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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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144/327

3-27 三者三様

C装備【軍事機密】

常設大同盟軍発足に合わせ、ヤタ重工が作成した対人近接用装備セット。

魔力式大型溶断刀『栄光グロリア』を中心に、兵器転用された杭打機パイル・バンカー不滅インモルタル』、投擲型炸裂鉄鋼小刀『鍵束ジャヴェス』が用意されている。

グロリアの大きさがまず目に入るが、インモルタルもそれなりに大きく、一見すると取り回しが悪いように見える。

だが、集団戦においては大型の近接兵装は味方を巻き込むリスクを最小限にしつつ、多くの敵へ攻撃することが可能である。

なお、ジャヴェスは龍の国の軍人、ルビリア・パルが高い再生能力を持つ天使に対して使用した兵器であり、彼女が使用感を気に入ったため追加で採用された経緯がある。

こちらもB装備同様、扱える人間が非常に限られることと、情報防衛のため一般販売がされない予定。


刃の国では、レオラとの対決を終えたパルが議場へ戻ってきていた。

戦闘の影響で議場の什器は壊れ、窓に大穴が空いている。

彼女が一方的に煽り始まった戦闘だったが、結果的に奇妙な友情を作り出し、再会を約束するという誰も予想しえないまま終わった。

「聞かせてもらおうかあ、君の意図をぉ?」

ジェスは満足げな顔をして戻ってきた彼女へ問いかける。

少し不満げな様子だが、打ち合わせもなしに戦闘を始めたパルに非があるのは間違いない。

「レオラが何者なにもんか知りたかった。あれだけ強けりゃオレや親父みたいに龍が絡んでる可能性もあるからな。」

「で?その結論は?」

リエルがさらに追及する。

とはいえ、パルの満足げな顔が答えを物語っているともいえる。

「あいつはただの人間だ。驚くばかりだぜ、戦場で敵なしだったオレよりつええやつが戦場の外にいるんだからよ。」

パルの感想にジェスは目を細める。

大戦争時代に刃の国の軍人として龍の国と戦ってきた彼にとって、ルビリア・パル(龍の国のドラゴン)こそ最強の存在であると考えていた。

それだけの実力を彼女が有しているだけでなく、戦場での冷静さ、任務への忠実さ、どれをとっても最強だと信じてきた。

そしてそれは彼に限った話ではない。

大戦争の時代を生き抜いてきたものからすれば彼女は伝説ともいうべき存在なのだ。

しかし、トラ教団による一件で剣聖カインが。

今回の『貴族たち』にまつわる調査でシジマ・レオラが。

彼女と比肩する実力者として存在している。

「そういやロウラはどこ行った?」

パルはタバコに火をつけながら聞く。

「彼女はあ、レオラと一緒に帰ったよお。なんでもお、集合がかかったそうだあ。」

パルは煙を吐きながら、ふーん。と意味深に答える。

「腕はどうなんだ?」

リエルは心配そうに彼女の左腕を指さす。

レオラとの戦闘で杭打機インモルタルを使用したが、故障により暴発、装備していた彼女の左腕はそれに巻き込まれたのだった。

「治ったさ。」

そう言ってパルは自慢げに左腕を見せる。

「馬鹿な…!」

リエルは反射的に彼女の腕を掴み袖を捲ると、確かに傷が塞がっている。

まるで最初からなかったかのように塞がり、消えている。

「オレの魔力量によるもんだ。まあ、魔法も使ったけどな。」

袖を直しながらパルは笑って見せる。

彼女の身に着けている『衣装』には応急処置用の魔法陣が書かれており、魔力を込める事で止血程度は行える。

そこに莫大な魔力による、自己修復作用が加わった結果だ。

「その傷はあ…?」

ジェスは彼女の腕に残る古傷を指して問う。

パルは反射的に目を伏せた。

「答えなきゃ…ダメか?」

「悪かったねえ…詮索するつもりはなかったんだあ。」

「ああ、いや、いいんだ。ただ、話して笑えるもんでもねえ。ガキの頃についた傷だ、多分一生治らんだろう。」

おおよその事情を察したジェスとリエルはそれ以上聞くことも茶化すこともできなかった。

「空気悪くしちまったな。オレァ船に戻る、なんかあったら連絡してくれ。」

手を振りながら去っていく彼女を2人は静かに見送った。


同じく刃の国にたどりついていたトラ教団残党であるエルカ、ウエル、サーペント。

そして、彼らに巻き込まれるような形となったリンとサーペント

同じサーペントの名を持つ男が2人いるという奇妙な状況ではあるが、事態は逼迫していた。

彼らは明確に大同盟と対立しているのだが、その大同盟最強といってもいいルビリア・パルが滞在している刃の国に到着してしまった。

予想外の事態に遭遇したため、致し方ない部分もあるが、実際、進退窮まった状況だ。

埃の積もった古い酒場の跡地で、ウエルが口を開いた。

「我々だけでルビリアを足止めしますか?」

「無理ですね。今の状況ではハッタリも効果がない。彼女は我々を見つければ即座に殺しに来るでしょう。」

エルカは、ウエルの提案を却下する。

「しかし、このまま何もしない訳にはいくまい。」

サーペントの発言はウエルとエルカの神経を逆撫でする。

彼の計画の失敗とそれに対する反省が見えないからだ。

しかし、今、身内で争うことは避けたい。

しばし、沈黙の中で思考を走らせる彼らだったが、エルカが策を閃く。

「リン、貴女はその男と一緒に町に出なさい。盗賊に襲われた。と言ってね。」

「無駄だ、そいつはルビリアと面識がある。見つかればタダでは済まん。」

サーペントの反論は鼻で笑う。

「だからこそ、ですよ。我々を追いたいルビリアは彼を治療するほかない。我々は彼の回復をここで待つだけでいい。」

「彼が復帰次第、船を使ってここを出る。と…しかし、それまでここに留まれますかね?」

ウエルが懸念を口にする。

確かに、彼の言う通り、ここにいつまでも潜んでいられる訳ではない。

「運次第…ですかね。まあ、最悪転移魔法で先に船まで移動する事も考えねばなりませんねえ…」

エルカは苦々しく答えるしかできなかった。

かなり厳しい賭けになる事は間違いないが、現状、これ以上ないベストな行動だ。と信じることしかできないのだった。


ほぼ同時刻、日が傾き始めた医の国で、ハウンドは小さな廃倉庫を訪れていた。

倉庫の扉には所有者を示すようにヤタ重工のロゴマークが貼り付けられている。

ここを訪れた目的は誘拐された大同盟相談役コンサルタントのレイモンド・サイカーを救助するためだ。

彼の|使い魔≪猟犬たち≫は匂いでこの場所を突き止めたのだが、ハウンドは違和感を覚えていた。

扉に貼られたロゴマークが露骨に新しいのだ。

まるでごく最近貼られたようなそれは錆や落書きの目立つ扉で一層、目を引く

爪を立てて剥がすことも考えたが、特に理由もないし、センサーのような役割をしている可能性もある。

ハウンドは倉庫の閂に触れたが、思いとどまるようにして手を離した。

特に違和感を感じなかったが、それが逆に不気味だったのだ。

扉を開ければ爆発でもすんのか…?

