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白の襲撃者  作者: 田中 遊華’s
シーズン3 Fake and Lie

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133/321

3-16 民意の作り方。戦争の始め方。

Non-N-PAA47OSMLB『グロリア』【軍事機密】

龍の国が独自開発した魔力式大型溶断刀『グロリア』をヤタ重工大型兵装開発部門が再設計した武器。

元々の設計であった片刃の大剣をベースに対装甲を主眼に据えた溶断方式を採用しており、唾から切先あたりまでくり抜くようにして空間が設けられ、柄に仕込まれた炎魔術と土魔術の複合によって溶断面を生成するという部分はそのままに耐久面と魔力消費を最新式にブラッシュアップしている。

元の『グロリア』はそれなりの数が生産されたが魔力消費と大型剣の重量の関係から扱える人間が限られていた。

今回の再設計でもこの問題は解決しておらず、担当者曰く『兵器として正しいが装備としては不適格』とのこと。

なお、『グロリア』は龍の国の一部で使われる言葉で『栄光』の意。


刃の国に入港し、ジェスとの面会を待つハウンド達だったが突如、ノーチラス船内に警報が鳴り響く。

「何事だッ!」

怒声のような声でハウンドがマザーに問いかけると、代わりにカレンが答える。

『ててててて敵襲です!天使と思しき反応!ヤバいです!』

「警報を止めろ。」

彼の背後からパルが指示を出す。

「なにを…」

「なにを…じゃねえよ。リエルだ、報告書にあったろ?」

『トラ教団第二天使リエル。教団の兵士でしたが、第七天使ラキエと共に離反、その後は流れ着いて刃の国でジェス代表の補佐をされています。』

マザーが落ち着きのある声で資料の文言を読み上げる。

ハウンドはため息をつく。

「んなことは聞いてる…カレン…?」

『いやー…そのー…レーダーの調子が悪いんですかー…ねえ…』

騒ぎ立てたカレンが申し訳なさそうに言い訳をすると、パルは声を上げて笑う。

カレンもまた対話型インターフェースであるマザーという機能の一部なのだが、マザーより後に作られたためか非常に人間的な言葉で発言する。

会話だけであれば人間と区別がつかない。

「マザー、カレンは警戒待機。俺たちはジェスとの面会に出る。」

『承知しました。行ってらっしゃいませ。』

ハウンドが指示を出し、船の外に出ると、リエルとパルが話をしていた。

「じゃあ、ロウラはこの国にはいないのか?」

「そういうことになるな。ちょうど入れ違っている。」

ハウンドはパルたちの会話を遮るようにして、リエルに声をかける。

「その辺の話を含めての面会だ。案内を頼めるか?」

リエルは頷くと一行の案内を始める。

「お前はロウラの話を聞いてたのか?」

「昨日少しだけな。」

パルからの質問に答えると、彼女は少し不満げに、ふーん。と漏らす。

情報共有しそびれたことをハウンドはわずかに後悔した。が、なぜ彼女が不満なのかわからなかった。


「代表、大同盟常設軍の3名をお連れしました。」

議場最奥の扉を開け、リエルはそう告げると、一礼して下がった。

ジェスはパルの顔を見ると、わずかに眉をひそませ着席を促す。

「初めまして…というのは変かねえ?ドラゴン。」

「こうしてつら合わせんのは初めてなんだ。初めましてでいいだろ。」

パルはジェスと目を合わせることなく着席する。

外では昨日にもましてデモ隊が声を張り上げている。

「昨日より規模が大きくなってますか?外。」

ハウンドが話題を逸らすと、ジェスはうんざりした様子で頷く。

「ただでさえ大同盟反対派の集まりだからねえ…君ら常設軍が来たというのはまさに火に油だよお。」

「外の連中、この国の人間じゃねえだろ。」

パルの疑問はハウンドも気づいていた。

「どういうことだい?」

状況を唯一理解できていないドクが声を上げる。

「刃の国は大同盟の侵攻時にほとんどの国民が風の国に退去した。だが…」

「風の国は避難民を『処理』しているんだよお。つまり大同盟参加前からこの国にいる人間はほんの数パーセントだあ。」

ハウンドとジェスの説明にドクは混乱する。

では、外で声を上げている人々は何者なのか。

その疑問にジェスが答えた。

「ドクトル、『レギオン』をご存じかなあ?政治活動団体のお。」

ドクは混乱したまま曖昧に頷く。

『レギオン』とは大戦争の頃に活動していた国際的な政治活動組織だ。

