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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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1-17 白き翼(プラマ・ブランカ)

セリンスロ・ユキナ【個人情報】

滝の国、東に位置する小さな村、ユコル村に生まれる。

滝の国の大学卒業までは医師を目指していたが、皮肉にも自身が流行病に犯され余命3年ほどと宣告される。

思い出作りに世界を見て回ることを希望した彼女は港の国、天の国を観光したあと、龍の国を訪れ、当時、龍の国陸軍第二魔法小隊の小隊長を務めていたハウンドと出会う。

結婚に関して、彼女は自身の余命から否定的であったが、ハウンドの強い熱意に折れる形で結婚。

この時点で妊娠していたものの、出産か、母体かの選択を迫られ、出産を選択。

産後1週間後、病による多臓器不全により死去。

享年26歳。余命宣告から4年を生き抜いた。


パルとハウンドはエリア8-8の前に立っていた。

有刺鉄線で塞がれた入り口を滝の国の軍人が手慣れた様子で開けていく。

今朝方迎えに来た男とこの場所に案内された2人。

どうぞ。と軍人に促されるまま基地に足を踏み入れる。

外からも少し見えていたが、目を引くのは軍用機用の滑走路だ。

空軍基地であったこの場所が廃棄された理由もまた空軍の解体でもあった。

倉庫や兵舎はそのままになっているが、中には何も残されていない。

「なんにもねぇな?」

パルは興味なさげに言う。

「お話した通り、レイモンドは3日前に監獄島に更迭されました。所持品にはこの場所を門から撮った写真があったのみで、取り調べでも観光だと言っていたそうです。」

パル達と入れ違うようにレイモンドの逮捕があったために会うことは叶わなかったが、念の為場所を見ることになった。

パルが提案したのだが、彼女はこの場所が廃棄された軍事施設であり、設備も残っているのにシュリーが購入していないのが引っ掛かった。

売りに出されていなくとも発言力のあるシュリーならば買うことができたはずだ。

「お前の希望だぞ。もうちょっとやる気出してくれ。」

タバコに火をつけ、上の空のパルにハウンドは呆れる。

パルは軍人の方を向き、

「ここって誰も入ってないんだよなぁ?」

と気だるげに聞く。

ハウンドはここでパルの演技に気づくと静かに軍人をパルと挟むように位置取る。

「ええ。廃棄されてますが、設備の廃棄予算の確保が進んでなくて。」

苦笑いしながら答えるが、致命的だった。

「ここってよぉ。あれだよな。車とか入ったりしてねぇよなぁ?」

パルは変わらず、命令されたことを聞いてんだ。と言わんばかりの不貞腐れた態度で聞く。

「はい。廃棄後に門を開けたのは初めてのはずです。」

俺かもいいかな。とハウンドは聞く、手には柄が握られていた。

「ここ、地下があるよな?ブリーフィングでは地上だけって話だったろ?」

「なぜそれを…」

慌てる軍人の後頭部に冷たい感触。

「答えが間違ってるぜ。なんのことだかわかりません。が正解だろ?」

パルが先ほどとは180度違う殺気を孕んだ様子でアギトを突きつける。

軍人は舌打ちをして、背後にいたパルへ回し蹴りを放つ。

が、その足をパルは右腕で抱えるように止めると、先程、頭に突きつけていたアギトで膝の辺りを撃ち抜く。

ビー玉ほどの穴が空き、悲鳴が響く。

パルは驚くこともなく、今度は眉間に狙いを定める。

「もう一度聞くぜ。ここには誰も出入りしてねぇんだよな?」

軍人は、舐めるな。と叫び左手で脇のホルスターにある銃を抜き反撃しようとする。

だが、その言葉は半分くらいのところで銃声にかき消される。

左腕の肘から先がブーメランのように血飛沫を撒き散らしながら飛んでいく。

先ほどのビー玉ほどの出力ではなく、肘が吹き飛ぶ威力はそのまま、脇腹を抉り取るほどだ。

魔力を打ち出すアギトならではの出力調整はこう言った場面でも有用であった。

再びの悲鳴。

「叫ぶより質問に答えろ。本当に出入りはないんだよな?」

返り血を浴びてもそれを拭う仕草すらなくパルは聞く。

「十分だ。出入りはおおよそ2ヶ月に一回。噂話の頻度から深夜から早朝にかけてだな。」

ハウンドが代わりに答える。

軍人の顔が目に見えて青ざめるのが見てとれた。

「生憎とオレは神は信じてなくてな。お前、神を信じるなら祈ってみろよ。助けに来てくれるかもしれんぜ。」

パルは質問をしなかった。

これはトータスがよく用いる拷問手段で、通常通り拷問を行うが途中で必要な情報が揃ったフリをする。

そして捕虜を殺そうとすると簡単に必要以上の情報を吐く。

「詳細は知らない!10年くらい前からトラックが2ヶ月に一回くる!中身は知らない!どこの国かもわからない!」

必死に答えた。

パルは感心することもなく、

「オレは祈れと言ったんだぜ。」

と引き金を引く。

恐怖と凶器の混じった断末魔は声は銃声でピタリと止んだ。

パルは返り血を拭いながら、どうやったんだ?と聞く。

ハウンドは昨夜、ホテルに着いた後に、ドッグスを街中に展開し、情報を集めさせていた。

地下はクロガネが地面の様子を調べた際に滑走路の下の空洞を見つけたのだった。

ハウンドは一通り説明し終えると、

「じゃあクロガネに地下への道も作ってもらおうか。」

パルはクロガネを撫でながら言う。

手を離すと勢いよく駆け出し、滑走路のアスファルトと同化するクロガネ。

ハウンドが柄を振るうと3メートル四方の穴が空き、地下へ伸びる即席の突入口ができた。

レディファースト。ハウンドは紳士的に言う。

この野郎。とパルは青筋を立てながら階段を降りていく。


時を同じくして、フレイルは15年前の財務資料を閲覧していた。

当時の自分はお飾りの王妃として公務を行うことはあっても基本的に城の中で本を読んだりして過ごしていた。

その時期にアリアンナは不穏な金の動きを察知し、龍の国に消された。

それがパルの仮定だった。

(滝の国への畜産援助6,500万クレジット?!しかも個人の口座から支出してる…)

