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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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28/306

1-21 Trigger of catastrophe

ドラゴ・フレイル【個人情報】

龍の国、女王。

先代のドラゴ・ドライム8世の妻でもある。

8世の生前、休養として半年ほど故郷の砂の国にいたものの、夫である国王の訃報と共に帰国。

以降は女王として国営に携わる。

結婚以前は砂の国の豪商タペス家の長女であり、龍の国への販路を広げるべく嫁に出された。

女王としては持ち前の明るさから国民からの支持を得る一方で、火事場泥棒のように国王の座を得た存在として議会からは歓迎されていない。

なお、当人は議会の態度を把握した上で、敢えて議会に権力が集中しないように行動している。


ハウンドは椅子の背もたれにもたれかかりタバコに火をつける。

1ヶ月はあっという間に過ぎていった。

国内が滝の国との友好ムード一色になり、会談の前段階として滝の国の有名店が屋台を出したり、豊富な海産物が露店で販売されていた。

白の部隊はこの1ヶ月、新たな任務もなく、ただこれから起こりうる最悪のシナリオが回避されることを祈るだけだった。

パルは積極的に陛下の元へ赴き、私生活を中心に可能な限り護衛を行なった。

ドクとハウンドは出入国が激しくなる中、その一人一人をチェックし、動きを察知しようとした。

会談を翌日に控えた今日、ハウンドは眠れないままブリッジにいたのだった。

「明日は朝だけ様子を見に来るように言われた。」

パルが船に戻ってきたのを確認して、

護衛デートはどうだったよ?」

と茶化す。

「相手の国のことを知る必要があるってんで滝の国の飯だとか食材だとかずっと食わされた。太るってんだ。」

パルは笑いながら報告し、椅子に座るとタバコに火をつける。

「朝だけって言ってたな?」

女王のおおまかなスケジュールを把握していたハウンドは、会合が午後から予定されていることを思い出した。

「ちょっと前倒しになったんだとよ。非公式で外交団と会談して昼食を挟んでからトップ会談。オレが会えるのはその前後のタイミングだな。」

パルは煙を吐きながら答える。

護衛については白の部隊で受け持つことを女王に提案していたが、あくまで業務外での護衛のみと厳命されていた。

的は的らくしね。と笑ったフレイルの覚悟を汲む形でハウンド達が折れたのだが、死なせるつもりがないことは全員一致していた。

明日か。とハウンドが呟く。

「明日だ。正確には2日間だがね。」

ドクがハウンドの言葉を訂正しながらブリッジに入ってくる。

「万が一に備えて、これの使い方を伝えておく。」

ハウンドは懐から白紙の命令書の入った封筒を取り出す。

「明日、暗殺が達成された場合、俺たちは船ごと姿を消す。シュリーがどういう風に動くかわからないが、パルのいう陛下の切り札を切ることになるだろう。」

ドクとパルはそれぞれ頷く。

パルはまだ暗殺に対して割り切れていない様子だった。

ハウンドはそれを分かった上で、無視して続ける。

「明日の朝は俺も王城に呼び出されている。城の中でパルと別行動を取る形だろう。もしそのタイミングで暗殺が達成された場合はドク、あんた一人で船ごと逃げてもらう。」

事前に伝えておいた内容を復唱する。

現状、龍の国の海軍に潜水艦はない。

そのため追撃のリスクは低いものの船が接収されれば戦力として扱われる上、マイセンの求めている情報を非人道的な手段でドクから聞き出すことも考えられる。

封筒これは俺が持っておく。何が起きても冷静に頼む。」

そう言ってハウンドは封筒を懐にしまうとブリッジを出る。

できれば何事もなく終わるのが1番ではある。

しかし、トラ教団という影に潜む存在を潰すには犠牲を前提に考えるしかなかった。


翌朝、ハウンドは意外にも素直に眠りに入ったことを意外に思いながら着替えてブリッジに赴く。

パルはすでに衣装を身にまとい、臨戦体制で待機していた。

「寝てねぇだろ。」

ハウンドは机に並べられた吸い殻がいっぱいの灰皿を見て言う。

「眠れるお前の神経がわかんねぇよ。」

パルはそう言ってまたタバコに火をつける。

そうだな。とハウンドは答えると懐の封筒と獲物の柄を持っていることを確認する。

「タバコ(それ)が終わったら行くか。」

パルはその言葉を聞いてタバコを灰皿に押し付けて立ち上がる。

自分も吸おうかと思っていたハウンドは、取り出したタバコを戻しブリッジを出た。


パルは王城の女王執務室の前に立っていた。

この1ヶ月、フレイルに振り回され続けるような形だったがそれでも楽しかったことは間違いなく、彼女に会うことを楽しみしていた。

「陛下〜。朝ですよ〜。」

ノックしながらかつての自分ドラゴンからは考えられないような緩い声で語りかける。

反応がない。

寝ているのだろうか。そう思いながら今度は強くノックする。

「陛下。二度寝してるんですか〜?」

やはり反応はない。

不安に駆られる。

鼓動が静かな廊下に響くような感覚を覚える。

「開けますよ!」

パルは声を張り、ドアノブに手をかける。

鍵は普段通り開いていた。

昨日、自分が来るまで閉めておくように言ったはず。

「陛下!」

パルは部屋の扉を蹴り部屋に入る。

正面の執務机の奥に力無く座るそれの左胸には拳ほどの穴が空き、そこを中心に薄いピンク色のドレスは赤黒く染まっている。

衝撃に声は出なかった。

戦場で幾度となく見てきたはずの死体それを初めて見た生娘のように立ち尽くす。

