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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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3-26 黒と金

シヴ・アンドロス【個人情報(含:未確定情報)】

『貴族たち』の一つに数えられる旧時代からの名家。

元々薬師であった先祖から家業を引き継ぐ形で医薬品の販売を中心に行っており、ヤタ・メディカルサイエンスは世界最大の製薬メーカーとなっている。

『貴族たち』の序列としては中堅であるが、これはヤタグループへの加盟が遅かったことに起因しており、純粋な利益を見れば上位に入る。

これは単に医薬品の生産能力によるものだけでなく、デザイン・ベイビーを始めとする生体兵器関連によるものでもある。

そのため、トラ教団の運用していた『天使シリーズ』やそれをダウンサイジングした『ディプタド』の製造等に関与していたとされるが、詳細は不明。

当人は貴族としての気品や品格に興味がなく、積極的に発言するタイプでもないため、ヤタ・メディカルサイエンスはある種の放任主義的な社風となっており、それが倫理的な問題を抱える生体兵器を生み出したといえる。


誘拐されたレイモンド・サイカー捜索のため医の国を訪れていたハウンドだったが『貴族たち』に仕えるメイドたちの襲撃を受ける。

さしもの彼も数的不利を覆すには至らず、絶対絶命のピンチに陥る。

しかし、この場にトラ教団の残党であるエルカ、ウエル、サーペントが介入、さらに剣聖カインが『貴族たち』のメイドたちの救援として参戦、一転して不利に追い込まれた教団残党側はカインに対して謎の男を参戦させる。

この男もまた『サーペント』と呼ばれ、この場に2人のサーペントが存在することになっている。

奇妙な状況にただ混乱するハウンドをよそに、サーペントは光魔法の槍を展開した。

槍術に用いられるような棒の先端に刃の付いたジャベリンだ。

男はそれを片手で軽く回転させる。

すると、いつの間にか1本だったはずの槍が2本になり、左手から右手へ1本が投げ渡される。

男の手に槍がそれぞれ握られ、槍の回転が段々と早くなる。

挑発やパフォーマンスという感じではなく、ルーティンやウォーミングアップのようだ。

カインはそれを眺めつつ男に対する警戒度を上げる。

扱いなれている。

それに加え、以前に刃の国で見られた幼さに近い浮足立った様子が完全に消えている。

さながら歴戦の戦士のようだ。

「山斬一刀流…黒雹害こくひょうがい。」

カインが刀を天に掲げると、黒い炎を纏った小石が降り注ぐ。

山斬一刀流『雹害ひょうがい』。

山斬一刀流独自の概念である『刀気とうき』を天に向けて放ち、分散させ、乱射される機関砲の如く、相手を蜂の巣にする。

カインはそこに自身の持つ刀『黒之玉刃鋼』が放つ黒い炎を付与している。

それにより雹は黒炎を纏い、流星のような黒い尾を残しながら男に降り注ぐ。

カインはあくまで牽制として放った技だった。

高速回転する槍であれば簡単に弾くだろうと考えていた。

しかし、カインの予想に反し、男は槍の回転を止め、しっかりと握る。

男は雹に気づいていない訳ではない。

しっかりとその目に降り注ぐ雹を捉えている。

男は小さく息を吐くと降り注ぐ雹を2本の槍で弾き始めた。

面での攻撃で迎撃するのはわかる。それは予想していた。

あるいは回避することも考えられる。

自分の現在地へランダムに飛来するとはいえ、追尾が可能な速度で飛んではいない。

範囲を見極め、移動して反撃に移る。

カインはそのどちらかだと考えていた。

彼と同等かそれ以上の実力を持つパルであってもそうしただろう。

それに男は適当に槍を振り回している訳ではない。

雹は的確に弾かれ、かすり傷一つ負っていない。

すべての雹を弾き切った男はカインへ視線を戻す。

「試しているのか?」

「不満か?」

カインは言い終えると一飛びで距離を詰め、突きを放つ。

しかし、切っ先は男の右目に突き刺さることはなく、直前で光魔法の壁に阻まれる。

追撃の黒炎もやはりというべきか、壁を貫くことはない。

男は壁を維持したまま彼の横へ回り込み、突きを返す。

カインは反射的に刀で受け流そうとするが、そこへもう一本の槍が放たれる。

彼はその矛先が自身の目であると判断し、首を回転させるようにして回避。

刀を手放し、拳を固めて寸勁を放つ。

男は反撃を想定していなかったようで、身を捩り、わずかなスペースを作り、そこに壁を展開する。

しかし、急ごしらえの壁ではカインの拳を止めきれず、その威力をわずかに殺すことしかできていない。

男は大きく距離をとる。

防壁魔法に絶対の信用を持つ自分が回避を迫られた。という事実は男の心にわずかな隙を生み出す。

カインは突き出した拳を開き、狙いを定めるように男を指さす。

隔円斬かくえんざん…」

空中に漂っていたカインの刀が意志を持ったように回転し、男に襲い掛かる。

2本の槍を交差させ、刀を受けるが、そこへ追撃の斬撃が襲い掛かる。

山斬一刀流『無刃拳むじんけん』。

斬撃を飛ばすという山斬一刀流の基礎を身に着けるために行われる基礎鍛錬の一つだが、カインのような達人の放つこれは、素手でありながら刀剣を目の前で振るっているのと大差ない。

