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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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3-28 メイドの資格

炸裂作用【一般情報】

魔力の持つ性質の一つ。

魔力はごく微小な粒子とされ、空気中や血液中など場所によって体積中の密度が異なる。

炸裂作用はある密度で存在する魔力へそれ以上の高濃度の魔力をぶつけた際に発生する。

ぶつかった高濃度の魔力とそこに存在していた魔力は、そのまま混ざり合うのではなく、両者は一度、爆発する様に拡散され、大気中などの外環境の魔力粒子の濃度へと合流する。

この拡散の際に発生するエネルギーを炸裂魔法や炸裂魔力と言い、銃の発射機構や爆発物へ転用されている。

魔力力学における初歩であり、杜撰な魔法石の採掘場などでは稀に事故が発生する。

しかし、作用に必要な高濃度の魔力は自然に発生することがほとんどなく、一般販売されている魔力製品では発生しない。


医の国でレイモンド救出を達成したハウンドはそのまま、彼と無言で倉庫を歩いていたが、ハウンドが足を止める。

「この荷物、何か知ってるか?」

ハウンドは倉庫に積まれた木箱を指して問う。

倉庫に入るまえに使い魔たちが確認した情報から推察するに金属であることは間違いない。

「開けたらいいんじゃない?当たりはついてるんでしょ?」

レイモンドは簡単そうに言うが、確かに彼の言う通り、ハウンドはある程度中身を予想できていた。

廃倉庫に置かれた金属。

そして、事務所には銃殺された跡。

それらを総合すると、木箱の中身はある程度絞られる。

ハウンドは手近な箱を開ける。

藁に包まれているが、一目で分かった。

マシンガンだ。

それも軍用にカスタマイズされている。

「言っとくけど僕の仕事とは関係ないからね。」

レイモンドは興味津々といった様子で箱を覗き込みながら助言する。

ハウンドにとっては新たな手がかりを掴んだことになる。

彼の中にはいくつかの疑問が浮かび上がっていたが、それらを今調べている余裕はない。

ハウンドは箱に小さな魔法石を投げ入れてから蓋を閉める。

「発信機かい?」

「さっきの石か?さすがにあのサイズでそれはできない。ただ、俺の魔力に反応する石だ。」

「つまり、君が近くにいれば君が石の場所を把握できるってこと?」

ハウンドは頷く。

範囲としては数百メートルといった程度だが、発信機と異なり、常に周波数や魔力を発する訳ではないため、探知機に引っかかりにくい。

また、小石程度のサイズのため、誰かが箱を開けたとしても気づかれにくい。

「まあ、念のためってやつだ。さすがにすぐに動くとは思えん。」

「僕もそう思う。これはあくまでも予備みたいなものだろうし。」

ハウンドはレイモンドの仮定に頷き、肯定した。

『貴族たち』がここの銃器をすぐに使うつもりなら大同盟や医の国がそれを察知できるだろう。

それに、この倉庫が最近、ヤタ重工の配下に入った事からも、この『荷物』をすぐに動かすような真似は目立つためやりにくいだろう。

ハウンドは念のため他の箱をざっと確認するが、どれもロゴや中身を示すようなものがないことから『納品先のない』銃器類だろう。

ハウンドとレイモンドは再び、倉庫の外へ向けて歩き出す。

そのまま外を出ると、レイモンドが小さく声を上げる。

外の光が目に刺さったらしい。

「大丈夫か?」

レイモンドは目元を覆いながらなんとか頷く。

「動くな…!」

背後から銃を突きつけられ、レイモンドとハウンドは両手を上げる。

振り向こうとしたとき、2人の目線が交錯した。

何とかしてよ…

そういわんばかりの目でレイモンドが訴えてくる。

しかし、ハウンドであってもこの状況でなんとかできるはずもない。

抵抗すればどちらかが殺される。

「ウィリアム…なぜ貴様が大同盟の犬と一緒にいる?」

「僕はこの人に尋問されてたんだよ!銃をおろして!」

レイモンドの反論を受け、銃を握り直す音が聞こえた。

「言葉に気を付けたほうがいいぞ、お前を尋問したのは大同盟じゃない。サザーランド家だ。」