クラシカルなトラップだが、それゆえ、警戒をすり抜けやすい。

特に非戦闘員の誘拐という状況では、焦って扉を開けた侵入者を即座に排除するという意味で有効な罠だ。

ハウンドは落ち着くためにタバコを吸い始める。

もちろん、ただ、タバコを吸うわけではなく、その間に使い魔たちに倉庫を調べさせる。

特に、風の体を持つツムジと土の体を持つクロガネはそれぞれ、空気の流れと地面の凹凸を調べることができる。

怪しげな雰囲気を放つこの場所の情報を少しでも仕入れたかった。

だが、彼の懸念とは裏腹に入ってくる情報は平凡なものばかりだ。

換気扇が2箇所、室外機は3台。

地下室が1つ、窓はなし。

魔力は導線を通って倉庫の奥へ、そこから空調や照明へ伸びている。

倉庫の中にあるものは不明、食料品の類ではない。

他の出入口はない。

換気扇からはタバコや血の匂いがない。

火薬の匂いはしないが、金属の匂いが強い。

ハウンドは情報を整理しながら、タバコを捨て、靴で揉み消す。

使い魔たちを帰還させると、魔法陣の誂えられた|柄≪獲物≫を取り出す。

魔法陣の内容は使い魔の召喚だ。

この使い魔と柄が合わさり、様々な属性の刀となる。

本来は光魔法で刀身を形成する商品なのだが、そうするよりも金属製の刀身を光魔法で強化するほうが効率がいいため、すでに廃版となっており、彼が今、使っているのは白の部隊発足時に支給された再現品とも言えるものだ。