男はなんとかそれを捌き続けているが、雹を防いだ時と異なり、防御に合わせ放たれる斬撃は少しづつ、男の体を削る。

これ以上は防御は追いつかない。

男がそう感じ始めた時、ふいにカインからの攻撃が止まった。

これを好機とみて、防御の構えを解く。

今のカインは刀を持っておらず、無刃拳も止めた。

男は一歩踏み出すと、足の指先に力を込める。

一気に決着を付ける。

指先の力を解放し、体を風に乗せ、距離を詰める。

しかし、男の背後から鈍い音がする。

背中が熱い。

一筋の線は熱した鉄の棒を押し当てられたようだ。

激痛に顔が歪み、膝を付く。

睨みつけるようにカインを見上げると、目が合った。

何者かが介入したわけではない。

男の頭上を何かが回転しながら通過し、カインの手に収まる。

刀だ。

一度防御した隔炎斬はブーメランのように飛び続け、男の背後に回り込んでいたのだ。

無刃拳の連打も、それを男に悟らせないための陽動だったと言える。

男は地面に倒れ伏す。

ハウンドもエルカもウエルもサーペントも呆気に取られていた。

男の実力は間違いなく彼らより上だった。

そして、カインにも肉薄しうるものだと感じていた。

しかし、目の前の現実はその認識が誤っていたと言っている。

カインの実力はこの男を軽くあしらう程だったのだ。

「再生能力はないようだな。」

カインは静かに言い放つと倒れている男の首に切っ先を向ける。

刀を突き立て、黒炎で刎ねるつもりだ。

その意図に即座に気づいたエルカは男のもとへ転移し、男とともに元の位置に戻る。

連続しての転移魔法の使用は専門的にこれを扱うエルカにとっても負荷が大きいが、そんなことを気にしている場合ではない。

「ま…またお会いしましょう。」

エルカはできるだけとぼけて見せながらサーペント、エルカとともに光の玉に包まれる。

長距離転移の際に見られるものだ。

「待て!」

ハウンドも我に返り、声を上げたが、遅かった。

残されたハウンドは同じく残されたカインと目が合う。

「こ…殺さねえよな?」

恐る恐るハウンドが問うと、カインはいつもの笑顔を見せる。

「もちろんです。レイモンドの所在については小生もわかりませんが、生きているのは間違いないでしょう。」

「お前はどうするんだ?」

敵対している訳ではないが、相容れない存在である大同盟と『貴族たち』。

大同盟の所属でありながら『貴族たち』の護衛をしているカインの状況を把握しようとハウンドは必死だった。

しかし、カインは申し訳なさそうに視線を外す。

「またいずれお会いしましょう。」

目を合わせることなくそういうと、彼は姿を消した。

どうなってる…

最後に残ったハウンドは呟く。

しかし、今は任務遂行を優先すべきだろう。

そう割り切って使い魔たちにレイモンド捜索を再開するよう指示を出した。


エルカは撤退先として男が元いた場所を選んだ。

かつての拠点であった風の国を追われ、根無し草となった教団残党にとって明確な拠点はない。

そんな中、男の元居た場所は少なからずセーフティエリアであるだろうと考えてのことだ。

「どうしたの!その傷!」

転移魔法の光が消え、倒れ伏した男にリンが駆け寄る。

男にとってもはや立ち上がる体力も先ほどの戦闘を説明する気力も残っていなかった。

「天使ではないにしても、彼はこの程度で死ぬようなものではないですよ。」

エルカが冷たく言い放つと、リンは彼を睨みつける。

「いったい何が…」

リンは睨みつけたエルカの腕がないことに気づく。

よく見るとサーペントも傷を負っている。

「説明は後にしましょうか。それより船へ向かいましょう、あそこには治療用の設備一式が揃っている。マイセン先生も医者ではあるはずですし。」

彼らの中で唯一無傷のウエルが指示を飛ばす。

「船もそうですが、マイセン先生ですか…彼は今どこにいるのやら。」

「ふね…?まいせん…?何のこと…?」

リンは自分の知らない単語が多く出てきたため混乱していた。

「この男は仕様通りのサーペントです。『鯨類セタセアン・シリーズ』の1体であり、ホエールの後釜として龍の国海軍に納品されるはずだったデザイン・ベイビーです。」

エルカは簡単に男について説明する。

それは共に行動してきたリンでさえ知らないことだった。

