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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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25/308

1-18 逃げるように

猟犬達ドッグス【軍事機密】

元龍の国陸軍魔法中隊中隊長、現白の部隊部隊長のセリンスロ・ケン(コードネーム:ハウンド)の主力魔法。

元素魔法と呼ばれる、炎、氷(水)、土、風の四属性に特化した犬型の半自立型使い魔を召喚する。

柔軟性が高く、単独での諜報活動や魔法陣を内蔵した柄の刀身になることが可能。

なお、ハウンド自身、自分自身としか思っておらず、扱いが悪い。

ホムラだけでも、

苦手な雨の日に呼び出される。

コーヒー用に事細かに火加減の指示を出される。

タバコに火をつけるためだけに呼び出す。

等々。

それゆえ、猟犬たちは彼に協力はするものの、それぞれの得手不得手に合わせて対応を変えたり、積極的に遊んでくれるパル達、他の兵士によくなついている。


「ちょっと待て!」

ハウンドの声にパルのかざしていた右手に現れた魔法陣が萎えるように消える。

「んだよ。前回いい感じに引いたんだからそのままやらせろや。」

パルは不服そうにハウンドに向き直る。

「引ってなんだよ…じゃなくて!やるなら魔力炉も潰せ。どうせ碌な使い方してねぇんだ。」

パルはその言葉を聞いてニヤッと笑うと、改めて右腕を敵にかざすように構える。

「龍閃の1番、2連大龍哮砲。」

パルの言葉に呼応して2つの円形陣が現れる。

2連、つまり二重にかつ、同時に一つの魔法を使う際に用いられる言霊だ。

クロガネ!とハウンドは叫び土の猟犬を呼び出すと自身とパルの立つ地面を強化させる。

ほぼ同時に2つの円形陣からそれぞれ光の塊が現れる。

蛇のような長い体躯と鱗、短い腕も足ともいえぬそれをいくつか持つそれはまさに龍であった。

2体の龍のうち1体は地面に潜り、もう1体は彼女たちの周りを周回し始める。

その円は少しずつ、隙間なく広がっていき、天使のような男たちを飲み込んでいく。

驚くべきはそれが男たちを巻き込むたびに大きくなっていくことだ。

それはまさに捕食という言葉が相応しかった。

地鳴りを起こしながら進むもう1体も同じように円を描き全てを飲み込む。

パルは何かを感じ取ったように構えていた右腕を天に向けるとそれぞれの龍が天に向けて登っていく。

地面を突き破ってきた龍は魔力炉を喰ったのか最初の倍ほどの大きさになっていた。

2体の龍が青空に吸い込まれるとエリア8-8は元は軍事施設であったとは信じがたいほどの破壊をもたらされ、後方の街では地鳴りと天に昇る龍による混乱が起きていた。

「お前…人間…なのか…」

ハウンドは思わず思った通りに口に出した。

振り返っていたパルの表情が、その言葉を聞いて、雷の落ちたように泣きそうな哀しげな表情になる。

「…そうかもな。」

とパルは笑ったが、目からは涙が溢れそうだった。

ハウンドは自身の言葉の意味を理解すると、違う!と叫んだが、彼女は足早に歩き去る。

ハウンドの声はその小さく震える背中に届いていなかった。

ハウンドは己の愚かさを痛感した。

彼女は望んでそうなったのではない。

口では改造されたから今の自分がある。とそう言ってはいるものの、彼女は人として生きようと必死だっただけだ。

それを当の本人から聞いていたにも関わらず、その圧倒的な力に恐怖し、彼女を否定するような問いかけをした。

それが彼女をどれほど傷つけるか考えもせず。

ホテルに戻ったハウンドはトータスに連絡を入れ、ベッドに横たわる。

隣の部屋にいるパルの啜り泣く声が壁越しに聞こえてくる。

安宿を取ったことを悔やんだ。

自身が彼女を傷つけたことから逃げるように。

隣の声が止んだのは深夜になってから、彼が部屋に戻って5時間ほど経ってからだった。


翌朝、チェックアウトを済ませホテルを出るとパルが運転席に座っていた。

ハウンドはどう声をかけるべきか迷いながら、荷物をトランクに乗せ、助手席に座ろうとする。

「娘さんに会わなくていいのか?」

パルは彼と目を合わせることなく言う。

