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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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3-17 平和を作りましょう。

サザーランド家【未確定情報】

龍歴以前から大きな影響力を持っていた『貴族たち』の一つ。

サザーランド家は旧時代より豪商として栄えており、改暦の契機となった龍戦争の際には武器をはじめとする物資販売や龍討伐後の主権争いの補助を行っていた。

このサザーランド家による事業が事実上、『ヤタ重工』の前身となっており、その流通経路と資金運用でヤタの巨大化を大きく支えた。

それゆえ、現在の貴族たちの中で最も強い発言力を持っており、グループへの影響力も大きい。

そのため、実質的に貴族たちのリーダー格ではあるものの当主であったサザーランド・ドロネルが死去したため、今後の動きが注目されている。


パルたちがジェスとの面会を行っていたころ、天の国ではソラウ・ツスルがリョーマを呼び出していた。

「おお!わるいのう、わざわざ来てもろうてなあ!」

そう言ってリョーマを執務室へ迎え入れる。

「おいはこん国におった。かしこまらんでいいがか。」

ややオーバーなツスルの態度をリョーマは警戒する。

元々テンションの高い人物ではあるが、理由もなくここまで上機嫌になるタイプでもない。

「なんぞおいにようがか?」

「まあまあ、そう警戒すんなや。前々から頼みたかった件、そろそろ動かしたい思うてな。」

リョーマはその言葉を聞き、首を傾げる。

現状、ツスルは常設大同盟軍の総督であり、リョーマは常設軍と関わりがない。

「なんや自分は関係ありまへん、なんて顔しおって。まあ話は簡単や、獣の国の大同盟正式加入、これを進めたいんや。」

「確かに、おいの国は大同盟に加入はしておらんが、ないで今?」

獣の国は大同盟に参加していない。

それは、獣の国が教団と手を組んでいたためではなく獣の国の国民に理由がある。

獣の国の国民は亜人デミヒューマンの国であり、国民のほぼすべてが亜人で構成されている。

そのため、純人間ピュアヒューマンによる差別が昔から存在していた。

特にスイノス事件と呼ばれる無実の亜人に対する連続暴行殺人事件によりその対立構図は明確になった。

結果として、亜人は獣の国からでることはなくなり、身体的特徴が潜在化したごく一部の混血児のみがサンヨウ、キョウラク大陸に残ることとなった。

「タイミングはまだ先ん話ではあった。せやけど花、歌ん国が動き出したやろ。せやからそろそろ大同盟に獣の国を迎え入れることで大同盟の組織を巨大化させる。」

リョーマは口ごもる。

獣の国はかつて大同盟への参加を見送っている。

理由は純人間との隔絶の歴史だ。

その一方でトラ教団が獣の国の力を欲して強引な協定を求めてきたこともあり、対教団への協力をしている。

そういう意味では半分は大同盟所属ではある。

それに純人間による差別は今日までの約半年程の期間、それほど感じられなかった。

周囲は彼に対して好奇の目を向けるばかりだったのだ。

しかし、それはリョーマが国賓として招かれた立場故、ともいえた。

総合して、彼はツスルの判断を素直に肯定しきれないのだった。

「獣の国が、花や歌の国に狙われるいうことがか?」

「その可能性は十分にあると思うとる。特に亜人の力はワシら純人間をはるかに超えとる。魔力でも筋力でもな。ただ、最終決定はラーン王次第、ってのはあるで。強制する訳やない。あくまでもどっちつかずの状況を整理したい。いう意図や。」

「そいで平和になるがか?」

リョーマの『平和』という言葉にツスルは眉をひそめる。

「平和…平和なあ…リョーマはどうしたら平和になる、思うとるんや?」

リョーマは腕を組んで考え込む。

平和。

みながそうすべき。

そうであればよい。

言葉や表現に差はあれど、そう口にする。

だが、その具体案とは何なのか。

「おいは…おいにはわからんが…」

「武器を捨てればそれで終い。とはいわんのなや?」

「『戦争』は避けられもす。じゃっどん、そいは『平和』なんがか?」

「案外賢いやんか。せや。武器を捨てれば平和いうんは極論や。ワシらは恐ろしいからのう。包丁持って戦場に行くかもしれへん、石投げおうて戦争するかもわからん。」

ツスルの答えにリョーマは疑問を持つ。

「ならツスルどんは平和をどぎゃんよう考えとるですか?」

「ワシは平和を『押し付ける』もんやと思うとる。『自分らは軍縮をした』、『自分らは防衛以外に戦闘をしませんという条約にサインしました』。『せやから君らもそうせえよ』。これが平和の作り方やと思うとる。」

