3-18 ヤタの糸
B装備【軍事機密】
龍の国が独自に開発した攻城兵器。
ガントレットの上下に2門のマナ・ランチャーを配置し、そこに挟まるようにして6門の60mm中型近接炸裂砲弾投射機を配置。
外側の装甲部には15mm無誘導近接炸裂弾頭投射機を3ブロック、12門搭載している。
主兵装とも言えるマナ・ランチャーには海上艦の副砲として採用実績のあるものを転用した『勇気』を採用。
冷却用魔力タンクも備えており、高い火力を実現している。
一方でその重量とプール魔力を用いずヴァレンティアを放つ構造は扱える人間を大きく選ぶことになり、大量生産はされなかった。
なお、上記のスペックは片腕でのものであり、砲撃のクールタイムの関係から両手にこれを持つことを前提としている。
鉄の国はヤタ重工という巨大企業が国益の大半を占める。
そのため、半分は鉄の国の国営企業ではあるのだが、あくまでの企業として諸外国への輸出や支店の開店は認められている。
歪ともいえる企業体系ではあるが、そのすべては『貴族たち』という旧時代からの強者が運営している。
鉄の国の代表は『貴族たち』あるいは彼らの息がかかったものが歴任し、ヤタ重工グループの幹部もまた、『貴族たち』最大のサザーランド家らが中心となって選出を行っている。
今から約25年前、大学を卒業したばかりのシンゴ青年。
彼がヤタ重工を選んだのは単純に大企業だから。という甘く緩い考えからだった。
大企業故に採用人員も多い。
滑り込むようにヤタグループの内定を手に入れた彼は、最初に配属された営業部でその才能を開花させる。
周りの雰囲気を読むことに長けた彼は顧客が求めるもの、そしてそれ以上のものを提供。
売り上げだけでなく顧客からの評価が高いことが彼を指名するリピーターの数となって現れた。
とはいえ、順風満帆ではない。
支店長を担当するようになってからは支店全体の売り上げを求められる。
それに日々拡大していくヤタグループの商品知識が必要になった。
これまでとは異なる業務に最初は失敗することもあったが、先輩たちの助けもあってなんとか乗り越えてきた。
そして、彼のキャリア最大の仕事。
ヤタグループ全従業員の命運を双肩に載せる程の重要案件。
『レギオンの遺産』を調査せよ。
その実在性と大同盟がそれをどう扱うのか。
それを調べることが彼の仕事になっていた。
これは、彼が大同盟設立にかかわっていたこと、天、龍の国の幹部と親交があるためだ。
そして今日、その中間報告を求められた。
幹部用の会議室は自身の手垢をつけることを避けたくなるような装飾を施された扉の奥にある。
すでに幹部は揃っているのだろうか。
そんなことを考えながら扉を押す。
相変わらず薄暗い室内で幹部の顔を見ることはできない。
「かけたまえ、君も彼女の話を聞いておくべきだ。」
現ヤタ重工会長ヤマト・ダイレンがシンゴに着席を促す。
彼女と呼ばれた人間が誰であるかシンゴは思考を走らせる。
「おそろいかな。」
そんな彼の背後からあまり聞きたくない声がする。
シジマ・ロウラ…!
ほぼ同時期に入社したのだが、シンゴとロウラだが、その仕事ぶりは対局ともいえる。
シンゴが顧客目線で様々な商品と手段で希望を叶えるのに対し、ロウラは売り上げを重視し、不必要なものであってもなにかと理由を付けて買わせる。
一見するとシンゴの方が『いい仕事』をしているように見えるが、ロウラは圧倒的なまでの処理速度を持っている。
朝、発注すれば午後には納品という速度は、大戦争という大量消費の時代に適合し、異常な軍需を完全に乗りこなした。
しかし、ロウラは大同盟軍への妨害行為を行った疑いがある。
できれば彼女とは会いたくはなかった。
ロウラは護衛1人とともに入室すると、半円状に着席している幹部たちの中心に立つ。
「まず、刃の国はこちらに付くことはしないようです。」
ロウラは指示を受ける訳でもなく、いきなり話し始めると、ダイレンはそれを咎めることなく資料をめくる。
他の幹部も同様だ。
何かがおかしい。
自分と同じ立場にいるはずの彼女は、まるでこの場にいる誰よりも上の立場にいる。
「大同盟傘下として行動していく。ということですかな?」
ダイレンが質問を投げかけるが、敬語を使っている。
ロウラとは何者なのか。
その疑問ばかりが頭をめぐる。
「そうです。まあ、いずれにせよ風の国の跡地確保に成功次第、改めてジェスとは話すつもりです。」
その方針は間違いではない。
現在の刃の国は復興過程にあり、政治的な旨味はない。
しかし、ヤタの視点から考えると、サンヨウ大陸への窓口として活用できるうえ、復興過程である。ということは大量の需要を孕んでいるということでもある。
