3-15 銀の騎士と金の騎士
B装備【軍事情報】
ヤタ重工が常設大同盟軍『白の部隊』設立に合わせ用意した大型魔力砲。
戦艦が副砲として装備する魔力砲の設計を転用し、同部隊のルビリア・パルが使用することを前提に調整されている。
ヤタ重工製96㎜大型魔力砲YMM-96SoW『ヴァレンティア』を中心に対戦艦、要塞を主眼において設計されている。
小型の魔力タンクを搭載しているが、これは砲撃用ではなく砲身冷却のためであり、使用者の魔力消費を抑え、残弾数の把握を迅速に行えるようにしている。
これらのシステムは龍の国が独自に開発した同名の兵装に由来しており、設計思想を元にヤタ重工が再生産している。
問題点もそのまま継承しており、重量と消費魔力が大きく、ルビリア・パルの使用を前提としてはいるものの、逆に彼女以外に扱える人間は皆無である。
ヴァレンティアの型式番号に戦艦用装備に使われるYMMが付されいるがこれは『ヤタ海上機械設備(YataMarineMechanic)』の略称であり、歩兵装備でありながら海上艦用装備の系譜にふくまれている。
また、『SoW』は『Squad of White(白の部隊)』の略称である。
なお、その性質上、一般販売は予定されていない。
刃の国代表であるジェスとの打ち合わせの当日。
わずかに水平線から光が漏れる頃、パルは目覚める。
煩わしそうに頭を掻きながら上体を起こすと、シーツとシャツが汗で濡れていた。
心に負った傷は睡眠という安息さえも許してくれることはない。
繰り返し、色あせることなく、彼女に過去を思い起こさせる。
あくびを噛み殺しながらシャワーを浴び、着替える。
ふと、胸元にある2つのペンダントが目に留まった。
一つは義姉であるアリアンナが自身の遺言を付して渡されたもの。
もう一つは父であるプルトから送られた遅い成人祝い。
そしてプルトから送られたペンダントは各国官僚らの汚職や土地、貴金属のデータをまとめた『レギオンの遺産』を開ける鍵になっている。
一見すると魔法石をあつらえた普通のペンダントだが、ある乱数が搭載されており、石がもつ固有の波形と合わせて複製できない鍵となっている。
今、世界は確かに次の戦争へと目が向いている。
だが、それが終われば次は間違いなくこの遺産をめぐる攻防へと発展する。
いや、今、遺産の優先度が低いのは鍵のありかははっきりしているものの、遺産そのものの場所が特定できていないからだ。
仮にそれが判明すれば世界は戦争などよりも遺産の争奪戦に舵を切るだろう。
掌で鍵である石を転がしながらパルはその場所について思考を巡らせる。
しかし、それもすぐにやめた。
考えてもわかるものならばすでに誰かが突き止めている。
逆にプルトゆかりの地であるのなら、自分はプルトを全くと言っていいほど知らない。
観念したように息を吐き、通信機でマザーに、散歩してくる。とだけ伝え、外に出る。
海沿いでやや寒冷な気候の刃の国だが、この時間は輪をかけて寒い。
「セーターでも来てくりゃよかった…」
1人呟きながら港を抜け、眠ったままの町を歩いていく。
元々、対立関係にあった国だけにその景色は新鮮に映る。
「さすがに誰もいねえか。」
「朝早いですもんね。」
パルは反射的に距離をとる。
油断していたとはいえ、自分がこの距離まで接近されていることに気づかないとは思っていなかったからだ。
彼女の独り言に答えたのは10歳位の少女だ。
孤児というには身なりが整っている。
だが、彼女の纏う雰囲気は尋常ならざる何かを感じさせる。
親父。
唯一、この感覚に近い存在が頭に浮かぶ。
「お嬢ちゃんこそ、ものすごい早起きだな。」
「お嬢ちゃんじゃありません!リンです!」
リンはそう言って胸を張る。
「これは失礼しました、レディ。こんな朝早くに何をしておいでですか?」
先ほどの乱雑さから打って変わって紳士的な物言いにリンは照れる。
礼をし、パルの顔が近くなる。
顔立ちの整った彼女の優しい笑みに自分が子供であることをわからされる。