「あー!えー…そうだっけ…?」

レイモンドはとぼけて見せたが、冗談が通じるような状況ではない。

「君は…イリス、だよね。」

「アリス。」

相手がアリスと聞いてレイモンドの目の色が変わる。

「ロイエ様はお前を買っているようだが、私は信用していない。ここで死んでもらう。」

「アリス…確かに君が僕を信用していないのは知っている。でも、少し話し合えないかな?僕らは…ほら、同僚だろ?」

レイモンドの声色が変わったことに気づいたのは付き合いの長いハウンドだけだった。

先ほどまでの誤魔化すような調子ではない。

明らかに何かを企んでいる。

「確かに君だけだったよ。僕を本気で疑っていたのはね。他は興味がないか、信じているか。だからこそ僕は君を選んだ。」

レイモンドは挙げていた両手を下ろし、胸を張る。

「僕は君に催眠術をかけた。いつだと思う?初めて会った時かな?それとも今?僕は別に君と話さなくても催眠術をかけられる。」

レイモンドは振り返ってアリスと目を合わせる。

「僕の目を見ろ…!」

完全にレイモンドのペースだ。

「いい加減にしろよ。死ぬんだぞ!私が引き金を引けばッ!それでお前は死ぬ!わかっているのかッ!」

「僕を殺そうとすれば暗示が顕在化する。君は僕を殺せない。」

アリスの呼吸が乱れていく。

それに合わせる様に突きつけられた銃口も揺れる。

「そうだ、打てない。打てるはずがない。アリス、君はこう考えようとしている。『催眠術はハッタリだ。』と。」

アリスの指がトリガーから外れる。

「でもそう思うに至れていない。なぜか。心当たりがあるからだ。僕が無傷でここを出たことの意味を考えている。君は僕に暴力を振るっていいと指示したのに。僕は無傷で外に出た。」

アリスの動揺が体を通して見えている。

レイモンドが図星を突いている証拠だ。

「君はどこからどこまで自分の意思だったのかなあ?本当に指示を出したのかな?」

「な、なんなんだ…お前は…!」

アリスは震える声で反論する。

「1、2。1、2。呼吸を整えるんだ。1で吸って、2で吐く。1、2。1、2。1、2。」

レイモンドの誘導に乗ってはいけない。

頭ではそう理解していても追い込まれた彼女の精神には抵抗するだけの力が残っていない。

レイモンドのカウントに合わせて呼吸をすると、少しづつ落ち着いてくるような気がした。

「そう。そのまま。1、2。1、2。1、2…目を閉じて…君はだんだん、空に、浮いていく。風船や、雲、煙、みたいに。」

ハウンドは彼の話術に感心する。

カウントのリズムと誘導のセリフが完璧に符合している。

アリスは銃を構えるだけの力すら入れられない。

レイモンドは力なく垂れる彼女の手から銃を受け取ると、そのままハウンドに押し付ける。

「アリス、気分はどうかな。落ち着いた?何か、見えるかな?」

「地面が…遠くて…すごく…肩が…重い…」

アリスは操られたように頷き、答える。

催眠トランス状態だ。

「大丈夫、僕が、3つ、数えると、君の、肩は、軽くなる。そして、僕たちは、ロイエのもとに、帰るんだ。」

「調査が…まだ…」

アリスの意識がわずかに戻ったのか、目を開き、反論する。

しかし、その目はうつろなままだ。

「調査は終わった。君は、ウィリアムを、迎えに来たんだ。疑って、悪かった。君は、そういった。」

アリスはその言葉に納得したのか再び目を閉じ、ゆっくり呼吸を始める。

「1、2、3!」

レイモンドが、アリスの腕を掴み、意識を完全に覚醒させる。

アリスは頭を振ったり、強く瞬きをして、自身の感触を確かめる。

「アリス、大丈夫かい?」

「ああ…すまない。とりあえず、ロイエ様のところへ帰ろう。」

レイモンドはアリスの視界にハウンドが入らないように誘導しつつ帰路に就く。

ハウンドはピンチを口八丁で乗り切るどころか、アリスに暗示をかけて見せた。

狐につままれたような感覚に陥りながら、ハウンドもまた、刃の国への帰還を目指すことにした。


2日後、医の国の中心地市街から外れた森の奥、サザーランド家の別宅には『貴族たち』の現当主が続々と到着していた。

こうした集まりは余程の緊急性がない限り、日程の調整は行われず、連絡を受けてからそれぞれが参加の意思を表明、後はタイミングを見つけて会場入りし、参加者が揃い次第、始まる。