「お前…」

「あ、いや、オレがどうこう言えた義理はねぇな。」

ハウンドは自分の中で抑えてきた何かが堰を切ったように溢れるのを感じた。

気づいた時には、運転席側に回り、車から引きずり出すように彼女の胸ぐらを掴んでいた。

「なんで!テメェは!昨日あんなこと言ったやつに、そんなに優しくできるんだよ!」

ハウンドは彼女に殴って欲しかった。

彼女に怒って欲しかった。

それを望んでいたことをこの時ようやく理解した。

パルの回答は、頭突きだった。

あまりの速度に不意を突かれ、そのまま仰向けに倒れる。

「優しいだと!オレが?そんなこと考えてるわけねぇだろうよ!そうすることしかできねんだよ!他にどうしろってんだよ!」

パルもまた抑えてきた何かが溢れ出していた。

「オレはどうせ何も守れやしねぇ!敵を殺して!味方を殺して!挙句に家族さえ殺した!今度はお前も!陛下も巻き込むだろうよ!そうさ!オレは人間じゃねぇ!体のあちこちをいじられて血を書き換えられた化け物でも人でもねえ何かさ!」

パルの雄叫びに似た叫びは道ゆく人々の足を止めさせた。

いや、ハウンドが胸倉を掴んだあたりからすでに野次馬が囲み始めていた。

パルは涙を拭うと車に乗り込み逃げるように猛スピード発進させる。

走り去る彼女に何も言うことができない自分が

情けなかった。


ドクはノーチラスのハッチ解放をマザーから聞き、格納庫に足を踏み入れる。

パルは運転席でブツブツと文句を言いながら膝を抱えて座っていた。

「何があったんだい。」

ドクはパルに事情を伺おうとしたが、あいつが悪いんだよ…と返されるだけだった。

ドクは荷台からパルの鞄だけを下ろすと、

「とりあえず部屋に戻ってなさい。荷物はワシが届けておく。」

それを聞いて彼女が振り返り、ハウンドの荷物だけ持ち帰ってきたことを確認すると、

「あちゃー…やっちまった…」

と後悔する。

「ハウンドは滝の国かな?」

と聞かれたパルは、小さく頷くと車から降り、自身の荷物を持つ。

「何があったかは聞かんが、早めに仲直りすると良い。長引くと色々と面倒だぞ。」

ドクの助言に、パルは、わかってる。と答えるが、目を合わせられない。

「どうすれば良いのか。それはお前が考えるんだ。」

ドクはそう言って優しく笑うと車を発進させる。

「運転、できたんだな。」

冷静になったパルは長年の知り合いのことさえよく知らないんだな。と思った。


滝の国に置いて行かれたハウンドは、しばらく動けなかった。

ショックと混乱が、彼の胸中に渦巻く中、

「大丈夫ですか?」

野次馬が解散していく中で聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

振り返ると墓地であった盲目の少女、いや、彼の娘が心配そうに彼の肩に触れていた。

「さっき叫んでいるのが聞こえたので…うちでよければ休んで行かれますか?」

ハウンドは断りたかった。だが、どこかで引っ掛かっていた。

(このまま、いつまで逃げるのだろうか…)

滝の国での仕事、そのついでになってしまったが妻の墓参りをした。

それはどこかで娘に会うことを決心していたのではないか。

或いは、過去から逃げるのではなく、正面から受け止めようと、そう思ったからではないのか。

一歩進んでみるか。

「お願いできますか?荷物も全部持って帰られてしまって…」

ハウンドは立ち上がって答える。

答えを聞いた少女の顔がぱあっと明るくなると満足気に案内を始める。

道すがら彼女は自分の話をする。

生まれつき目が見えないこと。

訓練によって魔力を感じ取り、1人で出歩けるようになったこと。

母親はすでに死んでいるが父は生きているだろうということ。

今は祖母と暮らしていること。

将来は教職に就きたいと思っていること。

彼女は気付いていなかったが、ハウンドはこれまで一切関わることのなかった娘がしっかりと、真っ直ぐに生きてきたことを少しずつ知ることができた。

彼女の住む家は徒歩で30分ほど歩いた場所にあった。

少し郊外から外れた場所。

以前に来た時と変わらない。

妻の実家に再び足を踏み入れる。

ただいま。という気の抜けた声。

出迎えに出てきた老婆は驚いた様子でハウンドを見る。

(娘を預け逃げ出したんだ。殴られてもしょうがねぇ)