「そ…そういう時は貴女からでしょ?」
「私は散歩にございます。この国は初めて来ましたので。」
「こんな時間に?」
「ええ。目が覚めましたので。」
心臓の高鳴りに困惑していたリンは、両手でパルの頬を包むようにとらえる。
「泣いてたんだ。」
「しかし、大切な思い出なのです。」
「過去しか見てない証拠じゃないの?」
今度はパルが余裕を失う。
「貴女は進んでいる。でも、過去という荷物がこぼれてないか気にしすぎて、前を見ていない。」
「嬢ちゃんにはわからねえさ。」
パルは先ほどまでの芝居ができなくなっていた。
「そうやって他人を拒絶するの?大切な人だったんだね。」
「何がわかるッ!」
パルは声を荒げ、少女の手を振り払うように顔を上げる。
「大切だと…!今更そんなこと言われなくてもわかってる!だがな、失ったものの代わりなんてない!」
大人げない感情的な言葉だったが、リンはまっすぐとパルの目を見る。
その強い眼差しにパルは圧倒されてしまう。
「じゃあ。今、貴女の言っている大切な人はどっち?そうやって強く否定しなきゃいけないのはなんで?」
「なにもんだ…お前…」
「言ったじゃない。私はリン。貴女の名前を聞いてなかったわね。素敵な銀の騎士様?」
「オレは…ルビリア・パルだ。そして、オレの大切な人はルビリア・アリアンナ、ただ一人だ。」
リンは、小さくうなずく。
「ふーん。素直になれるといいね、パル!」
そう言って走り出した。
パルは呆気にとられ、その小さな背中を見送る。
「なんだったんだ…マジで…」
失ったもの。
それは姉だけではない。
敵であった父もまた。
ただ、それを認めたくないというのも事実だ。
父、プルトはトラ教団の長であり、教団はアリアンナを謀殺したのだから。
リンは人気のない路地を歩いていき、一つの廃屋に入る。
「どこに、いっていた?」
奥から男の声がする。
その声はたどたどしく、幼さをわずかに感じさせる口調だが、声が低くアンバランスに感じる。
「銀の騎士に会ってきたの!すごく優しくて、かわいい人だったわ!」
リンは臆することなく声の元である奥へ進んでいく。
「銀、ナイト…?」
男はリンの話を理解できていない。
その困惑した顔がリンにも見えた。
「そう!貴方は金の騎士!だからあの人は銀の騎士!」
「私…が金?銀は、誰のことだ…?」
「貴方の魔法は金色でしょ?私はそれが好き。あの人は銀の髪をしているから銀の騎士よ。」
『銀の騎士』に思い当たる人物がいたのか、男は急に立ち上がり、リンの肩をつかむ。
「ルビリアに会ったのか?!会ったのだな!答えろ!」
「おち…ついて…!い、痛いよ…」
男は我に帰り、解放する。
だが、その動揺は呼吸を荒くしたままだ。
「会ったよ。でも貴方は会わせない。ダメよ。彼女は絶対に必要なの。」
わかっている。男はそう答えると落ち着きを取り戻し、再び座る。
「貴方が彼女を恨む理由がわからないわ。貴方は彼女のこと好きなんでしょ?」
男はじっとリンの目を見つめる。
吸い込まれるように純粋さを持つそれは、彼のもつ力からは想像もできない。
「私は…ルビリアを知っている。そして、私は彼女が好きだ、守らなければならない。だが、私と同じ顔をした『あのサーペント』は彼女が私からすべてを奪ったと言う。」
自身の感情と状況との矛盾。
どちらかを取れば楽なのだろうが、それを促すことがベストだとはリンには思えなかった。
だからこそ、というべきか。
リンは男へ近づき、抱きしめる。
「いいのよ。貴方は貴方の思うままに…私はその決断を見届けるわ。『サーペント』」
「私はサーペントじゃない。多分だが…」
「名前なんて同じでいいじゃない。貴方は貴方というサーペント…それでいいのよ。」
男は涙を流していた。
それがなぜなのかは理解できなかったが、止めることはできなかった。
次回は土曜日。
活動報告更新してます。
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