3-14 勇気の一撃と栄光の剣
貴族【未確定情報】
龍歴以前から存在している有力な一族。
それぞれは旧時代から政治的、経済的に強い影響力を持っていたものの龍の時代が終結するとともに表舞台から引き下がっている。
現在は企業を通してその力の維持と行使を行っているとされ、巨大製造企業集合体である『ヤタグループ』がそれに該当している。
言ってしまえばヤタにとってのスポンサーであり、資金投入や倫理的に難しい商品の導入を政策面から補助しているとされる。
一方でその存在は一般からは把握できないようになっており、その存在を完全に認識しているものはヤタ内部を含めてもそう多くない。
天の国を出たノーチラスはドク、ハウンド、パルの3名を乗せて刃の国へ出航した。
目的は刃の国の隣にある旧風の国跡地への牽制。
平和的ともいうべき仕事ではあるが、戦争回避のための仕事とも言い難く、この後に想定される戦争のために行う仕事である。
くじ引きに負け、警戒待機を担当することとなったパルはブリッジに1人残って銃のメンテナンスを行っていたがそれも終わり、手持ち無沙汰になったところでマザーが声をかける。
『パル、龍の国から通信が入っています。』
「モニターに出してくれ。オレ宛なんだろ?」
はい。とマザーが答えると、モニターにレイアとトータスが映し出される。
『調子はどうかしら?』
「問題ありません。今は刃の国に向かっています。」
レイアの問いにパルは笑顔で答えると、レイアは満足げに頷く。
その様子に悪戯心を感じたパルはそれに興味を抱く。
「何を考えてるんですか?」
『あー…いいか?俺は反対したからな?』
現状の龍の国ナンバー2ともいえるトータスが申し訳なさそうに答えるが、レイアは対照的に笑顔を見せている。
『パル。貴女の妹?さんでいいですかね?あのサラという子は。』
パルは顔をしかめる。
サラはトラ教団の開発した第二世代天使でパルのクローンともいうべき存在だ。
今はパルの判断で龍の国の近くにある洞窟に身をひそめており、サラの今後については具体的な計画はない。
「内容次第…と言いたいですが、オレも基本的に反対です。あいつには…」
『ええ。別に軍隊に入れようって話じゃないです。ただ、情勢的にトータスが私の補佐までするってのは難しいでしょ?』
パルはそこまで聞いて意図をなんとなく理解する。
護衛兼副官。
報告の類は秘書や担当がいるが、公的な場で彼女を直接的に護衛する存在は異性であるトータスでカバー仕切れない部分がある。
同性であり、高い戦闘能力を有するサラであれば確かに適任とも言えるし、パルの考える、彼女に世界をよく知ったうえで自分の道を決めてほしいという思いにも合致する。
特に、風の国跡地に関する国際的な緊張が高まっている今、トータスが女王であるレイアに帯同し続けるのは現実的ではない。
彼も彼で、女王不在時の代行業務もある。
そのトータスが補佐役を兼任していること自体、矛盾している話でもある。
「軍からの引き抜き…ってわけにも行かないですよね…」
『そうなると該当はオルカぐらいだし、あの子を隠し続けるのも、貴女と同じ大同盟軍の所属にするのも難しいと思いますよ?』
嫌な言い方しやがる。
パルは彼女の成長を実感する。
期間こそ短いとはいえ、彼女の為政者としての実力は確かなものになってきている。
特にこうした交渉事は天才詐欺師レイモンド・サイカーがそばにいたこともあって十分すぎるものがあった。
外堀を埋めるような彼女の言葉にパルは観念する。
「もうオレぐらいじゃ相手にならんとは…恐れ入りますよ、姫…確かにサラの存在を隠し続けるのは無理がある…」
とはいえ。パルはあまり効果がないだろうことを理解して付け加える。
「あいつの意思次第ってことで。」
目を輝かせるレイアと、眉間を押さえるトータス。
無理だろうな。
レイアがその気になっている以上、サラはどうあっても表舞台に出るだろう。
それがどう影響するのか。
パルにもレイアにもわからない事であるが、サラがこれを拒否できないことぐらいは簡単に予想できた。
ノーチラスの刃の国への入港は問題なく完了した。
鉄の国から天の国へ移動した時と同じような航路ではあったが襲撃どころか偵察の気配もない。
不気味。
そう表現するのが正しいのか、これが普通であると考えるべきか、判断に困る結果だ。
入国に関する簡単な手続きを済ませたハウンドは単身、国の代表であるジェスのいる議場を訪れていた。
「遠路はるばるようこそセリンスロ艦長お。」
「あんまり…歓迎されてないですかね?」