彼らは政治をよりよくするという活動名目でデモ行為や陳情などを行っていた。

「彼らの行動はあ、政治的なパフォーマンスにシフトしていったあ。つまりい、国内、ないし国外の政治家から依頼を受けてデモを行っていたわけだあ。」

ドクはここでようやく話が見えてきた。

レギオンの政治パフォーマンスは国内の政治闘争や国際情勢における政敵の排除を目的として活動内容を変化させていった。

民意を扇動し、依頼主にとって『よりよい政治』を行うための土壌作りを手伝っていたことになる。

そして、彼らはその報酬として依頼主の持つ政治不祥事の情報や土地、金品のような報酬を受け取っていた。

無論、この方針転換はレギオンの一部幹部しか知りえないもので、下部の構成員は幹部から伝えられた不正の真意を確かめる訳もなく、『正義』のもとにデモへ参加していった。

多少、事実より脚色されたものであっても、いや、脚色された事実のほうが『正義』の根幹を補強し、デモの熱をより強くする。

それに近いことがこの国で起きている。

「つまり、外の連中はこの国の人間じゃない。政敵である大同盟とジェス代表を狙って扇動しようとしている。」

ハウンドが結論を述べた。

そして、その扇動を行いたい人間は情勢を知る人間ならすぐに思い当たるものだ。

「花と歌の国が、ここで政治活動をしている…ということなのか?」

「お恥ずかしい話だあ。国は未だ復興を進めているう、マイナスの状態だあ。入国審査も簡易的だしい、何より復興支援の名目で入国する人間を追い返す訳にもいかないんだあ。」

再び。ジェスは申し訳なさそうに言う。

民意の扇動によってジェスを解任と大同盟からの脱退へ国内の方針を動かす。

王政ではなく、議会制故のアプローチだ。

しかし、ジェスの態度は切羽詰まったものを感じさせない。

「まあ、いますぐにどうこうという話じゃないんだよねえ。結局のところ、復興を手伝ってくれているのは大同盟の人間だしい、ああやってデモをやっている連中に対して国民も不快に思っているう。」

「対立しないのか?そんな状況で。」

ジェスの余裕にパルが突っ込む。

確かに、自分たちが大同盟の補助を受けながら汗を流し、日常への復帰に向け努力をしている横で、その大同盟と国の立て直しのために進めているジェスへの無遠慮な批判は逆効果ともいえる。

それに、人手がほしい中でこれをやられれば感情的な反論や小競り合いのようなものが起きてもおかしくない。

「一応、目立たないやり方で反応しないようにい、と連絡しているう。それでも多少の小競り合いがあるのは事実だねえ。」

「こういうのは申請ベースなのでは?」

今度はハウンドが疑問を投げた。

デモ行為は道を塞いだり、声を上げるため周辺への影響が懸念されるため、多くの国で申請を前提に行っている。

これは申請なしで行動を起こせば処罰する。という事の裏返しでもある。

「申請なんてないよお。さっきも言ったがあ、まだ国の状態はマイナスなんだあ。ある程度復興するまでデモが起こるなんて想定してないよお。」

「まあ、確かにこんなに早く花、歌の国が動くってのは予想しようがなかったわな。」

ジェスの本音にパルが同情する。

国際情勢の動きはトラ教団との全面対決を経て鈍化するものだと誰もが予想していた。

それは大同盟とトラ教団の戦闘の後処理を優先する。という大同盟側の都合と、その対決で圧倒的な戦力を見せつけられたためでもある。

これにより、大同盟非加盟国は事を構えることに慎重にならざるを得ない。

そういう見方がほとんどだった。

「逆に言えば花の国にせよ、歌の国にせよこれだけの行動を即座に行うための黒幕がいるって訳ですね。」

ハウンドは本題に入る。

早急にデモによる民意作りを行ったのは単純にその先があるからだ。

「君はあ、それが鉄の国だと思っているわけだあ。」

ジェスは悪戯っぽく笑う。

それが彼の『鉄の国が黒幕』という仮説を否定する。

「違うんですか?」

「ロウラ曰くう、それは半分だそうだあ。」

ロウラの名前がここで出るのは予想通りであり、予想外であった。

ロウラはあくまでも鉄の国『ヤタ重工』の営業職だ。

つまり、鉄の国が黒幕であるなら彼女の名前が出るのは自然だ。

しかし、ジェスの態度は鉄の国が黒幕ではないと言わんばかりだ。

「半分ってことは、教団の残党か?」

「一理あるねえ。トップであるパーシヴァル・プルトを失ったといえどお、世界規模で活動していたと思われる教団の残党が鉄の国とともに大同盟潰しを画策するのは考え方として間違っていないしい、おそらくそうなっているだろうねえ。」