ハウンドは柄を強く握って、扉の閂に触れる。

おそらく問題はないが、緊張で手に汗が滲んでいる。

息を小さく吐き、閂を静かに外す。

それから、扉を盾にするようにして開ける。

使い魔たちを先行して中に入れつつ、中の様子を伺うが、いくつかの木箱が納められているだけで人の気配はない。

滑り込むようにして中に入ると、最奥に事務所のようなスペースが見える。

彼は木箱の死角を使い魔たちにカバーさせつつ、事務所へ接近した。

中からも倉庫の様子がわかるように窓が備え付けられており、逆に外からも中を確認できる。

問題は、窓にいくつか空いた円形の穴だ。

そして、穴の先、事務所の壁にも同じような穴が空いている。

弾痕だ。

窓の外から事務所の中へ打たれている。

ハウンドは使い魔たちを集合させてから事務所の扉へ近づく。

鍵は銃で破壊されており、強引な手段が講じられたことを物語っている。

事務所の中は机やキャビネットの類が片づけられており、カーペットの凹みにその痕跡が見て取れる。

しかし、血痕がない。

ハウンドは使い魔たちにここを調べさせつつ、壁の弾痕に触れる。

深く食い込んでいるが、弾丸もそれを取り出した形跡もない。

「魔力の弾丸…」

銃は魔力の炸裂作用によって金属製の弾丸を発射するタイプが一般的だ。

しかし、物理媒体である弾丸を用いるため、故障や再装填リロードといった問題が付いて回る。

それを回避するために、純粋な魔力式の銃がつくられた。

つまり、魔力の炸裂作用で生成した魔力の弾丸を放つのだ。

しかし、魔力消耗が大きいため普及することはなく、ごく一部、常人離れした魔力を持つ人間だけが使うに留まっている。

彼が知る中で魔力式の銃を扱っているのはパルだけだ。

その彼女は今、刃の国にいる。

当然、パルがここにきた可能性は皆無だろう。

このまま追及してもよかったが、使い魔たちが地下につながる階段を見つけたので、そちらを優先することにした。

階段をおりながら、他の情報を整理すると、どうやらここにいた人間は数週間前に殺害されたようで、殺した人間は地下へ向かって、外に出ている。

そして、最近、レイモンドがここを通って地下室へ向かっている。

そしてそのレイモンドとほぼ同じ時期に彼の知らない人間が何人か出入りしている。

「誰だ!」

地下に降り立った瞬間、警備の男が声を上げた。

ハウンドは無抵抗を示すように両手を上げる。

「あー…私は、ヤタ重工の人間でして、この倉庫の在庫を確認するように言われたんです。聞いてませんか?」

男は怪訝そうな表情を浮かべつつ近づいてくる。

だがそれは無警戒に近づいてきたとも言える。

ハウンドの背後から使い魔たちが飛び出し、男に噛みつく。

「な…なんだ!」

ハウンドは使い魔たちに倒された男を踏みつけながらクロガネを刀身にする。

「や!やめろ!おい!」

男の言葉を無視して喉に刃を突きたて、引き抜くと、噴水のように血が飛び出す。

「間違いなさそうだな。」

男の死体を踏み越え、奥へと進んでいくと、鉄の扉が待ち構えていた。

ハウンドは迷うことなく地下室の鉄扉を開けると、レイモンドが顔を上げる。

「やあ、ハウンド!早く助けてよ。僕、このお兄さんに尋問されてたんだよ?」

「楽しそうだな。」

誘拐された身とは思えないレイモンドの態度に呆れながら嫌味を垂れる。

「え?楽しそう?君から彼の顔は見えないからね。」

確かにレイモンドと向かい合うように座っている男の表情は見えない。

「こっちから見るとすごく面白い顔をしているんだよ、彼。」

そうか。