「そして、マイセン先生は我々天使や『龍計画』の中心にいた医者…というより医学者…ですかね。」

リンはエルカにしては珍しく情報を素直に開示していると思った。

それだけ切迫した状況ということなのだろうか。

「先に船ですね、風の国…いや、今の刃の国ですか…」

ウエルはあまり乗り気ではない様子だ。

「今、刃の国にルビリア・パルがいる。それは計画通りだ。」

「だから貴方は嫌いなんですよ。爆弾騒ぎでルビリア・パルをひきつけ、そのうちにメイドと船を奪い取る。そういう手はずだったのに、すべてが狂っている。」

サーペントは自身の立案した計画に絶対の自信を持っていた。

『貴族たち』に仕えるメイドたちが彼らの元を離れて行動する事はほとんどない。

だが、例外が起きた。

『貴族たち』の頂点であるサザーランド・ロイエのもとに現れた謎の運転手ウィリアムだ。

サーペントはその情報を入手した際、この計画を立案した。

「しかし収穫もありました。大同盟が剣聖カインを派遣したのはウィリアムの護衛ですね。」

ウエルの言葉にエルカが頷き同意する。

「ウィリアムはレイモンド・サイカーだ。だからこそハウンドがあの場に来た。でなければ誘拐から1日で刃の国から来られるわけがない。」

レイモンド・サイカーは大同盟に属する人間だが、ハウンドやカインと異なり戦闘能力は皆無に等しい。

しかし、類まれな洞察力と話術を持っており、それを生かして今後の情勢をコントロールするために大同盟から派遣されたという仮説は簡単に立てられる。

しかし、ロイエやメイドたちは素性がわからない上、どういった経緯で自分たちの元に現れたのか判然としないウィリアムを疑う。

そうなった時に考えられるのは排除か調査だ。

そのどちらを選んでも問題はなかった。

排除であれば、彼の護衛のために派遣されたカインが止めるだろう。

調査であっても『貴族たち』の持つ情報網に引っかかるとは思えない。

それだけ周到に|レイモンド≪ウィリアム≫という男は用意をしているはずだ。

そうなれば残る手段は尋問しかない。

ウィリアムを何らかの手段で捕らえ、メイドたちが尋問する。

その隙にメイドの1人を誘拐し、情報を得る。

この際、問題となるのが最強の兵士ルビリア・パルの存在だ。

今の彼女は常設大同盟軍として行動している。

同じく大同盟から派遣されているレイモンドが誘拐されたとなれば彼女が捜索に出るかもしれない。

あるいはその前提をもとに派遣されたとも考えられる。

そこで、彼女のいる刃の国で爆弾騒ぎを起こした。

天使の名前を出せば教団と因縁深いパルはそれに関与したがる。

仮にハウンドが医の国に来たところで戦力的には問題はない。

だが、彼らの計画において最大の誤算は剣聖カインがあの場に現れたことだ。

サーペントの認識ではカインはあくまでもウィリアムの護衛であり、メイドたちの救援に来ることはないと踏んでいた。

しかし、彼はあの場でメイドたちの救援に現れた。

結果として彼らの計画は瓦解し、目的であったメイドの拉致さえ達成できなかったのだ。

「悪いニュースは承知で聞きますがここはどこですか?」

男に魔法で手当をしていたリンがウエルの声を聞いて顔を上げる。

「そ…それより傷が…」

リンの不安げな声。

その原因は男の負った傷にある。

彼女がどれだけ魔法を使おうと傷がふさがらない。

正確には薄皮が張り付いた後、もとに戻るようにして再び傷が開くのだ。

「呪詛が弱まっているとはいえ、剣聖カインの宝剣で切られた傷はそんな魔法程度で治るものではありません。だから早くマイセン先生を探すんですよ。」

カインの持つ龍殺しの宝剣。

それは龍という常軌を逸した魔力と再生能力を持つものを狩るために300年前の人類が作り上げた呪詛兵装だ。

かのルビリア・パルでさえ、そのダメージによって生死の境をさまよった。

「改めて聞きます。リン、ここはどこです?」

エルカが改めて問いかけると、彼女は恐る恐る呟く。

「こ、ここは刃の国…国境近くよ。」

よりによって…

リエルはすべてをあきらめたかのように天を仰いだ。


次回は水曜日。



Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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