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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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1-16 滝の国

滝の国(たき-くに)【一般情報】

大国、港の国の北側に位置する小国。

人の往来が激しい港の国と異なり、船乗りたちを相手にした歓楽街やホテル街を有する観光業が盛ん。

陸軍、海軍を有する。

多くの船乗りが休憩に訪れる場所である一方で天の国、麦の国、港の国といった国々と隣接しており、観光のためだけに訪れる人間も少なくない。

議会制であり、現議長はガナラ・ラガナ。


任務の発令から2日後。

出航を予定していた日は、雨が降っていた。

激しいわけでも小雨というほどでもなく、普通の雨だったが、室内ではそんなことはあまり関係ない。

ブリッジにマザーの声が響く。

「軍部より、港の国、そして滝の国への入国書類一式と申請承認の報告が入りました。」

パル、ドクと話していたハウンドは、それを聞くと立ち上がり2人を見る。

2人とも特に異論はないようだ。

「出航しよう。マザー潜航開始。」

ハウンド指示に対して、潜航開始。とマザーが答えると船はゆっくりと沈んでいく。

波が荒れており、時間がかかる見込みだ。

「到着までおよそ10時間。」

マザーの声を聞き、パルとドクもまた立ち上がる。

一眠りするのにちょうどいいかな。とパルは自室へ向かう。

ドクも同様だろう。

ハウンドは念の為、送られてきた資料をチェックする。

マザーが確認している以上、不要な手順でもあるが、事務仕事もこなすようになってからの癖のようなものだった。

ノーチラスは静かな深海を悠然と進む。

雨はまだ止む気配がない。


レイモンドは港の国から南西に20キロほど離れた小島に送られた。

監獄島と呼ばれる島一つを改造して作られた刑務所だ。

各国がその年の予算総額の3%を出し合う方式で運用されており、自国の犯罪者を送りつける、臭いものに蓋をするための場所だ。

レイモンドの罪状は確定していないものの、その数や規模からこの場所に送られるのは目に見えていた。

無論、麦の国もまた、彼と関わりたくない。という意思があったからでもある。

レイモンドは個室に入れられていた。

ベッドとトイレがあるだけの部屋。

ここにきて2日目だが居心地の良さを感じていた。

それは環境的な話ではなく世界中の犯罪者たちの集まる場所には裏の情報も集まりやすい。

支給されるタバコや食事を使った交渉で集めた情報を1人の空間で静かに熟考する。

結果として懲罰同然の独房入りとなったが、それは情報を集めきった上で、1人になりたかったからだ。

彼がここに入るために使った手段は簡単に言えばイカサマである。

囚人同士の退屈凌ぎであるカードゲーム。

表情を読み、時にはカードに傷をつけ、まだ場に出ていないカードを元に相手の手を読む。

百戦百勝の圧勝だった。

そこで手に入れた嗜好品を元に情報を買う。

最後にネタばらし。

無関係の人間にカードを盗み見てもらった。と言い、トラブルを起こす。

看守がすぐさま駆けつけたのは、買収していたからに他ならない。

後は事前の交渉通り独房でゆっくり過ごす。

囚人たちの持つ資産を巻き上げることで、看守たちの副業を手伝い、見返りとして自分に味方してもらう。

レイモンドは閉じていた目を開き。

そういうことか。と呟く。

龍の国、財務大臣シュリー・コンヌス。

やつから流れた金がトラ教団を強化している。

通りで取っても奪っても減らないはずだ。

国家規模での横領があったのだから。

レイモンドは横になると、目を閉じる。

彼がいるのは海底に位置された独房。

一月分の食料と囚人を詰め込み1ヶ月間、海底に沈める。

時間感覚の喪失や孤独感から囚人はこれを嫌うが、彼はやはり居心地の良さを感じていた。

仲間が必要になる。

自分と同じ復讐心を持つもの。

目的のためなら手段を選ばず、簡単に一線を踏み越えられる存在。

都合が良い話のような気がするが、事実、この数十キロ先の海底を進むそれにもう1人の復讐者はいる。

彼と同じように家族を奪われ、その事実を追い求めようとするものが。


港の国近くで浮上したノーチラスは検問の指示通り、屋内に繋がる軍事用のドックに入った。

要人の出入国にも用いられるこの場所は目立たず、そして港の国の中心部にほど近い。

到着が深夜になったために翌日から行動を起こすことになった白の部隊だが、外に出てみようというハウンドの提案に乗るものはいなかった。

ドクは、ラボでの作業を続けると言い、パルは、まだ寝る。と言って部屋から出てこなかった。

ハウンドは、1人で夜の街を歩いた。

いくつか露店を周り、タバコを買って船に戻る。

2時間ほどの観光だったが楽しめた。

船に戻ってもなお、パルは寝ており、ドクもラボに籠ったままだ。

ハウンドはそのまま自室で休むことにした。

滝の国に行くのは初めてではない。

だが、気の進まないことでもあった。

不思議と簡単に眠れたのは、自分でも気づかないほど疲労が溜まっていたからだろう。


翌朝、ドクに船を預け、ハウンドの運転でパルは港の国を出る。