ハウンドの覚悟とは裏腹に老婆普段通りの態度を崩さず、

「お客さんかい?」

と少女に尋ねる。

「そう。恋人さん?と喧嘩しちゃったみたいで、荷物も持って逃げられたみたいなの。」

ハウンドは恋人という言葉を否定したかったが、老婆が反応しなかったのでそのままにした。

「そうかい。だが、あいにくコーヒーが切れておる。買ってきてくれんか?」

老婆はそう言って金を少女に渡す。

彼女はそれを受け取ると、人使いが荒いんだから。と言って再び街へ出る。

扉が閉まるのを確認して、ハウンドは、お久しぶりです。と絞り出すように言った。

老婆の名はアメといい、ハウンドが結婚を申し込んだ際は余命幾許かの娘を幸せにしてやってほしいと涙ながらに祝福してくれた。

「ケンちゃん…なんとなく話が見えてきたよ。」

アメは椅子に腰掛けると、ハウンドにも座るように促す。

「セッカには自分が父親だと話してないんだね。」

アメは怒るのではなく、確認するように聞く。

「俺にはその資格がありません。ユキナが死んで、俺は生まれたばかりのあの子を見守らねばならなかった。でも、俺は逃げたんです。」

恨まれても仕方ない。と付け加える。

「あの子は頑張ってるよ。目が見えないことを気にして訓練もよく頑張った。だからこそああやって買い物を頼むこともできる。」

ハウンドは返す言葉に詰まる。

「それにね。一昨日かな、私は嬉しかったよ。ユキナの墓にアザレアを持ってきた男がいたと聞いた時はケンちゃんだとすぐにわかった。」

ハウンドは嬉しそうに話すアメを見ながら、その優しさを素直に受け取れなかった。

「あんたが父親だと名乗るのが嫌だってんなら私も協力するよ。それでもたまに会いにきてやんなよ。ユキナの知り合いってことにしてさ。」

ハウンドはそれができるなら。と思い始めていた。

娘が親だと思っていなくとも、親子の時間を作れるのならと。

「そうじゃねぇとケンちゃんが辛いだろうよ。ユキナのことはしょうがなかった。だからといってその責任はケンちゃんにあるわけじゃない。娘のことが気にならない親はいないさね。」

アメは優しくハウンドの心を代弁した。

ずっとどこかで引っ掛かっていたことが、一歩踏み出すだけで全てが上手くいくような気がしていた。

そういえば、とアメが話題を変える。

「あんたが喧嘩した相手、セッカは恋人だとか言っていたが違うんだろ?」

とニヤつきながら言う。

ハウンドが苦笑しながら肯定すると、やっぱりね。とアメは手を叩く。

「あんたがモテるわけないもんなぁ!」

(モテ…ない…?)

