ男達の中心ではパルと一際大きな男が腕相撲をしている。

男は汗をかき、目から出る光から身体強化魔法を使っているのがわかった。

勝負は五分五分だろうか、腕はどちらにも傾いていない。

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

パルの方は余裕の笑みを浮かべている。

一瞬、彼女はこちらを見ると、

「えーい!」

わざとらしい声で男を半回転させながら勝利する。

「あらあら♡ゴンちゃんに勝つなんて♡噂の襲撃者ストライカーね♡」

いまだに状況が信じられない。

女性の服装をした筋骨隆々の男達。

「ようやく起きた?安心しろみんな協力してくれるってよ。」

呆然とするハウンドにパルは近寄って声をかける。

「これは夢でいいんだよな?」

「バカ言え。現実に決まってんだろ?訳ありオカマ軍団だ。」

ハウンドは思わず頬をつねった。


「サーベルタイガーが動いた?!」

電話機で報告を受けたフィールは驚き立ち上がる。

フィールの執務室で報告を待っていたバイソンは聞き慣れない単語に引っかかる。

電話機を置いて椅子に倒れ込むように座るフィールにバイソンはサーベルタイガーについて聞く。

「我が国の汚点…といえばいいですかね。脱走兵がいつの間にか集まってできたコミュニティーです。東海岸で船を改造した店まで持っているんです…」

フィールは眉間を指圧しながら答える。

「なるほど。不法侵入した人間の行き着く先としては自然ですね。」

バイソンは冷静に続ける。

「そのサーベルタイガーの戦力はどの程度ですか?」

港の国の海軍は決して弱い訳ではない。

それをもってしても安全に始末できない組織となれば移送の前に排除したいと思っての発言だ。

「まず船がひとつ。そこの船倉には銃火器が多数。最大の問題は、連中の一部にはキメラ兵士が混ざっているんです。」

キメラ兵士。

パル以前に個人の能力を高めるために砂、鉄が中心となって行った施術で、動物の腕力などを人間に付与するために行われていたとされる。

全盛期とも呼べる肉体の維持、筋力の増大などが効果として挙げられる。

「厄介ですね。キメラ兵士は衰えることもない。自然消滅が望めない訳だ。」

バイソンの言葉にフィールはため息を吐く。

「本当にお恥ずかしい限りです…」

バイソンは話題を変える。

「密入国したのは何者でしょうか。」

フィールは顎で手を当て推察する。

「大書堂があれだけの待遇を与えていることから単なる亡命者ではない。ベッドの下に脱出用と思われる穴が空いていたので魔法を使って地下トンネルを掘り進めるほどの実力を持つもの。おそらく龍の国の高官とその護衛だと考えます。」

「だとすれば逃げる理由がないのでは?港の国と龍の国は同盟関係にある。」

「ですが龍の国は崩壊していると言っていい。可能性としては女王フレイルかもしれませんね。」

バイソンの反論に対するフィールの答えは、都市伝説めいたそれが結論足り得るほど確証がないことを示していた。

バイソンが窓から外を見ると、サーベルタイガーと思しき酒場が遠くの沖合に浮かんでいる。

ドルフィンの到着まで後、1時間と少しというところまで迫っていた。


「ヌゥゥゥゥン!」

「なるほど。つまり、夢だな!」

ハウンドは徹底的に現状の理解を拒否した。

「何度言えばわかるんだよ…お前がママを見て気絶したからしょうがなく船に乗せてもらったんだぜ?そんでオレがゴンちゃんに勝ったからこいつらもレイモンドの移送襲撃に協力してくれる。」

パルは呆れて答える。

腕相撲の第二戦が行われているが、先ほど同様、パルの圧勝が目に見えている。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

パルはすでにこの集団に馴染んでいるように見える。

「そもそも、腕相撲で犯罪に協力するかどうか賭けるってどういう神経だよ…」

「私たちは貴方達と似たもの同士♡ならば助け合うのが同志の絆♡」

ママと呼ばれる黒髪のリーダー格の男が答える。

指名手配された自分たちに協力する意味がはっきりとしない。

「似たもの同士って?」

ハウンドが聞くとママは艶やかに答える。

「女は秘密が多い方が美しいの♡」

決め台詞なのだろうか。

男達とパルは一斉に歓声を上げる。

「今、何賭けてんだっけ?」

ハウンドはパルに聞く。

「今日の飯。」

あっさりと答える彼女の適応力に驚くことしかできない。

「やぁー!」

また、わざとらしく少女のような声で男に勝利するパル。

周りの男達はすぐさまパルを囲み胴上げを始めた。

「さぁみんな遊びはその辺になさい♡お仕事の打ち合わせ、始めるわよ♡」

カウンターに地図が広げられ、皆それを囲む。

パルとハウンドは最前列に座らされる。

「まず今、船のあるおおよその位置がここ。レイモンドの護送は市場の裏通りを進む形で港を抜け、大通りに合流する。襲撃地点は目立つ場所というパルちゃんの希望から噴水公園西側とする。ここから車列は2手に分かれるから、このタイミングで襲撃する。」

ママは先程までのオカマではなく、軍人のような低く響く声で作戦を伝えていく。

「襲撃は八百屋ミサワのある建物の屋上、高さにして5.3メートルと言ったところだ。ポイントまではシュンちゃんが案内する。」

シュンと呼ばれた金髪のオカマが手を挙げて答えると、パルも手を振り応える。

「ハウンドちゃんはレイモンド奪取を担当、待機地点は二つ隣の喫茶サヤマのある建物の横。ほぼ裏通りで、新聞でも読んでれば怪しまれることはない。案内及び支援はゴンちゃん、ノブちゃん、タカちゃん。」

呼ばれた3人のオカマがハウンドを囲む。

「残りのメンバーは船で揺動。船で港に近づき警備隊を引きつける。街に出ていたヤマちゃんに車を用意させているから襲撃班は噴水公園に突っ込んでくるヤマちゃんのトラックに乗車。離脱する。パルちゃんは悪いけど道を塞ぐようにしてもらえると助かる。」

パルは、あいよ。と答える。

「各自武装の確認を実施、30分後に西海岸にて襲撃班は下船。そのまま揺動班は揺動を開始する。再合流地点は港の国北西の海岸。揺動班はトラックごと回収する準備をしておくように。以上!解散!」

男達は雄叫びと共にそれぞれ行動を始める。

異質な服装ではあるが、その顔はハウンド達と同じ兵士の顔だ。

「訳は聞かないでおく。協力に感謝します。」

ハウンドはママに近づき握手を求める。

「いや、作戦が無事に終わったら話させてもらう。どの道、この国に戻ることもないだろうからな。」

硬い握手を交わす。

背後で、あ、壊れてやがる。というパルの声が聞こえた気がしたが、無視することにした。

ドルフィンの到着まで後45分。

緊張感よりも高揚感の支配する船内は彼女らにとって居心地の良い、慣れ親しんだものだった。


次回は土曜日

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