彼らは国や企業の長ではないため、こうした雑な調整で済むのだ。

今回は遠方にいたソド家の当主、ソド・マクマリスの到着を思い思いに待っている状態だ。

「随分と酷いね…」

別宅の横に設置されたメイド用の宿舎を訪れたシジマ家当主のシジマ・レオラはベッドに横たわる2人のメイドを見て呟く。

彼女が刃の国を訪れていた際に起きたメイドたちとトラ教団残党との戦闘で負傷したウリスとエリスを見舞いに来たのだ。

ウリスは打撲や裂傷に加え、肩の肉を食いちぎられており、全治までおおよそ1ヶ月。

エリスは、膝を捻られたことで靭帯が断裂しており、外科手術を受けることになったが、リハビリを含め1年ほど時間を要するとの診断だ。

エリスはかなり深刻で手術とリハビリがうまく行ったとしても、戦闘は難しい状態になる。

「申し訳…ありません…」

レオラは体を起こしながら謝罪するウリスを寝かせる。

「無理しなくて大丈夫。エリス、貴女もね。」

目を赤くしていたエリスは、小さく礼を述べる。

だが、その声に力はない。

メイドは当主の側近護衛と日常生活の補佐を行う存在だ。

つまり、護衛としての役目を果たせなくなったエリスはメイドとしての立場を奪われることになる。

「わ…私は…」

エリスは、どうなるのですか。と続けたかったが、声に出してしまうと何かが壊れる様な気がして言い淀む。

聞かれたレオラもまた、メイドたちの教育、派遣を行う立場から、復帰できる。とは言えない。

「まずは治療とリハビリに注力を。復帰先はヤタ・ヒューマンリソーシズがあるわ。」

エリスは大粒の涙をこぼす。

それは、自分が切り捨てられなかったことへの安堵からか、メイドを続けられない。という現実を敬愛するレオラから伝えられたからか、わからなかった。


レオラが宿舎を出るとロウラが待っていた。

「どう?」

ロウラは聞くべきか少し迷ってから声を掛ける。

「連絡のあった通りね。何かの間違いかと思いたかった…」

レオラの悲痛な言葉に怒りが籠っている。

彼女自身、何かミスを犯したわけではない。

しかし、エリス達を指導し、一人前として送り出した。という教え手としての怒りだ。

まだ、何か教えられたのではないか。

まだ、何か授けられたのではないか。

そう思わざるを得ない。

レオラは怒りのままに宿舎を殴りつける。

「行こう。剣聖カインに会っておきたい。」

レオラはそう告げると、壁から拳を離す。

すると、彼女の拳が触れていた部分だけが残り、他は砂になって地面に積もる。

ロウラも驚いたが、中にいたエリス達も驚いた様子だ。

「ちょ…ちょっと姉様…!」

「心配ないよ。勝手に治る。」

呼び止めようとしたロウラの言葉を背中から返すとレオラは歩き出す。

すると、彼女の言葉通り積もった砂が再び壁となって宿舎は元に戻る。

ヤタ・ライフインテリア製の復元壁だ。

破損箇所を自己修復する機能を持っているが、魔力を常時流す必要性と一般家庭にそこまでの機能が求められないためあまり浸透していない。

レオラはそれをわかって殴ったのだ。

しかし、壁の一部を残して他を破壊するのは復元壁だからではない。

彼女なら鉄だろうが合金だろうが石綿混じりの土壁だろうが同じ様にできるだろう。

それだけの力を持っているのだ。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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