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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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27/306

1-20 切り札

監獄島【一般情報】

文字通り、港の国南西に位置する島を改造して作られた監獄。

その年の国家予算の3%を出し合うことで管理、運用されている。

主管は天の国。

多くの犯罪者が収監されており、その数は3000人を超えるとも言われる。

単純に社会との隔絶という意味合いが強く、面会には多くの手続きを踏む必要がある。

管理には各国の軍人が派遣されており、現在は龍の国のバイソンがトップを務めている。


ハウンドは龍の国、軍部長の執務室にいた。

彼の対面に座るトータスは腹を抱えて笑う。

「なんだよ!え?喧嘩?バカじゃねぇの?よく生きてたなお前よぉ!」

龍の国に帰港して3時間。

検査を終えた後、滝の国での報告を行うべくこの場所を訪れたが、顔の腫れが引いていない彼の顔を見るなりトータスは笑い出したままずっと続いている。

「報告させてくれませんかね?」

ハウンドは少しイラついた様子でトータスの前に置かれた資料を指で叩く。

うんうん。とトータスは頷き資料に目を通す。

「とりあえずお疲れさん。滝の国での話は陛下が上手いこと丸め込んで、貸しってことになったから心配はいらねぇ。」

トータスは涙を拭いながら続ける。

「例の男はすでに監獄島に送られてる。面会のために各方面と調整を行ってはいるが見通しがつかん。」

「不可能と考えた方がいいですかね?」

いくら監獄島が社会から隔絶された場所とはいえ、面会のためのプロセスははっきりとしている。

その上で見通しがつかないというのは、政治的な圧力によるものだ。

ハウンドの言葉は状況から推察するに十分ありうる話だったが、トータスは、そこまでじゃない。と否定する。

「いくら圧力がかかろうともバイソンが監獄長である以上、有耶無耶にはさせんよ。」

ハウンドは人懐っこい後輩の顔を思い浮かべる。

かつての陸軍機甲中隊中隊長でハウンドの一期後輩に当たる。

正義感が強く、監獄島での勤務に自ら志願したほどだ。

「だといいですが。」

ハウンドはレイモンドとの面会はできないとの考えを改めなかった。

教団の規模からしてバイソンの配下や監獄島の囚人に関係者がいてもおかしくはない。

それらが彼を殺害することなど容易であり、面会についても複数の国が政治的に必要であることを認めなければならず、可能性は低いとも言えた。

「まぁお前の懸念もわかる。実質的には教団からの圧力とも言えるからな。」

トータスは背もたれに体重を預け、葉巻に火をつける。

煙はハウンドの傷にしみた。

「1ヶ月だな。1ヶ月動きがなければ別の手立てを考えよう。お前の傷もその頃には落ち着いてるだろうよ。」

ハウンドはトータスの提案に頷く。

トータスは資料を握力で丸めて灰皿に置くと、ライターで処分した。

ハウンドが部屋を出ようとすると、

「後で届けるものがある。5時間後にノーチラスで落ち合おう。」

と声をかけられた。

ハウンドはその言葉に頷いて答えると部屋を出た。


パルは検査を終え、ノーチラスのブリッジでタバコを吹かしていた。

ハウンドと異なり、彼女の傷はほとんど目立たないほど回復していた。

莫大な魔力量のもたらす恩恵の一つが肉体の急速回復で、多少の切り傷はすぐに塞がり、半日もすれば完全に消える。

ドクが珍しく買い物があると言って外に出てしまったため手持ち無沙汰になっていた。

短くなったタバコを灰皿に押し付け、次を取り出そうとした時、ハウンドがブリッジに戻ってきた。

「マザー。注意してやってくれ。テーブルは灰皿じゃねぇってよ。」

ハウンドの声に反応してマザーが起動する。

「申し訳ありません。カメラがないですし、あったとしても判断しかねます。」

冗談だよ。とハウンドは笑うとパルの対面に座る。

「トータスに会ってきた。滝の国での一件は気にしなくていいそうだ。」