ハウンドの苦笑いが固まる。

確かに昔から周りにいた同期の方がモテた。

いや、モテないという事実から逃げていた。

「そうさ!あんたは心を大事にしないからねえ。余計なこと言って泣かせたんだろ?」

身を乗り出しながらまるで昨日の失態を見てきたかのように話す。

「まぁ…おっしゃる通りで…」

ハウンドはたまらず視線を外す。

「だろうね!ユキナもまぁ妥協したみたいなもんだしねぇ!」

アメは娘の死をとっくに乗り越えていたようだった。

確かにハウンドがユキナと出会った時点で彼女は病に侵されており、自分は結婚しない。と頑なだった。

それでも。とハウンドは必死に彼女に自分の思いをぶつけた。

今振り返れば燃え尽きていたのかもしれない。

万に一つでも、ユキナの病が治ればと。そう思って祈っていたが、届かなかった。

その後は、どうすればいいかわからず仕事に没頭していく。

彼にとって、少し前までの自分だったはずなのに遠く感じていた。

アメがひとしきり笑い終える頃、セッカが街から戻ってきた。

コーヒーのいい香りがする。

おかえり。扉を背にするように座っていたハウンドが振り返って言う。

なんでもないことのはずが、なぜか泣けてきた。

自分が投げ出したものが今こうしてここにある。

それが何より嬉しかった。

アメが立ち上がってセッカからコーヒー豆を受け取ると台所へ向かう。

この家は台所とハウンドの座っているダイニングは別々の部屋になっている。

アメがコーヒーを入れる間、部屋にはハウンドとセッカの2人きりになる。

セッカが座ったのを確認して、名乗ってなかったね。と切り出す。

「俺は…シュナイダーという。君のお母さんの友達だ。」

一瞬そのまま本名を名乗りそうになった。

「そういえば私も名乗ってませんでしたね。」

セッカは不思議そうに言う。

「いや、アメさんから聞いたよ。セッカさんだよね。もっと早く会いたかったが、俺自身色々あってね。」

これが親子の会話なのだろうか。と心のどこかで思いながら、優しく話す。

ほぼ初対面の両者だったがそれを感じないほど会話は盛り上がっていった。


ドクが滝の国に入る頃には昼過ぎになっていた。

パルから聞いたホテルの場所はすぐに見つかったが、ハウンドがいない。

とりあえずホテルのフロントで、今朝、喧嘩した男女はいなかったか。と聞くと、話しかけたスタッフがチェックアウトの手続きをしていた。

女の子の方の父親だと言い、詳しく聞くと、どうやら女性の方が車で待っていたところに男性が現れ口論になり、女性の方がものすごい勢いで頭突きしたのがここからでも見えたと言う。

(目立っただろうなぁ…)