同時に外で爆発が起きたが、それに気づくことはなかった。

ゆっくりと引き寄せられるように歩き出す。

「へい…か…?」

絞り出すような声で呼びかけるが反応しない。

穴に触れると生暖かい感触があった。

血に濡れた右手を見て、これまで拒否していた目の前の現実を理解する。

暗殺の達成。

最悪のシナリオ。

死。

死体。

「動くな!」

え。と先ほどとは違う意味で気の抜けた声が出た。

王宮の衛兵たちが入り口を取り囲むようにして陣取り、銃口をこちらに向けている。

「ルビリア・パル。あなたを女王陛下暗殺の容疑で逮捕します。」

サーペントが後ろからぬるりと静かに現れる。

彼は手早くパルに近づくと手錠をかけ、廊下へ連れ出す。

「何事ですか!」

ハウンドがサーペントに駆け寄る。

爆発を聞いて走ってきた彼の息は上がっている。

「あなたへの監督責任の追求は後程。まずは現行犯を移送しなくては。」

サーペントは静かに答える。

「中で何があったか教えてもらおうか。」

ハウンドの背後から2人の男が現れる。

1人目はベージュの軍服を纏ったトータス。

もう1人は今回の会談のために招集されていたバイソンだ。

「女王陛下の暗殺です。下手人はこの女。」

サーペントは抑揚のない声で虚な目のパルを指差す。

彼のその態度は自身の仕える存在が暗殺されたにも関わらず異常なまでに落ち着いている。

「そいつがやったという確証があんのかい?」

今度は反対側の廊下から2人現れる。

声を上げたのは白い海軍の軍服を纏ったオルカ。

傍に隠れるようにいるのはドルフィンのコードネームを持つ少女デザインベイビーだ。

「証拠?この状況が全てでしょう?正面切って女王を暗殺。爆発に乗じて逃走しようと思ったのでしょうが。軍を、舐めてはいけない!」

振り下ろすようなサーペントの拳がパルの頬を捉える。

そのまま倒れる彼女の髪を掴み、顔を上げさせる。

「まぁ証拠は追々出てくるでしょう。」

パルが受け答えできるような精神状態でないことを確認すると、投げ捨てるように掴んでいた手を離す。

パルは死体のようにそのまま倒れ伏す。

駆け寄るハウンドの喉を、正面からオルカが掴んで止める。

トータスはゆらりゆらりと立ちあがろうとするパルに近づく。

サーペントが何か声に出そうとするよりも早く、トータスの拳がパルの腹部に突き刺さる。

全員の視線がトータスとパルに集まるその隙を見逃さずハウンドはオルカの腕から逃れるとくの字に折れて後退りするパルを左肩に担いで走り出す。

周りを囲むギャラリーを弾き飛ばすように突き当たりの窓に飛び込むハウンド。

「追いなさい!」

というサーペントの指示をトータスが遮る。

「まずは住民の安全確認と被害状況の確認だ。滝の国側には俺から話す。」

2つの指示が交錯し、誰も動き出せない。

トータスか。サーペントか。

この場にいる全員がどちらに付くのか。

その選択を迫られていた。

最初に動いたのはオルカだった。

「ドルフィン。周辺海域警戒中の船に連絡。避難住民を回収するようにしろ。漁船を使って構わん。」

その声を受けてドルフィンは走り出す。

サーペントの睨みつけるような視線に毅然とした態度で答える彼女に押されるように皆、散り散りになる。

サーペントもまた歩き出す。

「覚悟しておけ。」

すれ違い様の一言にオルカは彼の肩を掴み壁にぶつけ、そのまま腕を喉に食い込ませる。

彼女は口角をあげ、

「軍隊を舐めるんじゃないよ。アタシらは守るためにあるのさ。」

と言って彼を解放する。

喉元を押さえ咳き込む上司を見下すようにして一瞥するとバイソンたちの方へ歩き出す。

トータスは声をかけることも目を合わせることもなかった。

サーペントは舌打ちをしてオルカとは反対側に歩き出す。

呆然としていたバイソンの肩をトータスが叩く。

「お前はお前の仕事をしろ。監獄長殿。」


ハウンドは城から飛び出すとそのまま落下していく。

目に映る街並みはいつものそれではない。

煙と炎。

悲鳴と怒号。

混乱が少し離れたここからでもわかった。

着地の衝撃をツムジで和らげ走り出す。

王城の西側から壁を飛び越え敷地の外に出る。

(どこに向かう…クソッ…)

肩に担いだパルはまだショックから立ち直れていない。

混乱と人混みに流されるように進んでいく。

「こっちだ!」

その声が自分に向けられていることに気付いたハウンドは声の主を探す。

声の主はジープに乗った王城警護班長のサカラだ。

ハウンドは迷う。

彼が長年、愚直に仕事をこなしていることは知っていた。

だが、クーデターが起きている状況で信用できる人間などどこにもいない。

「急げ!」

珍しく声を張り上げるサカラ。

彼は車を降りて、ハウンドの元へ駆け寄る。

「詳しいことはわからんが、君らは国の切り札なんだろ?」

その一言を信じていいかわからなかったが、彼は、車の鍵を差し出していた。

ハウンドは、ありがとうございます。と礼を述べると、パルを助手席に座らせ、車に乗り込む。

「北搬入口から森に抜けるといい。」

サカラはそう伝えると、すぐに住民の誘導をしている兵士たちに加わる。

ハウンドは、疑ったことを後悔した。

車は避難する人々とは反対に走り出した。


この日、龍の国は女王トップを含む多くの住民の犠牲を出した。

城下町を中心に多くの住居が破壊、炎上し、住民の大半は他国へ避難することとなった。

これは悲劇を始めるための引き金。

世界を崩し、混迷と闘争の時代へ導く弾丸は、この龍の国から放たれる事となった。


次回は水曜日

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