パルは上の空で、そうか。と言い、タバコを咥える。

火をつけようとライターを点火しようとボタンを押すが故障したのか火が点かない。

ハウンドが火を差し出そうとすると、パルは立ち上がって、散歩してくる。と言ってブリッジを出た。

「壊れるもんなのか?これ?」

彼女の置いていったライターを手に取る。

ライターは大きく曲がっており、曲面の頂点から内部を突き破って出てきた装置が見えた。

どうやら喧嘩の際に壊れたらしく、ハウンドは少し申し訳ないと思った。


龍の国の城下町はいつもと変わらない賑わいを見せていた。

大国で最もキョウラク大陸に近い位置にあるため、向こうの食品や料理が多く出回っている。

パルは大通りから少し路地に入ったところにあるヤタ重工の支店に入る。

いらっしゃい。という若い男の声。

パルが7年ほど前に訪れた時にはいなかった男だ。

「お嬢ちゃん。ここはカフェでも花屋でもないっすよ?」

男は入ってきたパルに驚いた様子で退店を促す。

パルは、ここであってるよ。と答え、アーミーナイフのコーナーを物色する。

男は少し、呆れた様子で、変わってんねえ。とつぶやくと、カウンターの下から雑誌を取り出し、読みだす。

「いかがですか?サラさん。今年の新作はグリップの滑り止めのデザインが変更。更に鞘とグリップガードが0.22%軽量化されています。」

パルの背後から、丁寧な声が聞こえてきた。

スーツを着た細身で長身の男は、この店の店長だ。

「今はパルちゃんだ。多分これからもな。」

パルは棚のナイフから視線を外すことなく今の名前を名乗る。

知り合いなんすか?とカウンターの男が聞く。

「ニニギくん。彼女は龍の国陸軍の兵士さんです。うちのお得意様ですよ。覚えておいてくださいね。」

ニニギと呼ばれたカウンターの男は、はあ。と気の抜けた返事をする。

パルが兵士というのが信じられない様子だ。

「店長。魔力式のライターってあったよな?」

パルは一通りナイフを見てから、細身の男に聞く。

もちろんです。そう言って、男は足早に店の奥に入っていく。

「ニニギ?だっけか?NonNPAAのショットガンってある?」

ニニギは慌てて、カタログを取り出し、

「最新は1年前のモデルっス。個人認証式は本社からの取り寄せになるので3週間くらいかかるっス!」

パルは、カウンターまで歩きながら説明を聞き、結構かかるな。ぼやく。

「お急ぎならN-PAAの仕様変更でも可能っスよ?今なら3時間くらいで納品できますけど…」

店長と比べると荒い言葉遣いだが、内容は十分だ。

おや、火器もご入用ですか?と店長がトレイを持って戻って来た。

トレイにはいくつかのライターが底辺を揃えるようにして几帳面に並べられている。

「シンゴさん、N-PPAショットガンって在庫ありますよね?」

ニニギの声でパルは店長の名前を思い出した。

カヌマ・シンゴ。

サンヨウ大陸、鉄の国に本社を持つ巨大鉄器メーカーヤタ重工のセールスマンで、パルが龍の国を出歩くようになった時からこの龍の国支店の店長を勤めている。

「今必要って訳でもねえんだ。ちょっと聞いてみただけさ。」

パルはカタログを閉じながら彼らの話を遮る。

「そうですか?N-PAAであれば在庫がいくつかございますが?」

シンゴはカタログを脇によけ、カウンターにトレイを乗せる。

そして、パルから見て一番左のライターを指さしながら、説明を始める。

「シンプルなものがお好みかと思いまして、まずこちらが、パーソナライズ無しの魔力式ライター。構造はシンプルで最も安価なモデルではありますが、魔力タンクがなく、少々強度に不安があります。価格は2クレジット。続きまして中央が私も使用しているジッポー型になります。タンクに23回分の魔力をプール可能で、外装にはナイフにも採用されている材質を使用。滑り止めのエッチングは8種類ご用意させていただいております。こちらが25クレジット。最後が、最上位モデルで50クレジット。弾丸すら防ぐ耐久性と防水加工、魔法術式を書き込める4㎜四方のスペースを内部危機に搭載、タンクには50回分の魔力を貯蔵可能です。が少々値段が張る上、さすがに過剰かと存じます。」