と思い、男の方を迎えにきた。と言ったが、そのスタッフは彼がどこに行ったのかわからないと言う。

ドクはホテルに戻るかもしれないから。と言って荷物を預けて街を見て回ることにした。

マザーによる位置の算出を試したが、距離が離れすぎてダメだった。

十字路を曲がり路地に入ると、落ち着けそうなカフェを見つける。

昼食を取ろうと思い進み出した矢先。

先生!と声をかけられる。

振り返ると30歳くらいの白衣の若い男が走ってきた。

「マイラスくんか!」

ドクは驚き、男と握手をする。

彼は、キンバ・マイラスといい、ドクが以前、大学で客員教授として働いていた時の生徒の1人だった。

非常に優秀で、ドク自身、彼との議論や論文から学ぶことがあったほどだ。

マイラスは握手に応じながら、

「お久しぶりです!ここのカフェは僕の行きつけでもあります。さぁ!久しぶりに先生の話を聞かせてください!」

と半ば強引に入店させる。

カフェの雰囲気は落ち着いているが、昼過ぎということもあってか客は彼らだけだった。

ドクはウェイターにコーヒーと勧められたサーモンサンドを注文する。

「先生。早速聞かせてください!貴方の引き取ったドラゴンの話を!」

落ち着いてコーヒーを愉しむようなことをするマイラスではないことはドクの知るところだった。

マイラスは龍の国所属の研究者としてパルの改造にその頭脳を貸していた。

ドクは、元気にしているよ。とテイクアウト用のメニューを見ながら話す。

「釣れないですねぇ…僕が知りたいことはただ一つ…」

一呼吸置く。

ドクは、面倒なのに絡まれた。と少し後悔した。

「ドラゴンに与えている血清ですよ。あれはなんなんですか?僕の知る限り、あの黒い血の出所とそれを維持するための血清がなんなのかも把握しているのは貴方だけだ。」

「教えると思うかね?君は龍の国を出て頭脳を売っていると聞いた。ドラゴンのような存在を増やしたのかね?」

ドクは店に入って初めてマイラスの目を見て話す。

当然です。マイラスの目は好奇心とは別の、ある種の破滅願望に似た狂気を宿している。

「ドラゴンは素晴らしい!人の持つ魔力量を書き換えた成功例だ、しかも拒絶反応らしきものはなく、10年以上生存している!世界の勢力図を簡単に書き換えられるんです!」

マイラスの興奮した様子を見て、ドクは段々自分が冷めていくのがわかる。

「科学や医療の研究はあくまで人のためにあるべきだ。ワシの研究を曲解し、孤児に人体実験を施したことが許されると思っているのか?」

「必要な犠牲…いや、むしろ孤児の数が減って喜ぶべきでしょう。それに、貴方の研究の全てを軍事転用すれば職の持てない人間全てに兵士という生き方を与えられる!」

「その結果として人が終わりなき闘争に進んでもか?強い兵士を超える兵器が現れ、それを超えるものが生み出される。そのパワーインフレの果てにあるのは文明のリセットだ。」

ドクとマイラスの掛け合い。

両者の温度は氷と炎ほどの差がある。

「貴方とはやはり合いませんね。」

マイラスは椅子に座り直す。

ドクは出されたコーヒーの香りを感じてから飲む。

「君は何を作っている?いや、何を求めている?」

ドクはカップを置き、聞く。

「それを明かすことはできません。しかし、貴方が龍の国の軍に関わるのなら、そのうち見ることになるでしょうね。」

ドクはなんとなく察しが付いた。

天使の力。

それがパルに似ているのであれば、パルの改造に関与した誰かが噛んでいる。

そして、それを可能にするほどの天才であれば、キンバ・マイラスを置いて他にはいない。

「あまり、深入りしすぎないのが身のためだぞ。軍事施設を改造するなどするような連中と、手を切るべきだ。」

ドクは昨日、トータスへの報告ついでに聞いたハウンドの報告を元にカマをかける。

なぜそれを…マイラスの動揺ぶりは素人のドクにもわかるほどだった。

彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、それを消し、反論する。

「知ったからどうだというんです?彼らこそ人をより良く導ける存在だ。」

「利用されているだけだ。力で変えた世界は力で返される。破壊は傷しか生み出さんよ。」

ドクは少しずつ彼を追い詰めていく。

「それに、わざわざワシに絡みに来たということは連中にも欠陥があるということだ。君が力のために生命を冒涜するのなら一生辿り着かん答えだ。」

子供扱いするな。とマイラスは初めて怒りを露わにする。

「君は子供だよ。善悪の区別すらなく悪戯に人の領域を越えようなどと。そんな理屈が通るのかね?」

「貴方こそ、軍事転用がわかっていたのに協力したんじゃないのか!」

「それはそうだ。ワシは自分の老いた命惜しさに協力した。それは今でも後悔している。許されることではない。」

ドクはコーヒーを飲み干す。

ウェイターたちは2人の舌戦に圧倒されている。

「だからこそだ。だからこそ君の愚行を止めたい。手を引け。いつか取り返しのつかないことになるぞっ!」

教え子への説教じみた言葉。

まだ間に合う。ドクの心は怒りよりも哀しみが強くなっていく。

「ふざけるな。僕の研究は世界を変え、真実へとつながる。貴方とは違う!」

そう言ってマイラスは勢いよく立ち上がる。

ドクの心は哀しみを振り切り始めていた。

「かっこよく立ち去るつもりのようだが一つ教えておこう。昨日の襲撃、偶然と思うなよ。」

ハッタリだが、動揺したマイラスには十分な効果があった。

「次もそのうち実行する。貴様らが裏で行ってきた愚行の全て、許されるなどと思わんことだ。」

喋りすぎないように気をつけながらとどめを指す。

マイラスは血の気の引いた顔でどこかに連絡をしながら店を出る。

パルの見様見真似ではあったが十分な効果があったようだ。

ドクは懐中時計を取り出すと、マザーにハウンド報告を元に目星をつけていた廃棄済みの軍事施設の監視を依頼する信号を送った。

「コーヒーのお代わりをもらえるかな?それと、今の話は他言無用でな。」

ドクの声は優しい声が緊張で固まっていたウェイターたちをほぐす。

ドクはコーヒーを注いでもらうとメニューを指差す。

「後、テイクアウトも頼めるかな?」


次回は水曜日

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