「はぐらかすんじゃねえや。他の黒幕ってのは誰だ。」

パルはジェスの態度に苛立っている。

自分しか把握していないこの状況を楽しんでいる。

それだけ、彼の日常は圧迫されているのだろう。

「君たちはあ、ヤタ重工の原型を知っているかなあ?」

「鉄の国だろ。」

遠回りを始めたジェスにパルの足は貧乏ゆすりを始める。

「そうじゃない。ヤタ重工の方針や拡大を主導しているのは会長のヤマト・ダイレンじゃない。」

「『貴族たち』…また、そんな都市伝説ゴシップを…」

ジェスの言葉にドクが口を挟む。

世界を裏から主導する『貴族たち』。

彼らは龍歴以前から暗躍し、今はヤタ重工を通して世界に干渉している。

ハウンドはそんな話を思い出していた。

しかし、ドクの言う通り都市伝説ゴシップでしかない。

世界の支配者層(バビロン・システム)

よくある誇大妄想のはずだ。

「ゴシップう?みながそう言って切り捨てていた『レギオンの遺産』は実在していたよお?」

「それとこれは話が別だろ。『遺産』はあくまでも龍歴、それもここ何十年で生まれたものの話だ。龍歴以前の話なんて実在性を疑われて当然だろ。」

あくまでも真剣にこの話題を進めようとするジェスにパルも噛みつく。

確かに彼女の言うとおり、同じような噂話でも性質は大きく異なる。

龍歴以前の情報は改暦の契機となった龍戦争時の混乱もあってその多くの情報が紛失している。

そのため『貴族たち』の存在を示すものはおろか、その存在を示唆する情報さえ失われているか、改竄されている可能性が高い。

「事実としてえ、貴族たちは裏から世界を支配しているう。それは間違いないんだよお。」

「根拠…教えてもらえるんですか?」

ハウンドの疑問も致し方ないものがある。

それだけこの問題の根は深く、そして教団や国家のそれとは性質が異なる。

「根拠お…まあ、ロウラがそう言ってたあ、ということ。そしてえ、彼らが動き始めているう。」

「彼ら?」

ハウンドはおうむ返しに聞く。

「レイモンド・サイカーとソラウ・ツスル…正確にはソラウ・ツスルの指示でレイモンド・サイカーが動いていると私は見ているう。」

ジェスはそう言って新聞記事を投げ渡す。

そこには小さく、麦の国での誘拐未遂事件について記載されている。

「誘拐未遂?阻止したのは大同盟軍?何だこりゃ?」

「冷静に考えればあ、何もかもおかしい。そもそも大同盟軍は常設きみたちを除いて存在しないしい、その行動はソラウ・ツスルの指示か各国からの依頼ベースだあ。そしてえ、麦の国にもお、憲兵はいるう。」

ジェスの言葉は的を射ている。

隠すように記載されたその記事と、常設軍を指揮したというレイモンドという人物。

このレイモンドが彼らの知るレイモンドであるのなら、水面下で話が進んでいるともいえる。

「確かにレイモンドの動きは気になります。しかし、それがなぜ貴族たちに関わるんです?」

「それはあ、私にもわからないしい、聞かされていない。ただねえ、貴族たちを討ちたいと思っているんじゃないかなあ。ソラウ・ツスルはあ。」

「何のために?」

「さあ?私はそれを聞きたかったんだけどねえ。」

肝心の部分を把握していないジェスに、パルは呆れたように息を吐く。

「なんでい。お互いに空振りかよ。」

しかし、ハウンドの視線は別の方向を向いていた。

「だが、俺たちは当初の予定通りロウラを追うしかないだろう。黒幕が誰であれ、花の国や歌の国の動きは戦争を始めようとしている。それを進めたいのがロウラと鉄の国であるなら、俺たちの仕事は重要だ。」

ハウンドの意見にジェスも同調する。

「それは間違いないねえ。ようやくプラスへ進み始めたこの国でえ、戦争なんてごめんだからねえ。」

「民意を作って戦争を初めて。ヤタは軍需で儲けるか…いつの時代もクソみたいな思考(通常営業)してやがる。」

パルは悪態を吐いたが、もし仮に今回でヤタ重工を潰すことができれば今後の世界は平和になるのかもしれない。とハウンドは考えた。

それはおそらく間違いではない。

しかし、絶対ではない。

戦争をビジネスと捉えているのはヤタだけではない。

ヤタはその最大勢力でしかなく、そのほかには運送や傭兵、それだけでなく、浮浪者でさえ同じようなことをそう考えている。

大戦争という巨大軍需による好景気バブル

その味は今も大人たちの舌に今も残り続けているのだから。


次回は水曜日。

活動報告更新してます。


Twitter→https://twitter.com/yukks_sousaku?s=21

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