ハウンドは冷たく言い放つと男の首を刎ねと、レイモンドが嫌悪感を示す。

「いきなり斬ることはないだろ!」

「来なくてもよかったな。」

「なんで怒ってるのさ!」

レイモンドはなるべく男の死体を見ないようにしながら部屋を出る。

「何をしようとしている?カインもお前も。」

レイモンドはふと、立ち止まり、ハウンドと目を合わせる。

その目は救助にきたハウンドさえ、背筋が凍るような冷たい目だ。

「今は話しても意味がないね。ただ、君たちはそのまま進めばいい。カインとぶつかることになってもね。」

「冗談じゃない。今のカインは大同盟の所属だ。味方同士で争うなんて…」

「君はわかってないねハウンド。今のカインは『貴族たち』の護衛だよ。」

「パルがあいつと戦うことになってもいいってのか。」

ハウンドの問いにレイモンドは一瞬、間を置く。

「今はね…彼女が遺産から解放されるにはそうなるしかない。」

彼はパルを守ることを考えて行動していた。

その彼がパルを危険にさらすことを前提にしている。

「それがあいつを守ることになるのか?戦場に送り出すことが…あいつに戦いを強要することが…あいつを守ることなんのか?」

「そうだ。」

レイモンドがそう言い終える前に、ハウンドは彼の胸ぐらを掴み壁に叩きつけた。

「もう一度だけ聞く。あいつを守るためにあいつが傷付いてもいい。そういう意味か?」

「そ…そうだ…」

レイモンド・サイカーは一見、矛盾したような行動から最善の結果を引き出す。

それだけ無計画に言葉を吐く人間ではない。

「どういう意図だ?」

ハウンドはそれを理解しているからこそ、彼を解放する。

「遺産を解放させると同時に破壊する。そのためには全ての勢力が遺産の場所を把握し、大同盟で発言権の強い人間の前で遺産を解放するしかない。遺産が実在する以上、一度、その存在を裏付けて破壊するんだ。中の情報が漏れ出す前にね。」

手早く、そして一息で計画を告げた。

そうしなければセリンスロ・ケン(ハウンド)という男は納得しないことを知っているからだ。

「そのためのシナリオはもうできてんだろうな。」

ハウンドは蚊帳の外になっている現状に歯噛みする様に呟くとタバコを咥える。

「シナリオはほとんど出来上がっている。君はただ、貴族を追えばいい。後は僕がカバーする。」

ハウンドは大きくタバコの煙を吸って吐く。

「悪いがその通り進ませる気はない。あいつに危険が及ぶなら守る。」

ハウンドの覚悟の言葉を聞いた時、レイモンドは少し笑った。

それでいい。君だけさ、彼女の隣に立てるのは…

消え入る様な言葉をハウンドが聞き返そうとしたが、遮られる。

「全ては貴族たちであり、ヤタとの対決に終結する。君たちはその対決に大同盟代表として立ち向かうことになる。そしてその構図にはトラ教団の残党も関わってくる。全てが決着した時、世界は緩やかな混沌の中で平静を保つだけだ。」

「信じないって言いたいとこだが、巻き込まれるだろうな。」

ハウンドの言葉にレイモンドは、その通りだ。と言わんばかりの茶化す様な笑みを浮かべる。

「最後に聞かせろ。お前の目的はなんだ。家族の仇討ちか?」

「僕の妻子を殺したのは天使だ。その天使を狩るために動く。他のことはその過程で達成されるだけだよ。」

そう語るレイモンドの目は、出会った頃の静かな怒りを宿していた。


次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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