つまり、刃の国が大同盟傘下で大同盟の関税を適用されながらのビジネスよりも非大同盟国家に引き入れたほうがより多くの利益を生み出すことになる。
「花と歌はどうなっているのですか?」
「国内の士気は低いね。他国への侵攻は国の伝統とは異なる。無人の土地とはいえ、そこに踏み込めば大同盟が黙ってないのはわかってるんじゃないかな?」
ダイレンは静かに頷くと、視線をシンゴに向ける。
「君の報告書を拝見させてもらった。遺産の鍵はルビリア・パルが、しかし、肝心の遺産の場所がわからない以上、話が進まない。そうだな?」
話を振られたシンゴは、咄嗟に返事をし、補足する。
「おっしゃる通りの認識で問題ありません。さらに言えば大同盟は場所の絞り込みや候補地の選定すらしていません。一部の国では遺産の存在すら疑っています。」
ダイレンは小さく、愚かな。と呟き笑う。
「『遺産』の存在を疑うなど笑止千万。どうやって教団があれだけの力を持てたのかを理解していない。」
「その場所をすでにヤタは掴んでいるのですか?」
「そうであればすでに動いている。だが…」
ダイレンの言葉を引き継ぐようにロウラが話をする。
「当たりはついている。世界のほとんどが大同盟傘下となった先の戦闘時点でも大同盟はそれを把握できていない。この時点で非傘下の国のどこかにある…そして大同盟は風の国を徹底的に調べているが、未だ発見されていない。」
「つまり…刃の国…?」
シンゴの理屈は筋が通っている。
各国が血眼になって探す『遺産』。
その存在は否定しようにもし切れるものではない。
当然、各国は手始めに自分の国内を調べる。
だが、発見に至った話はない。
しかし、『遺産』を探していない国もある。
その必要がないとも言える。
それがトラ教団が拠点としていた風の国と刃の国の2国。
すでに風の国は調査を行なわれており、『遺産』は発見されていない。
シンゴの発言はそういう理屈から出てきた。
「わかっているのならいい。今後、遺産の捜索はロウラ様に担当していただく。これで良いかな。」
ダイレンの言葉がこの会を終わらせる。
結局、シンゴはロウラの正体を掴めぬまま、彼女を見送ることとなった。
バカみたいな話だね。
ウィリアムは呟くと紅茶のカップを口に運ぶ。
「どういう意味だ?ウィリアム。」
「『遺産』の所在地はどこかの国にある。その思考が…だよ、ロイエ。」
ロイエ、ウィリアム、カインの3人は医の国にある邸宅に来ていた。
ここはサザーランド家が保有する邸宅の一つであり、ロイエがつい最近まで住んでいた場所だ。
本家は鉄の国にあるが、しばらくロイエがここにいることを選んだ。
「君の意見を聞きたい。」
ロイエは真剣な面持ちで問いかける。
政治に疎く興味の薄いカインでさえ、ウィリアムの発言に惹かれる。
「『遺産』とは…いわばデータベースだ。それは管理人であったパーシヴァル・プルトも認めている。では、その場所は?風の国?刃の国?」
「刃の国では?」
ロイエは即答するが、ウィリアムは小さく笑う。
「なぜ国にあると?」
「それは…維持管理が…必要だからだ。データベースを維持し続けるだけの魔力の供給設備が必要になる…」
「そうだね。まあ細かいところは今度…話そ…う…」
「ウィリアム?」
カインはウィリアムの異常を感じ取る。
呂律が回っていない。
「うん…ここまで耐えたのは…褒めてほしい…かな…」
ウィリアムが机に突っ伏すように倒れると、カインは反射的に立ち上がる。
「心配ないよ。調べたいだけだ。彼の素性を。」
ロイエがそういうと、邸宅から2人のメイドが出てくる。
「貴君らは?」
カインの問いかけに、メイドは深くお辞儀をする。
それはわざとらしく、カインに対して持っている敵愾心を隠そうともしない。
「申し遅れました。」
「サザーランド家側近警護兼。」
「メイドの。」
「アリス。」
「イリス。」
「と申します。」
「以後、お見知りおきを。」
アリスとイリスは交互に淀みなく自己紹介を済ませると、カインの反応を待つことなく、ウィリアムを連れていく。
「有名とは不便かもしれんが、便利でもある。こういうときはね、隻腕の剣聖カイン。」
「なるほど確かに、胡散臭い男だ。」
カインの言葉にロイエは口角を上げる。
確かに胡散臭い男だ。
運転手として現れ、導くように仲を深めた。
麦の国での逃走誘導も完璧だった。
そういう意味では疑わない方がおかしいともいえる。
これで何もなければそれだけ優秀というだけの話だ。
問題があれば殺せばいい。
彼が何者であろうと最終的に大同盟から派遣された剣聖カインだけあればいい。
この力があれば十分だ。
次回は水曜日。
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