その前提に立って資料を見ると、確かに不自然な額が動いていた。

名目上の違和感こそないが金額や金の出所は非常に疑わしいものが多い。

特に目を引くのが大臣私費口座の文字だ。

決算報告では国庫からの支出のみを前提として話が進む。

それ故に今まで追求を受けなかったのだろう。

それだけでなく、不正な資金繰りを監視するはずの監督組織や金を受け入れた滝の国までもがこの金の動きに加担していると言っているようなものだった。

「今、追求しても仕方がない…。敵が多すぎる…」


エリア8-8の地下に到着したパルとハウンド。

降り立った正面に稼働している魔力炉が目に入った。

機種としては5年ほど前のものではあるが、雑多に伸びたケーブルの数から見てここが倉庫でないことは明らかだった。

どう思う?パルはハウンドに尋ねる。

「薬品の匂い…いや、アルコールだな。消毒の匂いが強い。」

彼の表情が険しくなる。

「それと血だ。血液の匂い。それもかなりの量だ。」

頷くパルは確証はなかったが、この場所に既視感を覚えていた。

それは自身が検査という名の改造を受けた龍の国の施設だった。

「肝試しといくか?」

パルは笑顔を見せる。

「鬼ごっこの方が先らしい。」

ハウンドの握っていた柄にクロガネが近づくと黒く光る刀身を作り上げる。

前後から足音を感知した2人。

それぞれ3人ずつ。

走っているようだ。

背中合わせの形になると、

「よーい…ドンッ!」

パルの楽しげな声で2人は弾けるように飛び出すとそれぞれ走ってきた何者かに突っ込む。

銀髪を揺らしながらパルはアギトを引き抜く。

相手は3人。

武器は無し。

だがその目はこちらが獲物を持っているにも関わらず殺意と自信に満ちている。

走りこんでくるその距離が後数歩というところで、パルは先頭の右膝を撃ちぬく。

バランスを崩し膝立ちになった相手の左ひざ、左肩と階段のように駆けあがり、二番目の男の顎に左ひざを叩きこむ。

最後尾の男から見ればいきなりターゲットが目の前に現れる形となり、急ブレーキを掛ける。

その硬直をパルは見逃さず、右のアギトで心臓と眉間を撃ち抜く。

パルが着地すると反転し、ハウンド側へ駆けだす。

先頭の男が足を引きずりながら振り返ろうというところで、パルは三角飛びの要領で壁を蹴り、勢いをつけた飛び蹴りを見舞う。

元居た位置に着地した後、再び反転、左はようやく立ち上がった2番目の男を、右は上半身を起こそうとする先頭の男にアギトの照準を定め、連射。

正確に頭に2発づつ叩き込む。

同じように3人に突っ込んで行ったハウンドは、座り込むように先頭の男を袈裟斬りで両断すると、彼の肩を踏み台に、ツムジとホムラが飛び出す。

「延焼陣形!」

自身の狙いが味方にもわかるように、と癖づけられた攻撃名を呼ぶ。

空中でツムジが起こした風は、後続の2人を引き寄せるような小さな竜巻を起こす。

そして、そこにホムラが着火すると、風の勢いに乗せられ一気に燃え上がり、火炎の竜巻となって、2人を燃やし尽くす。

15秒ほど経った後、自分の耳と、竜巻の奥に待機していたホムラ、ツムジの耳にうめき声が聞こえなくなったことを確認すると指を鳴らす。