ツスルの言葉は確かに一理あるように感じる。

平和条約や軍縮を『押し付けられる』ことで大規模な軍事衝突を避け、非正規軍に対する抵抗力は国が保有する。

そういう意味ではツスルらの進めてきた大同盟と常設軍のあり方は説明できる。

大同盟という組織を国の上に置くことで平和に向けた施策を『押し付け』、減った軍事力を常設軍がカバーする。

なにより、常設軍以上の戦力を国が持てないのなら、侵略戦争の類は無駄に終わる。

「そいは実現できるがか?」

ツスルの意図を理解したリョーマは問う。

ツスルの言葉と行動はその自信があるが故であることもわかったうえでの問いだった。

「ワシはそう思っとる。今の状況は間違いなくすべてを大同盟の下におけると。そして障害も、その排除もワシはもう動いとる。」

自信満々にそう断言するツスルに恐怖を覚える。

おそらく、彼の言う障害に十分な手を打っているのだろう。

だからこそ上機嫌だった。

どこまで見えているのか。

それを聞けば自分がどうなるのかわからない。

その不気味さがリョーマの好奇心を殺したのだった。


麦の国では誘拐未遂事件の混乱から3人の男が抜け出していった。

黒い外套に身を包んだ隻腕の大男と癖っ毛の金髪をした男、そして気立のいいスーツに身を包んだ若い男。

野次馬の囲む現場には見事に両断された車両が転がっているが、あるはずの血痕や死体の類は見当たらない。

あたかも無人の車が両断されたような不可解なそれは調査に訪れた憲兵を混乱させた。

一方、3人はまるで逃げるように現場から離れ、路地裏を進んでいく。

野次馬も憲兵も誰1人として気に留めなかった。

いや、目立たずに逃げられる場所で事件が起きたのだ。

しかし、彼らを追いかける男たちもいる。

黒いスーツを纏っているが体格の良さと筋肉質な体は隠れていない。

3人のうち、外套と金髪の男が前を走り、スーツの男はついていく。

「じゃあ君はここで。僕はあの方と話をするから。」

金髪の男が外套の男にそう告げると、スーツの男を引き連れ、路地をさらに奥へ進んでいく。

この先は一本道になっており、外套の男は殿しんがりをやりやすい状況だ。

「始めよう。」

外套の男はその大きな体躯に相応しい大剣を片腕で構えると、後を追ってきていた男たちとまみえる。

男たちは懐から拳銃を取り出すが、1人だけ、動けなくなっている。

知っているのだ。

隻腕の彼を。

「け…剣聖カイン…!?」

絞り出すようなその声に、銃を構えていた男たちも驚きを隠せない。

あまり表立って行動するわけではない彼らだが、それ故、噂話の類には敏感だった。

曰く、天の国に、かの『ドラゴン』に匹敵する隻腕の剣豪あり。

「名で戦うわけではない。が、貴殿らが引くというのなら追うことはしない。」

カインは重心を前に置き、低く構える。

瞬間的に距離を詰めるつもりだ。

「貴様こそ、あの方が何者か知っての狼藉か!」

リーダー格と思しき男が声を荒げるが、カインは口角を上げる。

「貴族たちの頂点、サザーランド家の当主、サザーランド・ロイエ卿…であっているかな。生年月日も教えてもらったが覚えなくて良いと言われたので聞き流した。。」

男たちは戦慄した。

ごく一部しかその存在を把握していない貴族であることを知って誘拐している。

それも大同盟が。

それの意味することは今、はっきりとわかるわけではない。

しかし、明らかにこの誘拐未遂事件からの一連の流れは身代金のような簡単な話ではないことだけは確かだった。


カインを殿に残して、金髪の男とスーツの男は路地を進んでいく。

金髪の男は時折、振り返ってたり、もう少しです。頑張って。と励ました。

それがスーツの男にとって心強く感じられた。

新人の運転手である彼だが、よく教育されている。

麦の国の出身でこの辺の事情に詳しいという話は間違いではないようだ。

金髪の男は急に立ち止まる。

行き止まりだ。

だが、ここまで一本道であったことや、護衛の男を置いてきたことを考えるとどうやら彼の思惑通りらしい。

男が壁に手を触れると、魔法陣が展開され、塗り固められた壁に穴が開く。

どうやら裏口のようだ。

「こちらへ、ロイエ卿。」

金髪の男に促され、部屋に入る。

