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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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1-23 龍の牙

バイソン【個人情報】

龍の国、陸軍第二魔法中隊長兼監獄島監獄長。

正義感に熱い青年でハウンドの一期後輩にあたる軍人。

細身のサーベルを用いた戦闘を得意とする一方で、魔法に関しても一線級の力を持つ。

監獄長としての職務がメインであり、一年の大半を島で過ごす一方で龍の国での外交イベントの際には護衛として参加している。

彼の不在時は、ハウンドが中隊長としての仕事を兼務していたが、白の部隊結成時に陸軍が大幅に再編され、陸軍は一部隊に統合、トータスが総括として管轄している。

ハウンドを敬愛しているが、以前に彼をストーキングしたことからあまりよく思われていない。


ハウンドが、ホエールから貸し出された部屋の扉を開けると、パルがベッドの上で膝を抱えて座っていた。

「大丈夫か?」

ハウンドが声をかける。

龍の国を出てすぐの状態よりは良さそうだが、明らかに疲弊していた。

返答が返ってこないことを心配しながら、彼はパルの隣に座る。

パルはそのまま彼にもたれかかる。

どうしよう…消え入りそうな弱々しい声。

「オレ…守れ…なくて…また…まもれ…なくて…」

泣き出しそうに声を絞り出すパルを彼は抱きしめる。

わかったから。と伝えると堰を切ったようにパルは声を上げて泣き始める。

「わかったから。泣けばいい。辛いのはわかってる。弱音も怒りも受け止める。」

ようやく、彼が伝えたかったことを伝えられた。

「はうんど…どこにもいかないで…ひぐっ…わたしを…ひとりにしないで…」

ペンダントを握り締め、嗚咽交じりに声を張るパル。

「あぁ。俺はどこにも行かない。お前を1人にはしない。」

うん。うん。と何度も頷きながら、パルは彼に体を預ける。

いつの間にか日が落ちていた。


翌日、昼過ぎになっても出てこない2人を心配に思ったホエールは部屋の扉を開ける。

パルに抱き付かれたままベッドで身動きの取れなくなったハウンドを見つける。

「あー。うん。大丈夫。わかったわかった。」

邪魔したね。と部屋を出ようとするが、ハウンドから小声で、助けてください。と言われて部屋に入り直す。

「いや、いいんじゃないか?此奴も彼氏の1人ぐらいおってもええと思うよ。」

ハウンドは冗談とも思えぬその言葉を小声で否定する。

「俺既婚ですよ!嫁は死にましたけど娘いますし!」

ホエールは首を傾げる。

「いやそれももう10年以上前のことじゃろ?再婚してもええと思うよ?」

「だとしてもでしょ!コイツがいいわけない!」

パルを起こさぬように小声で反論する。

「えー?それってお前はOKってことだよな?」

「いやいやいやいやいやいやいや!」

「まあ愛はゆっくり育むもんだ。」


ホエールは満足げに言うと部屋を出る。

取り残されたハウンドはパルの耳が赤くなっていることに気づく。

「起きてるな?耳赤いぞ。」

うっせ。とパルは答えると、ハウンドの顔を小突いて布団をかぶり、顔を隠す。

「ってぇ。先、行ってるぞ。」

ハウンドが扉を締めた後も、パルはカタツムリのように布団にくるまったままだった。


おおよそ一時間後、パルがホエールの執務室に入ると、待ちかねた様子のホエールが、着席を促す。

「昨夜から、今日の早朝に掛けていくつかの村で襲撃が起きた。」

そう言って新聞を見せる。

「場所は天の国近辺が2箇所、麦近郊3箇所、滝と港の間で2か所の計7箇所。いずれも自警団を対象にしたものだそうだ。」

7箇所という数字にパルたちは思い当たる節があった。

「天使どもか…」

パルが静かにつぶやくとホエールは頷く。

「お前たちに伝えておこう。トラ教団の実働部隊である天使。連中はドラゴン(おまえ)と同じ、人工的に強化された兵士になる。魔力量は常人の数十倍、それゆえ、異常なレベルの再生能力を行使できる訳だ。」

「そこまではオレ達もわかってる。」

「そうか?なら、教団の話をするか。現状、規模としては調べ切れてないが、20年ほど前から行動しているようだ。信者から金を集め、その金で兵器の購入や、天使の開発を行っていたらしい。理由は、世界の平定。つまり、龍、天、港の3大国を潰し、自分たちの息のかかった連中が統治する国を中心としたパワーバランスの再編だ。」

