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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン1 Trigger of Catastrophe

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15/306

1-8 火種

and 7(あんど_せぶん)

パルの愛飲するタバコの銘柄。

タール6mg、ニコチン0.5mg。世界中に愛好家のいる銘柄。

パルは10年ほど前からアリアンナにタバコを教わっている。


初の戦闘任務を終えたパル達は、翌朝、一番にフレイルに報告を行った。

マザーが作成した資料を元にひとしきりハウンドが報告を終えると、フレイルは満足気に何度も頷く。

「いい感じね!パルはどう?女の子1人だけど大丈夫?」

「問題ありません。このまま次の任務に向かえます。」

まるで遠くに住む娘の様子を聞くように問うフレイルに対し、パルはあくまでも兵士として答える。

「焦らなくていいわ。ついでに麦の国の観光でもしてきたらいいんじゃない?」

相変わらず親のような口ぶりで答えるフレイルに、パルは先王との違いに驚くばかりだ。

(オレをガキ扱いするのか…?)

パルが回答に詰まっているとハウンドが、そういうわけにはいきませんよ。と答える。

フレイルは少し考えた後、

「じゃあ麦の国の内情調査ってことでよろしくね。2、3日したら帰ってきてね!」

と言うやいなや通信を切る。

強引だな。とドクは苦笑しながら呟く。

「白の部隊は麦の国の内情調査に向かう。」

ハウンドの気怠そうな声がブリッジに響く。


麦の国の内情調査を強引に命じられてから数時間後の昼下がり、ハウンドは任務のついでに昼食でもどうかとドクを誘いに彼のラボを訪れた。

ドクはフレイルへの報告にも使った資料を熱心に読み込んでいたが、ハウンドの入室に気づくと資料を机に置く。

「忙しそうだな。何か気になることでも?」

「戦闘の際の砲撃で気になることがあってな。」

と、ハウンドに地図を見せる。

「砲撃は完璧だった。パルも敵拠点も傷つけてない。」

そこなんじゃよ。と言いながら赤いインクで丸印をつけた部分を指差しながら説明する。

「ワシの予想していたポイントが、赤の部分。そして実際の着弾点がこのバツ印じゃ。」

確かにドクの予想ポイントよりもさらに北側にずれていた。

風は東から西に吹いていたため、北側にずれることはない。

「計器の故障か?」

「ワシの見たところ問題はなかった。ログを見る限りではマザーがこの地点への砲撃を判断しとる。」

ハウンドは詳細な砲撃地点をマザーに決定させていたが、確かに実際の着弾点を示していた。

そんなに気にすることかね?とパルの声が後ろから聞こえてくる。

ハウンドが、パルの方に目をやると、思わず二度見した。

シャワーを浴びた後なのだろうが、上半身裸に首からタオルを下げている。ハーフパンツを履いている以外は全裸同然だ。

「気することさ。マザーの思考パターンはワシが構築しとる。そのワシの予想と意図的にずらされておるのだ。気にならんわけがない!」

ドクは赤面しているハウンドをよそに興奮気味に話す。

それは予想通りにならなかった落胆や怒りではなく、狂気的なまでの好奇心が見える。

パルはタオルで髪を拭きながら、ふーん。と興味なさ気に答える。

「お、お前…」

ハウンドの震えた声は怒声に変わる。

「服!服を着ろ!何回言やぁわかるんだよ!!」

パルは、おーこわ。と茶化し、

「変わんないねぇ。猟犬の坊やは。」

と言いながらラボを出る。

パルのこうした振る舞いはドラゴンだった頃から変わらない。

その度にハウンドを含む他の兵士から注意されていた。

パルの体には無数の傷跡と手術の跡が痛々しく刻まれている。

パル自身、それを見られることを嫌う一方で、信頼した相手に対しては文字通りオープンになる。

ハウンドは以前と変わらぬ信頼を嬉しく思う一方で、彼女に対して、年頃の女性らしい振る舞いを身につけてほしいと思っている。

部隊を転々としたパルではあるが、当時は子供と呼んで差し支えない容姿だったこともあり、娘や孫のように可愛がられてきた。

彼女を妹と認めたアリアンナは特に可愛がっており、任務外でも姉のオルカと共に親交があった。