「誰のせいでこんな面倒な職についていると思っているのかねえ?」
ハウンドは苦笑しながら握手を交わす。
「あの場で自決を許せば復興はこんな速度で進まなかったでしょうよ。」
「全くう…君のおかげでデモ隊は今日も元気さあ。」
そう言って彼の指す窓の外に目をやると15人ほどがメッセージの書かれたボードを掲げ、口々に叫んでいる。
『大同盟反対!』
『人殺しの軍人が代表を務めるのか!』
『売国奴!』
『仕事しろ!』
彼らの視線は議場から出る職員にも向いている。
「職員の方にも言ってるんですか?」
「というより、同罪だと思っているねえ。こないだ職員が少し言い返してしまってねえ、ちょっとした騒ぎになったんだよお。」
かつて戦場となった刃の国だが、結果的に大同盟に加盟したこともあって、大同盟が復興を支援。
その結果非常にスムーズに進んでいる上、国益復興の名目で風の国が所有していた近隣の鉱山を得ている。
そういった意味で、間違いなく国にプラスになっているのだが、一度、大同盟による侵攻を受けた立場からすれば不満が出るのもいた仕方ないともいえる。
こうしたデモ活動はこの国に限らず公官庁では日常的に行われている。
個々人の思いを自由に発信できる事の裏返しではあるが、ハウンドには非常にヒートアップしているように感じられた。
彼らの発言にはなんら具体性はなく、ジェスや職員といった個人に向けられている。
政策への反発ではなく、単に気に入らない。ふさわしくないという意図のものだ。
言い返した職員がいる。という話も無理ないように感じる。
「大同盟軍が来たことが知れたら…さらに荒れそうですね。」
「だろうねえ。まあ、誰が来ても変わらないけどねえ。」
「期間は決まってませんが、できることがあれば言ってもらえれば。」
「シジマ・ロウラを探しているんだろう?」
ハウンドは警戒する。
トラ教団に関係しているロウラの調査は確かにハウンドたちの仕事に含まれている。
「君は彼女をどう思っているう?」
「まず、女性というのを初めて知りました。ツスル総督がどの程度把握しているか自分は知りませんが、その程度です。彼女はヤタ重工営業部という立ち位置からトラ教団を支援していた。」
「そういう意味ではないよお。あくまで君個人がどうしたいと考えているう?」
ハウンドは少し考えを整理してから答える。
「個人的には彼女の介入で不必要な犠牲が出たと思っています。大同盟にせよ、刃の国にせよ、です。だからこそ彼女がどこまで関与しているのかは知りたいですね。処分は上の決める話ですし、ヤタ重工や鉄の国との今後の関係を考えれば短絡的な行動はしたくない。」
「それはあ、ドラゴンも同じかなあ?」
「知識という意味では同じ程度かと。ただ、どうしたいかは本人に聞かないとですね。呼びましょうか?」
そう言って、通信機を起動しようとしたハウンドをジェスは制する。
「明日の午後に時間を取っているう。ドクトル・シュナイダー含め、君たちと話をしたいねえ。」
それとほぼ同時に部屋の扉が叩かれる。
どうやら時間らしい。
「ではまた明日伺います。場所は…?」
「ここでいいよお。長旅でお疲れだろうからゆっくりするといい。」
ハウンドはジェスに一礼して部屋を出る。
シジマ・ロウラ。
彼女の全容はまるで見えてこない。
案内されるまま議場の裏から外に出たハウンドは港への道を歩き出す。
ジェスは何かをつかんでいる。
そしてそれは今後の情勢を、彼らの仕事を左右する程のもの。
それだけわかったのが収穫だろうか。
ハウンドがノーチラスへ戻ると、ブリッジではパルがマザーと会話をしていた。
「『マスカラ』の弾頭量が多すぎんだろ。つうかヤタの実験台じゃねえか。」
『不満点は肯定します。確かに搭載されたものは実戦使用に関するデータが不足しているものや、十分な効果が期待できないものも含まれています。』
「とはいえ、いらんとは言えんだろうよ。」
ハウンドの言葉にパルは不満そうな視線をぶつけるが、それを無視して話を続ける。
「確かにマスカラ用の弾頭は無駄に多い。でもそれを使わずにおいてくるのは不義理ってもんだ。テストする時間が取れれば精査するさ。」
パルはまだ不満だったようで、むすっとしている。
「そもそもなんでお前が船に積んであるもん気にすんだよ。」
『パルが船の設備一覧を見たいとおっしゃたのでデータを開示しました。』
「リストを見たのか…」
ハウンドは同情するようにパルに声をかける。
ノーチラスに搭載されている多目的弾頭投射ユニット『マスカラ』。