無茶苦茶だ。とパルが口をはさむ。

「なに考えてるかと思えば、レポート期限ぎりぎりの学生が思いついた様な暴論じゃねえか!そこで流れる血は!そこで苦しむ人々は!それを除外して自分たちの都合のいいように世界を変えるだと?結局、行きつく先は恐怖政治と粛清だけだ!一部の特権階級だけがうまい飯食うだけの世界じゃねえか!」

ハウンドは声を張り上げるパルの言葉を途中でとめることなく聞き遂げると、

「自分もパルと同じ考えです。大国と正面から事を構えたところで血が流れるだけだ。」

「私もそう思う。これまで、図らずとも抵抗できたのが、フレイル女王とお前たちも追っていたレイモンドだ。」

ホエールは新聞をめくる。

見出しには『世紀の詐欺師、初公判へ』と書かれている。

「レイモンドは火遊び好きの詐欺師。単に金を無尽蔵に持っている教団に喧嘩を売って楽しんでいたらしい。だが、これが大成功。連中の資金をかすめ取るどころか、大打撃を与えた。そして、フレイル女王はドラゴ8世が死んだあと、シュリーが座るはずだった龍の国の国王の席に座り、連中の動きをとめるに至っている。実際、女王がトップに座らなければ龍の国の戦力をフルに使って、大陸単位での戦争に発展しただろうさ。」

「自分の記憶ではレイモンドは2年ほど前にパタッと詐欺をやめている。そこで何があったんですか?」

ハウンドは疑問をぶつける。

ホエールは、袖机の引き出しから、一枚の切り抜きを取り出す。

そこには、地方情報誌の『結婚のご報告』というコーナーの切り抜きがあった。

黒髪の女性と一緒に笑顔で写るレイモンドの姿があった。

「レイモンドは3年前に結婚。どうやら、教団のせいで人生ズタズタにされた娘を偶然、助ける形になって、結婚したらしい。娘もいたようだ。」

「目立ちすぎじゃね?」

パルは呆れている。

教団に喧嘩を売り、大打撃を与えたはずなのに、悠長に結婚しました。では報復してくれと言っているように見える。

「実際、迂闊だったろうな、2ヵ月前に妻子は殺害されている。天使の犯行じゃねえかと噂されている。」

ホエールは葉巻に火をつけ、煙を吐いてから続ける。

「なんとなく見えてきただろ?襲撃者ストライカー。レイモンドは明日、港の国に出てくる。これを襲え。レイモンドを引き入れろ。」

なんでまた?とパルは今一つ納得できない様子だ。

「トラ教団に狙われているレイモンドはこのタイミングで始末される可能性もある。そこにカウンターを合わせることができるかもしれない。というのが1つ。もう1つは俺達に反抗の意思があることを示すため。ですね。」

ハウンドの補足に、ホエールは手を叩いて喜ぶ。

「100点やろう!ハウンド君の言った通りだ。教団の次の手を潰す。下手をすれば、港の国でテロを起こす可能性もあるしな。加えて、連中は、冤罪からめてでお前たちを排除しに来た。ビビってんのさ、お前たちと戦うことによ。そこでお前たちがセンセーショナルに宣戦布告を受ける。奴らは慎重に動かざるを得ない訳だ。」

「なるほど。5年経とうが脳みそは腐ってないらしいな?乗ったぜ。港の国でひと暴れさせてもらう。じゃあ夜には出発するからよろしくな?ダニエル司書長?」

パルはそう言って部屋に戻る。

あっけに取られるホエールにハウンドはパルの言葉を補足する。

「自分たちは手配中です。正規の手段での入国ができません。となれば、不法侵入、不法出国するしかない。知恵を貸してください。」

ホエールは口を大きく開けて笑う。

「そんなことを心配しておったのか!気にすることはない。こういう時のために図書運搬用のコンテナと、それに伴う手続きをこの5年で浸透させた。潜入なんぞ簡単よ!かくいう私も外に出るときは利用しとるしな!」

(そういえば死んでるんだったな。この人…)

少し、似た境遇になっていることをハウンドは思い出すと、彼に念のため、乗ってきた車の処分を依頼し、部屋に戻る。

「準備ができるまでゆっくりしているといい。忙しくなるぞ?」

ホエールの言葉にハウンドは笑顔で頷いて返す。

龍の牙は折れてはいない。

まるで、鉄のように。

それは、骨のように。

傷ついた部分をより強く。

固く。

強靭に。

龍はその牙で虎の喉を引き裂かんと力をためる。

復讐のために。


次回は土曜日

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