異なる価格帯のものを並べ、中間の価格帯の中でも高価なものを買わせるいつもの手段だ。

安価なモデルは一般に流通しているものでもあり、わざわざここで買うものはいない。

逆に最上位のモデルはコレクター(ものずき)でもない限り買うことはない。

そして中間のモデルはシンプルで扱いやすい機能を兼ね備えているが実はほぼ同じものが少し安く存在する。

だが、最上位を見せている以上、中間と紹介されたものが中の上の価格帯だとは気付きにくい。

それを知っているパルは、ふーん。と興味を持っているかのように一通りライターを触ってみせる。

「もうちょっとみてえな。20クレジットくらいのやつ。」

「失礼しました。ニニギくんの勉強もありましてね。」

シンゴは申し訳なさそうにそういうと、左手に握っていたライターをトレイに置く。

異動すんのか?と聞く心配そうなパルの声に、そういう訳ではないんです。と笑顔で否定する。

「彼は研修中でしてね。私の店で実際の接客を学んでいるところなんです。」

シンゴの説明にニニギは恥ずかしそうにうつむく。

「そしてこちらは私のオススメです。タンクには魔力をプール可能。最大で20時間の連続点灯しますのでサバイバルで火に困ることはないかと。無駄な機能を排し単純に点火機能のみに特化しておりますが、調整によっては通常のライターから簡単な火炎放射器としても使用可能です。加えてメンテナンスも容易で内部機構はタイプ4、最もポピュラーなものを採用しておりますのでヤタ製のライターであれば互換性を持ちます。外装は弾丸を防ぐことはありませんが、車に引かれても変形や内部破損は起こらず、錆止め、防水も完備です。」

シンゴは淀みなくスムーズに語り終えるとカウンターからタバコの箱ほどの大きさの小箱を取り出す。

パルは本命のそれを手に取ると何度も蓋を開閉したり、手にフィットするかを確認する。

「価格はご希望通り20クレジットです。メンテナンスキットもお付けしますよ。」

もらおう。パルは満足げにカウンターに金を置くと、シンゴは満足げに頷き、金を納める。

「こうやって5クレジット稼ぐんですよ。ニニギくん?」

パルもニニギも驚き、シンゴを見る。

彼は笑顔でウィンクして見せ、

「パルさん、無礼をお許しください。ネームの掘り込みをサービスさせていただきますから。」

(悪徳業者め…)

パルは声に出したかったが、だまされた自分が悪いと自分を納得させた。

実際には価格以上の機能を有しているが、型が少々古いため中間の価格帯でも下の値段になっていた。

パルは、その場でライターの底に自身の名前を彫ってもらい、店をでる。

帰り道で『名前の掘り込みは3クレジット』というヤタ重工のチラシが張り出してあったのを見つけ、悔しい気分になった。

その時、チラシに気を取られていた彼女は、何かにぶつかる。

失礼。と低い声で謝罪を受ける。

男はボロボロの外套を纏った2メートル近い大男だった。

背中には同じくボロボロの布が巻き付けられた刀剣と思われるものを背負っている。

「いや、オレの方こそ悪かったな。よそ見してたよ。」

パルが道を譲るように避けると男は会釈して歩き出す。

彼女の目は男の背負っている剣に惹きつけられていた。

なんとなく。

無意識だった。

(なんだ?あの嫌な感じは…)