手品のように激しく燃えていた竜巻が消え、2体の猟犬が彼の体に戻る。

振り返るとパルが腕組みして立っていた。

彼女はニヤッと笑うと、

「オレの勝ちー。」

と、誇らしげに言う。

「いや、俺の勝ちだな。」

パルの後方で倒れたはずの3人がゆらりと立ち上がるのが見えた。

もしや…という、ハウンドの疑念。

「伏せろ!」

それをかき消すようなパルの怒号。

パルは衣装の裏地に仕込んでいた投げナイフを両手、一回転しながら前後に投げつける。

それは、立ち上がらんとする男たちの足や肩に刺さる。

ハウンドもただしゃがむだけでなく、クロガネを用いて、入ってくる際に作った階段を再度形成させる。

砕ッ!というパルの掛け声でナイフは炸裂する。

密集していた彼らは自身に刺さったナイフだけでなく、お互いのナイフの炸裂を浴びることとなった。

「それが、遊び心か?」

以前にパルとドクが話していたことを思い出しながら、ハウンドが聞くと、そういうこと。とパルは余裕ありげに答える。

銃撃ではなく、爆破による攻撃は、体に空いた穴を簡単に塞いでしまう天使達に対抗するアイデアとして、ドクに提案したものだった。

数に限りこそあるが、その有用性はピクリとも動かない彼らを見れば一目瞭然だろう。

「ここでやってるのは…」

そう言ってハウンドが自身の疑念をパルに話そうとしたところ、通路の奥から更に数人が走ってくる足音に気付く。

2人は我先にと階段を駆けだした。

「クソッ!あれじゃあまるで天使じゃねえか!クソッ!!」

あまりの動揺に同じ悪態を繰り返すパル。

ハウンドの疑念は正にその通りであった。

2人は外に出る。

日差しが目に突き刺さるようだった。

「やはりここは、天使の工場なんだろうな。」

ハウンドの疑念は、彼らを包囲するようにじりじりと距離を詰めてくる男たちを見て確信に変わった。

「天使のなりそこないってことか?」

パルの過程は半分間違っている。ハウンドは直感的に判断した。

だが、今は順序だてて整理する暇はない。

数はおよそ30人ほど。

地下に同じくらいの数がいるのであれば、かなりの長期戦になる。

思案していたハウンドの頬をなでる風の雰囲気が変わった。

明らかに空気中の魔力が多い。

「一気に片付ける。」

パルはそういうとコートを脱ぐ。

すると、彼女の左肩甲骨のあたりから白い光が伸びる。

それは絵本の挿絵で見た龍の翼のようであり、天使を狩る悪魔のようでもあった。

「白きプラマ・ブランカ…お前に見せるのは初めてか。」

ハウンドは目を丸くするしかない。

これが、彼女がドラゴンと呼ばれる所以であった。

「動くなよ。オレがコントロール下手なの知ってんだろ?」

ハウンドは驚いたまま、受け答えもできない。

パルは息を吐き、言葉に力を込めるように、祈る(となえる)

「行くぜ。龍閃の1番、大龍哮砲たいりゅうこうほう。」


次回は土曜日

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