掃除はされているらしいが、調度品は古いものが多い。

ロイエが手近な椅子に座り、体重をかけると、椅子は軋み、壊れるのではないか。という不安を掻き立てる。

「申し訳ございません。流石に壊れることはないかと思いますが…」

金髪の男は頭を下げる。

「そう言えば…名前を…なんと…言ったかな…」

息を整えながら問いかける。

彼がいなければ自分は車ごと両断されただろう。

そんな恩人の名を知らぬままでいることを彼は望まなかった。

「ウィリアムとお呼びください。ノーレ・ウィリアムでございます。」

ウィリアムか。ロイエは呟くように答える。

「しかし…この国は軍隊のない安全な国だと聞いていたが…」

ロイエの声には失望よりも落胆がある。

その意思を汲み取るようにウィリアムは答える。

「確かにこの国に軍隊はございません。憲兵こそいますがあくまでも治安維持です。それでも、いや、だからこそ非正規軍の温床ともなっているのです。」

ウィリアムはそう告げると俯く。

出身者ということもあってか彼自身にも思うところがあるようだ。

「麦の国は昔から軍隊を持たずに龍の国と友好的な関係を継続することで立ち位置を維持してきたと聞いている。なぜ龍の国は非正規軍討伐に動かないのだ?」

「お怒りは尤もです。」

「ウィリアム、ここには我々しかいない。素直に君の意見を述べてくれたまえ。」

息のととってきたロイエはウィリアムに発言を促す。

「龍の国も手を打っていない。というわけではありません。大戦争時代には城の国や忍の国に対しては報復を行なっています。しかし、出所のわからぬ非正規軍はその数を年々増やし、対処療法じみた後手後手の策しか打てていないのです。」

ロイエは彼の持つ不満は一般論ではないと感じていた。

そこに込められる怒りは龍の国や麦の国ではなく、非正規軍に向いているからだ。

それはウィリアムの目が潤んでいることからも間違い無いだろう。

「君の話を聞きたい。」

ウィリアムは、僭越ながら。と前置きして話を始める。

「私の友人が非正規軍によって家族を失っております。彼には伴侶と小さな娘もいたのに…」

ウィリアムの目から涙が溢れる。

「大切な友人がそのようなことに…すまない、辛いことを聞いてしまったな…」

ロイエは罪悪感を感じていた。

当主となるための教育を受けてきた。

その自分が当主となって初めての仕事に選んだのが視察だった。

それは書物や報道だけでは見えてこないものを見るためであり、麦の国は彼の求めるものに最も近いからでもあった。

「平和の国…私は麦の国こそそうであると思っていた…しかし…」

「平和など世界にはありません。皆、それを承知で生きているのです…」

ウィリアムの言葉は諦めというより怒りが籠もっている。

友人の家族を奪われた彼にとって世界はそう見えているのだ。

「戦争ではない。だから、平和である。そういう訳ではないのだな。」

「すべての人間から武器を取り上げねば平和などあり得ませんッ!」

ロイエはウィリアムの想いに圧倒される。

自分の知る世界は、現実とかけ離れている。

そして。

「ウィリアム。私に世界を教えてくれないか?」

ロイエは立ち上がり、手を差し出す。

だからこそ、彼から学ぶべきだ。

「私の知る世界は恐ろしく狭く、そして一方的だ。私には世界を変えるだけの力がある。その力と君の知見。これで世界を変えよう。」

ウィリアムは両手でそれを受け取ると、大粒の涙を流す。

「私のような一市民の心すら汲んでくださるとは…貴方様のため、存分にお役立てください。」


それから約1時間後、カインが隠れ家に到着し、一行は別の車で帰路に着く。

サザーランド・ロイエとウィリアム。

この2人はの出会いは確かに平和を作ることになる。

ロイエは間違いなくそれだの力があり、ウィリアムはそれを導いた。

もし仮にロイエに立場がなければ成立しなかったであろうこの出会い。

これが凄惨な平和のための戦いを引き起こす引き金となった。


次回は土曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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