距離にして1時間程度だが、パルはハウンドがなんとなく落ち込んでいるのを察する。

「んだよ。1人で観光したのがそんなに寂しかったのか?」

「バカ言え。滝の国は…あんまり行きたくねぇだけだよ。」

ハウンドはパルの呼びかけに呆れながら答える。

そして、嫁の実家があるんだよ。と付け加えるとパルは目を丸くする。

マジ?とパルのあっけに取られた声に、

「マジだ。といっても死んじまったけどな。けど、あの国には娘がいる。」

ハウンドの妻は、滝の国の出身者で、15年ほど前に観光に来ていた彼女と知り合った。

結婚までは早かった。

あっさり子供を授かっていたことも大きかったが、彼女にはあまり時間がなかった。

それでも本気で彼女に惹かれていたハウンドは周囲の反対を押し切るような形で結婚した。

その決断を知ったトータスはハウンドに3年の時間を与え、一生分愛してこい。と伝えた。

だが、その翌年にハウンドは服隊する。

出産するか、子供を諦めてもう少し生きるかという難しい決断を迫られていた。

自分には決められない。

全てを妻に委ねた。

結果として出産することとなったが、その1週間後に彼は妻と永遠の別れをする。

救いは、彼女が産んだ赤子をその手で抱くことができたことだろうか。

ハウンドはその経緯を簡単にパルに話す。

パルは茶化すこともなく静かに聞いていた。

「別に親父として会えばいいじゃねぇか。」

パルの言葉通りだ。

それは頭で理解している。

しかし、どういう顔で会えばいいのかわからなかった。

母体が万全でなかったこともあり、生まれてきた子は目が見えなかった。

また、ハウンド自身、娘を嫁の実家に預け、逃げるように龍の国に戻ったために会うタイミングというのを失ったままだった。

沈黙のまま車は滝の国に入る。

来るのは本当に久しぶりだったが、景色を懐かしむことができるほど変わってないようだ。

「チェックインまで時間あるよな。」

ハウンドはあえてパルに聞いた。

昼前で、ホテルはまだ受け付けていない。

パルが、そうだな。と答える。

ちょっと付き合え。そういって車を走らせる。

「花ぐらい買っていけ。」

行き先を察したパルの提案を受けてか、予め決めていたのか、車は花屋の前で止まる。


『綺麗な花じゃない?アザレアって言うだって!』


妻がそういって花を選んでいたことを思い出す。

ハウンドは花には疎かったが、このアザレアは一目で綺麗だと思った。

大きな花を咲かせ、内側にいくに従って果実のような赤みが差す。

子供のように花を見て回る妻の様子を思い出し目頭が熱くなる。

おや。店主の男が彼に気づく。

「ケンさんかい…?」

久しぶり。とハウンドが右手を挙げると店主は笑顔で、アザレアだね。と言い、大きく花の開いたものをピックアップしていく。

来るのは久しぶりだったが、妻が入院している時には必ず、アザレアを買って行った。

それをいまだに覚えていたのだ。

花束をあつらえると、ハウンドに手渡す。

落ち着いた色合いながらもしっかりと開いた花が選ばれている。

支払いを済ませて車に戻る。

パルは花束を受け取ると、綺麗だな。と言う。

「アザレアだろ。」

パルが名前を言い当てたことに驚く。

自分と同じで花になど興味はないと思っていたからだ。

「昔、アリアンナがくれたんだ。花言葉は『あなたに愛されて幸せ』ってな。」

パルの優しげな声を聞いて、ハウンドはアリアンナが麦の国の出身者であることを思い出した。

麦の国では花の栽培も盛んだと聞く。

「アリアンナが言うには、同じ花ってのはないらしい。だけどその花を選ぶまでの時間とか思いとおんなじようにな。けど花言葉ってのは不変だ。だから花をもらったらテメェで調べろって。」

そういってこの花をくれたんだ。とパルは笑う。

銀髪ので赤い瞳を持つパルと白いアザレアは似ている。

あなたに愛されて幸せ。ハウンドは改めて呟く。

車が墓地に着くと、パルは花束を丁寧にハウンドに返す。

墓標には『セリンスロ・ユキナ』と刻まれている。

ハウンドが花を置き祈りを捧げる。

パルもその横で同じように祈る。

足音が聞こえてパルは反射的に立ち上がる。

「驚かせてしまったのならごめんなさい。」

足音の主は15歳くらいの少女だった。

見覚えのあるえんじ色の前髪。

その手にはアザレアの花束が握られている。

「こちらこそ驚かせたのなら申し訳ない。」

失礼。と言ってハウンドは立ち去ろうとする。

少女はすり足気味に足元を探りながら歩く。

パルとハウンドは邪魔にならぬようにすれ違うと、少女は自分の行き先に花が手向けられているのに気づく。

「これは、あなた方が?」

手探りで花束を認識している様子から彼女が盲目であることがわかった。

「いえ、人違いです。」

ハウンドは振り返らずに答えると車へ乗り込んだ。

いいのか?助手席に座るパルが不安げに聞くが、彼は何も言わず車を動かした。

「いつまでも逃げられるもんじゃねぇだろ。」

少し怒りのこもったパルの言葉はハウンドの心に刺さる。

娘が妻に似て美人になっていたこと、少なくとも普通の生活を送っているようだったこと。

それだけで十分だと、思い込むことにした。

ただそれは、会ってどうすればいいのかわからないが故の逃げでもあった。


次回は水曜日

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