多目的の名の通り、複数種の弾頭運用が可能であり、その口径も可変式という実験的装備ではあるがその分、積載される弾頭の数は通常のそれをはるかに超える。
実際、リストを見たハウンドも目を疑っており、一枚20種のリストの約4ページがマスカラ弾頭に占拠されている。
マスカラがなければ他の火器や車両を搭載できた。というのは間違いではない。
「そういえば、お前の装備も積んであるはずだ。確認したのか?」
「それを聞きたかったんだよ。」
パルが不満げに答えると、マザーは別の資料を表示する。
その資料に2人は目を見開く。
「B装備にC装備?本気か?ツスルの奴は…」
『Blast装備、Clausecombat装備ともに納品時にカレンが確認しています。』
B装備、C装備というのはかつて龍の国でパルが運用していた装備だ。
魔力のコントロールを不得手とするが莫大な魔力量を持つ彼女のために用意されたもので、彼女の扱う魔力拳銃『アギト』もその一つだ。
『Assault装備は現在、準備中との事です。』
「廃棄されてなかったのか?」
ハウンドの疑問に、マザーは別の資料を表示する。
『廃棄されていました。しかし、パルさんが大同盟軍に配属される以前からツスル総督指示のもと、シンゴさんが準備を進めていたようです。かつてのそれより改善された更新モデルとのことです。』
パルはざっと目を通すが、確かに以前運用していたものとは細部の形状が異なる。
『Blast装備は大型魔力砲『ヴァレンティア』2門を中心とした対艦、対城砦兵装、Clausecombat装備は大型魔力式溶断刀『グロリア』を中心とした対人兵装からなる武装プリセットになります。これにより作戦立案の段階から味方への連携や敵勢力への影響を考慮しやすくなり、円滑な作戦立案と成功率の向上に役立つことが考えられます。』
製品マニュアルから抜粋したような説明を驚きの中で聞くハウンドとパル。
廃棄されたはずの装備があることよりも、それらの装備は龍の国で運用した際に、『過剰である』としてA装備以外ほとんど使われなかったことに起因する。
「勇気と栄光…つまりツスルはあんなもん使うような仕事を想定してるってことか?」
『わかりません。』
「オレは装備の確認だけして寝る。なんかあるか?」
「とりあえず明日の午後にジェスさんと話すことになった。ドクも含めてだ。マザー、ドクに連絡しておいてくれ。カレンは一応、非常対応可能な状態で頼む。」
圧倒的な力はそれ以上の力を欲する原因となり、そこから始まる力の連鎖。
それは正しい思考の流れであり、誤った道を進ませることになる。
ツスルがそれを理解していないはずはない。
それは都合の良い考え方なのだろうか。
それとも真に理解している証拠なのだろうか。
自分が誰を信じるのか。
なにを信じるか。
答えは過去に出している。
パルを信じる。
みながそうしてきたように。
自分がそうしてきたように。
彼女が自分の力をどう使うのか。
それを彼女にゆだねる。
責任を放棄するのではない。
彼女が1人の軍人として人間として完成されているから任せる。
それだけの話ではあった。
格納庫に到着したパルは装備をざっと眺める。
B装備、C装備。
そして、小さな小箱。
小箱の中にはオープンフィンガータイプのグローブが収められており、甲の部分に魔法陣が描かれている。
パルは魔法陣の内容を解読しようとしたが、判別できない。
特殊なもの。というより、一般的なそれではない。と感じる。
『調整中につき、お手を振らないようお願いします。』
試してみようとしたパルをマザーが制した。
「なんだこれ…?」
パルは艦内カメラに向かって答える。
その声色には警戒心が混ざっている。
『開発コードTAC-POT。詳細については資料を転送します。』
パルは格納庫に備え付けられた端末へ近づき、資料を呼び出す。
感想を漏らしたかったが、言葉にならない。
おおよその戦場の常識が根底から覆るようなシステムだ。
「これ…これを実戦投入するのか…?」
『仕様上、B、C装備の核となるもののため両装備を使用される場合は投入されることになります。』
マザーの答えを受け、パルは改めて資料に目を通す。
誰と戦おうってんだ…?
その疑問の答えはツスルにしか知り得ないはずだ。
それでも誰かに答えて欲しかった。
いや、誰でもいいから答えて欲しかった。
牽制用だ、と。
次回は水曜日。
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