ほんとにかわらねぇ…と呆れるハウンドをよそに計算に没頭していたドクは水を打ったように手を止めると、

「ワシはこのまま作業をするから、パルとデートしてくるといい。」

そう言って四輪車の鍵を投げ渡すと再び計算を始める。

話しかけるな。と言わんばかりの姿にハウンドはできるだけ静かに部屋を出て車に向かう。

道すがらマザーに砲撃について聞いてみたが、計算の結果です。とだけ返された。

車を外に出し、運転席で待っていると、パルは長袖のトレーナーにジーンズ姿で現れる。

アギトはどうしたんだ?とハウンドが聞くと、

「ドクがメンテするから置いて行けって。」

と言い、助手席に座る。

「いつ終わるんだろうな。」

ハウンドのボヤキにパルは、オレに聞くなよ。と言いタバコに火をつける。

ハウンドはエンジンをかけ、車を出す。


ハウンドが車で整備された道を走らせること十数分。

畑が道の脇を固める先にある検問所があった。

麦の国の兵士にハウンドが身分証を見せると、兵士は敬礼で返す。

「すんなり入れるんだな。」

と、助手席のパルはタバコを灰皿に押し付けながら言う。

ハウンドも昨日の戦闘で警戒体制になっているのではないかという不安を持ってはいたが、それは早速、払拭された。

ここは国の東側に位置するホプの村と呼ばれる地域で畑には眩しい緑が葉を伸ばしている。

そのまま車を直進させると、国の中心街であるアビサルヒと呼ばれる都市部にでる。

ハウンドが手頃な場所に車を停めるとパルは車を降りて大きく背伸びをする。

「お前、ここ来たことあるか?」

「いーや。初めてだよ。田舎だと思っていたけど結構色々あるんだな!」

と、パルは目を輝かせる。

「この国の中心だ。屋台とかたくさん出てるぞ。」

と、言うより早く、パルは露店で売られていたパンを買い、それにかぶりついていた。

麦の国は中にあるアビサルヒを囲むように農村がある。

人口は少ないものの、ゴーレムを用いた大規模栽培を行っている。

地方で生産された作物は輸出品となるものが半数を超えるが、残りの大部分はこうして観光客に向けて国内で販売されている。

「とりあえず」

通りを進んでみるか。と言いかけたが、パルはすでにパンを食べ終え、別の露店にいた。

ハウンドが迎えに行くと彼女はりんご飴を齧りながら、屋台のおっさんにもらった。と、もう一つのりんご飴をハウンドに渡す。

(陛下に何か土産を買っていくか)

2人は自然に大通りをゆったりと歩いていく。

気ままに路地に入ってみたりなんとなく通りを曲がったりしていると住宅街の一角に人集りができている場所に出た。

どうやら火災があったようで、火は消し止められているがあたりには焦げ臭い匂いがまだ立ち込めていた。

なんとなく歩いていた2人だが、彼女達の鼻は無意識に焦げ臭さを感じ取っていた。

ぼんやりと事態を眺めていたハウンドとパルだったが前から、道を開けてくだい!という声が聞こえてきた。

この家の住民と思われる金髪の男が消防隊員に両脇を抱えられながら連れ出されている。

2人は彼の力なく垂れ下がった右腕に血がついているのを見逃さなかった。

2人は視線を合わせ、金髪の男を追いかけようとした時、2人の前に茶髪の中性的な人物が立ちはだかるように割り込む。

「銀髪に赤い眼。貴女が噂のドラゴンですね。初めまして。私は第7天使のラキエと申します。」

ラキエを名乗る中性的なその人物は、声まで男とも女とも言えなかった。

何者だ?というハウンドの問いにラキエは丁寧に答える。

「我々は天使。世界を正す存在です。」

その台詞を聞き、パルは合点がいったようで、

「お前、あれだな?ホエールの船であった変なヤツの仲間か。」

パルのアバウトな感想にラキエは呆れた様子だった。

「いやはや。凡百の眼には我々の偉大さは通じないようですね。グディも悲しんでいることでしょう。」

おい。とハウンドが会話に割って入る。

「お前がこれをやったのか?さっきの男はなんだ?誰の命令だ?」

矢継ぎ早に飛び出る質問にラキエは、

「ひとつだけお答えしましょう。いつだって天使は神の御心に従うものです。」

そう言ってお辞儀をすると光の球体に包まれるように消えた。

お前、後で説明しろ。とハウンドはパルに伝え、来た道を進み出す。

他の野次馬には見聞きできていない様子から、猟犬はラキエをすぐに対処すべき存在だと判断していた。


次回は水曜日

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