気のせいかと思ったが、本能的な違和感を感じた彼女は龍の国の外に出るルートを取る。

目的地は決まっていた。

少しずつ早足になる自分が抱いている感情が恐怖に近いものだと気づく時には、龍の国の外にある大きな森の前に立っていた。

かつて守護の森と呼ばれたこの場所はパルの生まれる前、もっと言えば150年ほど前から人の手を離れ、放置されてきた。

5分ほど森を進むと開けた場所に出る。

そこには滝が以前と変わらずにあり、その奥には洞窟がある。

パルは迷うことなく、滝を回り込むように進む。

来るのは6年ぶりになる。

洞窟に入る。

光の差さない暗闇を歩く。

最奥は行き止まりになっている。

「久しぶりだな?ジジィ。」

パルの声が洞窟に響く。

少し時間を置いてから行き止まりの岩盤に一人入れるぐらいの穴が開く。

パルは魔法すら使わずに岩盤に穴が開くことを事前に知っていたようで、驚くこともなく更に奥へと進んでいく。

彼女が穴を通り切ると扉を閉めるように岩盤は元に戻った。

奥に潜むものの真実を知るものはこの時代では非常に少ない。

パルはもう少し早く、建国の王の名前が出た時点で来るべきだったと、少し後悔していた。


ハウンドがぼんやりと陸軍の会報に目を通しているとトータスが入ってきた。

予定より1時間ほど早い。

すまんな。と言いながらハウンドに一枚の封筒を渡す。

ハウンドが受け取ると封筒が光る。

それは個人認証されたことを意味し、この封筒はハウンドとトータス以外に開けることは出来なくなった。

「大袈裟ですね。」

個人認証式の封筒は登録された人間以外が触れると警告文が表示され、それを無視して開けようとすれば内部の書類を焼却するものであり、本来は金銭の受け渡しや極秘の外交文書などに用いられるものだ。

「中身は命令書だ。事態が思ったより急を要するようなんで今、渡しておく。」

ハウンドが中身を取り出すとそこにはトータスの言う通り女王のサインが入った命令書が入っていた。

だが、肝心の内容については白紙になっている。

「これが切り札になる。」

トータスはいつにも増して真剣な様子で続ける。

「1ヶ月後に滝の国のラガナ首相とフレイル陛下の会談がここで行われることが決まった。シュリーとサーペントが手を回したらしい。」

ハウンドは背筋が凍るような感覚を覚えた。

「お前の思っている通り、陛下の暗殺が行われるとすればそこだろう。滝の国の施設を破壊した以上、教団側は滝の国と龍の国を同時に終わらせるつもりだ。」

なんとかしなくては。ハウンドはパルとドクにに連絡を取ろうとするがトータスが止める。

「まず話を聞いてもらおうか。命令書は一つじゃない。もう一つ、白紙のものがある。」

そう言ってトータスは懐から同じく個人認証式の封筒を取り出す。

「何が起きるかわからん。仮に陛下が亡くなった場合、後釜に座るのはシュリーだろう。お前たちの処遇がどうなるかはわからんがもしもの場合はそれを使って逃げろ。」

「戦争を起こせというんですか?」

ハウンドは逃げた後のことを考え、口を出す。

「どの道、シュリー、いや教団が国を落とせばその戦力は侵略へ向く。どの道戦争は避けられんと陛下はお考えのようだ。」

陛下がこれを?ハウンドの疑問にトータスは頷いて答える。

「いいか。王政から議会制への移行には時間がかかるはずだ。何より国民を納得させにゃならん。奴らは女王暗殺という怒りの火を国民に灯してそれを滝の国に向けさせるつもりだろう。」

ハウンドは現実から逃げたかったが、トータスの覚悟は決まっているようだった。

「2通目は俺が持っておく。だが、当てにしてくれるなよ。こっちは龍の国の軍隊が派遣されるのを先延ばしにするためのものだ。」

トータスは自身の封筒を懐に戻す。

「お前達が切り札になる。忘れるんじゃねぇぞ。」

トータスは念を押すと、ハウンドの肩を叩きブリッジを出る。

雪崩のように突きつけられた事実。

パルが入れ替わるようにブリッジに入ってきたが、呆然とした様子の彼を見ると全てを察したようだった。

「ドク、ブリッジに来てくれ。」

パルの言葉を聞いて我に帰ったハウンド。

「遅かったな。いいニュース、聞かせてくれ。」

パルは首を横に振って、

「そんな冗談やってる場合じゃねぇんだろ?」

と真剣に答える。

ハウンドは椅子に崩れるようにして座る。

目の前にはトータスから託された封筒。

「ミーティングを始めよう。」

ドクの入室を確認したハウンドは真の意味で覚悟を問われていることを自覚した。


次回は水曜日

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